モバイルEC時代で勝つための「今すぐできる改善策」「コスト削減&施策のスピード化」を実現する方法
「実行したい施策がすぐに実施できない」「AI(人工知能)を組み込みたいが技術的スキル・コストが追い付かない」「各種サービスをECサイトと連携するハードルが高い」「運用の手が足りない」――。ECサイト運営につきまとうこうした課題はどう解決すればいいのか。グローバルなクラウド型ECプラットフォーム「Commerce Cloud」を提供するセールスフォース・ドットコムの山浦直人氏(Commerce Cloud Senior Solution Engineer)が、消費者のビッグデータから見えた最新トレンド、課題解決方法、SaaS型ECプラットフォームのメリットをわかりやすく解説する。
グローバルでECはモバイルシフトが加速
3000サイト以上のアクティブなECサイトが50か国以上で稼働し、それらに月間6億7900万人のユニークビジター(2018年11月実績)が訪れ、1サイトあたりの販売額は前年比21%増の成長となっている。
ユニクロ、アシックスなどの有名企業をはじめ、グローバルで利用企業が広がっているセールスフォースのクラウド型ECプラットフォーム「Commerce Cloud」の実績をこう説明する山浦直人氏は、導入サイトで買い物をするユーザーの買い物動向をビッグデータとして抽出したレポート「Salesforce Shopping Index」を用い、近年のトレンドを説明した。
山浦氏が強調したのは、ネット通販の購入デバイスにおけるモバイルの重要度がさらに増してきていること。
2018年末の商戦では、モバイル経由の注文数が48%、トラフィックは66%。そして「年末間近のクリスマスでは74%がモバイルで商品を検索している」(山浦氏)。
ECサイトにおけるモバイルの影響は、2017年実績と比べるとわかりやすい。トラフィックに占める割合は2017年の53%から60%へ。注文数に占める割合は2017年の33%から2018年は40%に拡大。コンバージョンレートも2017年の1.09%から2018年は1.2%にアップしている。
今すぐできるECサイトの改善策
こうした消費者の「モバイルシフト」への対策として「今すぐできる施策」は何か? 山浦氏は「Commerce Cloud」を使うECサイトの改善実績を元に、「サイト内検索」「リコメンド」の改善で売り上げを伸ばす施策を提案した。
① モバイルは検索窓を上部に設置
モバイル用の検索は、アイコンではなく検索窓を画面トップに置くことをオススメする。これは理論ではない。その方が売り上げは伸びているという結果だからだ。(山浦氏)
検索アイコンを用いている場合、検索アイコン利用率は7%で、検索から生じる売り上げの割合は19%にとどまる。一方、画面トップに検索窓を用いた場合、検索利用率は15%に、検索から生じる売り上げの割合は29%まで拡大した。
山浦氏はこう言う。「(検索アイコンは)タップする手間が生じるので、検索窓を上部に置いた方が、ユーザビリティが高い」。
② サイト内検索の絞り込み条件は4項目以上を
絞り込みについては、項目を絞りやすいものと絞りにくいものがあるが、できるだけ絞り込み項目は4つ以上用意してほしい。(山浦氏)
山浦氏によると、絞り込み条件が2項目のケースと比べ、4項目以上あるECサイトでは商品のカート投入率が27%も高いという。
③ レコメンド枠は商品説明とレビューの間に置く
レコメンドは訪問者の5%が利用し、そこから29%の売り上げが生まれるというデータが出ている。このレコメンド経由の売り上げを伸ばすには、レコメンドの位置が重要になる。(山浦氏)
ビッグデータから見えた最適なレコメンドの位置は、山浦氏によると「商品説明とレビューの間」。他の場所と比べると、コンバージョン率は15%向上、カート投入率が25%アップするという。
「Commerce Cloud」とは?
「Commerce Cloud」はグローバル規模で、1つのプラットフォーム上でECサイトを運用できるEC専用のクラウド型プラットフォーム。マルチブランドやモール型、海外ECなどのグローバル化にもワンプラットフォームで対応できる。グローバルブランド企業を中心に国内外で50か国以上、3000サイト以上が「Commerce Cloud」で稼働している。
人工知能「Salesforce Einstein」も搭載されており、近年はBtoB-ECサイトのソリューションも追加。「Commerce Cloud」の導入サイトの販売額は平均で前年比21%増という成長率となっている。
「インフラストラクチャ」「ネットワーク」「アプリケーション」にそれぞれ必要なセキュリティ環境が整っていることも特徴の1つ。「EC企業1社でこうした環境を整えるのはとても大変。その最たるものが第三者認証。これを取得しようとすると膨大なコストと時間がかかる」(山浦氏)。
セールスフォース・ドットコムは、日本では日本セキュリティ監査協会の「クラウド情報セキュリティ監査制度」で「CS Gold マーク」(クラウドサービスを提供する事業者のサービスのセキュリティが、国際的な基準(ISO/IEC 27017)で求められる水準であることを示す認定制度)を取得。その他にも「ASP・SaaS 安全・信頼性に係る情報開示認定制度」や、各国の第三者認証の認定を受けている。
「Commerce Cloud」は1つのプラットフォームをさまざまな企業が利用するマルチテナント型のECプラットフォームのため、第三者から認められたセキュアな環境は「Commerce Cloud」導入企業すべてが利用でき、各種認定制度を背景に消費者へ安心・安全を訴求することが可能だ。
セールスフォース・ドットコムはクラウドプラットフォームを提供している大手企業。「Commerce Cloud」はその基盤を活用しているため、「大規模かつ急激なトラフィックに対しても安定的にECサイトを運用できる環境を用意している」(山浦氏)。
ECサイト運営において、イベント時、テレビやネットといったメディアでの商品紹介、SNSでのシェア拡散などによってトラフィックが急激に増えることは珍しくない。その時にサーバーがダウンし、ECサイト運営が止まってしまうと大きな機会損失が発生する。こうした事態が起こると「消費者はこのECサイトは使えないといった印象を持ってしまい、2度と訪問してくれないこともある」(山浦氏)。
将来にわたっての販売機会の損失を防ぐためにも、ECサイトには安定的な稼働ができる基盤が必要だと山浦氏は強調する。
SaaS型のメリットとは?
セールスフォース・ドットコムが「Commerce Cloud」導入企業400社の管理者に対して、従来使っていたソフトウェア時代と「Commerce Cloud」導入後の業務についてアンケートを実施。従来は「成果のためのイノベーション」に時間を割けていたのは2割の企業にとどまっていたが、「Commerce Cloud」導入後は8割の企業が「成果のためのイノベーション」に対する取り組みができるようになったと答えている。
この劇的な変化をもたらしているのが、「Commerce Cloud」がSaaS型で提供されているというメリットである。
「EC運営の現場では次のようなやり取り頻繁に発生しませんか?」。こう問いただした山浦氏が説明したのは、EC実施企業の現場で起きている“ECあるある”話だ。
企画者の頭や目に見えているものはその企画で実行されるイメージ。システム側、コーディングやデザイン調整など新しい企画を実現するための実装工数が見えていない。SaaS型のECプラットフォームでは、新しい企画の実装後テスト(他システムとの結合性確認)、新しい企画の実装準備(OS、ミドルウェアへの影響範囲の確認)、日頃の業務管理(サーバー管理、問い合わせ対応)などを省略可できる。(山浦氏)
SaaS(Software as a Service)とは、クラウドの形態の1つでインターネットを通じてソフトウェアを利用すること。オンプレミスは自社サーバー内ですべてのアプリケーションやネットワークなどを管理する形態。IaaS、PaaS、SaaSがクラウドの部類に入る。
(下の画像の)緑がベンダー側に委託する部分で、青が自社で管理するところ。SaaSはすべてベンダー側に委託する形態。委託する部分を多くの事業者が利用すれば、それだけ規模の経済が働くのでコストが安くなる。また、自社で管理する場合、アプリケーションなどは資産計上しないといけないが、委託できる部分はPL(損益計算表)上、コストとして計上することが可能だ。(山浦氏)
SaaS型はアップデートの簡略、コスト面などで優位性
山浦氏はよりSaaS型サービスをわかりやすくするため不動産ビジネスを例に説明した。
SaaSはマルチテナント形式。1つのマンションにいくつもの会社が入居し、入居会社はそれぞれ部屋を一定程度カスタマイズすることが可能。共用部分はアップデートを通じて各戸を一括更新していく、と言えばわかりやすいだろう。つまり、マンションの共用部分を更新すれば、入居企業は何もする必要がない。SaaS型は更新の手間やリソースがかからないというメリットがある。(山浦氏)
オンプレミスとSaaSに関するコスト差異についても説明した。「オンプレミスは表面上には見えないコストが膨大にかかる」(山浦氏)。
山浦氏はオンプレミスを個人で車を組み立てていく系式、SaaS型はリース車と例えて説明。「オンプレミスはボディからタイヤなどを自分で揃えて、定期的なメンテナンスを実施しないといけない。車検も発生する」(山浦氏)。
一方のSaaS型は、「リースは毎月の利用料金が一定。メンテなどのアップデートは発生するが、自社でコストを負担することなく、業者がスピーディーにメンテナンスしてくれるイメージ」(山浦氏)と説明。そして、「アップデートなどに時間がかかるとECのビジネスに影響が出てくる。オンプレミスとSaaS型にはこうした違いもある」(山浦氏)と言う。
また、政府もSaaS型を推進している。2018年8月に公表された「政府情報システムにおけるクラウドサービスの利用に係る基本方針」。ここで政府は次のような見解を示した。
急速に進化し発展したクラウドサービスは、正しい選択を行えば、コスト削減に加えて、情報システムの迅速な整備、柔軟なリソースの増減、自動化された運用による高度な信頼性、災害対策、テレワーク環境の実現等に寄与する可能性が大きく、政府情報システムにおいても、クラウドサービスを利用することで様々な課題が解決されることが期待される。(「政府情報システムにおけるクラウドサービスの利用に係る基本方針」から引用)
導入企業へは専任スタッフが徹底サポート
「Commerce Cloud」導入企業へは知見豊かなカスタマーサクセスマネージャーがサポートをする体制を採用している。たとえばクライアントがアパレル企業だった場合、競合他社やベンチマーク企業の数字比較、「Commerce Cloud」導入企業との比較など、クライアントの業績拡大を徹底サポートするという。
ファッションECのTSIホールディングスは、ワークショップを通じた活用支援を通じ、改善方法をチーム全体で明確化。サイト訪問者のサイト内検索キーワード分析、検索辞書の定期的な更新および並べ替えルールの見直しをカスタマーサクセスマネージャーと行い、カート投入率を11.6%改善した。
ランズエンドは標準機能のABテストを活用し、カスタマーサクセスマネージャーに相談しながら、KPI(カート投入率、コンバージョン率など)に基づいた比較検証を定期的に実施。ABテストなど継続的な検証を続け、最適な検索結果の商品表示順序ルールを見つけながら、カート投入率を最大5.2%改善した。
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