これからBtoB-ECに取り組む人のための、カート・受発注システム事業者情報 ④EC-CUBE

『BtoB-EC市場の現状と将来展望 2022』(インプレス総合研究所)より、カート・受発注システムについての情報をお届けします(連載第4回)
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これからBtoB-ECに取り組む事業者のために、主要なカート・受発注システム事業者について、7回に渡って各社の概要や特徴をまとめるシリーズ。第4回はイーシーキューブが運営する「EC-CUBE」。

 第1回 Bカート
 第2回 ebisumart
 第3回 アラジンEC
 第4回 EC-CUBE(今回)
 第5回 ecbeing BtoB / ecWorks
 第6回 SI Web Shopping
 第7回 まとめ

「EC-CUBE」の概要

会社名:株式会社イーシーキューブ
URL:https://www.ec-cube.net/
所在地:大阪府大阪市北区梅田2-4-9ブリーゼタワー13F
設立:2018年10月(「EC-CUBE」のサービス提供は2006年9月~)
資本金:3000万円
代表者:代表取締役社長 金 陽信
事業内容:ECオープンプラットフォームの開発・提供など
社員数:15人 (2020年度)

オープンソースのネットショップ構築システム「EC-CUBE」を提供。無料公開されたソースコードをカスタマイズすることでオリジナリティのある本格的なECサイトを構築することができる。また、決済手段など自社に必要な機能もプラグインで追加することができる。

2006年よりサーバーにインストールして利用するダウンロード版を提供。2019年からはすぐに始められてメンテナンスフリーのクラウド版の提供も新たに開始。ダウンロード版の特徴であるカスタマイズ性と、クラウドのためセキュリティやメンテナンスにかかる運用負荷が軽減されるという特長をあわせ持っている。

「EC-CUBE」のサービス・ソリューション

マーケティングソリューションを展開するイルグルム(旧社名:ロックオン)が2006年に「EC-CUBE」の提供を開始し、2019年からは子会社のイーシーキューブが事業を担っている。ソースコードが無料で公開されているオープンソースEC構築システムで、自在なカスタマイズが可能。商品や販売方法に強い独自性を持つECサイトでも多く活用されている。日本製ならではの管理画面の使いやすさも特長で、EC構築オープンソースの領域では国内トップのシェアを誇る。

オープンソースである「EC-CUBE」を使って、ECサイト構築支援やサイトの機能を拡張するプラグインの開発を手掛けるインテグレートパートナーの数は約140社にのぼる。「EC-CUBE」を自社仕様にカスタマイズするノウハウがない場合も、BtoB-ECの支援実績が豊富なインテグレートパートナーがサポートする。

サーバーにインストールするダウンロード版に加え、2019年からは新たにクラウド版の「ec-cube.co」も提供を開始。ダウンロード版とクラウド版は相互に移行することが可能だ。クラウド版は自社で「EC-CUBE」をインストールするためのサーバー環境を整備する必要がないため、早急にECを開始したいニーズに対応。

また、セキュリティフィックスなどのバージョンアップに対応し、セキュリティやサーバー保守にかかるコストと手間も抑えられるという。クラウド版の構築・運用もインテグレートパートナーによるサポートが受けられる。

2021年9月、EC-CUBE4のメジャーバージョンアップを実施。セキュリティとSEO対策の強化とカスタマイズ性の向上を促す全189の機能追加・改善が実施された(2021/09/10までの数)。

クラウド版EC-CUBE「ec-cube.co」の特長(https://www.ec-cube.net/product/co/よりキャプリャ)

料金体系や大まかな費用感

ダウンロード版
  • 初期開発費用 :インストールは無料。インテグレートパートナーの構築支援を受ける場合などに費用が発生する。1000万円未満が多い傾向にある。
  • 月額費用 :プラグインの購入・利用や、インテグレートパートナーの運用・保守支援を受ける場合など、状況に応じて変動する。

クラウド版:スタンダードプラン
  • 初期開発費用 :7万円
  • 月額費用 :4万9800~8万4800円

※販売額が300万円超過の場合は4万9800円+超過分×0.5%。販売額が1000万円超過の場合は8万4800円。決済手数料は別途契約。

外部サービス・事業者の提携

決済、物流、受注・在庫管理など、様々な外部システムと連携するプラグインを展開。また、2020年からプラグインとして提供している「Web API」を利用することで、「EC-CUBE」と基幹業務システムとの商品・顧客情報連携や、複数チャネル間の在庫連携、会計ソフトなどの管理系システムとの連携など、「EC-CUBE」を中心とした各EC関連サービスや企業の業務システム間のデータをリアルタイムに連携することが可能。「Web API」と連携するサービスは順次拡大している。

導入・開発期間

カスタマイズの規模によって異なる(開発はユーザー企業自身、あるいはインテグレートパートナーと行う)。

「EC-CUBE」の実績

(1)主な顧客層

●業種・業態

様々な業種・業態の企業で実績がある。直近4年間の新規導入社では、BtoC向けのサイトが4分の3、BtoBもしくはBtoCとBtoBの双方を手掛ける事業者が4分の1程度を占めている。直近2年では「食品」のサイト事例が増えている。

●年商規模、商品特性

  • 企業規模 :全体的には月商300万~1000万円規模が多いが、BtoBでは月商1000万円以上の事業者も多い。
  • 商品特性 :特に制限はない。

●顧客事例 オリヤス株式会社

業務用の使い捨て食品容器や包装資材を販売するECサイト「食品容器販売の【パックデポ】」を運営。食品容器は似た形状の商品が多いため、サイズや色などによる高い検索性が求められる上、本体と蓋の複雑な組み合わせにも対応しなければならないなど、多くの機能を取り入れたカスタマイズが必要だった。

カスタマイズコストを含めても、低価格で高機能な仕組みが構築できる「EC-CUBE」を導入。「EC-CUBE」のインテグレートパートナーで、Webシステム開発会社のタイガーテック社にカスタマイズを委託し、ECサイトを構築した。

タイガーテック社は「商品検索などに強いこだわりがあっても、『EC-CUBE』はカスタマイズがしやすく、プラグインも豊富に提供されているので、それらを活用することで要件が実現できた」と話す。コロナ禍で飲食店からテイクアウト用食品容器のニーズが高まった際も、選びやすく買いやすいECサイトが役に立ったという。「EC-CUBE SITE AWARD2021」受賞。

食品容器販売の【パックデポ】 https://pack-depot.com/

●「EC-CUBE SITE AWARD2021」受賞サイト

「EC-CUBE SITE AWARD2021」受賞サイトのサイト名と主要商品(受賞サイトの中からBtoBの事例のみを掲載)

(2)売上傾向

年々右肩上がりで推移しており、2021年9月期の売上高は3.5億円(前期比19.2%増)。ダウンロード版は無料で提供しているが、決済関連サービスのプラグインから同社に手数料が発生する仕組み。決済手数料売上が増収の主な要因となっている。

「EC-CUBE」の売上構成
出典:株式会社イルグルム2021年9月期通期決算説明資料

「EC-CUBE」の強みや他社との差別化ポイント

オープンソースの「EC-CUBE」は、高いカスタマイズ性とコストパフォーマンスの良さを特長とする。無料公開されたソースコードを柔軟にカスタマイズができるのに加え、自社に必要な機能はオーナーズストアで提供されているプラグインで追加することも可能。

導入社の多くは、ビジネスや規模の変化に応じたカスタマイズをしながら継続的に利用している。2006年の提供開始以来、これまでに推定3万5000サイト以上(同社調べ)が利用しており、EC構築オープンソースの領域では国内トップのシェアを占める。80万点以上の商品を取り扱うBtoB-ECや、BtoB向けレンタルEC、オリジナルデザインの注文ができる「印刷」「ノベルティ制作」のBtoB-ECなど、独自性の高いECサイトの構築実績も豊富に有する。

自社の用意したサーバーにインストールして利用するダウンロード版に加え、2019年からはクラウド版の「ec-cube.co」の提供も開始した。「EC-CUBE」はセキュリティ対応や基本機能の拡張、パフォーマンスの向上などによるバージョンアップが不定期で行われているため、ダウンロード版の場合は導入社側でアップデートやメンテナンスを行う必要がある。

一方のクラウド版は、インストールをしないため自社のサーバー環境の整備が不要。また、毎週の定期更新と不定期のアップデートが自動で行われるため、常に最新の状態で利用できる。クラウド版は月額のシステム利用料が発生するが、売上規模が大きくなっても導入社の負担が増えないよう、利用料には上限を設けている(月間販売額が1000万円超過の場合は8万4800円の利用料で固定)。

ECサイトの構築やカスタマイズができるエンジニアを自社に抱えていなくても、サイト構築やデザイン制作など多様な分野に長けた企業で構成されるインテグレートパートナーによって、構築から保守までのあらゆる支援が受けられる。インテグレートパートナーは全国に約140社存在し、BtoB-EC支援の実績が豊富な企業も多い。

市場の現状と展望

「EC-CUBE」は誰でも自由にインストールできるため、現在構築中の正確なECサイト数は不明だが、サイトの公開日ベースでは2018年以降、新規でBtoB-ECを開設した件数がリプレイスの件数を上回っている。このことから、BtoBにおけるEC化率は引き続き伸長すると見込まれる。

加えて、「EC-CUBE」を用いたBtoB-ECサイトの構築件数は、2018-2019年と2020-2021年を比較すると2倍以上に拡大している。取り扱い商材の内訳を見ると、2018-2019年は「インテリア・日用品」が最も多く、以下「食品」「美容」と続いていたが、2020-2021年は「食品」の割合が最も高くなった。コロナ禍以降、特に食品の分野でBtoCからBtoBにも間口を広げたいといったニーズが広がっているという。

また、ここ数年はBtoBtoCのメーカーが小規模事業者や消費者向けにECを始める事例も多いことから、BtoB向けとBtoC向けをはっきりと分けない形のECサイトが今後しばらくは増えていくと予見する。

さらにその先を見据えると、BtoB-EC業界においてもモールのようなプラットフォーム化が進むと予測。インフォマート社が食品のBtoBプラットフォームを展開しているように、小規模事業者がECで仕入れをすることが一般化すれば、商品を卸す側と仕入れる側の双方にとってBtoB-ECモールの利便性は高まり、利用者が拡大すると考えている。

「EC-CUBE」の今後の戦略と課題

2024年1月のISDN回線の終了に伴い、これまでISDN回線を利用してEDI経由の受発注業務を行っていた事業者から相談を受けるケースが増えつつあるという。こうした動きから、新たにBtoB-ECを導入する動きがますます加速するだけでなく、EDIで大規模なBtoB取引をしている事業者のニーズも増えていくと見越している。

BtoBではERPとの連携や、工場などの現場にいる人と接続するといった複雑なニーズも発生する。「EC-CUBE」はこれまでも、カスタマイズがしやすく商品点数の制限もない自由度の高さを大きな特長としてきたが、より大規模な構築ニーズにも対応するため、同社はPaaS(アプリケーションを実行するためのプラットフォームを提供)型のサービス展開を事業戦略に打ち立てているという。

オープンソースの「EC-CUBE」は、多様な分野に精通したシステム開発者と協業して導入社の要件を叶えることに強みを持ち、クラウド版の提供にあたってもダウンロード版と同様に、システム開発者によるカスタマイズのしやすさはそのまま維持している。この長所を一層伸ばすためのPaaS計画であり、様々な仕組みと連携しながら幅広い事業者から必要とされるプラットフォームとして磨き上げたい考えだ。

ただ、EC業界のみならず、至る所でエンジニアをはじめとするIT人材の不足が慢性的な課題となっている。人材の育成やパートナー企業の発掘は、今後も引き続き重要なキーポイントになるだろう。

『BtoB-EC市場の現状と将来展望2022』

  • 監修:鵜飼 智史
  • 著者:鵜飼 智史/森田 秀一/朝比 美帆/インプレス総合研究所
  • 発行所:株式会社インプレス
  • 発売日 :2022年1月25日(火)
  • 価格 :CD(PDF)+冊子版 110,000円(本体100,000円+税10%)
    CD(PDF)版・電子版 99,000円(本体 90,000円+税10%)
  • 判型 :A4判 カラー
  • ページ数 :250ページ
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