高山 隆司, 佐藤 俊幸 2021/1/20 8:00

MA(Marketing Automation)はマーケティングを自動化するツールだ。例えば顧客情報、商品情報、媒体情報、受注情報を取り込んで、Google広告の検索連動型広告から40日前に自社商品を買った顧客に、「そろそろ使い切りましたか? 2回目の購入割引クーポンを特別プレゼント」といったメールを自動で送信するのである。

多くのカートシステムにもステップメール機能やレコメンドメール機能が付属しているが、MAの最大の特徴は「粒度の細かさ」と「接触方法の多様性」だ。

MAでは、顧客の属性と行動を掛け合わせ、分析粒度を細かくしていくことができる。例えば、40日前に買った顧客のうち、クーポンプレゼントメールをクリックして、かつ、2回目の購入をしていない人」に「クーポンの有効期限が残り5日であることを伝えるDM(オフラインのはがき)を送るといったことも簡単にできる

MAをメールの発射台で終わらせない

MAの活用には次の4段階がある。

第1段階【効率化】
手動で実施していた顧客抽出とメール送信業務を自動化する
   ↓
第2段階【細分化】
属性と行動によるより細かなセグメントで顧客にアプローチする
   ↓
第3段階【多様化】
メール、LINE、DM、商品同梱物、電話などの手段で接触する
   ↓
第4段階【高速化】
複雑な条件・手段のシナリオの結果を素早く分析し、すぐ修正する

第1段階の【効率化】では、それまで担当者が手を動かして行っていた業務をMAにより自動化することで、よりマーケティングの企画などに時間を充てられるようになる。

第2段階の【細分化】では、複数のAND・OR条件で最適な顧客を抽出し、無駄打ちを減らすことで、それぞれの顧客に最も響く内容を訴求できる

第3段階の【多様化】では、メルマガでのみ実施していた顧客との接触を多様化する。MAから社内の電話営業部署に対象顧客のリストをメールで通知し、電話販売につなげることもできる。

第4段階の【高速化】では、複雑に絡み合っているシナリオをわかりやすい指標で素早く分析し、どこに手を加えればより成果が伸びるかを見つけて改善していく

多くの場合、第1段階から第2段階で何をすればいいかわからなくなってしまい、MAをもて余してしまうケースが多い。顧客がどんな体験をしたいのか、顧客にどんな体験をしてほしいのか明確になっていないためだ。また、社内リソースが足りず、せっかくMAを導入したのに使いこなせていないというケースもとても多い。

MAを使いこなすための4つの壁

MAを使いこなすには、4つの壁を超えていかなければならない。

第1の壁「データ連携の壁」

通販基幹システム、ECカートシステムに入っている商品情報、顧客情報、受注情報などをMAにどう入れるか。テーブル構造が異なるデータをマッピングし、クレジングや名寄せを行い、受け渡さなければならない。

例えば、基幹システムでは顧客のメールアドレスを「mail」という項目名で持っているが、MAでは「mailaddress」という項目名だった場合、「mail」と「mailaddress」を紐付ける。住所の都道府県名に「東京都」と「東京」という表記が異なるデータがある場合、すべて「東京都」に修正する。

顧客の氏名が基幹システムでは「姓」「名」の2つの項目に分かれているが、MAでは「姓名」を1つの項目として扱う場合、MAにデータを入れる前に修正する。これらの準備によって、綺麗になったデータをCSVアップロードやSFTP連携、API連携等でデータ連携する。この準備に数か月かかることもある

第2の壁「企画の壁」

MAにデータを入れただけでは何も見えてこない。そこで、MAを分析ツールとして使う。カスタマージャーニーマップに基づいて設定されたKPI(例えば「初回購入から2回目購入への3か月以内引き上げ率」)のデータをMAから抽出する。

そのデータの裏にある顧客の心理や行動を関連部門の担当者がそれぞれの視点から考え、どんなタイミングで、どんな方法で、どんな内容で、顧客にアプローチすればいいか企画を出していく。企画は手元のドキュメントやスプレッドシートに書き出し、共有すると良いだろう。

第3の壁「設定の壁」

企画がまとまったら実装へと進む。企画においてねらいを付けた顧客セグメントを抽出し、そのセグメントに対して、ステップメール送信、メール内リンククリックによるシナリオ分岐などを設定する。メール文章などのクリエイティブ(コンテンツ)作成も必要だ。

第4の壁「改善の壁」

設定したシナリオが無事に動き始めたら、定期的に結果を分析する。例えば、3回目のメール開封率が低いのであれば、3回目のメール件名や送信タイミングを改善する。メールの送信タイミングは、その顧客が初回商品を購入した時間帯に送ると良いだろう。

これらの壁をひとつずつ乗り越えていくのは苦難の道だ。マーケティング担当者には他の業務もどんどん差し込まれてくるし、毎年実施している全体向け送料無料キャンペーンなども準備しなければならない。当月の広告運用でCPOが上昇すれば、その対策も取らなければならない。

MAの4つの壁を乗り越えようとしたものの、他の業務に忙殺され、気付いたら2つ目の壁の段階で半年経ってしまっていた」などというのがMAを導入した企業のリアルな実態だ。

MAツールを導入するとき、いきなり専任の担当者を付けることは、予算や人員確保の面で簡単ではないだろう。当初は外注で、コンサルタントや運用担当者を手配することをお勧めする。

顧客体験の満足度を知る「NPS」

ここまで、商品と顧客の出会いから順に、顧客体験を解説してきた。それぞれのマーケティング施策の効果は売上や利益として数値化されるが、それだけでは本当に顧客体験が最高のものになっているのかどうかは分からない。

そこで有効なのが、NPS(Net Promoter Score)を活用したブランド調査である。NPSとは、フレッド・ライクヘルドが提唱した顧客ロイヤルティを測る指標である。

ある商品の顧客に対して、「親しい友人や家族にこの商品を勧めたいか?(「勧めたくない」0点から「勧めたい」10点の間のいずれかの数字で回答)」とアンケートを取り、0点から6点は批判者、7点から8点は中立者、9点から10点は推奨者と評価する。批判者、中立者、推奨者の割合を出して、推奨者から批判者を引いた数値がNPSだ。

NPSの例
NPSの例

上のように、批判者48%、中立者36%、推奨者16%となった場合、NPSはマイナス32となる。推奨者と評価する点数の幅が狭いため、NPSはマイナス値になることが多い。企業を対象とした場合、NPSが12ポイント改善すると、その企業の成長率は倍増すると言われている

NPSは単純に自社の数値を時系列で計測するだけでなく、競合他社と比較することもお勧めだ。「自社はマイナス32なのに、A社はマイナス40、B社はマイナス10」という場合、A社が自社より低い理由、B社がA社や自社より大幅に高い理由を探っていくのである。

ただし、アンケート母体を「自社商品を購入した顧客」に絞ると、そもそも自社に対してロイヤリティが高い顧客層であるため、市場では本当は他社の方が人気なのに、NPSでは自社の評価が一番高いという結果になることがあり、注意が必要だ。調査目的に沿ったアンケート母体の設定やアンケート内容にすることが重要である。

NPSの目的を「自社商品を購入した顧客満足度を1年前と比較し、事業軌道修正の気づきを得る」とするのであれば、次のような点に注意するとよい。

  • 毎年同じ時期に実施する
  • 期間内の購入顧客の中から、できるだけランダムにアンケート母体を抽出する
  • 数値だけでなく「その点数にした理由は?」といった定性コメントももらう
  • 競合他社の数値はそのまま受け入れるのではなく、自社顧客を母体としたものであり、市場顧客が母体となっているものではないことを意識して参考情報として見る

もっと広く考えて、NPSの目的を「市場での好意度を測る」ことにしたいのであれば、次のようなやり方が良い。

  • 母体は自社顧客ではなく、アンケート会社や別の方法を使って集める
  • 「◯◯ジャンルで思い浮かぶ商品はどれか」という認知度を測る質問もする
  • 自社に寄りすぎた質問や回答選択肢の並び順にしないように注意する

NPSの結果を踏まえ、半年や1年おきにカスタマージャーニーマップを作り直すと、「気がついたら顧客のニーズが変わってしまっていた」といった事態を防ぎ、顧客体験をより良いものに昇華していくことができる

売上や利益と並べて、NPSを事業に対する評価指標にすることも良いだろう。NPSが競合より高いにも関わらず、売上が競合より低いのであれば、売上に伸びしろがあるということだ。

売上が伸びていても、NPSが下落傾向にあったら黄信号である。近いうちに売上も落ちていく可能性がある。一部の顧客にひっぱられた売上なのか、一時的な売上増加なのか、売りっぱなしにしてしまっているなど顧客体験に課題がないか、深く分析する必要がある。

1つ1つの業務はBPOできる

EC通販では日々、やらなければならない業務は膨大にある。売れ行きが伸びるにつれ、人手も時間も不足しがちになる。こうした問題の有力な解決策が、BPO(Business Process Outsourcing)だ。さまざまな業務のうち、社内で回し切ることができない部分を外部のプロに任せ、しっかり回し切るのである。

EC通販の根幹は「顧客を知ること」と「それに合った商品力」だ。この2つの機能は自社でしっかり持ってほしい。それ以外はコントローラーとしての機能を社内に持っておけば、1つ1つの業務についてはBPOできる

ちなみに、スクロールグループでは、グループ各社がそれぞれEC通販に関わる次のような業務を専門的に担い、しかも相互に連携して一貫したサービスを提供している。

  • グループインタビュー
  • カスタマージャーニーマップの作成支援
  • 商品開発支援
  • マーケティング
  • 受注、決済
  • 物流
  • コールセンター
  • CRM(MA含む)
  • 顧客満足度調査

EC通販企業が顧客体験を最高のものにするため、活用してみていただきたい。

この記事は『EC通販で勝つBPO活用術』(ダイヤモンド社刊)の一部を編集し、公開しているものです。

EC通販で勝つBPO活用術 ─最強のバックヤードが最高の顧客体験を生み出す

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高山 隆司 /佐藤 俊幸 著
ダイヤモンド社 刊
価格 1,650円+税

活況のEC・通販業界において、アフターコロナを勝ち抜くために必要なことは何か。ネット通販の事業戦略設計やプロモーション、フルフィルメントなど、ネット通販の実践から得たノウハウを紹介し、物流、受注といったフルフィルメントのアウトソーシングの活用の仕方や成功事例を解説する。デジタルトランスフォーメーション(DX)が加速する中、「BPO」(Business Process Outsourcing)を最大限有効活用したシステム構築に必携の1冊。

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