アフターコロナに求められる物流センターは「多拠点化機能」「感染症対策」「One to Oneマーケティング」が必須
アフターコロナ時代に求められる物流センターの第3の条件は、「多拠点化に対応できる全国展開」だ。コロナ以降、BCP(Business Continuing Plan)の観点で1拠点だった物流センターを2拠点にしたいというニーズが高まっている。
物流センターで感染者が出て、業務がストップする事案も国内で起きている。もともと火事や地震といった災害の多い日本では、1か所の物流センターが止まったり能力が半減したりした場合、もう1つのセンターが機能していれば安心だ。
「L-spark」の多拠点化対応機能とは
スクロール360の「L-spark」は、ECショップから一括で出荷指示データをもらえば、複数拠点で在庫引当を行い、物流センターに近い顧客を選び、出荷指示データを分割する機能を持っている。これがないと、ECショップのほうで在庫引当と顧客住所を見ながらデータを分割しなければならない。
なお、「L-spark」の多拠点化対応機能には3つのバージョンがある。多拠点化Ver.1.0では、ECショップのほうで2拠点に出荷指示データを振り分ける。多拠点化Ver.2.0では、ECショップの担当者が一括して出荷指示データを送れば、「L-spark」が自動的に2拠点の在庫と顧客の振り分けを行う。
多拠点化Ver.3.0では、受注処理を360コンタクトセンターにアウトソーシングし、日々の出荷指示はコンタクトセンターからL-sparkに直接送られ、2拠点出荷が可能となっている。
北海道、関東、東海、関西と連携した物流展開が可能
スクロール360の物流センターは、これまでは浜松市を中心としたエリアでの展開だったが、2019年開設のSLC関西、北海道千歳センターに続き、2020年5月に茨城県つくば市にSLCみらいがオープンした。関東圏で初めてのセンターであり、今後の全国展開の先鋒となるセンターだ。
SLCみらいの竣工により、北海道、関東、東海、関西と連携した物流展開が可能となる。商品を分散して保管し、注文した顧客に一番近い物流センターから出荷することで、リードタイムと配送コストがより最適化できる。
BCPの観点からも、1か所のセンターが災害や感染症の影響を受けても、他の拠点から出荷することで事業継続が担保される。SLCみらいには「L-spark」はもちろん、SLC西浜松と同レベルのマテハン設備が装備されているほか、スタッフが快適な環境で働けるよう、テラスや休憩スペースが豊富に設けられている。
センターの延べ床面積は9000坪。1階から5層構造で、最上階の5階から1階までベルトコンベアーが装備されている。5階で出荷準備が完了した商品は自動的に1階まで搬送され、方面別仕分け機により配送キャリア別、方面別に自動仕分けされる。
今後、入居するEC事業者に合わせさらに多くの自動化設備を導入することにより、月間110万件の出荷能力となるよう設計されている。今後も拡大するEC物流の未来を支えるセンターを目指している。
感染症対策が可能な管理体制や労働環境
アフターコロナ時代に求められる物流センターの第4の条件は、「適切な感染症対策が可能な管理体制や労働環境を整備していること」である。
SLC浜松西では常時出社の600名のスタッフ用の駐車場を完備している。浜松市は車文化という特長を持っており、一家で4台の車を保有していることも珍しくない。車通勤のため、かなり遠くのエリアからでも出勤が可能だ。もう1つのメリットは、電車やバスに乗らないため、感染リスクが少ない。
上の写真は一度に600人が利用できる食堂だ。現在は感染症対策のため、11:30からはA棟とB棟、12:30からはC棟とD棟というように、2交代制で決められた座席で昼食をとるようにしている。
交代時のほか入館時、昼食の前後、休憩の前後に食堂の窓を開けて換気し、1日5回のアルコール消毒をしたうえ、マスク着用が全員に義務付けられている。実はコロナ以前から、冬場のインフルエンザ対策のため、毎年のマスク着用は常態化していて、そのため各自マスクの備蓄をしていた。
もう1つ重要なのは、作業場の全館冷暖房設備だ。作業環境を良くするため、スクロール360の出荷場はどこも冷暖房完備となっている。夏場でもマスク着用で熱中症にならない環境を整備しているのだ。
ワン・トゥ・ワン・マーケティングに対応したコミュニケーション
アフターコロナ時代に求められる物流センターの第5の条件は、「ワン・トゥ・ワン・マーケティングに対応したコミュニケーション」である。
物流は顧客体験の最終ゲートである。インターネットというバーチャルな世界で商品を購入した顧客に、リアルな商品が届く場面を演出することが欠かせない。
この点で、大きな効果を発揮するのが、オンデマンドプリンターの利用である。オンデマンドプリンターはバリアブルプリンターとも呼ばれ、一人ひとりの顧客に別々のメッセージをその場で印刷できる。「L-spark」はこのプリンターと連携する機能を備えている。
事前にECショップから、複数の画像の印刷データを送ってもらい、オンデマンドプリンターにセットしておく。出荷指示データの中に印刷する画像のIDを紐づけておけば、顧客ごとに画像を出し分けることができる。
例えば、顧客の住んでいる都道府県毎に、そのエリアにある店舗のイベントを紹介する画像を出し分けて商品と同梱したり、災害のあったエリアだけにお見舞いのメッセージを入れたりといったOne to Oneマーケティングが可能となる。
あるいは、顧客がオンラインサイトのカートに入れっぱなしにしている商品のデータから、「お買い忘れありませんか?」というメッセージとともに、入れっぱなしの商品画像と注文用QRコードを仕込むことも可能だ。このプリンターはたいへん高価だが、スクロール360の場合、複数のECショップが共有して使えるため利用可能となっている。
ここまで、アフターコロナ時代に求められる物流センターの条件を5つ説明してきた。
アフターコロナ時代の物流センター 5つの条件
- 出荷量の波動に柔軟に対応できる人員規模があること
- 出荷増でも品質の落ちないシステムとマテハン機器を装備していること
- BCPの観点から多拠点化に対応できる全国展開を行っていること
- 適切な感染症対策が可能な管理体制や労働環境を整備していること
- ワン・トゥ・ワン・マーケティングに対応したコミュニケーションを提供できること
従来の物流センターのイメージとは大きく異なることを理解していただけたのではないだろうか。
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