「定期初回半額モデル」は本当に利益を生むのか? スキンケアD2Cの「投資回収シミュレーション」で検証してみた
顧客行動をベースにしたKPI設計、投資設計シミュレーション、事業PLの作成法などEC事業の数字を「行動から設計する」考え方を解説します【連載5回目】
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「初回980円トライアルモデル」が本当に事業として成立するのかを、「投資回収シミュレーション」を用いて検証すると(連載4回目)、引き上げ率だけではなく、粗利構造、物流費、決済コストなどが収益性に大きく影響することが見えてきました。この記事では、EC・通販業界でより広く採用されている「定期初回半額モデル」について見ていきます。
スキンケア領域でよく見られる「定期初回半額モデル」は成立するのか?
「定期初回半額モデル」は、特にスキンケア領域で多く見るモデルです。スキンケアD2Cでは、多くの場合「ヒーロープロダクト」と呼ばれる主力商品を中心に事業を組み立ています。なかでも、美容液のように体感値が高く、利益率も比較的取りやすいアイテムを軸に据えるケースが多く見られます。
今回のケースでは、30日分の美容液を想定します。本品価格は6600円、初回は定期購入条件で半額、それ以降は定期特別価格として10%引きで継続購入してもらうモデルです。
このモデルの「購入間隔」ですが、商品は30日分ではあるものの、実際には毎日きっちり規定量を使用する顧客ばかりではありません。そのため、実務では次回スキップしたり延期したりする影響も考慮し、平均購入間隔は40日前後で設計することが多くなります。つまり、全員が30日後に一斉に購入するわけではなく、翌月・翌々月にまたがって購入されます。
この考え方は、月次PLを組む際にも重要です。たまに見かける売上計画では、「F2転換率60%だから翌月に60%が購入する」といった単純計算が行われがちですが、実際には購入間隔によって売上計上タイミングは分散します。顧客行動ベースで事業を設計する場合、この“時間軸”まで含めて考える必要があります。
初回購入後のCRM設計が重要に
次に継続構造を見ていきます。今回のモデルでは、F1からF2への継続率を60%、F2からF3を75%、F3からF4を80%、F4からF5を85%、F5からF6を90%、そしてF6以降は95%で安定すると仮定します。
この数値は、スキンケアD2Cのなかでは比較的良好な水準です。ただし、単純に商品力だけで実現できる数字ではありません。特に重要なのがF2転換です。美容液のような商材は、ある程度継続して使うことで体感値が高まりやすいため、初回購入後のCRM設計が極めて重要になります。
たとえば、正しい使用方法の案内、使用タイミングの啓発、併用方法の提案など、「商品の価値をきちんと体験してもらうためのコミュニケーション」が必要になります。つまり、F2転換率は単なる継続率ではなく、「商品価値をどれだけ顧客に届け切れたか」の結果でもあるわけです。
この前提で、商品原価、フルフィルメント費、コンタクトセンター費用、決済費用、返品による赤伝処理(既に計上した取引金額の訂正などを行う処理)、さらにCRM施策に伴う販促費などを加味しながらシミュレーションしました。なお初回半額モデルでは、初回時点のROAS(広告費用対効果)は約30%程度になるケースも珍しくありません。今回のCPO(注文獲得単価)は1万円前後で設定しています。では、このモデルは実際に成立するのでしょうか。
「成立する可能性がある」。その理由とは?
結論から言うと、今回の条件では「成立する可能性がある」という結果になりました。シミュレーション上では、変動費ベースの限界利益で見ると、約20か月で投資回収に到達します。つまり、広告投資を含めた初期投資を、継続購入による利益の積み上げで回収できる構造なのです。
さらに長期で見ると、2年後には投資回収率は約0.14倍、5年後には約0.75倍という試算になりました。たとえば初期に100万円を広告投資した場合、その後に発生する売り上げから原価、物流費、CRM費用などすべての変動費を差し引いた結果として、2年後には14万円、5年後には75万円の限界利益が残るという計算です。
もちろん、この数字を高いと見るか低いと見るかは事業戦略次第です。ただ少なくとも、前回取り上げた「980円トライアルモデル」と比較すると、最初から一定の収益性が成立しやすい構造になっていることは見えてきます。
「商品特性」と「CRM設計」が噛み合うことで成立しやすくなる
その理由の大きなところは、本品の定価設定を高価格帯である美容液で、税込6600円に設定したことによる粗利構造にあります。
「980円トライアルモデル」では、本品定価を4980円に設定した上で、初回トライアルはさらに低価格に設定することによって入り口を広げていました。そのため物流費や決済費といった固定コストが利益を強く圧迫していました。今回の美容液を中心とした定期初回半額モデルは、初回売上そのものをある程度確保できるため、同じ物流費・決済費でも利益に対する圧迫率が相対的に小さくなっています。
また、美容液のような高体感商材では、「継続するほど価値がわかる」という構造を作りやすく、CRMによる育成とも相性が良いという特長があります。つまりこのモデルは、単なる価格施策ではなく、「商品特性」と「CRM設計」が噛み合ってより成立しやすくなるモデルなのです。
逆を言えば、体感性が弱い商材やCRMが十分設計されていない状態では、同じモデルを採用しても期待した継続率には届きません。表面的にモデルだけを真似しても、収益構造までは再現できないということです。
「どのような継続構造を設計するか」で大きく変わる
EC事業における事業モデルの成立性は、「何を売るか」だけではなく、「どのような継続構造を設計するか」によって大きく変わります。そして、その成立性を事前に検証するために必要なのが、顧客行動ベースの「投資回収シミュレーション」です。
今回紹介したシミュレーションファイルの実物は、以下のnoteで有料提供しています。実際に数値を変更しながら自社条件で試算できる形にしているため、事業設計や投資判断を具体的に検討したい人には参考になるはずです。
▶試算ファイルの実物はこちらのnoteで(有料販売):https://note.com/kawabe_atsushi/n/n378e55567ffe
「980円トライアルモデル」と「定期初回半額モデル」でD2Cの主流になっているビジネスモデルの試算を行ってきました。
次回は少し毛色が変わりますが、とある「サブスクリプションモデル」に対して、横断的に比較しながら、それぞれがどのような収益構造になりやすいのかを整理していきます。「どのモデルが優れているか」ではなく、「どの商材に、どの構造が合うのか」を広く考えることで収益性への感度が高まってきますので、あわせて見ていきましょう。
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