自転車専門店「サイクルベースあさひ」を運営するあさひ。2026年2月期のEC売上高は前期比12.5%増の142億9000万円、EC化率は18%に達した。配送難易度が高く、対面での整備が必須な自転車商材において、あさひはどのようにデジタルシフトを成功させたのか。近年の爆発的な成長を支える最大の要因はOMOの推進。その背景には、2022年から始まった、OMOを加速する目的で実施したEC組織構造の改革がある。リーダーとして変革をけん引した、EC事業を管掌する岡川貴志氏(ECセクションマネージャー)に、OMO強化につながった組織づくりを聞いた。
売上急拡大のターニングポイントは「2022年の組織改革
――2026年2月期のEC売上高は前期比12.5%増の142億9000万円、EC化率は前期から2.0ポイント上昇の18.0%となっており、非常に好調だ。
岡川貴志氏(以下、岡川氏): 売上ベースで見たときに、最もインパクトがあったターニングポイントは2022年に断行したEC組織構造の改革だ。EC売上高は2023年2月期の83億円から、2024年2月期の103億、2025年2月期の127億、そして現在の142億円へと拡大。OMO推進の観点で従前の体制を変革したことが、近年右肩上がりのEC売上高に貢献している。
――まず、2022年以前のEC事業の変遷や、運営体制について教えてほしい。
岡川氏:組織改革以前のあさひのEC事業では、自社ECでお客さまからの反響が好調な店舗受取サービスを、2017年に「楽天市場店」、2019年に「Yahoo!ショッピング店」でも開始したり、EC限定ブランド「Cream(クリーム)」を立ち上げたりした。「Cream」は私がブランディング、デザイン、開発まで全てを担ったブランドで、現在もお客さまから大きな支持をいただいている。
あさひ ECセクション マネージャー 岡川貴志氏。2001年にあさひの店舗に着任。2006年に商品部着任、2012年にブランドセクション着任のち、2014年からEC事業に参画。2017年にEC限定販売ブランド「Cream」の商品開発に着手し、2018年から販売開始。商品部に在籍していた経験を生かし、MDの知見、ブランディングの経験を基盤として、企画・設計・開発からブランド設計までを推進した。このほか、モール店舗での店舗受取サービス拡大、自社倉庫へEC専用在庫の設置などに精力的に取り組んだ。2022年から販売EC組織構造の改革を強力に推進。EC売上拡大に大きく貢献するOMO強化につなげている。
当時のEC運営体制は、商品調達・販促施策・カスタマー対応など、役割ごとに各部署が分散して担う、いわば組織横断型の体制だった。しかし、そこからもう一段上の規模へ拡大するためには、従来のやり方を変革する必要があった。
課題は店舗業務との兼務による「ECの遅れ」
――組織横断型の体制には、どのような課題があったのか。
岡川氏:各部門のスタッフが実店舗業務とEC業務を兼務していたことから、双方の重要性を踏まえつつも、それぞれに求められる対応を両立することに難しさがあった。
その結果、変化のスピードが早いEC市場に対して、きめ細かな対応や迅速な意思決定の面で改善の余地が見られた。
EC機能を1つのセクションに統合
――EC運営体制の再構築に至った経緯は。
岡川氏: 2022年、会社として「OMOを強化する」という強い意識の下、EC機能を完全に一体化させた「専任組織」へとEC運営体制を再編した。商品、営業、カスタマーサポート、Web制作、システム開発まで、ECに必要なすべての機能を「ECセクション」という1つのチームに統合した。いわば、セクション内に「1つの会社」を作るようなイメージだ。
商品、営業、カスタマーサポートといった各機能をEC専任チームとして切り出し、ECに特化した意思決定と実行ができる体制へと転換したことで、従前は店舗業務とEC業務との間で発生していたリソース調整の負担が軽減された。これにより、全員が「ECとOMOの成功」という1つのゴールに100%集中できる環境が整った。
さらに、ECセクション内に4つのプロフェッショナルチームを設けたことも今日のEC事業拡大に貢献している。
4つのプロフェッショナルチームを構成
――新しく生まれ変わった「ECセクション」は、現在どのような構造になっているのか。
岡川氏: 現在は、私がリーダーとして全体の指揮を執りながら、役割ごとに明確な目的を持った4つのチームで構成している。
- 商品チーム:「何を・いくらで売るか」を担う。商品企画、価格・販促設計、在庫発注、粗利分析、メーカー対応までを管理。
- 営業チーム:集客の切り口で、「どう売るか」を担う。広告運用、販促、キャンペーン企画、モール交渉などを統括する。
- UXチーム:「どう見せるか・動かすか」を担う。UI/UX設計、システム開発・保守、データ分析、インフラ管理、セキュリティ・改善推進など、サイト構築から改善、技術運用全般を行う。
- 販売管理チーム:「どう届けるか・支えるか」を担う。受発注管理、顧客対応、レビュー対応、店舗・物流連携、業務改善など、受注・顧客・業務オペレーション管理を行う。
この体制にしてから、各チームの専門性と目標へのコミット力が年々向上している。結果として、2022年から2026年5月現在にかけて、EC事業は大きな成長を遂げている。
この「組織、人、機能の強化」を2022年から実直に積み重ねてきたからこそ、「ネットで注文、お店で受け取り」サービスの基盤強化を中心としたOMO強化につながり、売り上げ拡大にも貢献した。
「UXチーム」の設立と内製化への挑戦
――特に大きな変化をもたらしたチームはどこか。
岡川氏: 組織改革と同時に新設した「UXチーム」だ。それまで外部ベンダーに依存していたシステム開発やWeb制作の領域を内製化するために、外部から専門人材を採用して立ち上げた。
システムやデザインを自社でコントロール可能にしたことで、ユーザーからの要望や市場の変化に対し、ECサイトを迅速に修正・改善できる体制が整った。
「組織の力」で次世代のOMOをめざす
――かつては岡川氏自身がMDやブランディングの経験を生かしてEC事業拡大の道を切り拓いてきたが、今は「組織の力」で攻めている印象だ。
岡川氏: 今のあさひのECは、効率よく成果を出し続けることができる組織の力で動いている。
現在のEC化率18.0%という数字はゴールではない。大切なのは、店舗とECが1つの組織として最も良いバランスで融合し、お客さまに最高の自転車ライフを提供することだ。
これからも、自社ECも含めたデジタル基盤をチーム一丸となって磨き上げ、組織改革の観点で他のEC事業者の学びになるような「新しいOMOの形」をあさひから提示し続けていきたい。

