高山 隆司, 佐藤 俊幸 2021/2/3 8:00

これまで述べてきた通り、アフターコロナでは一貫性を持った顧客体験を提供できるEC事業者のみが生き残っていく。それには、マーケティング調査からペルソナ、カスタマージャーニーといった顧客理解とともに、顧客とコンペチターの変化を常にキャッチできる仕組みを整えておくことが必要である。

質の高い顧客体験を提供するには、マーケティングとマーチャンダイジングがやはり鍵を握る。そうしたコア業務に自社の人的リソースを集中するには、他の業務でBPOを積極的に活用すべきであることは明白だ。

ただし、BPOの活用においてコストばかり気にして、「安かろう、悪かろう」に陥っては本末転倒だ。BPOの選択においても、一貫性を持った顧客体験を実現できるかどうかを意識しなければならない。今回は、最新のBPO事例として「ささげ業務」を紹介する。

商品データ作成に必要な「ささげ」

EC通販では、販売する商品を準備したら、次に「商品データ」を作成しなければならない。店舗では通常、顧客は棚に陳列された商品を直接、手に取って確認できる。しかし、ECでは基本的に、顧客が目にすることができるのは「商品データ」だけだ。EC通販ではそれだけ「商品データ」が重要なのである。

「商品データ」を作成するための主な業務は、商品の撮影、採寸、原稿ライティングの3つだ。これをEC業界では頭文字を取って「ささげ」業務と呼んでいる。スタジオで商品を撮影し、商品のサイズや材質といったスペックのデータを起こし、さらに商品特長を伝え、顧客に買いたいと思わせる原稿を付けて、初めて各ECモールに出品できる。

スクロール360における「ささげ」業務の流れ
  1. ささげ希望リスト(商品名、JANコード)
  2. スタジオに商品着荷→付け合わせ、仕分け、撮影準備
  3. 採寸
  4. 撮影
  5. 画像データの調整(レタッチ
  6. コピーライティング(商品説明文の作成)
  7. デバッグ(カット漏れなどのチェック)
  8. 画像やスペックデータのフォーマット化→アップロード

スクロール360では物流センター内で「ささげ」業務を行うことにより、よりスピーディな対応を可能にしている。何故なら、商品が到着するのが物流センターで、そこから専用スタジオに移動させるのは、時間とコストの無駄になるからだ。

自社のスタッフで簡易的に「ささげ」業務を行っている物流センターもあるが、スクロール360では専業の株式会社ささげ屋とアライアンスを組んでサービスを提供している。プロフェッショナルと素人とでは、商品データの写真画像や原稿のクオリティが違うからだ。

ささげ屋は本社が東京にあり、2012年1月から「ささげ」のアウトソーシング受託を開始した。社内に専属のカメラマンやライターを擁し、いまや業界最大手となっている。

そして2012年1月から倉庫内での「ささげ」業務を開始した。スクロール・ロジスティス・センター磐田(通称SLC磐田)にはその分室があり、現在は8名の専任スタッフが、ファッション雑貨のほかサプリメントや健康食品などの「ささげ」業務を行っている。

アパレルであれば1ブース75SKU〜100SKU(1SKUあたり7カット〜8カット)を撮影し、トリミング・レタッチ、採寸、ライティングまで行う。スクロールグループ「AXES」ではハイブランドの商品が多く、1日1ブースで40SKU〜50SKUとなり、3ブースで100SKU〜150SKUのキャパシティとなっている。

通常はデータを納品して終わるのだが、磐田分室では楽天市場、Yahoo!ショッピング、Amazonといったモールへの商品掲載(データアップロード)まで行っている

スクロール360における「ささげ」業務の様子

つまり、EC事業者は物流センターに届く商品のうち、「ささげ」したいリストさえ渡しておけば、自社の社員が何もしなくても、商品を販売開始できるのである。これも、ささげのプロフェッショナル・ささげ屋が長年蓄積してきたノウハウとスキルの賜物であることは言うまでもない。

これらの作業にはそれぞれ、品質確保の様々な注意点とテクニックがある。例えば、カメラのレンズは人間の目より赤色を拾いやすく、撮影した画像と実物の色を人間の目で比較しながら色味調整は欠かせない。

また、白と黒の商品撮影は最も難易度が高い。ライティングに注意しないと画像が飛んだり、黒がつぶれたりする。スマホとPCでは微妙に見え方が異なるので、どちらを優先するかはクライアントに確認する必要がある。

商品の画像とコピーライティングで売れ方が大きく変わるということは、カタログ販売60年のスクロールで、嫌というほど経験している。プロフェッショナルなアウトソーサーを活用し、売れる売り場を作ることをお勧めする。

[column]受注処理のネックは多数のメール

その前に、すでにECビジネスを始めている方ならご存知のことと思うが、モールや自社サイトで受注した後の業務(フルフィルメント)についておさらいしておこう。

ECにおける受注以降の業務(フルフィルメント)

ECユーザーからの注文データはまず、受注処理ソフトにダウンロードされる。各モールと自動連携されていれば、ダウンロードを決まった時間に自動で行うことができる。

注文時に後払いを選択した顧客には審査があり、審査が通らないと後払いを実行できず、代引きやクレジットカード決済に変更してもらわなければならない。

受注処理の現場では毎日、たくさんのメールもやってくる。内容は、注文キャンセルや支払い方法の変更、送り先の修正などだ。メールの内容に応じた処理を行わななければ、受注データを物流センターに送れない。

現在はメール対応ソフトを利用し、メールに書いてある「フレーズ」によって、ある程度必要な処理を振り分けることが多い。

必要なメール対応が終わると、物流センターへ「出荷指示データ」が送られる。どのタイミング(時間)で送信するかは、物流センターとの間で取り決めておく必要がある。

一般的には、当日12時までの受注データを13時までに物流センターに送信し、さらに16時に翌日出荷分を送信するケースが多い。13時に1回送るのは、楽天市場の「あす楽」への対応だ。

物流センターでは16時頃までにピッキングと梱包を完了し、ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便へ荷物の引き渡しを行う。

物流センターからは「出荷報告データ」が戻ってくるので、顧客ごとの配送問い合わせナンバーを顧客に送信し、当日の業務は終了となる。

この記事は『EC通販で勝つBPO活用術』(ダイヤモンド社刊)の一部を編集し、公開しているものです。

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