50代〜60代の女性。消費行動の決め手は「上質」「有意義」「健康」「信頼」
戦後の日本を変えた主役
2010年、日本の全人口のうち50歳以上が占める割合が43%となった。2030年になるとこれが51%まで上昇し、全人口の過半数が50歳以上で占められるようになると予測されている。
消費における流行を産み出す原動力は若者であると捉え、メインターゲットとして考えることは、これからの日本では非常に難しくなってくることは間違いない。
このような状況の中で2012年、団塊世代の先頭である1947年生まれが定年年齢である65歳に達したことから、自由な時間を謳歌する大量のシニアが誕生し、新たなビジネスチャンスにつながるとして、各業界が積極的な取り組みを始めている。
特に注目が集まっているのが、団塊世代の半分以上を占め、戦後日本の社会を変えた主役とも言える女性たちだ。高度経済成長期に少女時代を過ごし、初めてミニスカートをはき、海外の新しい文化をどんどん生活に取り入れ、職場でも総合職として採用されるなど、それ以前の世代とは全く違う環境で人生を生きてきた女性たちが、いま再び新たな消費を生み出す鍵を握ろうとしているのだ。
彼女たちは、「消費は美徳」といわれる中で育ち、消費に対するポジティブな価値観を共有している。その意識や消費行動は、年齢を重ねても変わらないと思われる。また、同世代の男性と比較した場合、健康や美容、オシャレ、趣味、学びなど多方面への好奇心に溢れ、家庭内では様々な“モノ”の購買役である主婦として過ごしてきた時間が長い。
今後のシニア通販において、彼女たちに「買いたい」と思わせる商品開発やプロモーションの展開は、業界としての成長にとって不可欠な条件である。
「こだわりの大人女性」の消費傾向
とはいえ、人口のボリュームゾーンにいる団塊世代の女性たちが、どんな商品でも積極的に消費するかと言えば、そうではないだろう。
年齢を重ねているということは、単に年を取っているということではない。これまでの人生で様々な経験を積み、それを通して物を見る目や価値を理解する力が養われているはずだ。
本書では、団塊世代の女性の中でも特に自分の価値観や好みをはっきり持っている集団を「こだわりの大人女性」と名付けたい。
そして、「こだわりの大人女性」は、その育ってきた環境やいま迎えている生活及び自分自身の変化から、団塊世代を中心としながら下は50代から40代後半あたりまで広がっていると考えられる。
確かに、現代の50代や40代後半の女性は非常に活発で若々しく、60代以上のシニアとは違う面は多々あるだろう。しかし、意識や行動パターンに関しては、30代、40代前半よりも、60代以降の女性たちとの共通部分が多い。マーケティング視点からは、プレ・シニアとして「こだわりの大人女性」というくくりでとらえることが有効である。
では、「こだわりの大人女性」はどのような点にこだわり、消費へと動くのだろうか。
こだわり① 「上質であること」
こだわりの大人女性は、表面的な見た目の美しさや、通り一遍の説明だけでは納得しない。物事の奥に隠された本質にこだわる、「熟練した消費者」と言える。
子供だましの宣伝には見向きもしないし、むしろ拒否反応を示す。本質的な価値に反応するため、価格よりも品質を重視する。若い世代とは異なり、一言で言って「安かろう、悪かろう」は受け入れない。ワンランク上のものに惹かれるという傾向が強いのだ。
大量消費の時代を生きてきても、ある程度の年齢に達するとさほど物は必要としなくなる。その分、「上質なものを少し」という欲求が高まってくる。商品を選ぶ際にもっとも重要なのが、「これだけは譲れない」という品質レベルだ。わずかでもこの品質レベルに満たないと思われてしまったら、こだわりの大人女性は二度と顧客として戻ってきてはくれないと肝に銘じる必要がある。
こだわり② 「有意義であること」
こだわりの大人女性は、時間消費に対する意識が高いという特徴も持つ。日本人女性の平均寿命から考えると、50〜60代の女性には、今後20〜30年間に、睡眠・食事・入浴・身の周りの用事などの生活必需時間をのぞいて、7万時間以上もの膨大な自由時間がある。そのため、消費においても、商品やサービス自体の魅力はもちろん、それを購入して利用することで、いかに自分にとって有意義な時間が過ごせるかが明らかな商品が好まれる。
この「時間を有効に使う上で役立つものであるか」という意識は、若い世代にあまりないものだろう。物を消費するだけではなく、それを利用することで心の満足を得る時間を消費したいのである。お金をかけてでも、有意義に自分の時間を消費したいという意識が強いのが、こだわりの大人女性の特徴だ。
こだわり③ 「健康に良いこと」
こだわりの大人女性にとって、「健康」は消費における大きなきっかけである。
日本は世界一の長寿国であり、70歳を過ぎても現役で活躍する人は少なくない。今の時代、50〜60代などまだまだ現役の真っただ中だ。
しかし、徹夜をした翌日でも元気だった20〜30代の頃とは異なり、徐々に無理が利かなくなってくるのも事実だ。女性の場合、40歳を過ぎると自治体から乳がん検診のお知らせが届く。健康に対する不安が、少しずつ増えてくるのだ。
健康で自立した生活をいかに長く続けられるかは、こだわりの大人女性にとって大きなテーマにほかならない。
かつて、スポーツクラブの会員は若年層が中心だったが、近年ではシニアに特化したコースやプログラムが多数用意されている。
無農薬の野菜、オーガニック生地の洋服、天然成分由来のサプリメントなど、体に優しく健康に配慮した商品が好まれるのもうなずける。
健康に対する不安をいかに取り除けるか。こだわりの大人女性の消費意欲を刺激するには、欠かせない要素だ。
こだわり④ 「信頼できること」
こだわりの大人女性は、納得感さえ得ることができれば、高価な商品に対しても出費を惜しまない。そして、品質のみならず、商品の背景にあるストーリー性にこだわる傾向も強い。なぜ、どのようにして、何のために生まれた商品なのかに強い関心を示すのだ。
それは、信頼へのこだわりにほかならない。「上質であること」へのこだわりにも通じるが、手間ひまを惜しまず丁寧に作られていること、ロングセラーで多くの人に愛されていることなどは、こだわりの大人女性の信頼を得る鍵となる。
逆に、「最新」や「最先端」などのキーワードは、ある程度彼女たちの消費行動を左右するかもしれないが、それだけでは足りない。学術的に認められた研究から生まれたとか、老舗メーカーとの協力で生まれたなど、信頼に足る要素を加えることが不可欠だ。
以上のようなこだわりから見えてくるのは、「宣伝文句を鵜呑みにせず疑ってかかる」「自分の価値基準で物事の評価を行う」「品質の明確な商品を支持する」などの思考だ。こだわりの大人女性は、物事の本質を見る目を持った厳しい消費者なのだ。
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