顧客に選ばれるコンテンツをどうやって作る? 何を伝えるか決めて、やり続ける――「ナラティブ・ディレクター」として大切にしている4つのこと
英国発D2Cブランド「Tuiss(チューイッシュ)」の日本国内マーケティング担当者が、BtoBマーケティングと広告代理店という異業種からキャリアチェンジした際に「何が必要だったのか」「前職の強みを生かせたポイント」などを解説します【第2回】
8:00
英国生まれのオーダーメイドカーテン・ブラインドのD2Cブランド「Tuiss(チューイッシュ)」で、日本市場のマーケティングを担当している虻川です。この連載では、長年BtoBマーケティングを経験したのち、D2Cのマーケティングにキャリアチェンジして1年ほどの駆け出し担当者が取り組んでいることを紹介しています。前回は、値引きに頼らず「選ばれる力」を積み上げるための「ボトムアッププランニング」についてお伝えしました。今回は、その「選ばれる力」の中身であるコンテンツについて解説します。
「ブランドが何を大事にし、お客さまの暮らしをどう良くするのか」を、愚直に言葉にし続ける
D2Cのマーケターは、Webサイト、ブログ、動画、SNS、広告のコピーなど、デジタル上のさまざまなコンテンツを扱います。私もBtoB時代からコンテンツ制作に携わり、現在も実際に手を動かして制作をしています。
これまでの経験から強く感じているのは、どんな商材であれ成果を分けるのはクリエイティブ(制作物)のできだけではなく、その手前にある「何を伝えるか」だということです。お客さまの間で実際に話題になっていること、興味を持ってもらえることを把握し、正しく伝わる形にして、Webにも動画にも広告コピーにも一貫した内容を落とし込んでいく――。情報量が増え続けるこの時代に、この役割はますます重要になってくるでしょう。あえて言葉にするなら「ナラティブ・ディレクター」としての力が必要なのではないかと感じています。
特に「チューイッシュ」のような駆け出しのフェーズでは、限られた予算・リソースのなかでビジネスを伸ばしていかなければいけません。大きな費用を投じた施策だけに頼るわけにはいかないため、自分たちの手で作れるものをしっかり作ることを大切にしています。
「ナラティブ」というと大げさに聞こえるかもしれませんが、私は「このブランドは何を大事にし、お客さまの暮らしをどう良くするのか」を、愚直に言葉にし続けることだと捉えています。お客さまが商品を使い、感想を口にしたものを、また次の発信につなげていく。その進行中のやり取り全体がナラティブです。だからこそ、1つひとつの発信に気を配りながら、あらゆる接点で同じことを伝え続けることが必要になります。
私が意識しているのは、次の4つです。
- 制作するコンテンツ量の計画
- 既存コンテンツの漏れを埋めること
- 各コンテンツに期待する態度変容の決定
- 自社ならではのテーマの発見
1つずつ見ていきます。
1. コンテンツ制作量を、年間単位で計画する
自社の訴求は、一度発信しただけでは伝わりません。さまざまな情報を繰り返し届けることで多くの人に見てもらえるようになります。そのため、コンテンツも「ボトムアッププランニング」と同じ発想で、まずは年間単位で「どれだけ作るか」を計画します。
私が計画の軸に置いているのは、今でもSEOです。商材によってはSNSの発信量を軸にするほうが合う場合もありますが、検索ボリュームは実需要との関連性が高く、ある程度の発信量を担保すればパフォーマンスが読めるので、計画に落としやすいというメリットがあります。
まず土台として、SEOの競合・キーワード分析ツールで、各キーワードの検索ボリュームを把握し、競合との比較を行います。こういったツールは有料ですが、「Ahrefs(エイチレフス)」など比較的安く導入できるものもあります。古典的な作業ですが、ここをおろそかにすると計画が「絵に描いた餅」になるので、SEOの実担当でなくても時間をかけて目を通す価値があります。
そのうえで、狙うキーワードを3つの層に分類します。層によって、やるべきことは変わってきます。
- ブランドクエリ:自社名や商品名での検索。すでに指名されている需要。
- ビッグキーワード:「カーテン」「ロールスクリーン」のような検索ボリュームの大きい一般語。市場全体の拡大・停滞も把握できる。
- ロングテールキーワード:「小窓 目隠し カーテン」のような、数は少ないが意図が明確な語。新しいトレンドをいち早く見つけられる。
この3層それぞれに、対応するテーマのアセットを割り当てます。そのうえで、トレンドや季節性を見ながら優先順位をつけ、年間の制作カレンダーに落とし込みます。
着手する順番にも原則があります。まずは売れ筋・勝ち筋のある商品のコンテンツから手をつける。成果に直結する場所から埋めるのが基本です。計画倒れにしないためには、全方位に広げず、インパクトの大きいところから順に進めることが大事だと感じています。
2. 身近なところから、「漏れ」をなくす
計画ができたら、次は新しいものを作り始める……その前に、やることがあります。すでにあるアセットの点検です。特に、機能的な価値を伝えるサイト内コンテンツやオウンドメディアは、必要な情報を出しきれているかの確認が欠かせません。
「チューイッシュ」はSKUが2500を超える、商品数の多いブランドです。これだけ多いと、既存のコンテンツにどうしても「漏れ」が出てきます。SEO的にカバーできていないテーマ、強みが正しく載っていない広告コピー、購入の判断材料が足りていないWebページ、そもそも動画やSNS投稿がない商品。こうした不足を1つずつ埋めるだけで、パフォーマンスは大きく変わります。
既存アセットを見直しただけで成果が出た例はいくつもあります。広告のタグラインを強みが伝わる表現に変えただけでROAS(広告費用対効果)が数割改善したり、ブログ記事をリライトしただけで流入が数倍になったり。新しく何かを作ったわけではなく、すでにあるものの「伝わらなさ」を直しただけです。
コンテンツの漏れは、市場を見るとさらに見つかります。競合や近い業界をベンチマークすると、あるべき情報が抜けていたり、売れるポテンシャルのある商品なのに何も発信できていなかったり、ということが起こります。逆に、SNSでの発話を観察するなかで、ニーズがあるのにどの企業も発信していない情報が見つかれば、そこは自社が先に埋めるべき場所であり、そのまま制作の優先順位になります。
もう1つ見落としがちな漏れが、時間による劣化です。自身の顧客理解が深まり、知識も増えてくると過去のコンテンツが物足りなく見えてきますし、時間と共にトレンドも変わってきます。これも立派な漏れです。新規制作と並行して既存アセットを定期的に見直し、手入れし続けることが欠かせません。
大きなプロモーションももちろん大切ですが、多様なニーズを持つお客さまに非対面で購入してもらうD2Cで着実に効くのは、この「漏れをなくす」地道な作業だと考えています。
3. 「コンテンツに触れる前と後」の態度変容を考える
新しくコンテンツを作り始める前に、必ず決めておきたいことがあります。そのコンテンツに触れる前と後で、読み手の考えがどう変わってほしいのか。いわゆる「態度変容(パーセプションチェンジ)」です。
これは、私がマーケティングオートメーション(MA)ツールのベンダーにいた頃、「エンゲージメントマーケティング」という概念のなかで提唱されていた考え方です。当時から10年近く経ち、扱うチャネルも商材もすっかり変わりましたが、今も変わらず大事にしている視点です。
たとえば「そんな選択肢があると知らなかった人が、知る」「価格が高いと思っていた人が、その理由に納得する」。コンテンツを通じて新しい気づきを与えたり、検討中の不安を払拭(ふっしょく)したりする――。その変化を作り始める前に定義しておくと、コンテンツの核になる情報が自然と決まり、制作の途中で迷わなくなります。
この作業には、もう1つ効果があります。読み手の心を動かさないコンテンツが減ることです。文章として整っていても、言いたいことが伝わらないコンテンツは案外多いもの。ですが、変化を先に決めておけば、それを説明できないコンテンツは作られなくなります。
社内の別担当者や社外の人に制作してもらう場面も多くありますが、あがってきたものをレビューするときも、「その変化を起こせているか」という一本の基準で判断できます。
4. 独自性は、ビジネスへの興味と「お客さまになりきる」ことから
ここまで進めれば、必要なコンテンツは一通りそろってきます。ただ、他社と同じことを言っているだけでは、どれだけ量があっても差別化にならず、新しいニーズを生むこともできません。さらに成長するために必要なことは、自社ならではの独自性です。
一般に「インサイト」と呼ばれるものですが、中小企業に大がかりな調査の予算はありません。私がやっているのは、ごく当たり前のことです。競合のアセットを見る、近い業界のベンチマーク企業を見る、SNSを見る、検索する、いろいろな場所に足を運ぶ、お客さまやお客さまになり得る人の話をたくさん聞く、それだけです。
そこで差がつくのは、手段ではなく「見方」だと考えています。
競合やベンチマーク企業を見るとき
まず「何を打ち出しているか」を見て、自社のリソースでは何を強みとして出せるかを比べます。逆に、まだ誰も言っていないことがあれば、そこは自社が語るべき隙間です。ベンチマークにする企業は上場企業が多いので、公開している戦略や中期計画から、どのような市場に可能性を見ているかまで読み取るようにしています。
SNSを見るとき
公式アカウントと一般の投稿の両方で、伸びている投稿に注目します。なぜ伸びたのか、そこにどんな気づきがあるのかを探り、「自社でまねできるか」「それは商品アイデアか、訴求か」「どのくらいの手間で取り入れられるか」まで判断する。観察を、そのまま打ち手の候補に変えていくイメージです。
そして何より大事なのが、お客さまと同じ視点でいろいろなものに触れてみることです。「チューイッシュ」はインテリア商材で、日々の時間を大切にしているお客さまが多いです。だから私も、家具の展示会に足を運んだり、価格帯の高いインテリアショップを訪ねて「どんなブランドが並んでいるのか」「自分はどこを美しいと感じるのか」を確かめたりします。
おしゃれなカフェで「どんな内装に心が動くか」を眺めることもあります。インテリアが好きな人は、旅やファッション、音楽といったカルチャー全般を好む人が多い印象があるので、そうした場にもできるだけ触れるようにしています。数字やデータに加えて、1人の生活者として何に心が動くのかを意識しています。
自社のビジネスそのものに興味を持ち、お客さまになりきってみる。それを続けるほど、語れることが増えていきます。その積み重ねが、そのまま自社の独自性やブランドの中身になっていくのです。
おわりに
ここまで見てきたように、必要な情報を取りまとめ、お客さまに伝わる形にして届けていく。それを続けるのが「ナラティブ・ディレクター」の役割です。
この積み重ねは、これからのマーケティングでますます効いてくると考えています。生成AIに引用・要約されるうえでまず大事なのは、情報が一通り網羅されていることです。存在しない情報は、当然ながらAIにも拾われません。上述した「漏れをなくす」作業は、そのまま「AIに見つけてもらえる状態」を作ることでもあります。
そのうえで、網羅した情報が正しく、一貫していること。矛盾した情報やあいまいな表現は、AIに誤って要約されたり、拾われなかったりします。まず網羅し、そのうえで一貫した情報を発信する。この順番で情報を整えておくことが、これからのAI経由の流入(LLMO)に効いてくると感じています。
限られた予算とリソースのなかで確実に成果を出し続けるには、量を計画し情報の漏れをなくし、起こしたい態度変容を決め、お客さまになりきって自社ならではの中身を作る。地味ですが、D2Cにとってはこれがいちばん確実な積み上げだと考えています。
次回は、その一貫したナラティブに「中の人」の人格をどう載せるか――。BtoBではドライな発信で問題なかったのに、D2Cではなぜパーソナリティが必要になるのか――といった内容をお伝えします。

