「出荷さえできれば良い」はもう古い。顧客体験を高める「おもてなし物流」とは
かつて、EC通販における物流といえば「コストを抑えて出荷できさえすれば良い」といった捉え方が多かったように思う。
しかし、いまやEC物流センターはいろいろな付加機能を備え、顧客体験を高めることに貢献し、ECショップの事業拡大を支えている。
例えば発送の際、顧客の購入商品と購入回数に応じて同梱物を変えるだけでなく、顧客ひとりひとりに最適なメッセージカードもその場で印刷できるようになっている。
筆者はこうした顧客体験を高める物流を「おもてなし物流」と名付け、セミナーなどでその重要性を繰り返し説明している。
「おもてなし物流」は、これからのEC通販において、CRMで差別化を図るための重要な要素なのだ。
従来の「物流」の捉え方
- バックヤードの話でありCRMやマーケティングとは関係ない
- 配送キャリアをどこにするかが問題
- とにかく期日までに届けば良い
- 資材、倉庫などコストはできるだけ安く! ...etc.
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「おもてなし物流」の考え方
- 顧客体験を高める手段の1つ
- EC通販において、CRMで差別化を図るための重要な要素
- EC物流センターでの付加機能が鍵を握る ...etc.
事業モデルに応じたCRMのKPI
「おもてなし物流」の具体的なやり方に入る前に、ネット通販におけるCRM(Customer Relational Management)について確認しておこう。ネット通販とひと言でいっても、CRMを考えるにあたっては、事業モデルに応じたKPI(Key Performance Index)の選択が重要である。
結論から言えば、総合通販では「RFM分析」、リピート通販では「LTV」、モール系ECショップでは「ROAS」をそれぞれ、CRMを考えるにあたってのKPIとして選択するのが良い。
事業モデル別CRMのKPI
特徴的なKPI | 着眼点 | |
---|---|---|
総合通販 | RMF分析 | カタログ・DM (決められたDM数で最大の売上を上げる |
リピート 通販 | LTV | リピート効果 (いかに定期購入化して開拓コストを償却するか) |
モール系 | ROAS | 広告効果 (いかに効率よく集客&コンバージョンするか) |
総合通販のKPI
総合通販では、大量に保持する顧客リストを元に、いかに効率的にカタログDMをしていくかがCRMのポイントとなる。
例えば100万人の顧客リストがある場合、なにも分析せずにDMすると正比例にオーダーが増えていき、100万部で最大となる。ただ、それではカタログDMかかるコストも最大になってしまい、利益が出せなくなる。
下のグラフのように50万部で80%のオーダーが取れることになる。
また、一般に先月購入した顧客の方が、1年前の注文客よりも注文発生率が格段に高い。
下の図は、最終注文経過月数と注文回数の関係を示した模式図だ。
初めて注文をした顧客はR1のF1のマスとなり、リピート力を10とする。何もせず放置しているとR2からR3へとどんどんリピート力は落ちていく。逆にR1で何らかのリピート施策を打つとR1のF2に移行し、リピート力は11に上昇する。さらに施策を打つとR1のF3と3回目の注文を取ることができる。
初めての注文から、できるだけ早い段階で施策を打つことが望ましい。前回ご紹介した「モメント・オブ・トゥルー」という観点からも同じことが言える。
「引上げCRM」と「継続CRM」とは?
以上のことを踏まえて、初回発送の商品と同梱するメッセージとして、どのような内容が適しているか考えてみよう。
前述の通り、筆者は様々なEC通販企業において、ユーザーを集めた「グループインタビュー」をサポートしており、ユーザーが何に困っているかを何度もヒヤリングしている。そこでいつも感じるのは、売り手(企業)の意識と買い手(ユーザー)の意識のズレだ。
端的に言うと、売り手(企業)は自社の商品について理解度が高く、つい、買い手(ユーザー)も理解して使ってくれていると思い込んでいる。しかし、実際には買い手(ユーザー)は初めて使った商品の使い方や効能をあまり理解していない。
とりわけ新規開拓を狙ったプロモーションの際は、「できるだけ興味・関心を持ってもらう」ことを主眼にクリエイティブが作られているため、結果的に買い手(ユーザー)は商品を深く理解して購入しているとは言えず、商品が届いてからの使い方の間違いや使い忘れが起こりやすく、退会に至るケースが非常に多い。
これを防ぐには、商品発送の1回目と2回目までは「引上げCRM」、3回目以降は「継続CRM」というように、段階を分けることが望ましい。
引上げCRM
- 注文:新規プロモーション
……新規注文を取るため、まずは関心を持ってもらう(ユーザーはクチコミを確認したものの半信半疑の状態) - 1回目:商品+同梱物1回目
……商品の正しい使い方と、使ったときの効果を理解してもらう(ユーザーは使い出して疑問に思うことが出ている状態) - 2回目:商品+同梱物2回目
……利用者の声で正しい使い方の理解と、効果の出る期待を持ってもらう(商品利用が習慣化。効果も徐々に出ていると感じている状態)
継続CRM
- 3回目:商品+同梱物3回目
……商品が毎回届く楽しさを感じてもらう(商品到着とともに毎回届く読み物も楽しみになってくる) - 4回目:商品+同梱物4回目
……商品と企業に愛着を持ってもらう(友人に商品の良さを伝えたくなってきている)
「引上げCRM」では、商品理解がまだ乏しい人向けに、商品のパフォーマンスを引き出す使用方法と、その結果得られる効能を判りやすく伝えることが重要だ。具体的には、先輩ユーザーの使用方法のノウハウや裏技、使用して効果効能を感じている顧客の写真、コメントなどが受け入れやすい。
商品を理解し、使うことに馴れたユーザーには、3回目以降で「継続CRM」に切りかえる。飽きや慣れなど商品の魅力の劣化を抑え、興味関心を維持できる内容で、ロイヤリティ強化を図るこのだ。具体的には、商品の効能に関連した季節ごとの情報や、連続ものの企画、ユーザーが登場するインタビュー等が受け入れられやすい。
上の図はCRM設計の一例だが、新規の顧客の商品理解のため、3回連続のチラシを用意し同梱発送する(「引上げCRM」)。既存客には毎回、「継続CRM」のためのニュースを用意し、新規顧客の4回目からは既存顧客送付分に合流させる。
毎月入ってくる新規顧客に対し、商品理解のための3回連続チラシを間違いなく同梱するシステムと物流が重要だ。
この記事は『EC通販で勝つBPO活用術』(ダイヤモンド社刊)の一部を編集し、公開しているものです。
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