決済代行サービスを手がけるSBペイメントサービス(SBPS)が、従来の決済代行の枠を超えた事業拡大に踏み出している。2026年4月に新社長へ就任した堀田智宣氏が見据えるのは、EC事業者を中心とした加盟店の“お金回り”全体を支える存在への進化だ。資金繰り支援(ファイナンス)の開始に加え、決済手段の多様化、海外展開を支えるローカル決済や送金までを視野に入れている。堀田社長にEC事業者をはじめとする加盟店の“お金回り”を支える今後の取り組みを聞いた。

「決済手数料ビジネス」から「金融・決済インフラ」へ。SBPSが迎える次の成長局面
堀田社長はソフトバンクBB(現ソフトバンク)入社後、情報システム領域などを経てSBPSに参画。社内で「第2創業期」と呼ばれるフェーズの初期から関わってきたという。
SBPSはもともと、ソフトバンクグループ内の決済を集約し、効率化やコスト削減を進める役割が色濃かった。しかし、この10数年でグループ外の事業者向けサービスが拡大。現在では、外部加盟店向けの取扱高がグループ内を大きく上回る規模へ成長したという。
SBPSは、当初はソフトバンクグループ各社の決済を束ねて「いかに効率化するか」をコスト削減も含めて追求するところからスタートした会社。そこから外部向けにサービスを売っていく“第2創業期”へ移行していき、今では外部向けのビジネスのボリュームのほうが、グループ内向けよりも2倍ぐらいになっている。ここからもっと、外部加盟店向けのビジネスを会社のコアになる事業にしていきたい。(堀田社長)

堀田社長が描くのは、単なる決済手数料ビジネスの拡大ではない。決済、送金、資金繰り支援などを組み合わせ、事業者の成長を支える“金融・決済インフラ”へ進化させる構想だ。
SBPSは、ECで利用できる40ブランド超の決済手段を提供する決済代行会社として事業者を支援してきたが、次の成長フェーズでは「決済のその先」まで踏み込む構えだ。

決済の枠を超えて「価値」を届ける
SBPSが掲げるビジョンは、ソフトバンクグループの「情報革命で人々を幸せに」に連なる形で設定した「すべての人と価値をつなぐ」だ。堀田社長は、決済を単なる“お金の移動”ではなく、「価値を届ける行為」と捉えている。
決済は、モノの対価を移動させるビジネス。でもそこだけに捉われないこともやりたい。送金は“思いの価値を届ける”ことにもつながる。ファイナンスの支援も金貸しというより、その人の“将来価値”を“現在価値”に置き直し、価値に投資している行為だと思っている。最終的には、“現在価値”や“将来価値”も含めて視野に入れたい。(堀田社長)
“使いやすさ”の積み上げでキャッシュレス決済が拡大
暗号資産やステーブルコインなど、昨今では新たな決済手段が注目されるなか、堀田社長は「急激に何かが変わるというより、“使いやすさ”の積み上げが重要」と見る。
コロナ前は30%程度だったキャッシュレス決済比率が、現在では50%近くまで上がった。その大きな理由は、仕組みが劇的に変わったというよりも、消費者と店舗にとって“お互いに便利”な環境が整ったことだと思っている。クレジットカードのタッチ決済やQRコード決済など、支払いの選択肢が広がり、店頭でもオンラインでもスムーズに決済できる場面が増えた。
これからは“キャッシュレス決済できないほうが不便”という感覚がさらに強くなるはずだ。(堀田社長)
堀田社長は現金決済が完全になくなるとは見ていない一方で、「便利な決済体験」を積み上げることが、次の普及フェーズにつながるという考えだ。
Nomupay提携でEU・アジア圏向け決済インフラを構築
SBPSの中長期の成長戦略の柱の1つが、Nomupay(ノムペイ)との資本業務提携だ。Nomupayはアイルランドを拠点とする決済代行会社で、EU・アジア圏でローカル決済や決済インフラを提供している。堀田社長は、欧州にはグローバルPSP(決済サービスプロバイダー)が存在する一方、アジアではクレジットカード普及率が低い国も多く、決済インフラに“空白地帯”があると指摘する。
欧州圏にはすでに、グローバルな決済代行プレイヤーがいる。また、決済手段の基本はクレジットカード中心だ。アジアは必ずしもそうではなく、なかには銀行口座を持っていない消費者もいる。クレジットカードだけでなくローカルな決済手段に対応する必要がある。だから、特に“アジアに適したPSP”をどう作るかというところにシェア拡大の可能性がある。(堀田社長)

また、日本企業の越境EC支援については、「国をまたぐ取引をしやすくする」こと自体に大きな価値があると話している。
日本企業が海外へ出ていくケースも、海外企業が日本市場を狙うケースもある。お客さまである加盟店が国境を越えた取引をしやすくしたい。(堀田社長)
ただし、「法律やコスト構造によって“日本にいながらできるビジネス”と“そうではないもの”がある」とも語り、業種ごとに差異があると話している。
「決済+送金」を一気通貫でサポート
SBPSがNomupayに強い可能性を見いだしている理由は、「決済」だけでなく「送金」まで含めた一気通貫の仕組みにある。越境ECでは、現地で売り上げを回収するだけでなく、海外のサプライヤーや委託先、クリエイターへの支払いも発生する。そうした多通貨の資金フローをまとめて扱える点を重視している。
Nomupayに注目しているのは、決済だけが理由ではない。マルチ通貨で回収した売り上げを最終的に自社の基軸通貨へ変換し、さらに取引先への送金まで手がけている点が魅力の1つだ。決済も送金もできるプラットフォームをめざしている。(堀田社長)
ゲーム、電子書籍など、デジタルコンテンツ領域を当面のターゲットとして想定しているという。デジタルコンテンツは、クリエイターも販売先も世界中にいることが理由だ。堀田社長によると、多通貨を扱う場合、売り上げは「円」、支払いは「各国通貨」というケースが多いという。「Nomupayはクリエイターを集めるビジネスには相性がいい」(堀田社長)

ITR子会社化で「資金繰り支援」に進出
SBPSは2025年4月、金融機関向けシステムなどを提供するアイ・ティ・リアライズ(ITR)を完全子会社化した。堀田社長は買収の目的として、「中小事業者支援の強化」と「キャッシュフロー改善サービスの実現」を挙げている。
ITRは信用組合系のネットワークを持っているので、これまで以上に中小事業者を支援できる余地がある。もう1つは、“キャッシュフロー改善サービス”の提供を実現するためだ。(堀田社長)
その一環として、SBPSは2026年6月5日にITRと連携し、加盟店向けの資金繰り支援サービス「加盟店サポートローン」と、企業の事業資金を見える化するクラウドサービス「SBPS BizCRECO」の提供を開始した。加えて、請求書をクレジットカードで支払うことで支払いを先延ばしにできる「SBPS請求書カード払い」も提供している。このうち「加盟店サポートローン」は、銀行融資よりも“速く・手軽に”利用でき、必要なタイミングですぐ使える融資をめざすサービスだ。
中小企業では、「仕入れは先に必要だが売り上げが立つのは数か月後」というケースがある。そうしたときに、決済の流れのなかで必要に応じて借りられて、売上金発生後に返済できるようになれば、実際のビジネスに即した資金繰り支援になる。(堀田社長)

免税新制度で注目する“返金・送金インフラ”
2026年11月に施行が予定されている免税新制度(リファンド方式)も、SBPSが注力するテーマの1つだ。
「リファンド方式」の免税制度とは、免税店が外国人旅行者などに消費税を含んだ価格で物品を販売し、その後、出国時にその免税対象物品を持ち出すことが確認された場合に消費税相当額を返金する仕組み。
新制度は不正利用の防止と免税店の業務負担軽減を目的としているが、堀田社長は「事業者が個別に返金や送金を行う負荷は大きい」と話している。
新制度は事業者側が税金を一度預かり、後から消費者に返金する仕組みなので、決済というよりも送金事業になる。個人への返金を事業者ごとに対応するのは大変なので、SBPSはそのためのシステムを提供し、事業者を支援したい。(堀田社長)
めざすのは“お金回り全体の基盤”
SBPSが描く中長期戦略のポイントは大きく3つある。
- 決済体験の改善を通じた加盟店の売上機会の最大化
- Nomupayとの提携などを通じ、ローカル決済や送金を含む“国境をまたぐ資金の流れ”をスムーズにする
- 決済データと金融ノウハウを活用し、事業者の資金需要に寄り添うファイナンスサービスを展開する
堀田社長はさらに、「日本だけを市場にしない」ことの重要性を強調している。
私たちSBPSは、最終的には事業者のお金回り全体をサポートしたいと考えている。まずは決済、送金、キャッシュフロー支援をしっかりやっていく。そして事業者の皆さんと一緒に、日本だけでなくグローバルに進出していきたい。(堀田社長)
SBPSは、決済代行にとどまらず、ファイナンスまで含めた“お金回りのインフラ”をめざしている。決済が当たり前になった次の競争軸は、「どう支払うか」だけでなく、「どう資金を回すか」へ移りつつある。SBPSの構想は、その変化を先回りする動きとも言える。
日本はこの二、三十年、ものの価値をうまく価格に反映できなかったのではないか。安くて良いものは消費者には良いが、生産者や従業員に還元されない。価値あるものを適切な対価で売れるようにし、そのための資金繰りも支援したい。(堀田社長)

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