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ナチュラム」は大阪に本社を置く釣り具とアウトドア用品の専門ショップだ。釣りに使う浮きや仕掛けなど釣り具用小物のメーカーが母体で、釣り具の小売店も運営していた。1996年よりEC事業を開始し、2000年に独立してナチュラムとなった。

同社の強みは圧倒的な品揃えにある。釣り具は魚種や釣り方によってさまざまな商品を揃え、釣り具の他にもキャンプ用品やアウトドアアパレルなどを扱い、かつては40万SKUに達していた。「ショップにないものでもナチュラムへ行けば必ずある」とマニアの間では有名である。

ここでは、そんなナチュラムがどうやって独自性を獲得してきたのか、その道のりを紹介する。

企業データ

ナチュラム
「ナチュラム」https://www.naturum.co.jp/
社名:株式会社ナチュラム
所在地:大阪府大阪市
設立:2000年2月1日
資本金:1億円(2015年12月現在)
事業内容:インターネットによる情報提供、通信販売

圧倒的な品揃えで急成長、一時は上場も

同社は早くから「ナチュログ」という釣りとアウトドアに特化したブログで情報発信を行ってきた。ユーザーも自由に投稿できる。日本最大級の釣りとアウトドアのコミュ二ティに成長し、月平均1,500万PVを獲得。

投稿したユーザー自身が商品ページにリンクを貼り、リンク経由で商品が売れた場合にはポイントを受け取ることができる「アフィリエイト・リンク」の仕組みも導入。まさにUGC(User Generated Contents)の先駆例である。

サイトオープンから業績は右肩上がりで、2007年には大証ヘラクレス市場に上場。EC通販事業者としては初めての快挙だった(その後、東証と大証の合併により東証ジャスダック市場へ移り、現在は上場廃止)。

売上増なのに赤字転落

しかし、その後は苦難の道のりが待っていた。

現在取締役社長を務める西田耕三氏によると、「上場後も売上は拡大していたのですが、2010年になると収益が急激に悪化し赤字に転落。2011年には売上も減少に転じ、3期連続の赤字となってしまいました」。

まさに経営は崖っぷち。そこで当時の経営陣は2つの手を打った。

1つは取扱商品の拡大だ。2011年からフランスの大手スポーツ用品メーカーであるDECATHLON(デカトロン)と提携し、同社のアウトドア用品、スポーツ用品を販売し始めた。さらに2014年8月にはデカトロンの出資を受けてその傘下に入り、上場を廃止した。

もう1は業務体制の見直しだ。売上の伸びに業務体制の整備が追い付いておらず、売上の伸びが少し鈍化しただけで、収益が悪化していた。経費からオペレーションに至るまで、ムダやムラが蓄積して“水ぶくれ体質”になっていたのだ。

例えば、バイヤーの仕事はそれまで、メーカーの新商品が出ればサイトに登録し、売上を管理し、補充発注を行うことでした。

しかしEC通販市場が拡大して競争も激しくなる中、そうしたルーティンワークに時間を割いても業績にはつながりません。そこでバイヤーの仕事を順に取り上げて、アウトソーシングしていったのです。

代わって、多様化する顧客ニーズに合ったシーン別の売り場を作ったり、潜在顧客へ働きかける新しいプロモーションを企画したり、未来の売上を創造するマーチャンダイザーを育てていきました。(西田氏)

2017年のキャンプブームで再び赤字転落、さらなる業務見直しへ

こうした対策で業績はなんとか持ち直した。2017年にはキャンプブームもやってきた。ところが、ここでまた売上が60億円になりながら、赤字に転落してしまったのである。

同社の事業モデルはもともと「専門ロングテール型」なので、売上に対して商品数、SKU数が多い。売れ筋に絞るやり方もあるが、品揃えという強みを手放すことができず、かつ売上重視の体質からなかなか抜け出せなかった。

社員も40名以上に膨らんでいた。1回の見直しだけでは取り除けなかった弱点が顕在化したと言える。

この段階でもう一度、業務体制の見直しに取り組みました。同時に、デカトロンの方針転換から2018年1月、スクロールの傘下に移ることになり、私が責任者に就いたのです。(西田氏)

スクロールグループ入りは、同社にとって業務体制の見直しを加速する効果があった。スクロールグループでは事業ユニットや取り扱う商品単位ごとに予算進捗、損益などを管理する「small teams earn profit(STEP経営)」という仕組みを導入している。ナチュラムでもこの仕組みを導入し、細かく損益状況をチェックした。

それまで年2回ほど、金額によらず送料無料にするキャンペーンを行っていたがこれをやめ、送料を一定額以上のみ無料に変更するなど、注文単位での損益管理を徹底することにした。売上が伸びているのに赤字になるということは、そもそも収益構造に問題がある。その点にもメスを入れた。

着目したのが自社ブランド商品のテコ入れだ。同社には「ハイランダー」というプライベートブランドがある。「ハイランダー」は2009年5月にスタート。小物アイテムから手掛け、数千万円ほどの売上になっていたが、その後はあまり力を入れていなかった。

しかし、アウトドア愛好者のニーズをとらえたアイテムを、海外有名ブランドと同等の品質で、かつ手頃な価格で提供できれば大きな武器になる。経営的にもナショナルブランドに比べて原価率を抑えられ、収益構造の改善に寄与する

こうしてナチュラムでは「ハイランダー」ブランドでテーブル、テントなどの新商品を開発し、プロモーションを積極的に行った。するとマスコミにも取り上げられるなどして、売上は倍々ペースで順調に拡大した。今後もアイテム数を増やし、生産ネットワークを拡充していく方針だ。

「ハイランダー」ブランドブランド商品の一例
「ハイランダー」ブランドブランド商品の一例(編集部でキャプチャ)

こう言うと自社ブランドにシフトしようとしているように聞こえるかもしれないが、必ずしもそうではない。

収益力を強化する上で自社ブランドは重要ですが、ナショナルブランド(NB)も大切にしており、そちらの売上も伸ばしていく考えです。なぜなら、NB商品がないとEC通販サイトとして面白くなくなり、顧客の支持を失ってしまうからです。(西田氏)

ナチュラムでは最近、自社サイトでNBブランドのショップinショップを強化している。あるアウトドア用品の人気メーカーは、2年ほど前から自社製品のモール出品を禁止しているが、正規取扱店の自社ECサイトであれば認めている。

同社はいまも多くのNBメーカーと良好な関係を維持し、オリジナルカラーなどのコラボ商品(SMU:Special Make Up)などの開発に取り組んでいる。

BPOの全面活用で売上アップと黒字化を達成

スクロールグループに加わった後の業務体制の見直しとしては、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の全面活用にも踏み込んだ。

同社はすでに2004年、中国四川省に成都インハナというBPOの子会社を設立し、業務の一部を移管していた。成都インハナには日本語が堪能な現地社員がおり、商品データの作成から、市場調査(競合店の価格調査)、受注処理、販売管理などへ担当領域を広げてきた。先ほどふれたバイヤー業務のアウトソーシングも成都インハナが受け皿になった。

また、成都インハナはナチュラムの基幹システムを共有しており、年間約10万SKUの新規商品の登録業務や、売り場における画像生成の業務を行うことで、ナチュラムのルーティーン業務が大きく削減されている。

成都インハナのサービス紹介より編集部でキャプチャ

2018年からはスクロール360の物流センターを活用している。現在、同社が扱っている商品は一時より減ったとはいえ25万SKUあり、物流センターでの在庫管理は資金効率の鍵を握る

この点、ナチュラムには独自の売上予測システムがあり、そこに過去の売上データなどを組み合わせ、月単位で翌月分の仕入を取引先に発注する。こうして無駄を減らしながら、幅広い注文に対して欠品を起こさない在庫水準を維持することに成功しているのだ。

売上予測システムは仕入だけでなく、売上管理にも利用されている。商品ごとの販売計画と実績のかい離に応じて自動補充発注による欠品の防止やアラートメール通知で予実かい離の確認、修正を行い、業務効率を向上させている。

顧客からの電話による問い合わせなどはスクロール360の浜松コンタクトセンターが対応する。この対応も単なるマニュアルベースではなく、ナチュラムの受注管理システムと連動することで、ケースに応じてオペレーターが注文のステイタス(現在状況)をその場で確認し、一歩踏み込んだ臨機応変な受け答えを行っている

1回の問い合わせで問題が解決し、二次問い合わせが以前より大幅に減少したほか、いわゆる「サンクスメール」の増加にもつながっている。

こうしてナチュラムはフルフィルメントをほぼ100%アウトソーシング化した結果、2018年に黒字化へ転換し、2019年も増収増益を達成している。

自社イベント開催などOMOで活路を開く

業務体制の見直しと並行して、マーケティング面でナチュラムが力を入れているのがOMO(Online Merges with Offline)の推進だ。

OMOと言うと、ユニクロやユナイテッドアローズといったアパレル企業による、リアル店舗とオンラインショップの融合が知られている。ナチュラムは逆に、ネット通販企業としてリアルイベント開催し、アウトドア用品を顧客に実際に体験してもらい、その様子をSNSなどで拡散するというアプローチをとる。

ナチュラムは2018年3月、キャンプブームの盛り上がりに合わせ、大阪の京セラドームで「touch the outdoor」と名付けたイベント開催した。50〜60のテントを展示するもので、告知は自社サイトと登録ユーザーへのメール、SNSのみだったにも関わらず、「こんなに多くの商品を一度に見られるところはない」と人気を集め、2日間で5000人が来場した。

その後も全国各地で開催されるアウトドア用品の合同展示会に参加し、2019年には同じ京セラドームで2回目の「touch the outdoor」を開催。今度は「ハイランダー」製品のほか、他社とのコラボ商品なども多数展示。ネットでの購入で使えるクーポンも発行したところ、来場者数は7000人に増えた。同社では今後も、こうしたリアルのイベントに力を入れていく予定だ。

「touch the outdoor 2019」の様子
「touch the outdoor 2019」の様子
https://touchtheoutdoor.naturum.ne.jp/e3204259.htmlより編集部でキャプチャ

アウトドア用品業界ではいま、大手メーカーがD2Cにシフトする流れがある。

我々EC通販事業者の強みは何なのか。1つは情報力です。ナショナルブランドでもメーカーは自社製品の売れ行きしかわかりません。それに対して当社は、自社も含めて複数ブランドの商品を扱っており、それぞれの売れ行きから業界のトレンドや顧客ニーズの変化をいちはやくキャッチできます

リアルイベントなどを通じて社員が直接、顧客の声を聞くことも貴重な情報源です。(西田氏)

市場環境がさらに厳しくなる中、老舗有名ショップとはいえ生き残るためには価格競争に巻き込まれない商品戦略(MD)ときめ細かな顧客対応によるファンの拡大が鍵を握る。

MDの点では新たな試みとして、2019年に災害用備蓄品や非常用保存食、防災資機材を扱うミヨシを子会社化した。

小売の原点を守りつつ、「独自の商品をつくる」ことと「独自のファンを育てる」ことの両面で挑戦を続けるナチュラムの今後に注目したい。

 
サイドストーリー

ナチュラム独自のロングテール戦略と8マスシステム

筆者とナチュラムとの出会いは2006年に遡る。筆者が総合通販ムトウ(現在のスクロール)のマーケティング課からソリューション事業部に異動した時だ。ソリューション事業部ではすでにナチュラムの物流を受託していた。

筆者はムトウでEC事業を手掛けていたが、ナチュラムのECは段違いだった。

わかりやすく言うと、カタログ販売の大量の在庫を使って片手間でECをしているムトウに対し、ナチュラムはECオンリーのオリジナルな仕組みで、仕入れから販売まで一貫して行っている。両者には大人と子供くらいの差があった。

これは現在、リアル店舗を主体とし、片手間でECをやっているアパレル企業と、ECオンリーで命を懸けている企業との差を連想させる。

筆者が特に驚いたのは、40万SKUという圧倒的な品揃えだ。ところが実際には、物流倉庫に置いてあるのは8万SKUだけだった。残りの32万SKUの商品は、注文が来てから発注する方式だったのである。

売れ筋の8万SKUについては取引先と価格交渉のうえ商品を買い取る。残りの商品は受発注だ。ショートヘッドの8万SKUだけで、全体の80%の売上を稼いでしまう。ロングテールの商品は取引先から取り寄せ後の発送となる。

図 売れ筋商品 ロングテール商品
受注予測をもとに成都インハナが補充。発注数の見直しを行っている
取引先とデータを共有し、注文があったら発注。商品が入荷したら発送
ナチュラムのロングテール戦略のイメージ

とはいえ8万SKUの発注を毎月人力で行うのは無理だ。そこでナチュラムが独自に開発したのが「8マスシステム」という受注予測のシステムだ。過去3年の受注実績から、SKU別に翌月の受注数量を予測するのである。

「8マスシステム」の例
「8マスシステム」の例(数値はダミー)

図の例で解説すると、このチェアーの2019年6月の受注数量を予測するには、2017年と2018年の4月〜6月、そして2019年の4月と5月と8つのマスの数値データから算出する。スコミでの露出による突発的な数値データは、異常値として予測に反映しないといったアルゴリズムが適用されている。

現在、この8マスシステムで予測された数量をもとに、補充発注数の見直しをしているのが、中国四川省にある成都インハナである。ナチュラムはコアな業務に集中するために、ルーティン業務を徹底的にアウトソーシングしてきた。

成都インハナは現在、スクロール360の100%子会社となり、ナチュラム以外の日本のEC事業者にさまざまなBPOを提供している。ロングテール型EC事業者には、ナチュラムで開発した8マスシステムの提供も開始している。

 

この記事は『EC通販で勝つBPO活用術』(ダイヤモンド社刊)の一部を編集し、公開しているものです。

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高山 隆司

株式会社スクロール

高山 隆司(たかやま・りゅうじ)

株式会社スクロール360 取締役

1981年株式会社スクロール(旧社名株式会社ムトウ)に入社後、新規通販事業の立上げ、販売企画、INET戦略策定を経て、2008年に株式会社スクロール360の設立に参画。以来、多くの企業の通販事業の立上げ、EC戦略策定、物流立上げを経験。現在、スクロール360では300社のEC通販企業のサポートを行なっている。

佐藤 俊幸

株式会社もしも

株式会社もしも 取締役

2007年もしも入社後、ネットショップ運営コンサルタントとして、全国の300以上のネットショップに対して集客を中心に支援。2014年よりアフィリエイト広告を中心としたマーケティング事業を統括。2018年に、もしもはスクロールグループに入り、以後、グループ一体となって通販支援に従事。

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