あの有名店に学ぶ最新オムニチャネル。日本トイザらス、キタムラ、ベイクルーズの事例

店頭受け取りや決済手段など様々な角度から取り組みが進められている最新のオムニチャネル事例を紹介
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購入窓口をはじめ店頭受け取りや決済手段など様々な角度から取り組みが進められているオムニチャネル戦略。先行するところではすでに成果を検証する段階にまで来ており、客足への具体的な効果を読み取れるケースも出ている。もはや、小売企業が成長する上で欠かせない戦略となったオムニチャネルについて、今回は大手有店舗企業の事例を中心に直近の取り組み内容を見てみる。

日本トイザらス、リアルとネットで在庫を融通

日本トイザらスはシームレスリテーリング(オムニチャネル)に向けた社内での意識改革が進み、商品在庫や購入窓口などのシームレス化に向けた環境が整備されている。

同社の2015年度の売上高は前年度の2倍の成長率で伸長。その成長を支えた要因の一つとしてインストック(在庫が確保できている状態)が数%以上、向上したことを挙げている。飯田健作執行役員eコマース本部本部長は「いつ来ても欲しいものが買えるという小売業の基本中の基本が大きく改善した」としており、背景には直近2年間で実店舗の在庫と通販の在庫を互いに融通し合う仕組みを構築できたことが大きいようだ。

同社では欠品による機会損失を防ぐ仕組みとして、通販で在庫がない商品について実店舗からの出荷に切り替える「シップ・フロム・ストア」を導入。利用者数の拡大に伴い、昨年には対象商品を大幅に引き上げた。実店舗に関しても、在庫が欠品した場合には専用カウンターからその場でオンライン注文できる「ストア・オーダー・システム」があり、昨夏には全店舗での導入が完了した。会社全体でバックヤードのシームレス化が進捗したことで、リアルとネットを問わずどのタッチポイントでも欠品が生じない仕組みが出来つつあるという。

また、在庫を確保した上でその情報を積極的に顧客に提示する仕組みも整えている。昨年11月に通販サイトに取り入れた「店舗在庫表示機能」は、都道府県と店舗名を選択し「さがす」ボタンをクリックすると対象店舗での当該商品の在庫目安を表示。在庫情報は毎日1回、当日朝の時点の状況が更新される。

これは購入前に実店舗で商品の実物を確認する需要などを見込んだもので、商品ページに来た人の4分の1程度がこの機能を使うなど開設直後から利用率が高い。とりわけ、ベビーカーやチャイルドシートといった高額かつ使い方で専門的なアドバイスが欲しい商品ほど利用される傾向にあるようだ。同機能でよく見られている商品については、売り場で前面に押し出すなど実店舗レイアウトの改善にも反映できるメリットもある。

実店舗の専用コーナーからタブレットなどを使って通販サイトへの送客を図っている日本トイザらス

店舗スタッフの評価指標も変化

売場ごとにノルマを持つ小売り企業にとって、実店舗から通販に顧客を誘導することに未だに抵抗を持っているケースも多い。しかし、「今は何かをする時必ず『ネットで検索』のアクションから始まる。であれば必然的に社内でもシームレスリテーリングへの合意ができるはず」(飯田本部長)とし、シームレスカスタマーを取り込んで会社全体の利益に還元する施策にシフトする方が現実的だという

実際に同社では通販、実店舗、物流の責任者で定期的にミーティングを実施。通販での決定事項なども必ず共有して、売り場の垣根をなくすことに努めている。

現場レベルでもその意識は浸透したようで、ある地方の実店舗では在庫1品になったベビーカーについてあえて売り切らずに残し、店内にディスプレイし続けて購入希望者を通販サイトに誘導する施策をとったという。これまでは「現品限り」の札をつけて早期に売り切り、再入荷を待つことを優先していたが手元に“見本”として置き続けてネットに誘導する方がより多くの顧客への販売機会が生まれると判断。売り場の発案による積極的なシームレス化の事例になっているという。「今までのカルチャーとは違う考え方。これは裏側の仕組みを整えてきたからできることであり、ECに誘導したスタッフもきちんと評価する制度に変えていったことも大きい」(同)とした。

今後は通販サイトで顧客ごとに個別対応ができるようなツールの導入も検討するなど、接客サービスでも実店舗により近づいた内容を取り入れていくという。

ベイクルーズ、会員情報や在庫など統合

セレクトショップ運営のベイクルーズは、実店舗と自社通販サイトの会員と商品在庫、サービス水準、コミュニケーションの各面で一元化を進めており、機会ロスの低減などにつなげている。

同社によると、実店舗とECを併用する顧客は、店舗だけを利用する顧客と比べて年間購入金額が約2倍となることから、併用客を増やすためにも、消費者が好きなときに好きな場所で情報を得たり購入できるオムニチャネル対応は不可欠という。

会員統合については従来、店舗と自社ECの会員情報は別々のデータベースで管理していたが、IDを統合しシングルビューが実現できる環境を1年がかりで整えた。

在庫の統合は買い物機会の最大化を図るために行っており、多品種小ロット生産や商品の短サイクル化が進むアパレル業界特有の課題に対し、店舗とネットの在庫を統合することで、どのチャネルからでも商品を引き当てられる環境を作ることで機会損失を防いだり、消化スピードを上げる。

自社ECの欠品商品を店頭在庫から引き当てるテストを始めた

すでに、オンラインの在庫は一元化したほか、試験運用の段階ではあるものの、店舗在庫も統合しており、自社ECで欠品している場合は店舗の在庫から引き当てる仕組みを首都圏の店舗を対象に始めたところで、最後の1点まですべてのチャネルで販売できる環境を整備する。

現状では倉庫が分散しているため、すべての在庫を共有化できていないが、倉庫を含めた在庫データの一元化を今秋にも完了する計画だ。

サービス水準についてはネットと店舗や、ブランドごとに異なっていた会員サービスを統合したところで、今後は、リアルとネットで異なるイベントやキャンペーンなども共通化するのに加え、今秋をメドに自社通販サイトで気になる商品を試着予約できる店舗取り置きサービスを始める

コミュニケーションについては、DMPを活用してメールのパーソナライズ化に着手しており、EC売上高に占めるメール経由売り上げは着手前の20%から30%以上に拡大している。

同社によると、オムニ戦略推進の課題は組織の問題はもちろん、消費者の“可処分時間”の獲得にあるとする。ウェブ上の顧客接点が拡大できなければ、リアルとシームレスなサービスが提供できても効果は薄いことから、とくにスマホでの顧客接点を作ることが大事で、同社ではアプリの開発も含めて価値のあるサービスを提供していくとする。

キタムラ、EC在庫を店からタブレット注文

カメラ専門店のキタムラでは、店舗受け取り売り上げが伸びている。同社では、「宅配売上」と「店受取売上」を合算した数値を「EC関与売上」としている。宅配は消費者の自宅まで届ける一般的な通販だが、店受取売上は、通販サイトで注文した商品の店舗受け取り売上高のほか、店舗に置いているECタブレットを利用した取り寄せ注文も含まれる。後者の2015年3月期売り上げは約311億円で、EC関与売上(同約430億円)の多くを占めている。

宅配は税込8000円以上の購入で送料が無料となるが、店舗で受け取れば送料は無料。また、カメラは専門性の高い商品だけに、知識のある店員に説明を受けたいというニーズは高い。消費者にとっては、商品説明や使い方の相談ができるだけではなく、自分にあったアクセサリー類の紹介といったフォローを受けることができる。

同社の場合、店舗が自店を受け取り拠点に指定されると、売り上げが自店につくため、店頭でのネット会員獲得にも積極的だ。店舗の写真プリント端末を利用して、10分ほど仕上がり待ちの顧客に、店員がスマホからの写真注文アプリのインストールとネット会員登録を薦め、その場でサポートしながら登録してもらっている。

また、高松市のネット販売倉庫には各メーカーの高級レンズを揃えている。高いもので100万円単位のため、各店舗に置くのは難しい。しかし「欲しい人は全国には必ずいる。店にレンズを買いに来たら、受注生産で届くのが2~3カ月後では購入意欲が萎(な)えてしまう」(同社の逸見光次郎執行役員)。しかし、ネット販売倉庫に在庫しておけば、店舗からのタブレット注文で翌日か翌々日には店舗に配送され、ユーザーの手元に届くという。もちろん売り上げは店舗に計上される。

900店の在庫需要をネット販売がまかなっている。全国に店舗があって地域密着の商売をしていることが活きている」(同)。同社のネット販売事業は、「店舗の売り上げに貢献しながら、事業部の黒字を出すというスタンスが全社の利益最大化につながる」という発想で運営している。事業部の売り上げのみを考えるなら、通販だけで宅配販売した方がいい。逸見執行役員は「EC関与売上という指標のもとでネット販売が問題を解決し、会社全体を良くしていくことが重要だ」と話す。

「通販新聞」掲載のオリジナル版はこちら:
有店舗小売事業者の「オムニチャネル化」が加速、各社の取り組みは?(2016/03/31)

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