高山 隆司, 佐藤 俊幸 2021/3/25 8:00

新型コロナの感染が急速に拡大する中、人の動きが止まり、店舗が閉まった。そのため、EC通販には大きな追い風が吹いた。ECに買い物客が殺到したのである。しかし、せっかく注文が増えたにもかかわらず、物流キャパをオーバーして発送が遅れ、チャンスを逃したり、出荷キャパオーバーで注文客を何日も待たせ、レビューが炎上したECショップも少なくない。

一方で、大量の注文に対してもコロナ以前と変わらず、日々のオペレーションを悠然とこなし、乗り切ったECショップもある。実際、スクロール360が物流を受託しているECショップの中には、前年同月対比10倍もの売上アップを記録したショップがあるが出荷遅れもなく、コロナ特需を取りこむことができた。

その差はどこにあったのか。物流アウトソーシングを適切に活用できたかどうか、である。EC通販業界では「物流を制する者がアフターコロナを制する」と言っても過言ではない。今回はアフターコロナでの物流アウトソーシングのやり方やEC物流事業者を選ぶポイントなどを解説していく。

コロナ禍、ある手芸・生地店に起きたこと

2020年1月、それまで続けてきた自社物流を諦め、スクロール360の物流センターに移転してきたECショップがある。さまざまな手芸用品を販売しているショップで、生地の量り売りが人気のショップだ。

それまでは自社ビルの中に在庫を置き、社員が出荷作業を行っていたのだが、フロアが2階層に分かれ、トラックが停車するバースもないなど、たいへん苦労をしていたという。そこで、スクロール360の物流センターに物流業務を丸ごとアウトソーシングしたのである。

アウトソーシングして2か月後の2020年3月、注文が爆発した。新型コロナウイルスの感染が拡大する中、手作りマスク用の生地注文が殺到したのだ。最高で1日1,200枚の生地をカットして出荷した。 生地の仕入れも強化し、パレット積みの生地が大量に入荷した。移転当初の500坪をはるかにオーバーし、物流センターの保管ラックを拡張した。

もし、2020年1月に物流移転を決断していなかったらどうなっていただろうか? 自社の倉庫で自社の社員が行う出荷は、融通が利いたり商品在庫をすぐに確認できたりといったメリットもあるが、①出荷量の波動に対応できない、②出荷場の拡張性を担保できないという、2つの決定的な弱点がある。今回の“コロナ特需”のように、前年同月比10倍の出荷となると、自社社員では対応不可能だ。

「受注増」というと出荷の人員だけを気にする人がいるが、入荷増も同時に起こる。出荷にばかり気を取られていると、入荷検収前の商品が山積みとなり「商品が倉庫に届いているのに欠品」といった現象が起こる

物流においてはある意味、「スペースは力」だ。ゆとりのスペースがあるのとないのでは、需要の大きな波動が来たときに致命的な差が出る。そのため、スペースの拡張性は重要なポイントなのだ。

写真 手作りマスクのイメージ

アフターコロナに物流センターに求められるもの

アフターコロナ時代に、物流アウトソーシングの重要性は高まる一方である。しかし、ただアウトソーシングすれば良いというものではない。求められる物流センターの条件を5つ、挙げておきたい。

アフターコロナ時代の物流センターの条件
  1. 出荷量の波動に柔軟に対応できる人員規模があること
  2. 出荷増でも品質の落ちないシステムとマテハン機器を装備していること
  3. BCPの観点から多拠点化に対応できる全国展開を行っていること
  4. 適切な感染症対策が可能な管理体制や労働環境を整備していること
  5. ワン・トゥ・ワン・マーケティングに対応したコミュニケーションを提供できること

条件① 出荷量の波動に柔軟に対応できる人員規模

第1の条件は、出荷量の波動に柔軟に対応できる人員規模があることだ。平均的なEC物流では、1人が1日に出荷できる件数は50件だ。商品の大きさやオーダー点数によって変動するが、1日1,000件の出荷なら20人いれば定時で出荷が完了する。

しかし、そこに6倍、6,000件の受注が来たとしたらどうだろう。普通に考えれば人員も6倍の120人確保しなければならない。しかし、100人を追加採用するのも大変だが、将来特需が終われば、今度は100人超の雇用維持の問題が出てくる

スタッフ数の多い物流センターほど、こうした出荷量の波動に柔軟に対応できる。例えば、スクロール360のメインの物流拠点であるスクロール・ロジスティクス・センター浜松西(SLC浜松西)には、契約のある社員が1,000名おり、600名が常時出社している。スクロール360が受託しているECショップは20社あり、これらのスタッフが土日を含めシフトを組んで毎日、約2万件の出荷を行っている。

あるショップの出荷量が急増した場合、その出荷場に要員をシフトする。物流を代行しているショップが多いため、出荷が増えているショップもあれば、落ち込んでいるショップもあり、全体で調整すれば100名単位のシフトも可能だ。ただし、そのためには各ECショップから前月末に翌月の出荷予測件数をもらい、日々の必要スタッフ数の予測を立てている。

写真 スクロール・ロジスティクス・センター浜松西の外観
スクロール・ロジスティクス・センター浜松西の外観

重要なのは「MH(Man Hour)」という考え方

必要なスタッフを予測するには、ECショップ別に「MH」の指数を持っておく必要がある。「MH」とは「Man Hour」を意味し、例えば、Aというショップは1人で1時間に10件の出荷ができる。140件の出荷予測であれば、14MHが必要だ。1日7時間労働だとすると2名×7時間で14MHとなる。翌日の出荷予測数が140件ならば、2名の要員をアサインすれば良い。

このように20社のECショップの出荷に必要なMHを事前に予測し、日々のシフトを組んでいるのである。ショップ別にスタッフは固定しているが、出荷量の波動によって配置はフレキシブルに見直す。午前と午後でも必要なMHを確かめながらシフトを動かす。

なお、出荷量の波動に柔軟に対応する上で、もう1つ重要な要素は、物流を引き受けるショップの組み合わせである。すべてがモール出店メインのショップだと、モールがセールなどを実施したとき、全部のショップの出荷が増え、さすがの大規模物流センターもパンクしてしまう。

しかし、スクロール360のクライアントであるショップは、モール出店系が50%、リピート通販系が50%とバランスがとれており、波動の調整がしやすい

なお、SLC浜松西の隣の敷地には佐川急便 浜松営業所が建っている。スクロールのセンターが竣工した翌年に移転してきた。配送キャリアのセンターとの距離も重要なポイントだ。近くにあれば集荷時間にゆとりができる。昨今の物流クライシスで集荷時間を早められたECショップはたくさんあるが、隣という立地のお蔭で、スクロール360の集荷時間はギリギリでも間に合うようになっている。

◇◇◇

次回は第2の条件「出荷増でも品質の落ちないシステムとマテハン機器」について、詳しく解説する。

この記事は『EC通販で勝つBPO活用術』(ダイヤモンド社刊)の一部を編集し、公開しているものです。

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