アフターコロナを勝ち抜くためのEC戦略を考える。“最高の顧客体験”を実現するには何が必要なのか
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これまでのECとこれからのEC
1995年にWindows95が発売され、PCでのネット接続が簡単に行えるようになると、インターネットの普及が始まった。
1996年には国内初の商用検索サイト「Yahoo! JAPAN」がスタート。翌97年にインターネット・ショッピングモール「楽天市場」がオープンし、日本でもEC通販の幕が開いた。さらに、2000年には「Amazon.co.jp」が書籍の販売を中心に開始し、CD・DVD、家電、おもちゃ・ホビーと取扱商品の幅を広げていった。
1990年代後半から2000年代のEC通販黎明期、2010年代のEC通販成長期を経て、2020年代の現在、EC通販は新たな局面を迎えている。
EC通販は単に、モノを買う場所ではなくなっている。今日は何個売れたのかという点だけにとらわれていると、アフターコロナの2020年代以降を生き残っていけない。
購入体験から顧客体験への本格的な変化
ある顧客が、初めてキャンプに行くため「テント」を買おうとしたときの行動を考えてみよう。
1990年代、EC通販がまだ一般的ではなかった時代には、アウトドア初心者にとってどんなテントを買えばいいのか、いくらで売っているのか、テントを買ったあとの使い方はどうすればいのか、全くといっていいほど分からなかっただろう。
そこで、車でアウトドア用品店に行き、テント売り場を眺める。手にとって、肌触りや重さを確かめ、「これなら風雨にも耐えられそうだな」と思う。
しかし、夜はテントだけだと寒そうだ。寝袋も一緒に買わないといけないのかどうか、判断がつかない。値札を見ると、テントは5万円、寝袋は1万円だ。
店員に声をかけ、初めてのキャンプでどんなテントを買えばいいのか、他には何が必要なのかを聞いて、最低限必要そうな用品を購入し、店をあとにする。テントの組立と設置は、商品に同梱されている説明書を見ればわかると説明を受けた。
このとき店舗が提供している価値は、「陳列」「使用感の確認」「商品選定アドバイス」「商品の購入」である。
時代は移り、2000年代から2010年代になると、次のように変わった。
Google検索で初心者向けのテント情報を解説している個人ブログを探し、商品を購入する前に一定の事前知識を身につける。3万円程度でテントが買えること、河原だと石がゴツゴツしているためテントの中に敷くマットも買った方が良い、ということも知った。
Amazonにアクセスし、「テント」と検索する。商品画像が気になった3万円のテントと5万円のテントを見て、せっかくだからより気に入った5万円のテントを買おうと決める。過去に購入した人のレビューの点数も良いので安心だ。同時購入を促すレコメンドに表示されていたマットと寝袋も、一緒にカートに入れて購入完了。
このとき、店舗(EC通販)が提供している価値は、「陳列」「(他者の)使用感の確認」「商品選定アドバイス」「商品の購入」だ。一部の価値は、店舗の手前のブログなどの情報サイトに移っている。
2020年代、EC通販が提供する中枢価値はもはや「商品の購入」ではない。「顧客体験(CX:Customer Experience)」である。データもツールも整い、「商品を通して、顧客が求める体験を提供する」ことができるようになった。
年代別の購入チャネルと主な提供価値の変化
チャネル | 主な提供価値 | |
---|---|---|
1990年代 | 実店舗 | 商品を実際に見て購入 |
2000年代 | EC通販 | 近隣の実店舗にない商品の購入 |
2010年代 | EC通販 | より便利に購入 |
2020年代 | EC通販+メディア等 | 商品を通した顧客体験 |
友人がInstagramに投稿したテント画像を見て、おしゃれだなと思っていた。Google検索で初心者向けテント情報を掲載しているアウトドア用品店の公式サイトを探す。
3つほどサイトを見て回り、テントの使い方が丁寧に解説されていたサイトに戻り、サイト内にあるテントの商品ページに移動する。購入者のレビューを見ながら、テントをひとつ選んでカートに入れ、レコメンドされていたマットと寝袋も一緒にカートに入れて、購入完了。
商品到着から1週間後の金曜日、店からメールが届いた。「今週末にキャンプに行く方へ、テントの組み立て方解説動画のご案内」という件名だ。キャンプ当日はその動画を見ながらテントを組み立てたので、スムーズに楽しくキャンプができた。
キャンプから帰った週明けの月曜日、またメールが届いた。今度は「テントの組み立てでお困りはありませんでしたか? 次回はさらにレベルアップして小型ガスバーナーコンロも持って行って、キャンプご飯をもっと楽しみませんか」という内容だ。たしかに隣のテントでは朝、おいしそうなコーヒーを淹れていて羨ましかった。さっそくキャンプ用品を追加で3点購入した。
このとき、店舗(EC通販)が提供している価値は商品購入にとどまらない。商品はあくまで手段であり、「キャンプを楽しむこと」を支援しているのである。
全体最適化とOne to One
CXの最大化はどうすれば実現できるのか。その鍵は「全体最適化」と「One to One」にある。
「テントを買いたい」といっても顧客の具体的なニーズは、「1人でキャンプに行きたい」「家族で日帰りバーベキューをするための日除けとしてテントを使いたい」「冬に1週間の登山をしたい」など様々だ。しかし、EC通販事業者が1人1人に対応することは簡単ではない。どこまで全体的な案内を行い、どこから1人1人に寄り添った価値提供に切り替えるのか。
例えば、購入者レビューにおいて、冬山での感想ばかり載せていては日帰りでテントを使いたい人の参考にはならない。一方、点数が高いレビュー順に表示したり、平均点を表示したりすることで全体最適化を図ると、顧客1人1人にまでは寄り添えない。
そこでOne to Oneとして、別の仕組みも使う。サイト内の冬山のページを1分以上見ていた顧客には冬用テントの案内メールを送る。そのメールをクリックしたものの購入に至っていない顧客には割引クーポンを送る。その顧客がクリックした冬用テントのカラーバリエーション画像も一緒に掲載する。
性別や家族構成などの「属性」と閲覧ページや購入履歴などの「行動」、この2つを細分化し、組み合わせていくことで、全体から特定のセグメント、そしてOne to Oneへとターゲットの解像度を上げていく。それによって、顧客が求める体験を現実のものにしていく。結果として、売上が伸びていくはずだ。
ただし、こうした取り組みを自社のみで実現していく難易度は非常に高い。本章ではこれらを実現してくための方法を解説したい。
この記事は『EC通販で勝つBPO活用術』(ダイヤモンド社刊)の一部を編集し、公開しているものです。
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