越境ECはやるべきか? やらないべきか? 海外通販を巡る市場環境を分析してわかったこと

2014年にアジア太平洋地域は、これまで最大のEC市場規模を誇った北米地域を追い抜き1位の市場になる見通し
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少子高齢化によって縮小する可能性が大きい日本の消費マーケット以外の販路を開拓しようと、海外向けEC、いわゆる“越境EC”に取り組む企業が増えている。将来の日本の消費市場を考えると海外向け通販は必要と考えている事業者は多いものの、いま取り組むべきか悩む企業は少なくない。注目が集まる“越境EC”に関し、あらためて市場環境を整理してみたい。

アジア地域は世界No.1のECマーケットに成長する

家計最終消費支出は2012年比約3割減の157.9兆円、人口は約8600万人に減る――国の関係機関が行った調査や発表したレポートによると、2060年の日本の将来像がこのように描かれている。あくまで予測だが、少子高齢化に突入した日本の現状を見るとそれが現実となる可能性は決して低くはない。

日本のEC企業がこ近、越境ECについて大きな関心を示すのは、縮小する可能性が高い日本市場以外の販路を確立し、収益を上げようとしているため。消費市場が縮小するとみられる日本だが、海外に目を向けるとグローバルでEC市場は大幅に拡大する見通しだ。

まず、世界のECマーケットを見てみみよう。

出典は総務省の「平成26年版 情報通信白書」
地域別のEC市場規模(eMarketerのリリースをもとに編集部で作成)

世界のEC市場では、2014年にこれまで最も大きなEC市場だった北米をアジア太平洋地域が追い抜き、トップになると予想されている。米国の調査会社eMarketerの調査によると、2014年のEC市場規模はアジア太平洋地域が5252億ドル、北米が4826億ドルを予想。その他地域を合わせて1兆5046億ドル規模になる。

3年後の2017年はさらに世界のEC市場規模は拡大。トップ市場となったアジア太平洋地域だけで1兆ドルを超えるマーケットを形成し、全世界で市場規模は2兆3570億ドルに拡大するとみられている。

国ごとの成長率を示した下図を見ると、日本の成長率は2014年で7.1%、2015年は6.7%、2017年は5.0%と年を追うごとに伸び率は小さくなる。だが、アジア太平洋地域の国々に目を向けると、2ケタ成長を続ける国が目立つ。

出典はeMarketer

中国は2014年で63.8%、2015年は43.3%、2017年は29.4%と2ケタ成長を続ける。インドネシア、インドも2ケタ成長を続け、2017年でも20%台の成長を遂げる見通し。ちなみに、全世界の成長率は2014年が20.2%、2017年は14.8%となっている。

他の国で2ケタ成長を2017年まで続けるのは、アルゼンチン、イタリア、カナダ、米国。

類を見ない少子高齢化社会に突入し、個人消費も落ち込む日本

日本の消費市場が縮小することを考えれば、必然的に海外に目を向けなければならない」。海外向け通販を手がける通販・EC事業者は、こう口をそろえる。

本当に消費市場は縮小するのか。データをみてみたい。

日本の高齢化の推移と将来推計(出典は総務省の平成26年版 情報通信白書」)

総務省の調べによると、65歳以上の人口は2010年に23.0%だったが、2060年予測では39.9%に上昇。世界のどの国も経験したことのない少子高齢化が進むという。

15~64歳の生産年齢人口は2013年10月時点で7901万人、32年ぶりに8000万人を下回った。2060年には4418万人まで減少し、人口も8674万人にまで減る見通しだ。

総人口に加え、働き手も減少すれば、必然的に個人消費は縮小すると考えられる。日本政策金融公庫総合研究所が公表した論文によると、2020年の家計最終消費支出は225.9兆円となり、2012年比で8.3兆円減少する。

この減少は、年商5000万円の小売店が8年間で16万6000店舗消滅することを意味するという。論文には、小売店が減るということは、商品を供給する卸売業や製造業の減少につながると指摘。国内市場だけを対象にビジネスを展開していては、成長どころか生き残りも難しいとしている。

日本・米国・中国3か国の越境EC市場規模は2020年に4兆円を超える可能性も

越境ECの現状を見てみたい。経済産業省は「平成25年度我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)報告書」で、日本・米国・中国3か国の越境ECに関する市場規模を調査している。

越境ECの調査は、海外向けに商品を売る販売活動と、日本の消費者が海外ECサイトで商品を買う購買活動の両側面から実施。市場規模を算出した。

2013年において、日本の消費者が中国・米国の事業者から商品を購入した金額は1915億円。米国経由の商品購入は1736億円、中国からは179億円だった(下図参照)。

越境ECの市場規模(出典は経済産業省「平成25年度我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備報告書」)

経済産業省は日本・米国・中国3か国の越境EC市場規模について、2020年までの4つのシナリオを用意。最大ポテンシャルとしての試算結果は、2020年に3か国間の市場規模は最大4兆891億円となり、2013年比2.3倍の規模まで拡大する。

そのうち、日本の事業者が米国と中国の消費者に販売する金額は2013年比約2倍の1億7488億円となる

※記事初出時点で、市場規模の箇所で一部間違って記載している部分がありました。現在は加筆・修正済みです。お詫びして修正します。

今後の越境ECのポテンシャルについて(出典は経済産業省「平成25年度我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備報告書」)

いまから始めても遅くない越境EC、まだまだ「黎明期」

日本貿易振興機構(ジェトロ)がまとめた「海外向けインターネットを使った食品の販売状況~企業インタビュー調査」などからわかるように、海外向けECを行うEC企業は少なくない。だが、日本でECを手がける企業の割合からすると、まだまだごく一部だ。

なかには一時中国向けECがブームになった2010年前後に海外向け通販を始め、いまは撤退してしまった企業もある。

こうした状況を踏まえ、海外通販に詳しい有識者はこう指摘する。

海外向けECはサイトを立ち上げただけでは売れない。一気に投資したからといってすぐに売れるわけでもなく、継続して商品などを認知させていくことが重要。日本で得た収益の一部を海外展開に振り向けて、コツコツとやってみるのがいいだろう。

一気に投資をするのではなく、一部の収益をコツコツと海外展開に活用し、まずはテストマーケティング的に展開。必要な範囲で翻訳などの業務をアウトソーシングし、広告などで認知を図っていくのがベストな方法だという。

日本のEC市場は「成熟期」と言われるが、海外向けECはまだ「黎明(れいめい)期」といったところ。ネットを使った商売は先行者利益を得やすい。越境EC、とくに海外向け販売を取り巻く環境は数年前と比べてがらりと変わり、支援サービスなどが充実している。今年はやっぱり、海外マーケットに目を向けるべき年なのかもしれない。

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