高山 隆司, 山下 幸弘 2015/4/21 9:00
この記事は『シニア通販は「こだわりの大人女性」を狙いなさい!』(ダイヤモンド社刊)の内容を、特別に公開しているものです。

第二の人生を再構築するとき

消費の牽引役として圧倒的な数の力を持つこだわりの大人女性だが、そのニーズを的確に掴むことは容易なことではない。

彼女たちを攻略するため企業に求められるのは、こだわりの大人女性特有の思考や行動にどのようなものがあるのかを今一度見直し、それらがどう消費に結び付くのかを徹底的に考えることではないだろうか。

そこで、こだわりの大人女性の捉え方や攻略の切り口を整理してみることにしよう。

まず、彼女たちを理解するキーワードして、「解放段階」という言葉を紹介したい。

シニアビジネス分野のパイオニアである村田裕之氏は、著書『シニアシフトの衝撃』(ダイヤモンド社)の中で、ジョージ・ワシントン大学の心理学者であるジーン・コーエンによる心理的発達の研究について、次のように述べている。

コーエンは、50代中盤から70代前半にかけての段階を【解放段階】と呼んでいる。日本の団塊世代は、ちょうど【解放段階】のど真ん中にある。この解放段階においては、何か今までと違うことをやりたくなる傾向がある。たとえば、サラリーマンを早期退職して沖縄に行ってダイバーになる。あるいは、ずっとパートでレジ打ちをやっていた女性がダンスの先生になる、といった具合だ。こういう一瞬の【変身】が起こりやすくなるのがこの段階の特徴だ。

この「解放段階」は、女性にこそ強く表れる特徴ではないかと、私たちは考える。

団塊世代の女性は、その多くが20代前半で結婚と出産を経験し、家事と育児、場合によっては家計のために仕事もこなし、夫と子どものために精一杯生きてきた。

ある時、子どもがひとり立ちして母親業から解放され、自分の時間が持てる余裕が生まれる。ある程度の貯蓄や自由になるお金もある。これからは自分自身のために時間とお金を使い、第二の人生を楽しもうと考えて不思議はない。

株式会社スクロールのアパレル通販である『ブリアージュ』では、商品に対する評価のヒアリングや新商材・新サービスに関するニーズの調査を目的としたグループインタビューをたびたび行ってきた。自社ユーザーと他社通販ユーザーを混ぜた50〜60代の女性たちのリアルな声を拾ってみると、彼女たちが「解放段階」にあることがよく分かる。

例えば、週に数回のパートをしているある女性は、働く動機はお金ではなく社会との関わりを求めているためであり、趣味は習い事、という。ファッションに対するマインドでは「余裕のある大人の女性に見られたい」という意識が強く、エレガントなものを好む。年齢を重ねてきたため、いまさら安っぽいものは着られないと考えていて、素材の良い服など価値感にこだわりがあるものを慎重に選択している。

他にも、これまでとは違う新しい自分を探し、自分を磨き、自分のためにお金を使い、自分がとことん納得の行く商品を求めているという声が多かった。すべては、第二の人生を再構築するための行動だ。

消費につながるいくつもの「変化」

では、解放段階にある彼女たちは、どのようなきっかけで消費という行動を起こすのか。

前出の村田裕之氏は、人がモノやサービスを買うきっかけは「状態の変化」であるとして、「加齢による身体の変化」「本人のライフステージの変化」「家族のライフステージの変化」「世代の嗜好性の変化」「時代性の変化」の5つを挙げている。

これをシニアに当てはめてみると、ひとつめの「身体の変化」は、加齢に伴ういわゆる老化であり、個人差はあるものの誰にでも起こる現象だ。老眼になる、耳が遠くなる、ひざが痛くなる、物忘れしやすくなるなど、様々な形で身体機能が低下していく。そして、こうした現象は、シニアが消費行動を行う際、意思決定の大きな要因となる。

身体機能の変化は更年期ぐらいから加速し、病気、ストレス、生活習慣などとも結びついて、様々な生活上の問題につながってくる。

とくに女性の場合、閉経という大きなイベントがある。更年期障害は男性にも起こるが、女性のそれは閉経をきっかけに大きな波として襲ってくる。本人にとっては大変な苦痛だが、ビジネスとしては大きなチャンスの種だ。

身体機能の変化には、体型の変化も含まれる。『ブリアージュ』のグループインタビューで、通販を利用していない50〜60代の女性からは、「試着しないとサイズが合うか分からないので利用しない」「サイズ展開がもっと幅広くなれば(利用するかもしれない)」「サイズが合わなかった場合の返品の仕方が簡単ならば利用する」などの意見が多く聞かれた。これらの問題さえクリアできれば、こだわりの大人女性を優良顧客として掴むことはそれほど難しくないだろう。

骨粗鬆症や膝痛、腰痛などの発症については、若い頃からの食生活やスポーツ経験、あるいは体型などが影響するため、50歳前後から症状が現れる人もいる。身体機能の変化が消費のきっかけになるという意味において、ターゲットは非常に広範囲にわたることになる。

50代と60代でのニーズの違い

50〜60代の女性には、程度に差はあっても「疲れやすくなった」「体型が崩れてきた」など共通の悩みがある。ただ、50代と60代では悩みに多少の違いが見られることも理解しておきたい。

例えば、仕事を持っている女性の場合、50代はまだ現役で、外出や人と接する機会が多い。そのため見た目の変化に敏感で、35〜49歳のF2層同様にスキンケアやダイエットなどへのニーズが強い。

一方、60代の女性はすでに仕事をリタイアしている人が多く、見た目の変化に多少柔軟になっている。その分、腰痛や膝の痛みなど健康上の悩みが増えてくる。

厚生労働省によれば、介護や支援が必要になる原因として「関節疾患等」及び「骨折・転倒」が多いという。関節の痛みを訴える60代の女性は、すでに要介護予備軍に差し掛かっている。本書が設定するこだわりの大人女性の中でも、60代と50代とではまったく違うニーズが発掘できる可能性があるわけだ。

他にも、美容や体型維持のための行動として、50代では「コラーゲンやコエンザイムQ10」など美容系サプリメントの購入が目立つ一方、60代では「ウォーキング」「水泳」「エアロビクス」など運動の割合が高くなる傾向がある。

50代女性は現役で仕事を続けていたり、子どもが手を離れていないケースもある。美容のためとはいえふんだんに時間を費やすことは難しい。その分、サプリメントなど手軽な解決策を求めるのだろう。

対して、リタイアして時間に余裕がある60代女性では、スポーツジムに通うなど時間をかける方法が選択できるようになる。そのため、60代女性には履き心地の良いウォーキングシューズや体型を隠せるスポーツウェアなど、50代にはあまり見られないニーズが出てくるのだ。

ただし、身体機能の変化は、ある一定の年齢を過ぎたら必ず起こると決めつけてはいけない。およそ50年前の60歳と、現在の60歳とでは、身体機能の状態はまったく別物だと言っても過言ではない。1960年の日本人男性の平均寿命は65.3歳、女性は70.2歳だった。2013年ではそれが、男性が80.21歳、女性86.61歳といずれも過去最高を更新している。

50年前の60歳は、平均寿命まで5〜10年しか時間がなかったが、今では「第二の人生」に費やせる時間が20年以上もあるのだ。この20年にどう関わっていけるのか、シニア市場向けの通販ビジネスはそのニーズを徹底的に発掘するべきだ。

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