これからBtoB-ECに取り組む人のための、カート・受発注システム事業者情報 ②ebisumart(インターファクトリー)
これからBtoB-ECに取り組む事業者のために、主要なカート・受発注システム事業者について、7回に渡って各社の概要や特徴をまとめるシリーズ。第2回はインターファクトリーが運営する「ebisumart」について解説。
第1回 Bカート
第2回 ebisumart(今回)
第3回 EC-CUBE
第4回 アラジンEC
第5回 ecbeing BtoB / ecWorks
第6回 SI Web Shopping
第7回 まとめ
「ebisumart」の概要
カスタマイズ可能なクラウドコマースプラットフォーム「ebisumart」を提供。以前からBtoC、BtoB向けの両方を提供してきたが、マーケットニーズの高まりを受け、2019年にBtoB専門部署を設置。ユーザーの開拓と機能開発を強化している。
クラウドならではの継続的なアップデートによりすべてのユーザーが常に最新機能を利用できるメリットに加え、企業ごとのカスタマイズに対応できることが強み。2020年8月の東証マザーズ上場以降、特に大手企業からの引き合いが拡大している。
「ebisumart」のサービス・ソリューション
クラウドコマースプラットフォーム「ebisumart」は、BtoC、BtoBを合わせて累計700サイト以上の導入実績を持つ。中でもBtoB事業者の増加率は年々勢いを増しており、現在は新規導入社のうち約30%を占めるまでに達しているという。
「ebisumart」は要望の多い機能を順次標準化しており、直近1年間で行われた無料アップデートの回数は250回以上にのぼる。2019年にはBtoB事業者向けの専門部署が設置され、BtoB特有の機能強化・標準装備にも力を入れている。システムが陳腐化せず、中長期的な改修コストも抑えられるクラウド型でありながら、個社ごとの独自のカスタマイズや外部システムとの連携にも柔軟に対応できる強みを持ち合わせていることも特徴だ。
同社はシステム面の機能強化に加えて、取引先利用率向上や業務効率化、事業成長を後押しする支援サービスも拡充している。BtoB専門部署が常時サポートや各種セミナーを実施しているほか、2021年にはカスタマーサクセスの一環として、「ビジネスグローアップサポート」が本格始動した。20年近くEC事業を支援してきたノウハウを生かし、各社に合ったコンサルティングを提供している。
料金体系や大まかな費用感
従量課金プラン、固定料金プラン、レベニューシェアプランの3つのプランを用意。従量課金プランの利用が多い傾向となっている。従量課金プランの料金は下記のとおり。
- 初期開発費用 :300万円〜(カスタマイズ内容により変動)
- 月額費用 :基本保守料金+カスタマイズ機能保守費用+オプション利用料金+アクセス費用(変動)
外部サービス・事業者の提携
導入事業社とエンドユーザーの利便性を高めるために数多くのERPや支援ツールとの連携実績のほか、「ebisumart」が公開しているAPIを利用した連携も可能となっている。
導入・開発期間
開発期間は6か月~1年程度が多い。
(1)主な顧客層
●業種・業態
様々な業種・業態の企業で実績がある。製造業での導入が比較的多くなっている。
●年商規模、商品特性
- 企業規模 :中堅〜大手企業
- 商品特性 :特に制限はない
●顧客事例① 株式会社ヤマハミュージックジャパン
ヤマハ株式会社が100%出資する国内の販売会社。楽器や音響機器の卸販売から「ヤマハ英語教室」などで知られる教室事業まで、幅広く事業を展開する。
同社は以前から、エンドユーザーが所有する電子楽器や電気音響製品のアフターサービスに使用するサービスパーツのBtoB-ECサイトをインハウスで運営してきたが、「すでに他のECサイトに慣れ親しんだ技術者が、同様の感覚でサービスパーツを購入できる仕組みにしたい」と「ebisumart」を導入しリニューアル。
インハウスで運営していた頃は、BtoB-ECサイト経由での受注率は50%程度だったが、販売店の商品種別契約をチェックし、制御する機能をカスタマイズで組み込んだこともあり、運用開始後、半年で受注率は70%に上がった。
今まで契約の制限でFAXでしか注文できなかった製品群のサービスパーツも、ECサイトを通して注文できるようになり、ユーザーの利便性が向上したことが要因と考えられる。
●顧客事例② 株式会社カワダ
カワダは創業60年を誇る玩具総合問屋であり、自社商品である「nanoblock®」「パーラービーズ」をはじめ、数多くの玩具を卸売りしている。同社では、コンシューマー向けのECの浸透に合わせ、卸売りでも同様な仕組みで受発注できないかと考え、ASPサービスを利用してECを展開してきた。
しかし、より本格的にEC事業を展開していくためにはシステムの再検討が必要と考える中、同社が実現したいことに対応できる柔軟性が決め手となり「ebisumart」を採用した。
従来システムから、在庫データ管理システムや受注管理システムの改善を行い、業務効率化を実現。また、季節的な変動があるが一定の季節で変わらずに売り上げが上がり、会員数も毎年増加している。
(2)売上傾向
導入件数は年々右肩上がりで増加しており、特にBtoB事業者の増加率がめざましい。また、大規模な案件が多くなっている。
「ebisumart」の強みや他社との差別化ポイント
「ebisumart」を導入するBtoB事業者は、他のシステムからのリプレイスが約7割を占めている。EDIやパッケージ、スクラッチ開発など、何らかのシステムを用いてBtoB取引をしていたものの、「以前のシステムでは取引先の利用が浸透しなかった」「改修の手間とコストがかかる」といった理由から「ebisumart」が選ばれているという。
カスタマイズ可能なクラウド型ECプラットフォームであることが最大の特長である。様々な機能をインターファクトリーが継続的に開発することにより、古くから継続利用しているユーザーも、明日から利用するユーザーと同じ機能を利用できるため、バージョンが古いことで使いたい機能が使えないなどの制約から開放される。
また、このようなクラウドのメリットに加えて、導入事業者ごとにカスタマイズできることも最大の強みであり、バージョンの概念がないため個別カスタマイズをしていたとしても最新の機能を利用することができる。
顧客は中堅から大手企業が中心であることから、すでに販売管理・在庫管理など基幹システムが稼働しているケースが多い。そのため「ebisumart」導入においても、既存のネットワークとつながってBtoB-ECを構築したいという要望が多いことから、企業ごとのリクエストに応じたカスタマイズ体制をとっている。また見積フローや、取引先の与信枠に応じて発注プロセスを変更したいなどの細かな要望にも応じている。
そのほか、顧客の中には「中間サーバーを持っているため、インターファクトリー側にAPIがあれば自社で連携開発できる」というケースもあることから、ebisumart標準APIを用意。APIを利用することでコストを抑えて開発できるため、企業の状況に合わせ、①個別カスタマイズするケース、②APIを利用するケースに分けて提案できることも強みにしている。
市場の現状と展望
BtoB取引のEC化率は大々的に拡大すると予測される一方、BtoB-ECを構築する上で「売る」ことだけに意識を集中してはならないと示唆する。
例えば、あるロットに問題が発生して返品・回収が必要になった際には、一括返品できる仕組みが重要となるだろう。安全管理の観点からも、原材料や部品の調達から商品がエンドユーザーにわたるまでの生産・流通プロセス(SCM:サプライチェーンマネジメント)上に不備をきたさない仕組みを構築することが、企業の責任として求められるからだ。
実際に、グローバルな事例を見ると、BtoC-ECでは返品できないサイトが欧米などであまり受け入れられていないように、こうした流れはBtoB-ECにおいても重視されてくると見ている。BtoB-ECでも「売る」仕組みだけではなく、取引先やその先にいるエンドユーザーからの信頼を十分に考慮した仕組みづくりに取り組まなければならない。
このほか、取引先からのBtoB-EC利用の普及がよく課題に挙がっているが、利用普及の障壁になるものは必ずしも取引先側のネットリテラシーだけではないと指摘する。高温多湿の工場やWi-Fiがつながない現場など、様々な理由でWebからの注文ができない環境が存在しており、そういった場所から「今すぐ注文したい」という場合には、今後も電話などのアナログな手段が使われるだろう。
この時に、営業担当者に電話で伝えてECから代理注文できる機能があれば、従来のように電話・FAX受注だけに対応するオペレーターを何人も抱える必要はなくなる上、そういった現場を持つ企業に新規営業する際にも有効に働くと考えられる。「ebisumart」には、こうした営業支援につながる機能を搭載。業務効率化やコスト削減の効果にとどまらず、販路拡大に向けてもBtoB-ECの活用が広がっていくと見ている。
今後の戦略と課題
「ebisumart」は柔軟なカスタマイズが可能でありながら、中長期的なコストが抑えられる強みを持つため、中小規模から大規模なECサイトまで幅広い事業者に導入されている。今後はこの実績とノウハウを生かし、サービスプランを拡張して中小規模向けとエンタープライズ向けにそれぞれのソリューションを展開したい考えだ。
規模によってニーズや重視するポイントは異なってくる。それぞれのニーズに寄り添った支援を強化するため、スピードが求められるスモールビジネスの事業者にはより導入・運用しやすい仕組みを提供し、エンタープライズにはより高いパフォーマンスが実現できる仕組みを提供していく。
BtoB-ECサイトとは、「既存の実務をWebという仮想空間に反映するもの」であるが、インターファクトリーは、「多くの企業が日頃行っている取引先ごとの運用を言語化できていない」と指摘する。例えば、得意先への商品の案内方法から、取引先ごとに異なる売価設定、注文時に必要な付帯情報、受注後の業務の流れといったものだ。これらの業務内容を言語化できなければ、システム化は難しい。
そのため、まずは取引先ごとに日々どんな運用を行っているかを洗い出すことが必要になる。同社では、細かなヒアリングシートを作成。導入企業と何度も商談を重ね、「業務の見える化」からスタートする。
またBtoB-EC導入時には、「自社業務負荷の軽減」以上に、得意先がそのサイトを利用することで得られるメリットに目を向ける必要がある。得意先が利用しなければ、意味がないシステムになってしまうからだ。しかし企業の多くは、導入時に自社のメリットばかりに意識を向けている。
同社では、そうした企業の意識改革を行うため、まずはBtoB-ECを利用する取引先の立場に立ち、日頃どのように商品を探しているのか(指名買い中心なのか、ニーズでの検索が必要なのかなど)や、得意先からどのような問い合わせが多く来ているかなどを細かくヒアリングする。その上で得意先が利用しやすい工夫を実装した事例を提案し、すべての取引先が使いやすいサイト構築を目指していくという。
また、一言にBtoB-ECといっても、クローズド、スモールB、業務効率化など、様々なニーズが企業には存在するという。同社はカスタマイズ可能なクラウド型のECプラットフォームであるため、もちろん個別にカスタマイズを行えば企業の様々なニーズに応えることはできる。
ただ、それではコストも時間もかかってしまう。そのため、導入事業者の負担を軽減し、スピーディーにサービスを立ち上げるために、様々な業種業界に対応したテンプレートを準備しておくことが必要であると考えている。BtoBに特化した製品開発を行うことで、競争力を高めていきたいという。
『BtoB-EC市場の現状と将来展望2022』
- 監修:鵜飼 智史
- 著者:鵜飼 智史/森田 秀一/朝比 美帆/インプレス総合研究所
- 発行所:株式会社インプレス
- 発売日 :2022年1月25日(火)
- 価格 :CD(PDF)+冊子版 110,000円(本体100,000円+税10%)
CD(PDF)版・電子版 99,000円(本体 90,000円+税10%) - 判型 :A4判 カラー
- ページ数 :250ページ