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今から40年前、筆者が通販業界に身を投じた時のインフラとデバイスの状況といえば、パソコンもインターネットもなく、携帯電話は車載電話機が生まれたばかりだった。物流インフラもようやく宅配便が普及し出した頃で、それまでは郵便小包でしか商品を発送できなかった。

通信販売そのものも小売市場ではマイナーなビジネスで、「背が高く見える靴」とか「ぶらさがり健康機」といった怪しげな商品が販売されていた。当時はまだ、今のEC全盛の時代など想像すらできなかった。

EC全盛の下地ができた2000年代

2000年代に入ったあたりから急激な変化が起きた。2008年にはFacebookとTwitterが日本に上陸、同じ年にiPhoneも日本で発売された。2010年、インターネット普及率は78.2%に達した。

ただし、通信システムはまだ3Gであり、通話やメールはできるがホームページの閲覧にはかなりの時間がかかった。動画をサクサク見るためには2015年の4G登場まで待たねばならない。

ECもパソコン中心で楽天が急拡大していった時期だ。2000年に上陸したアマゾンも着実に売上を伸ばし、2009年には当日配送サービスを開始した。

通信と物流のインフラが充実し、スマホというデバイスも登場し、現在のEC全盛の下地ができたのが2010年代ということになる。

2020年代の変化の鍵を握るインフラとデバイス

次の2020年代、EC市場の変化を予測する上で、インフラとデバイスのうち大きな鍵となりそうなものを6つ指摘しておきたい。

① 5G(第5世代移動通信システム)

2020年から実用化が始まった次世代の移動体通信システムである。これまでの4Gと比べ「高速・大容量」「低遅延」「多数端末との接続」という特徴を持っている。「高速・大容量」という点では、4Gで2時間の映画をダウンロードするのに30秒かかったとすると、5Gではわずか3秒で完了する。

「低遅延」では、データが送信されてから受信するまでの速度が1ミリ秒(1/1000秒)まで短縮される。4Gでは10ミリ秒だったので、10倍の速さだ。これにより自動運転や遠隔治療といった遅延の許されない現場での活用が可能となる。

「多数端末との接続」では1km四方で100万台の機器と同時接続できるようになる。パソコン、スマホだけでなく家電や車といったものがインターネットとつながるようになる。IoT時代の本格的な始まりとなっていく。

② IoT(Internet of Things)

様々な「モノ(物)」がインターネットに接続され情報交換することで相互に制御する仕組み。これまでインターネットには接続されなかったテレビや冷蔵庫、エアコン、自動車などがインターネットの接続によりデータ連携が可能となる。

インターネットと接続など考えられなかった時計は、アップル社のApple Watchとなり、iPhoneと連携し、歩数や血圧等のデータを記録・共有できるようになっている。

③ みちびき(準天頂衛星システム)

GPSで地図を見ていると、道の東側にいるのにスマホの地図では西側にいるといった誤差を感じた経験をお持ちの読者は多いと思う。現在のGPS衛星では都市部や山間部、障害物により、電波が遮断されてサービスの精度が落ちてしまうことがあるからだ。それに対して「みちびき」は、常に衛星の電波が受け取れるように、日本の上空を8の字を描いて動く軌道を持たせている。現在は4機体制だが、2023年には7機体制で運用されることが閣議決定されている。

これにより、これまでのGPSで数メートルだった位置測定の精度を数センチにできるという。田植え機の自動運転も可能となる精度だ。ドローン配達や自動運転車への応用が期待される。

④ RFID(Radio Frequency Identifier)タグ

ユニクロのセルフレジを使って驚いた読者も多いと思う。箱に入れた瞬間に商品の点数と価格が表示されるところに、このRFIDタグが使われている。電波を発するタグが商品1点1点に付いていて、この電波をリーダーが読み取り、一瞬で点数と金額を表示するのだ。現在は1枚あたりのコストが高く、一部のアパレル企業以外には普及していないが、印刷技術で低単価のRFIDを増産できるという報道もあり、普及が期待されている。

また、水と金属を通過しては読み取れないという弱点があるが、技術革新で克服されれば、スーパーの買い物のレジ通過が一瞬で終わるようになるだろう。

⑤ 顔認証技術

2019年10月、NECは米国国立標準技術研究所が実施した最新の顔認証技術のベンチマークテストにおいて、1,200万人分の静止画の認証エラー率 0.5%という、他社を大きく引き離す第1位の性能評価を獲得したと発表した。

この技術は郵便物の自動仕分けのために開発された画像認識技術の進化により獲得された技術で、なんと1961年から郵便物の住所を読み取ることにチャレンジしてきたものだ。現在は1時間あたり4万〜5万通の郵便物を読み取り、配達局別に仕分ける能力を持っている。集荷局では手書き住所を読み取る際、読み取った住所情報を透明なバーコード(ステルス・バーコード)として印刷しており、配達局で担当者別や配達順に仕分ける時には、この透明なバーコードで仕分けているのだ。

世界一のNECの顔認証技術とキャッシュレス決済システムを組み合せば、レジ通過のみで決済完了も可能となる。

⑥ AI(Artificial Intelligence)

AIは人口知能のことであり、音声を認識して答えたり、打ち込んだ文字から推測して言葉を表示するようなところで活用されている。

Amazon EchoやGoogle HomeといったスマートスピーカーでもAIが活用されており、「今日の天気は?」とか「Jポップを流して」と話しかければ適切に答えてくれる。

2030年のEC通販と生活風景

このようなインフラとデバイスで、EC通販のあり方は今後さらに大きな変化を遂げるだろう。その一部はすでに、すでに米国や中国で現実のものになっている。

ここでは10年後のEC通販のあり方と日常の生活風景を、20代の女性会社員である“未来(ミク)”と一緒に歩いてみよう。

2030年7月10日(土)

いまやほとんどの店舗に並ぶ商品にはRFIDタグが付いている。そのため、スーパーではマイバッグに買いたいものを入れてレジ(ゲート)を通過するれば自動的に計算され、代金は顔認証から決済が終了している。事前に指定の決済方法を選ぶことができる。ミクはポイントが貯まるPayPayを指定している。

帰って家の冷蔵庫に買ってきたものを入れると、冷蔵庫がRFIDタグを読み取り、冷蔵庫に入っているもののリストがドアのモニターに表示される。賞味期限の近いものは赤信号が点滅している。食品宅配ECサイトに登録すれば、自動的に在庫計算され、食品がなくなる直前に配達される。来月からミクはこのサイトに登録しようと思っている。

未来のECイメージ1

運んでくるのはドローンだ。ベランダに設置してある冷蔵ボックスはドローンから発信される電波キーを受け取ると、自動的にドアが開き、ドローンは冷蔵ボックスに商品を置き、帰っていく。「みちびき」のGPSを使っているため、正確に配達してくれる。

配達が終わるとミクのスマホに配達完了のメッセージが流れてくる。

2030年8月30日(日)

今日は彼とデートの日だ。街へ行くのはデートとお食事くらいで、買い物はほとんどECで済ませている。

街を歩くと顔を認証したデジタルサイネージが、自分の好みのファッションや映画をレコメンドしてくる。気に入ったものにApple Watchをかざすと購入サイトが表示される。途中で好みのワンピースがあったので注文をしておいた。「これ注文しておいて」と頼めばAIが注文完了するようになっている。

予約していたレストランに着くと、ウェイトレス型ロボットが事前に指定したとおり、窓側の席に案内してくれた。オーダーはすでに済んでいる。このレストランのシェフの食材に対するこだわりや、調理方法を学習したチャットボット・シェフと音声で会話し、彼が喜ぶ料理を提案してもらった。

2030年9月8日(月)

Apple Watchから注文したワンピースは、事前に登録してあるミクの体型からパターンが起こされ、ベトナムで生産される仕組みになっている。究極のD2Cだ。受発注なので在庫は残らない。中間の小売が省略されているため、オーダーメイドなのだが、価格はリーズナブルだ。数十万人の愛用者がいて、毎日、飛行機便で完成した商品が日本に届く。

届いた商品は一旦、物流センターに納品される。配送センターは無人で、仕分け用のレールにハンガーがつるされる仕組みになっている。入荷検収ゾーンでRFIDタグを読み取り、仕分け機で方面別に仕分けられる。無人の倉庫の中を吊るされた服が揺れながら動いていくのはゴースト・ハウスのようだ。

レールの終点は配送トラックの中の移動用レールだ。積み込みが終わると、無人トラックは各地の配送センターに向かって走っていく。配送センターからはドローン配送か無人トラック配送からのコンビニ受取を選べる。

コンビニに宅配ボックスゾーンが併設されており、そこで受け取るのが一般的だ。無人トラック配送ではコンビニに到着するとBOXが開き、コンビニの店員が宅配ボックスに1つ1つの商品を入れていく。縦長のハンガー専用ボックスもあり、ミクのワンピースはそこにつるされた。

RFIDを読み込んだボックスから到着メールが配信される。ミクにも到着メールが届き、コンビニのボックスにスマートウォッチをかざすと、商品の入ったボックスのドアが開き、取り出して家に帰る。

2030年10月21日(木)

ミクのクローゼットはRFIDタグを読み取るリーダーが付いている。新たに読み取られたワンピースの画像データは、WWebサイトからダウンロードされ、手持ち在庫一覧表に加えられた。クローゼットに設置されたモニターには服の種別に手持ち商品の画像データが分類、保管されている。

AIが搭載されたモニターは毎朝、ミクにコーディネイトを2〜3通り提案してくれる。その日の天気や気温だけでなく、ミクのスケジュールからラフなスタイリングで良い日とキチンとしなければいけない日を判断して提案してくれる。コーディネイトを決定すると、その服にスポットライトが当たるので、あちこち探す時間と手間がかからない。

未来のECイメージ2

会社は出勤が週2日、残りはテレワークとなっている。以前はオール・テレワークだったが、コミュニケーションとモチベーションのために出社は必要ということになった。テレワークの会議は3D会議に進化していて、バーチャル会議室に全身画像で集合するようになっている。以前のようにボトムスだけパジャマは許されなくなった。

着用した洋服は、専用のボックスに入れておきベランダに出しておけば、クリーニング屋のドローンが集荷し、洗ってもどしてくれる。

手持ちの洋服の他には、サブスクリプリプションのファッションサイトから毎月、高級アイテムが送られてくる。それを送り返すと次のアイテムといったサービスだ。特に高価なブランドバッグは毎月、ミクの好みのものが送られてくるので、非常に重宝している。

EC通販のインフラとデバイスは、こうした日常が絵空事ではないほど、急速な進化を続けている。プライバシーや法規制の問題も同時に解決していかなければならないが、快適で個性豊かな生活が送れる「ECの未来」を期待したい。

 

この記事は『EC通販で勝つBPO活用術』(ダイヤモンド社刊)の一部を編集し、公開しているものです。

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高山 隆司

株式会社スクロール

高山 隆司(たかやま・りゅうじ)

株式会社スクロール360 取締役

1981年株式会社スクロール(旧社名株式会社ムトウ)に入社後、新規通販事業の立上げ、販売企画、INET戦略策定を経て、2008年に株式会社スクロール360の設立に参画。以来、多くの企業の通販事業の立上げ、EC戦略策定、物流立上げを経験。現在、スクロール360では300社のEC通販企業のサポートを行なっている。

佐藤 俊幸

株式会社もしも

株式会社もしも 取締役

2007年もしも入社後、ネットショップ運営コンサルタントとして、全国の300以上のネットショップに対して集客を中心に支援。2014年よりアフィリエイト広告を中心としたマーケティング事業を統括。2018年に、もしもはスクロールグループに入り、以後、グループ一体となって通販支援に従事。

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