消費は資産ではなく所得に比例する ─ データで読むシニア市場

シニア層の多くは、他の年齢層に比べて平均的には資産持ち。では消費は?
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この記事は『シニア通販は「こだわりの大人女性」を狙いなさい!』(ダイヤモンド社刊)の内容を、特別に公開しているものです。

シニアはお金持ち?

総務省統計局の「家計調査報告」(平成25年)によれば、1世帯当たり正味金融資産(貯蓄から負債を引いたもの)の平均値は、70歳以上が2292万円と最も多い。

次いで、60〜69歳が2181万円、3番目が50〜59歳で998万円となり、30代や30歳未満はマイナスだ。

また、年代別の持家率を見ると、50代で70%超、60代、70代ともに、80%前後の持家率となっている。50〜60代のいわゆるシニア層の多くは、他の年齢層に比べて平均的には資産持ちと言える(図表2)。

図表2 世帯主の年齢階級別持ち家率

一方、厚生労働省の「国民生活基礎調査」(平成25年)によれば、世帯主の年齢階級別の「年間所得」は、50〜59歳で720.4万円と最も多い。2番目が40〜49歳で648.9万円、3番目が30〜39歳で545.1万円、4番目が60〜69歳で526.2万円、5番目が70歳以上で406.3万円となっている(図表3)。

図表3 世帯主の年齢階級別年間所得

資産持ちであるシニア層だが、所得では50〜59歳がトップ、60〜69歳は4番目で、「シニアは金持ち」とひとくくりにはできないことが分かる。この主な理由は、定年退職や年金受給にある。

一方、前出の「家計調査報告」(平成25年)によると、世帯主の年齢階級別の1カ月の平均消費支出額は、50代が30万6116円と最も多く、次いで40代、60代の順になる。 「消費支出」は「年間所得」の傾向にほぼ比例するのだ。資産が多いからと言って、それがすべて日常の消費に回っているわけではない

また、消費支出額の内訳は、年齢が上がると減少する品目もあれば増加するもの、変わらないものなど様々だ。60代以降、大きく減るのは教育費であり、逆に増えるのは保険医療費や交際費などだ。

これらのデータからは、シニアの捉え方として、「資産持ちなので消費も多い」と考えるのは誤りだということが分かる。「消費は、資産ではなく所得に比例する」と考えるべきだ。さらに、シニアだからといって消費の仕方が同じとは限らず、年齢が変われば消費の仕方も変わってくる点には注意が必要だ。

安心や安全へのニーズ

それでは、限りあるお金をシニアは何に使うのか。

考えなければならないのは、商品のカテゴリだけでなく、それらがどのような特徴を持つかということである。つまり、シニアがどのような理由で購買意欲を刺激されるのか、ということだ。

例えば、どんなにアクティブなシニアであっても、年齢とともに何らかの不安を抱いている。身体の老化など顕在的なものだけでなく、将来への不安など潜在的なものもある。それらをカバーするため、安心志向は次第に強くなっていく。

健康に対する興味が強いのも、シニアの特徴だ。食生活や運動などを通じて、健康をできる限り長く維持したいという思いが強い。いつまでも元気で健康で、ある程度の年齢になったら病気などせずに逝くという「ピンピンコロリ」はシニアの憧れだ。そのため、健康維持に大きく関わる食の分野では、自然食品や無農薬野菜、有機農法食品へのこだわりを持つ人が多い。

シニアは環境への関心も非常に高い。資源のリサイクルや分別回収を通じて、環境に優しい商品を購入する傾向が強く見られる。アパレルの分野においては、こだわりの大人女性を中心に、自然に優しい素材であるオーガニックコットンやシルクなどの天然素材を使った商品が好まれる。 『ブリアージュ』のグループインタビューでは、「デザインより素材重視」「素材に触れてから選びたい」「百貨店より安い通販の洋服は、素材の面で“安かろう悪かろう”なのでは」という意見が聞かれた。

ファッションには華やかさや美しさ、若々しさを求めるのと同時に、敏感肌やアレルギーに配慮し、地球にも優しい素材を使った洋服を求める。こうしたこだわりの大人女性の我儘なニーズをくみ取り、商品開発からプロモーションまで、一貫させることがポイントとなる。

アクティブな行動をバックアップする商品

生活習慣病予防のために、いろいろな運動で汗を流すシニアは多い。ウォーキング、水泳、散歩、ゴルフ、エアロビクスなどは、年齢に応じて自分のペースで行えるため、特に人気だ。

これらの運動をするための、疲れにくいウォーキングシューズや飛距離のでる軽いゴルフクラブなどが市場に出回っている。ファッションのカテゴリでも、軽くて動きやすい、着心地のいいカジュアルウェアや、スポーツウェアのニーズが高まっている。

また、これまで経験してこなかった、未知の体験を求めるのは、特に好奇心旺盛なこだわりの大人女性の特徴と言える。

中でも、旅行に関する関心は高く、世界遺産を訪ねたり美術館を巡るなど知的好奇心を満たすカルチャー的要素の高い旅、豪華な客船や寝台列車での旅など本物志向を追求したこだわりのある旅行企画が人気を博している。定年後は家庭でゆっくり過ごしたい夫を残して、気の合う友人同士で積極的に旅行に出かけるこだわりの大人女性は非常に多い。

百貨店や専門店では、こうした旅行のための商品が求められる。「旅行へ行くための服」なら、普段着よりもやや華やかで、かつシワになりにくく、軽くて動きやすいなどの要素が購買意欲を刺激する。これらを適切に提供、あるいはコーディネートできる提案力が、通販においても鍵を握る。

独自の価値観を持つ一方で、若い頃へのあこがれを強く持っているのも、ノスタルジックを愛するシニアの特徴だ。アパレルの分野では、若い頃に流行した服をもう一度着てみたいという潜在的なニーズがある。

しかし、当時と全く同じ復古版を販売しても人気を得るのは難しい。シニアが着ても好感が持てるような色遣いや肌触りの良さなどプラスアルファの機能を持たせることが重要だ。「人と同じものは着たくない」「自分らしいファッションを楽しみたい」という一方、「余裕のある大人の女性に見られたい」「いまさら安っぽいものは着られない」というのがこだわりの大人女性の本音だ。

これらのニーズを満たし、かつ年齢特有の悩みが表れた体型の変化を意識しなければ、注目すらしてもらえないだろう。

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シニア通販は「こだわりの大人女性」を狙いなさい!

高山 隆司 /山下 幸弘 著
ダイヤモンド社 刊
価格 1,620円+税

顧客ターゲットとして注目されているシニア市場。しかし、成功している企業は意外と少ない。シニア層はどんな志向性を持ち、どんな購買行動をとるのか─。実際にネット通販を手掛けているスクロール・グループ3社の協力のもと、その成功例や手法、今後の課題に至るまでを公開する。

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