これからBtoB-ECに取り組む人のための、カート・受発注システム情報③ アラジンEC(アイル)
『BtoB-EC市場の現状と将来展望2022』より、これからBtoB-ECに取り組む事業者のために、主要なカート・受発注システム事業者について7回に渡って各社の概要や特徴をまとめるシリーズ。第3回はアイルが運営する「アラジンEC」について解説する。
第1回 Bカート
第2回 EC-CUBE
第3回 アラジンEC(今回)
第4回 ecbeing BtoB / ecWorks
第5回 SI Web Shopping
第6回 ebisumart
第7回 まとめ
「アラジンEC」の概要
「アラジンEC」は、国内約5,000社の導入実績を持つ販売管理システム「アラジンオフィス」を開発・提供するアイルが、2014年より販売しているBtoB専用カスタマイズ型パッケージシステム。自社製品に限らず、他社基幹システムとの連携も可能。約30年間にわたる販売管理システムの提供実績により業種・業界別の商習慣の違いやカスタマイズ特性を把握しているため、得意先に合わせて価格表示を変えたいなど、細かな要望にも柔軟に対応できる。
「アラジンEC」のサービス・ソリューション
「アラジンEC」(Aladdin EC)は、約30年にわたり、BtoBビジネスを展開する企業約5,000社に導入してきた販売管理システム「アラジンオフィス」を提供するアイルが、2014年に販売開始したBtoB-EC専用パッケージ。「得意先からの受注業務をデジタル化し、注文データを販売管理システムと連携させたい」という、アラジンオフィス導入企業からの要望を受け製品化した。
BtoB-EC支援に参入する企業は、BtoC向けECシステム開発が出発点になっていることも多いが、アイルは、創業当初からBtoBに特化した製品づくりに力を入れている。BtoB-ECの場合は、業種や企業ごとに商習慣が異なることから、1社1社に対して業種ごとに精通した担当システムエンジニアやプログラマーを配置。特に引き合いの多いアパレル、食品、理美容・化粧品、建築資材・住宅設備などでは専任チームも設置している。
これにより各業界独自の課題を踏まえた最適な提案が可能であるとともに、企業ごとのきめ細かなカスタマイズニーズにも柔軟に対応できる。また、アイルは販売管理システムを提供していることから、システム連携のノウハウと実績を豊富に有しており、他社の提供する販売管理システムをはじめ、多種多様な外部システムとのスムーズな連携が可能である。
「アラジンEC」は“カスタマイズのしやすさ”を重視し、パッケージの内部構造強化を常時図っている。パッケージを基に導入各社が必要な機能だけをカスタマイズする仕組みのため、フルスクラッチよりも低コストで開発・運用ができる。
料金体系や大まかな費用感
- 初期開発費用 :200万円~。300万~2000万円の実績が多い
- 保守費用 :6万円~。「月額固定型」で提供。9万〜20万円(月額) の契約が多い
外部サービス・事業者の提携
販売管理システム、WMSシステム、決済代行サービス、運送関連サービスなど、多数の外部サービスとの連携が可能。
基幹システム名(販売管理・ERP) | 企業名(略称) |
---|---|
アラジンオフィス | アイル |
SAP | SAPジャパン |
GROVIA | 富士通 |
OBIC7 | オービック |
SMILEシリーズ | 大塚商会 |
スーパーカクテル | 内田洋行 |
商奉行/商蔵奉行 | オービックビジネスコンサルタント(OBC) |
楽商シリーズ | 日本システムテクノロジー(JST) |
PCA商魂/商管 | ピー・シー・エー |
販売大臣 | 応研 |
弥生販売 | 弥生 |
EXPLANNER | NEC |
ASPACシリーズ | アスコット |
GRANDIT | GRANDIT |
Pro Active | SCSK |
Future Stage | 日立 |
MCFrame/mcframeシリーズ | ビジネスエンジニアリング(B-EN-G) |
Microsoft Dynamics | 日本マイクロソフト |
Enterprise Vision | JBCC |
酒快Do | 三菱電機ITソリューションズ |
FLUSHシリーズ | コンピュータ・ハイテック |
AS/400 | 各システムベンダー |
自社オリジナル開発/フルスクラッチ | 自社エンジニア/各システムベンダー |
導入・開発期間
カスタマイズボリュームによって異なるが、半年〜1年程度が多い。
主な顧客層
●業種・業態
様々な業種・業態の企業で実績がある。卸売業・商社系が7割、メーカーが3割程度。また、BtoB-ECシステムを新規導入する企業が8割、リプレイスが2割程度である。
●年商規模、商品特性
- 企業規模 :年商10億〜300億円がボリュームゾーン。100億円以上の割合が増加している
- 商品特性 :多種多様。商品を製造して卸すメーカーや、商品を仕入れて卸す卸売業・商社などはすべて対象となる
●顧客事例① 株式会社ヤナセウェルサービス
外国車・輸入車を販売するヤナセのグループ会社で、グループ全体の購買部門にあたるヤナセウェルサービス。全国の販売店など、グループ内の1,000以上の部門から受注した事務用品や車の整備用品、販売促進商品といった備品全般を提供する業務を担っている。
以前はそれぞれ別会社が構築した販売管理システム、売上管理システム、Web購買システムを利用していたため不便が多かった上、古いシステムだったために不具合があると手作業で修正する必要があり、効率も悪かったという。しかし、同社の販売管理システムは本社独自の会計システムと連携しなければならず、その複雑さからリプレイスするにもハードルは非常に高かった。
商習慣に合わせた販売管理システムと、グループ内のWeb受発注システムが構築できる上、販売管理システムにWeb受発注システムと本社の会計システムを連携できるアイルに委託。2017年冬に「アラジンオフィス」と「アラジンEC」が稼働した。
「アラジンオフィス」の導入により、売上締日が集中する月末の業務負担は半減したほか、会計処理のミスも大幅に削減された。また、「アラジンEC」にはITスキルが様々なグループ内の発注者からも「画面の操作性が良く、使いやすい」「在庫状況や自部門の購入データも見やすく便利」といった評価の声が多く寄せられており、グループ全体の円滑な業務推進に寄与している。
●顧客事例② フランスベッド株式会社
ベッドや寝具など家具製造・販売のインテリア事業と、福祉用具や在宅医療機器の製造・レンタル・販売などのメディカル事業を行う同社の、両事業部にて「アラジンEC」を導入。
インテリア事業部では、商品情報がカタログのみでは伝えづらいことや、FAX注文をシステム入力する負荷などが課題となり、先にメディカル事業部にて同システムが安定稼働していた安心感から、2018年に導入を決定。
それまで、関連会社の1社から月に約2,000件のFAX注文があったが、システム導入後、展示会注文などシステム化が難しい2割を除いた8割の注文がEC化。月45時間ほどの業務時間が削減された。エラー注文の自動制御により目視の確認が不要になったほか、受注生産品は即生産にまわせるようになりリードタイムが短縮、在庫品の注文には自動で在庫確保メールを返信でき、対応時間も削減されている。
小物の注文品は得意先から配送委託を受け、自社の物流拠点から顧客に直接配送するサービスも開始。発注時にEC上に入力された顧客情報を基幹システムに取り込めるようになったことで、サービスレベルも向上した。
発注者からは、「EC画面が一般のネットショッピングと変わらず使いやすい」といった声が挙がっている。システム導入の担当者は、「システム知識がなくても、アイル担当者のわかりやすい説明と素早く丁寧なフォローで安定稼働まで導けた」と、対応面も評価している。
売上傾向
新規契約件数は、2020年まで前年比120%ほどで伸長してきたが、2021年には過去最高の同150%を記録。特に年商100億円以上の企業による導入実績が増加している。
「アラジンEC」の強みや他社との差別化ポイント
BtoB-ECの場合、基幹システムとの連携が必須となるが、基幹システムの仕様は複雑かつ広範囲であることが多い。特に導入企業が他社の基幹システムを利用している場合、複雑な連携仕様に対応するための高度な理解力が求められる。
アイルは約30年にわたって自社で販売管理システムを開発し、他社のWebサービスと連携させてきた実績から、受注データ/マスターデータ/在庫データなど、ECサイトと連携するために必要な基幹システム側の様々な要件を深く理解していることが強みとなっている。
また、業界ごとの独特な商習慣を社内全体で理解していることも特徴だ。同じ業界であっても、日本の中小企業は商習慣が統一されていないことが多く、各社が独自のルールにしたがって商取引を行っている。
そのため、これまでアナログで行ってきた取引をデジタルに置き換えるには、ほとんどのケースでカスタマイズが必須となる。特に単価や送料などは、各企業が得意先に応じて細かく変えるケースが多く、カスタマイズニーズが高い。創業以来、BtoBビジネスを支援してきた経験と実績のもと、業界ごとのカスタマイズ特性を踏まえたサービス開発に尽力している。
「アラジンEC」の導入に際しては、業種・業態ごとに精通したシステムエンジニアが担当につけくだけでなく、業務システム、基幹システム、販売管理システムの分野に長けた「アラジンオフィス」の営業経験者も導入前からサポートにあたり、具体的なポイントを押さえたヒアリングを行う。導入後のシステム連携の設計がされ、費用を含めた十分な事前確認をした上で導入できることが信頼につながっている。
市場の現状と展望
企業のデジタル化やシステム化自体は数年前から注目をされ始めているものの、BtoB-ECの活用はまだ“普及”と言えるほどには達しておらず、いまだに電話やFAXに依存している企業は多い。しかし、コロナ禍という大きな出来事に加え、日本の行政においてもデジタル庁が発足し、脱ハンコ・脱FAXに向けた動きも本格化している。
行政が力を入れる取り組みは必ず民間にも影響を及ぼすため、企業の経営者や管理職クラスがデジタル化に向けて本腰を入れる動きは、ますます加速していくと見られる。その状況下では、BtoB-ECを活用する企業と、そうでない企業に明らかな差が生じてくるだろう。
なぜなら、取引先にとっても在庫・価格の確認や発注がWebで簡単にできる環境が当然となり、それができるか否かが選ばれる基準になる可能性が十分に考えられるからだ。何らかの理由をつけてデジタル化に向けて舵を切らない企業も一定数あると思われるが、発注する側も業務効率と生産性を向上させたいと考えていることを念頭に置いておかなければならない。
企業の中にはアナログ作業がまだまだ多く残っているものの、給与システムを導入していない企業がほとんどないことと同様に、受発注業務がシステム化していない企業が珍しいとなる時代は目前に迫っている。
今後の戦略と課題
DX化に向けて、何に取り組むべきか悩んでいる企業が多く見られるが、特に中小企業にとってはBtoB-ECがまさにDXのわかりやすい事例だ。その証拠に、「アラジンEC」をはじめ、BtoB-ECシステムは様々な業種・業態で企業活動のプラスになるツールとして活用されている。
ただ、単にシステムを導入すること自体がDXと考えてはならない。デジタルを取り入れてしっかりと稼働させることで、人材がより価値の高い業務で力を発揮でき、生産性を向上させていくことこそがDXの本質なのだ。
本質的なDX推進を後押しする取り組みの一環として、アイルでは「アラジンEC」の導入社に対して、取引先のEC利用率を向上させるための支援サービスを開始。一般消費者向けのBtoC-ECと違い、BtoB業界は商材や取引先の業種・業態によっても利用率向上の施策が異なってくるため、今後各社からヒアリングを行いながら、セミオーダーに近い形で企業ごとにマッチした研修プログラムを組んでいく。
今後もますますBtoB-ECを導入する動きは加速すると予想される上、システムと支援サービスの双方でカスタマイズが必要とされやすいBtoB-ECにおいて、カート・受発注システム事業者側ではBtoB業界に精通した人材育成が急務となっている。アイルも引き続き、システムエンジニアや導入社サポートにあたるメンバーの採用促進とスキル向上に努め、リソースをより一層強化していく方針だ。
『BtoB-EC市場の現状と将来展望2022』
- 監修:鵜飼 智史
- 著者:鵜飼 智史/森田 秀一/朝比 美帆/インプレス総合研究所
- 発行所:株式会社インプレス
- 発売日 :2022年1月25日(火)
- 価格 :CD(PDF)+冊子版 110,000円(本体100,000円+税10%)
CD(PDF)版・電子版 99,000円(本体 90,000円+税10%) - 判型 :A4判 カラー
- ページ数 :250ページ