ネットショップ担当者フォーラム 2026 セミナーレポート

なぜマーケットプレイスはAIに選ばれるのか。AIに「見つからない」ECサイトからの脱却

エージェンティックコマース時代、小売企業に求められる備えとは? Miraklが解説

大村 マリ

8:00

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AIエージェントが消費者に代わって購買行動を行う「エージェンティックコマース」の到来が目前に迫るなか、EC事業者にはこれまでのECサイト運営にとどまらず、事業戦略そのものを変革する抜本的な対応が求められている。欧米の小売企業では自社の役割やポジションを再定義し、サイトの内外の両面でAI対応を推し進めることで成果をあげる企業も登場しつつあるという。Miraklの内藤 誓力良氏が、エージェンティックコマース時代に向けた事業戦略について、グローバルの最新動向を解説した。

Mirakl マーケティング シニアマーケティングマネージャー 内藤誓力良氏

「エージェンティックコマース」とは?

「エージェンティックコマース」とは、AIエージェントが消費者に代わって行動するデジタルコマースの形態を指す。消費者の目的、好み、条件に基づき、商品の発見、比較、購入、さらには購入後の管理までを自律的に処理するプロセス全般の総称である。

AIエージェントは商品の発見、比較、購入までを担う購買行動の新たなインターフェースになりつつある
AIエージェントは商品の発見、比較、購入までを担う購買行動の新たなインターフェースになりつつある(出典:バージニア大学ダーデン・スクール・オブ・ビジネスによる米国消費者を対象とした調査をもとにMirakl作成/2025年6月)

AI時代における購買行動の「Discover」「Evaluate」「Purchase」という3段階のプロセスは、いずれもAIエージェントを前提とした動きへ移行しつつある。これらのプロセス全体を総称したものがエージェンティックコマースとされる。(内藤氏)

Mirakl マーケティング シニアマーケティングマネージャー 内藤誓力良氏
Mirakl マーケティング シニアマーケティングマネージャー 
内藤誓力良氏

従来、消費者の購入を後押しするものといえば、家族や友人からのおすすめというのが一般的だったが、2025年冬の調査では「AIのアドバイスをより重視する」消費者が多いというデータが示された。

消費者が購入する際に信頼する情報ソース
消費者が購入する際に信頼する情報ソース(n=330/グローバル調査、出典:Conveo「2025 AI-Powered Shopper Study」)

この変化は海外のみならず、国内の大手ECプラットフォームでも生じている。「Yahoo!ショッピング」では、2026年2月からサイト内でAIエージェントを提供したところ、利用率が急伸。AI経由の売り上げ比は20%を超えているという。

さらに米国の調査では、LLM(大規模言語モデル)経由のトラフィックが、2028年頃に従来のキーワード検索経由のトラフィックを上回ると予測されている。

LLMと従来の検索トラフィックの推移予測
LLMと従来の検索トラフィックの推移予測(出典:Semrush「Impact of AI Search on SEO Traffic 2025」)

2028年から逆算すると、EC事業者に残された準備期間は残り約1年半ということになる。欧米のみならず日本の多くの小売企業もすでにこの変化を見据えている。Adyenが日本の小売事業者を対象に行った調査(「Adyen Index 2026」)によると、「今後2年間でエージェンティックコマースへの投資を検討している」と回答した企業はほぼ100%に達した。

エージェンティックコマースの実現を阻む3つの障壁

一方で、エージェンティックコマースの実現に向けては、現在いくつかの障壁がある。内藤氏は、解決すべき足元の障壁は大きく3つに集約されると指摘する。

① AI時代に対応しきれていないデータ設計
② 技術的な難易度が高い各LLMとの連携
③ 分断される顧客の購買体験

障壁① AI時代に対応しきれていないデータ設計

LLMが検索の主流となりエージェンティックコマースが普及する環境下において、消費者の購買プロセスにおける検索行動には構造的な変化が生じるだろう。

たとえば、在宅勤務中に暑くて集中できず、暑さ対策ができる商品を探している場合、従来のECでは「暑さ 在宅 おすすめ」といったキーワード検索から始まる。結果に表示された商品を、消費者自らが価格やデザイン、配送日などでフィルタリングを行ない、絞り込んでいくという流れが主流だった。

それがエージェンティックコマースへ移行すると、ユーザーはキーワードではなく、解決したい課題そのものを文脈とともにLLM上で検索する。結果として、対話文形式の入力に対しAIが単一の商品カテゴリにとどまらない幅広い提案を行う。先ほどの例で言うと、室内の冷房機器だけでなくネッククーラーやジェルクッションなど、異なるカテゴリの商品が同時に提示され、対話を通じて絞り込みが進められる。

オンラインでの買い物は、キーワード検索からインテント(意図)での対話へ
オンラインでの買い物は、キーワード検索からインテント(意図)での対話へ

これまではユーザー自身がキーワード検索し、表示された商品をフィルタリングするアルゴリズムの世界だった。これからはAIとの対話を通じて、ユーザーの文脈や真の意図(intent)が掘り下げられた上で、ECサイトへ送客される仕組みへと変化している。(内藤氏)

しかし実際には、多くのECサイトはAIに認識される状態になっていない。米国のECサイトを対象に調査したAdobeのデータによると、現在のECサイトのうち34%の商品はAIに認識されていないという(出典:Adobe『アドビレポート:米国の小売企業でAIトラフィックが急増、しかし機械の可読性に対応できていないWebサイトが多数』)。

対応が進む米国でも2026年時点でこの状態であり、ECサイトがAIに見つけられるデータ構造になっていない点が、エージェンティックコマースにおける1つ目の大きな障壁となっている。

障壁② 技術的な難易度が高い各LLMとの連携

2つ目の壁は、LLMとの連携の難易度が高いことである。OpenAIは2025年9月、「ChatGPT」内で買い物を完結させる「インスタントチェックアウト」を発表したが、2026年3月にはそれを撤回し、小売企業と連携する方向へと方針を変更した。

撤回の背景にあるのが、購入に伴う処理の複雑さだ。価格の正確性、セール価格の反映、送料無料ラインの適用をはじめ、在庫状況や指定日時の配送確認、店舗受取、ポイントや会員ランクの付与、さらには返品・返金対応、保証ポリシー、領収書の発行など、購入にはさまざまな対応が求められる。

AIに選ばれ、取引が成立するには「正確なオファー」の提示が必要
AIに選ばれ、取引が成立するには「正確なオファー」の提示が必要

こうした要件の複雑さから、OpenAIはチャット内での完結を断念し、小売企業との連携へと舵を切ったと言われている。

障壁③ 分断される顧客の購買体験

3つ目の壁は、消費者の購買体験の分断である。先に、日本の小売企業のほぼ100%がエージェンティックコマースに対して投資を検討しているという調査結果について触れたが、同じ調査の消費者向けアンケートでは「AIアシスタントに購入を委ねることに抵抗がある」と回答した消費者も6割を超えている。

これは検索での利用は許容しても、購入まではまだ任せられない、と考える消費者が相当数いるということだ。背景にあるのは、商品情報、在庫、価格等の正確性に対する懸念だろう。今のECサイトでは当たり前になっている情報の正確性が、LLMでも同じレベルで担保されなければ、消費者の購買体験はLLMとECサイトで大きく分断されてしまう。(内藤氏)

エージェンティックコマースへの対応はサイトの「内」と「外」から

エージェンティックコマース時代を迎えるにあたり、小売企業はこうした障壁に対してどう備えればいいのか。内藤氏は大きく2つのアプローチがあると語る。

1つ目はサイト外のAI施策。「AIにどう選ばれるか」を中心に考えるアプローチで、「GEO(Generative Engine Optimization)」や「AIO(AI Optimization)」と呼ばれる。2つ目はサイト内のAI対応であり、訪れた顧客に対してAIが接客を行い、購買体験を高める取り組みだ。

サイトの外とサイトの中。2つの取り組みは、エージェンティックコマースへの備えとして同時並行で進めていく必要がある。(内藤氏)

すでに成果をあげている企業の1つが、オーストラリア最大手百貨店のマイヤー(Myer)だ。マイヤーは早期からMiraklの支援でマーケットプレイス事業を展開し、GEOへの投資も積極的に行っていた。

マイヤーにおけるLLM経由のトラフィック(図左)とAIアシスタントの月別売上(右)
マイヤーにおけるLLM経由のトラフィック(図左)とAIアシスタントの月別売上(右)

その結果、図の左側にあるように、サイト外の対策によってLLM経由のトラフィックが急増し、コンバージョンレートは他流入元の約2倍を記録している。また、右図の通り、サイト内のAIアシスタントも売上増に寄与しており、その売上には「ChatGPT」経由の流入が多く含まれる。サイト内外双方の取り組みが成果につながった好例と言える。

LLMに選ばれるために重要な3つの要素

では、実際にAIに選ばれるために何をすればいいのか。内藤氏は次の3つをあげる。

①商品情報の整備

GEOなど、AIに選ばれるためのサイト外対策では、充実かつ整った商品情報が重要だ。すなわち情報の量と質の両面が求められ、個々の商品の情報量、正確性、網羅性に加え、当然ながらサイト内の掲載商品数自体も評価の対象となる。

これまでのデータ整備の積み重ねが結果に影響することを意味し、基本に立ち返ることの重要性を示している。商品データの早期整備は最優先事項である。(内藤氏)

②GEO施策

次にGEO施策があげられる。これはメタデータに代表される、人間の目に見えないバックエンド側のデータを最適化し、AIがより読みやすい構造に整える取り組みである。レビューやコメントデータも最適化の対象に含まれる。

ただし、前提となる商品情報の整備が不十分な状態でメタデータの最適化を行っても成果には結びつきにくい。必ず商品情報の整理・充実を完了させた上でメタデータの最適化へと進む必要がある。

③エージェントカタログフィード

最終段階となるのが「エージェントカタログフィード」である。エージェントカタログフィードとは、商品情報に加えて価格、在庫、返品などのポリシー情報までを構造化し、AIプラットフォームが直接取り込める形式で提供する仕組みだ。データ構造を保持したままAPI連携を最適化させることで、AIによる商品の検索や比較、さらには取引の自動化を可能にする。米国では先進的な事業者による対応が始まっているものの、普及には一定の時間を要すると見られている。

必ず①、②、③の順番でやるべきだというのがグローバルで成果を上げている企業に共通する考え方。①ができていない状態で②をやっても砂上の楼閣。お客さまは来るけれど買ってもらえないという状況になるので、この順番が非常に重要である。(内藤氏)

マーケットプレイスはGEOに「効く」

Miraklのグローバル研究チームは、特定のカテゴリを対象に、「ChatGPT」上で約2000キーワードを用いて、商品の検索順位や表示頻度を調査した。比較したのは米国で専門特化のマーケットプレイスを運営する大手小売企業と、Walmart、Amazon、Targetといった大手プラットフォーマーだ。この調査の結果、専門特化型のマーケットプレイスを運営する大手小売企業は、「ChatGPT」の検索結果に商品が表示される割合と、最上位に推奨される割合の両方で、大手プラットフォーマーを上回った。

専門特化型の小売企業は、「ChatGPT」上での表示割合と表示順の両方で、大手プラットフォーマーを上回る(Miraklによる調査)
専門特化型の小売企業は、「ChatGPT」上での表示割合と表示順の両方で、大手プラットフォーマーを上回る(Miraklによる調査)

自社商品のみを取り扱う場合の表示割合が69.35%であったのに対し、マーケットプレイスを導入して他セラーの商品を追加し、カテゴリ内の商品数と在庫を拡充したことで表示割合が約24ポイント上昇した。

マーケットプレイスの導入は単に表示割合を高めるだけでなく、1位として推奨される確率も4.7ポイント引き上げる。このデータは、マーケットプレイスの展開自体が自然とLLM対策につながることを示している。(内藤氏)

「ChatGPT」におけるマーケットプレイスの補完効果(Miraklによる調査)
「ChatGPT」におけるマーケットプレイスの補完効果(Miraklによる調査)

マーケットプレイスは複数事業者が出品し、1つのECサイト上で多種多様な商品を展開する構造を持つ。品ぞろえや在庫の多さが強みになるのは当然だが、他社セラーが出品を行うため、商品データの網羅性に加え、事業者ごとに異なる表記を整理・統一する標準化が不可欠となる。たとえば同じカテゴリの商品が、「パンツ」「ショートパンツ」「ズボン」など事業者ごとに異なる表記で登録されるケースだ。

商品数やバリエーションの多さ、蓄積されたデータは、AIに好まれるデータ構造の構築に役立つだけでなく、購買体験の向上に直結する。また、LLMは小売ブランドの信頼性を評価対象としており、すべてのカテゴリを扱う大手プラットフォーマーと比較して、特定分野に特化した専門事業者が運営するマーケットプレイスは、信頼性の面で優位と言える。(内藤氏)

コマースの進化を支援するMiraklのソリューション

Miraklはフランス・パリに本社を置く創立約14年のユニコーン企業で、マーケットプレイスを実現するSaaSプラットフォームを提供し、2022年5月に日本へ進出した。顧客数は450社を超え、国内ではニトリや阪急阪神百貨店などに導入されている。

Miraklは創業以来のコアソリューションとして「Mirakl Marketplace & Dropship」を展開している。導入した小売企業は、多様な出店者を招き入れ、在庫リスクなく自社サイトで品揃えを拡大することが可能となる。

Miraklが提供するソリューションの概要
Miraklが提供するソリューションの概要

周辺ソリューションとして、出品者による広告出稿でリテールメディア化を推進する「Mirakl Ads(ミラクルアズ)」、プラットフォームと出店者をマッチングする「Mirakl Connect(ミラクルコネクト)」、AIで商品カタログデータを拡充する「Mirakl Catalog(ミラクルカタログ)」などをそろえる。

さらにOpenAIやStripeなどのグローバルパートナーとの連携も進めている。海外ではすでに展開しているLLM向けのGEOソリューションも、日本での提供に向けて準備が進んでいる。今後の日本市場での展開にも注目したい。

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