2026年3月から新基準導入の国際認証制度「Bコープ」。木村石鹸やSANUが明かす「取得までの道のりと得られるメリット」

米国の非営利団体B Labが運営する国際認証制度「B Corp(ビーコープ)」。日本国内では中川政七商店など81社が取得している。取得企業である木村石鹸工業、SANUらが取得までの道のり、メリット、見えてきた課題を語る

小林 香織[執筆]

8:00

米国の非営利団体B Labによる国際認証制度「B Corp(Bコープ)」。厳格な評価のもと、環境や社会に配慮した公益性の高い企業に与えられる。世界では、2014年からの10年間で取得数が約10倍に増加している。国内では、グローバル企業から中小企業、スタートアップなど幅広い業種・規模の81社が取得している(2026年2月時点)。そこで「Bコープ」を取得した「木村石鹸」「SANU」らが登壇したメディア向けイベントに参加。2社における「『Bコープ』取得までの道のり」や「取得のメリット」をレポートする。

世界では1万社以上が取得。注目が高まる「Bコープ」

2026年3月27日、「Bコープ」をテーマにしたメディア向けのイベントが中目黒で開催された。登壇したのは、大正13年創業の石鹸メーカー「木村石鹸工業」の代表取締役 木村祥一郎氏、シェア別荘を運営するスタートアップ「SANU」のリジェネラティブ推進室長 上野澄人氏、PR会社「サニーサイドアップグループ」の執行役員 兼「グッドアンドカンパニー」の代表取締役社長 谷村江美氏、そしてB Labの公式パートナーとして日本で「Bコープ」の普及に取り組むB Market Builder Japanの共同代表 鳥居希氏の4人だ。

冒頭で、鳥居氏は国内外における「Bコープ」の状況を語った。認証は2006年から開始され、2026年2月時点での世界の取得数は1万社を超える。10年で約10倍と世界的に取得数が急増し、特に英国での増加が目立つという。国内では、日本を本拠地とする81社が取得しており、2021年から2025年の過去4年で9.3倍に急増している。

国内では、2021年から2025年の過去4年で「Bコープ」取得数が9.3倍に増加(画像はB Market Builder Japanの登壇資料より)
国内では、2021年から2025年の過去4年で「Bコープ」取得数が9.3倍に増加(画像はB Market Builder Japanの登壇資料より)
2025年に認証された「Bコープ」は29社。その1社が木村石鹸工業だ(画像はB Market Builder Japanの登壇資料より)
2025年に認証された「Bコープ」は29社。その1社が木村石鹸工業だ(画像はB Market Builder Japanの登壇資料より)

「Bコープ」の認証プロセスは、アセスメントツール「B Impact」を利用し、自社の社会的・環境的なインパクトを測定した回答をB Labに送信することから始まる。提出された回答が要件を満たすと確認されたら年間認証料を支払い、契約書への署名を経て取得となる。取得までの目安期間は最長1年9か月、年間認証料は企業の年間売上高によって異なり、1000ドル(約16万円)~4万5000ドル(約718万円)だ(新基準導入に伴い変更の可能性あり)。

「Bコープ」は2026年3月から新基準を導入。何が変わった?

そうしたなか、2026年3月から「Bコープの新基準」が導入された。国内では、2027年から新基準での審査開始を予定している。その最大の特長は「点数制の廃止」だ。これまでは、「ガバナンス(企業統治)」「ワーカー(従業員)」「コミュニティー(地域社会)」「エンバイロンメント(環境)」「カスタマー(顧客)」の5項目の合計で「80点以上」を獲得する必要があった。つまり、必ずしもすべての分野で優れていなくとも、特定分野で高得点を取得して80点に達せば合格とみなされていた。

これに対し、新基準は「基礎要件」のほか、「7つのインパクト・トピック」すべてにおいて一定基準を満たすことが求められる。企業が満たすべき具体的な要件は、企業規模、セクター、業種、所在地によって異なり、認証に必要な要件数は20~124項目に及ぶ。同項目に沿って、B Lab外部の第三者機関によって監査される。新基準で採用された「基礎要件」と「7つのインパクト・トピック」は、次の通り。

新基準における「基礎要件」(画像はB Market Builder Japanの登壇資料より)
新基準における「基礎要件」(画像はB Market Builder Japanの登壇資料より) 
新基準における「7つのインパクト・トピック」(画像はB Market Builder Japanの登壇資料より)
新基準における「7つのインパクト・トピック」(画像はB Market Builder Japanの登壇資料より)

7つのインパクト・トピック

  1. パーパスとステークホルダー・ガバナンス
  2. 政策への働きかけとコレクティブ・アクション
  3. 環境スチュワードシップと循環性
  4. 気候アクション
  5. 公正な働き方
  6. JEDI ジャスティス(公正)・エクイティ(公平性)・ダイバーシティ(多様性)・インクルージョン(包括)
  7. 人権

さらに、新基準では認証サイクルが、従来の3年から「5年」に変わり、認証取得から3年目には「監査」を実施する。企業の規模によっては定期監査が行われることもある。継続的な改善も求められ、取得年、3年目、5年目に要件が追加されていくこととなった。

100年続く老舗ブランド「木村石鹸」では、何が評価されたのか

「Bコープ」を取得した企業は、どのような狙いで取得をめざし、どんな点が評価されたのか。老舗石鹸メーカーの木村石鹸工業は、経営戦略の1つとして「Bコープ」に着目したという。

2013年に「愛される会社をめざそう」という方針を掲げてから、「この会社があってよかった」と思われる存在になりたいという思いがありました。そのために、企業の「正直さ」や「社会への貢献」を追求したいと考え、「Bコープ」の考え方に合致しました。また、第三者からの認証を得ることで、自分たちの企業活動を自信を持って続けられる根拠になるとも思いました。(木村石鹸工業 木村氏)

木村石鹸工業は、現在「OEM」と「自社ブランド」の事業割合が約半々になっている(画像は木村石鹸工業の登壇資料の自社ブランド一覧より)
木村石鹸工業は、現在「OEM」と「自社ブランド」の事業割合が約半々になっている
(画像は木村石鹸工業の登壇資料の自社ブランド一覧より)

1924年(大正13年)に創業した木村石鹸工業は、業務用洗剤のOEMから始まり、現在は自社ブランド事業にも注力する。あえて非効率な釜焚き製法にこだわった「固形石鹸」や、本気で髪を良くしたいと約5年かけて開発した「シャンプー・トリートメント」などを扱い、高い評価を獲得。開発においては、細部まで安全性や環境に配慮したり、強い洗浄力だけでなく、いかに汚れにくくできるかも考えたり、ものづくりの誠実な姿勢を大切にしている

そんな木村石鹸工業は、ものづくりだけでなく、「組織のあり方」にも独自の考えを持つ。「モラルや信頼をOSにする」方針を掲げ、ルールや規則は最小限となる。組織図や職種定義がなく、さらには評価・査定や承認フローもないという。給与は「自己申告制」だ。ユニークな制度も多く、「期日前投票制度」「書籍購入応援制度」「帰省手当」「親孝行手当」など、社員が私生活も大事にしながらキャリアアップに励めるよう配慮している。

登壇した木村氏は、「信頼とモラルをベースにする組織をめざしている」と話した(画像:筆者撮影)
登壇した木村氏は、「信頼とモラルをベースにする組織をめざしている」と話した(画像:筆者撮影)

木村石鹸工業では、2013年頃から「Bコープ」を取得したい思いがあったものの、当時はハードルの高さから挫折。しかし、改めて学ぶと自社の取り組みが実は評価に値する可能性が高いことがわかり、2024年に取り組みを開始した。結果的に、2025年7月に取得ができたそうだ。

持続可能でなければ意味がないので、現在の取り組みの延長線上でできることしか行わないと決めていました。同分野のコンサルを依頼して認証を進めたところ、制度や開発体制を大きく変えずとも取得できそうだという結論に至りました。たとえば、30歳まで年2回の帰省にかかる費用を負担する「帰省手当」は、“マイノリティへの支援”(評価基準でいうと「公平性」)に当たると評価されました。(木村石鹸工業 木村氏)

成長中のスタートアップ「SANU」。2つの評価ポイント

2019年に創業したSANUは、「Live with nature. / 自然と共に生きる。」をコンセプトに、別荘事業を展開する。月額5万5000円の「サブスク別荘」で市場に参入し、現在は1つの別荘を複数人で共同所有する「Co-Owners(コ・オーナーズ)」や法人向けサブスク「for Business(フォービジネス)」などに事業を拡大。首都圏からアクセスのいい山、湖、海などの近くに36拠点・240室を運営している(2026年4月時点)。自然環境に配慮した建築とデジタルの融合も特長で、物件購入さえもネットで完結する仕組みだ。

国際木材を豊富に活用したSANU 2nd homeの建築モデル(画像はSANUの登壇資料より)
国際木材を豊富に活用したSANU 2nd homeの建築モデル(画像はSANUの登壇資料より)

SANUでは、創業当初からパタゴニアを目標にしており、パタゴニアは2012年1月に米国カリフォルニア州で初めて「Bコープ」を取得した。SANUでも当然取得するべきだと考えていたが、スタートアップゆえ目の前の業務に追われる日々だった。それでも時間をかけて準備を進め、2024年に取得を実現したという。

評価されたポイントは、主に2点です。1つ目は「ガバナンス」の観点で、「自然と共に生きる」という強烈なコンセプトに向かって、社内メンバーが一丸になって取り組んでいる点。2つ目は地方に人の流れを作り、経済の循環や地元の人との出会いを生み出している点です。取得にあたり、自社が排出している二酸化炭素量や廃棄物量などの基盤データを一からそろえたため苦労は多かったですが、取得の手応えを感じています。(SANU 上野氏)

登壇した上野氏は、現場作業を含むオペレーション構築を経て、2025年にリジェネラティブ推進室長に就任した(画像:筆者撮影)
登壇した上野氏は、現場作業を含むオペレーション構築を経て、2025年にリジェネラティブ推進室長に就任した(画像:筆者撮影)

人と自然が共生する社会の実現をめざすSANUでは、「SANUが広がるほど地球が豊かになる」という目標を当初から掲げてきた。とはいえ、事業拡大には一定の自然への負荷が避けられない。その矛盾を抱えた上で、地球への環境負荷をいかに減らせるかが、SANUの最大の挑戦となる。

建築は、循環型の建築設計を指す「サーキュラー建築」を取り入れ、国産木材の使用や建築資材の再活用を可能にする「釘を使わない」工法、土壌への負荷を軽減する高床式建築などを採用。さらに、この春開業する奄美大島の拠点では、屋根と一体化したソーラーパネルでエネルギーを生み出すことで、ZEB(ゼブ)水準を達成している。

※Net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の略称。快適な室内環境を実現しながら、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることをめざした建物を指す(環境省「ZEB PORTAL」より)

この春に開業する奄美大島の新拠点(画像提供:SANU)
この春に開業する奄美大島の新拠点(画像提供:SANU)

さらに2026年3月には、自社の事業がどのような社会的・環境的な変化を生み出すかの因果関係を図式化した「インパクトモデル」を、経営の意思決定や日々のアクションに落とし込むための最重要指標も新たに設定したという。

SANUが新たに設定した最重要指標は、「自然の中での総滞在時間」だ(画像はSANUの登壇資料より)
SANUが新たに設定した最重要指標は、「自然の中での総滞在時間」だ
(画像はSANUの登壇資料より)

同指標は、「SANUを通じて自然に触れる頻度(深さ・頻度)」と「SANUを通じて自然に触れるユーザーの総数(広がり・数)」を掛けることで、「自然のなかでの総滞在時間」を算出する。都市生活者の時間の使い方そのものを変えていく挑戦だと、SANUでは捉えているそうだ。

社外からの評価はどう変わる? 取得後のメリットと見えた課題

イベントでは、「『Bコープ』取得後のメリットや見えてきた課題」も語られた。取得から約8か月が経過した木村石鹸工業では、社内外で少しずつ好影響が出始めたところだという。

取引先からの反応はあまりないのですが、「Bコープ」の研究をしている数名の大学生から「詳しく知りたい」と連絡がありました。若い人が、よりこのテーマに関心を持っているのだと実感しました。社内では「製品開発との向き合い方」に徐々に変化が見られています。たとえば、取引先の判断基準を「安い」「高品質」だけでなく、「地球環境に配慮しているか」「地域貢献に取り組んでいるか」といった視点で見るなど。「Bコープ」取得が、社員の誇りや前向きな姿勢につながっているなと感じます。(木村氏)

木村氏は、現在の率直な思いを語った(画像:筆者撮影)
木村氏は、現在の率直な思いを語った(画像:筆者撮影)

「Bコープ」が打ち出す「公益性の高さ」は企業として当然めざすべきであり、事業へのメリットも感じている。一方で、「葛藤が増えた」と木村氏は本音を明かした。

事業成長とサステナビリティの両立に関して、悩むことが増えました。表向きは「良い」とされていても、本質的には良いとは言えないこともあるようです。ある企業では、事業で出る排水をキレイな水にして農業用水に再利用したところ、キレイになりすぎて水生生物が住めなくなっていることがわかったそうです。これらを1つひとつ深く考えながら実行し、外部に伝えていくのは苦労が伴いますが、こうした取り組みこそが大事なのだと理解しています。(木村氏)

SANUでは、「Bコープ」取得によりスタートアップでは最大級となる19.5億円のサステナビリティローンを組成できたほか、さまざまな観点でメリットが得られたという。

「リジェネラティブ経営」を掲げて「Bコープ」を取得したことが大きく評価され、2025年2月に、サステナビリティローンを含む64.5億円の資金を調達しました。「Bコープ」取得が、事業前進につながっていると実感しています。また、採用面での貢献も大きく、「『Bコープ』取得を知って入社したいと考えた」と話す社員もいますね。同時にユーザー獲得にもつながっていて、「地球環境への本気度が伝わる」という声もいただきました。(上野氏)

急激に成長するSANUにとって、「Bコープ」は推進力になっているという(画像:筆者撮影)
急激に成長するSANUにとって、「Bコープ」は推進力になっているという(画像:筆者撮影)

また、「Bコープ」の取得は社内の取り組みの変化にもつながった。上野氏が室長を務めるリジェネラティブ推進室を中心に「リジェネラティブ企業としてのあり方」を改めて議論した結果、それまで評価されてきた「植樹活動」の休止を決めたという。

これまでは、拠点建築で使用した分と同じだけ杉の木を植樹する活動をしていました。ですが、今このタイミングでは、「SANUが拠点を建てた後のほうが自然が豊かになっているという状態を、本気でめざすことにリソースと予算を集中させることがベストである」という結論に達しました。(上野氏)

その考えに沿ってSANUが打ち出したのが、次の5つの「重要課題」だ。

  1. 自然の豊かさを守り育てる、生物多様性への配慮
  2. 環境負荷を減らし、未来につなぐ建築
  3. 自然災害に強い、レジリエントな滞在の提供
  4. 地域とともに描く、豊かさの循環
  5. 一人でも多くの人にひらかれた心地よい自然の滞在

上記に則り、「全拠点の生物多様性定量評価の実施」「スタッフがいきいきと働ける理想状態の定義」「精神的・身体的なハードルがあっても安心して滞在できる拠点を増やす」などの具体的な項目を定め、数年をかけて実現をめざしていくという。

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