内製と外注の切り分けは「誰が作業するか」じゃない! 「誰が判断し、誰の力を借りて実行するか」を考えること
「何を自社で持ち、何を外部に任せるべきか」をテーマに、ECの現場で起きているリアルな課題を掘り下げていきます【連載3回目】
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「EC事業を内製化する」。この言葉を聞くと、「広告運用もサイト制作もシステム開発も、すべて自社でできるようになること」と考える人も少なくありません。一方で、「プロに任せれば大丈夫」と考え、制作会社や開発会社、ツール会社に成果を委ねてしまうケースもあります。しかしECを取り巻く環境は、AIの登場も含めて大きく変化しており、「内製か外注か」という単純な話ではなくなっています。
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本連載では、システム開発・事業支援に長年携わってきたボクラブロック代表の林氏と、マーケティングチームの内製化連載を執筆しているECMJ代表の石田氏が、「何を自社で持ち、何を外部に任せるべきか」をテーマに、ECの現場で起きているリアルな課題を掘り下げていきます。
重要な情報は「顧客が自社をどう見てくれているか」
石田さんは、EC運営やマーケティングの支援をしているなかで、「事業者自身が持っておくべき情報」あるいは「持っておくべき判断軸」というと、どのようなものが重要だと考えていますか?
社内ではデータ活用が大事だと言われますよね。リピート率、LTV、CPAなど、そういったKPIの話ももちろんありますし、それはそれで重要です。
ただ、私が一番重要だと思う情報は「お客さまがどう見てくれているか」なんです。お客さまが「何を評価してくれているのか」「どこを評価してくれているのか」「なぜ知ってくれたのか」「なぜ選び続けてくれているのか」といった情報ですね。
今のECは、お客さまの声を直接聞ける環境があります。レビューや問い合わせ、アンケートもあるし、そういったものに常に触れられる。だから、事業者が持っておくべき一番重要な情報は「お客さまの生の声」だと思っています。
本当にそうですよね。意外とアンケートすら取っていないEC事業者さんも少なくありません。
情報や判断軸というと、どうしてもデータが注目されがちです。もちろんデータは大事ですが、データだけでは見えないものがあります。「お客さまの声」、いわゆる定性的な情報はすごく大事ですね。
今回の話の核は、「外部に依頼することで本当にうまくいくのか」ということを、もう少し深く考えてほしいというところにあります。
外部に任せる場合は「何を実現するか」「どこかまで任せるか」などをしっかり判断する
もちろん、外部に依頼することを否定したいわけではありません。むしろ、自社ですべてを行うというのは非現実的だと思っています。たとえば、次のような専門領域ですね。
- システム開発
- サイトデザインやLP
- SEO
- コンテンツ作成
- AI活用
- データ分析
重要なのは、最新トレンドをキャッチアップし続けながら、こうした領域にスピード感を持って対応することです。大手企業であれば、それらをすべて社内で高いレベルで実現できる会社もあります。ただ、多くの企業にとって、現実的ではないのではないでしょうか。
ただし、外部に任せる場合も「何を実現したいのか」「どこまで任せるのか」「どうやって成果を見るのか」ということをしっかり判断した上で依頼することが重要です。
石田さんに質問なのですが、これまでの経験のなかで、「ここは外部に任せた方がいい」という領域と、「ここだけは自社で行うべき」という領域はありますか。
自社で持った方がいい領域は、やはり顧客理解ですね。顧客分析やお客さまから得られる情報など、そういったものを生かす部分は、間違いなく自社で行うべきだと思っています。
逆に外部に任せた方がいい領域は、次の2つだと思っています。
- 高いスキルや専門性が必要な部分
- トレンド性がある部分
ただ、少し脱線すると、スキルや専門性の部分は、今後AIによってかなり変わっていくと思うんですよ。AIができることはどんどん増えていますから。そうなると、外部に求める価値というのは、単純な作業スキルだけではなくて、「今何が起きているのか」「何が変化しているのか」という、日々変化する環境のキャッチアップ力になっていくのではないかと思っています。
「中長期の体制作り」がEC運営には重要
そのあたりまで自分たちで拾い続けるのは、本当に難易度が高い。日々の業務を行いながら、変化を追い続けるのは大変です。それに、実際に手を動かしたり、細かなチューニングを行ったりすることまで含めると、やはり専門性の高い人たちに任せた方がいい部分も多いでしょう。
もう1つ、外部活用で大事だと思っていることがあります。それは、短期施策と中長期施策を分けて考えることです。たとえば、「広告」「キャンペーン」「メルマガ」といったものは、比較的短期で成果につながりやすい施策です。一方で、次のようなことは中長期で取り組むテーマになります。
- 顧客理解を深める
- ブランドの強みを整理する
- 商品の価値を再設計する
- システムを刷新する
- データ基盤を整備する
しかもこちらの方が、時間も労力もかかります。ただ、私の周りでうまくいっている会社を見ると、「短期でやるべきこと」「中長期でやるべきこと」この2つを同時に進めている会社が多いんです。
石田さんは実際にいろいろな現場を見ていますが、この短期施策と中長期の体制作りのバランスについてはどう考えていますか。
ちょっと語弊があるかもしれませんが、あえて強く言うと、EC事業を成功させたければ、短期の売上施策はそこそこにして、中長期の体制作りを先に行うべきだと思っています。
なぜかというと、Eコマースというビジネスは、日本中あるいは世界中からお客さまを集めることができるビジネスだからです。だから必ず他社との差別化が必要になります。「どのような違いを作るのか」「どういう発信をするのか」「どういう個性を見せるのか」そこが重要なんです。そこを考えずに、短期施策だけを行っていても、継続的な成長にはならないと思っています。
だから林さんが言った、「顧客理解を深める」「ブランド設計」「商品の再設計」といった中長期のテーマを考えられないのであれば、いずれどこかのタイミングで苦しくなるでしょう。ビジネスのルールが変わった時に消えてしまう。
「短期施策と中長期施策をバランスよく進めましょう」というのが優等生的な答えなんでしょうけれど、本音を言うと、「中長期の体制作りができないなら、ECは厳しい」というのが私の考えですね。
それはすごく大事な話です。ECは立ち上げやすいという側面もあるため、短期だけを狙ったECというのも存在します。
でも、この連載を読んでくれるような事業者さんは、おそらくそうではないと思うんです。本業を支える事業としてECを考えている。そういう人たちにとって、中長期という視点は絶対に必要です。会社全体にとってECをどれだけ重要な事業にしていくか。そう考えると、短期施策だけでは難しいというのは、私も同意見です。
外部活用の失敗例とは?
外部活用の失敗例についても少し触れましょう。外部活用というと、「コストがかかる」「外部任せになりそう」という不安を持つ人も少なくありません。
私が見てきた失敗例としては、まず、何でも社内でやろうとして担当者が疲弊してしまうケース。逆に、何でも外部に任せてしまい、社内に判断軸が残らないケースもあります。また、外部に依頼したものの「社内確認が遅い」「意思決定が遅い」という理由で、プロジェクトがどんどん遅延していくこともありますし、施策の目的が曖昧なまま進んでしまうこともあります。さらに、現場担当者は課題を理解しているのに、経営層が必要性を理解できずに止まってしまうケースもある。
それからよくあるのが、マーケティングチームだけで進めてしまうケースです。私たちはEC運営担当者やマーケティング担当者と仕事をすることが多いですが、本来は営業や商品企画など、他部門の声も重要なんです。
ところが「デジタルはよくわからない」という理由で、その人たちがプロジェクトに入ってこない。本来マーケティングチームは組織横断型であるべきなのに、現場の声が入ってこない。これはよくある失敗だと思っています。
石田さんは、外部活用がうまくいかない会社に共通点はあると考えますか。逆に、外部活用がうまい会社にはどんな特長があるでしょうか。
林さんがあげてくれた話に、基本的には同意です。その上で出ていないことを1つあげるとすると、「市場を見ていない会社」ですね。これは外部の活用が苦手だと思います。
マーケティングも施策もそうなのですが、市場より少し上のレベルにいるから選ばれるんです。自分たちがいくら頑張っていても、市場より遅れていたら選ばれません。
たとえば「うちは自社でサイト制作もやっています」「画像加工も頑張っています」という会社があったとしても、市場全体から見た時にそのレベルが低ければ、お客さまには選ばれない。
だから外部活用がうまくいかない会社は、市場を見ていないことが多い。市場で求められるレベルや専門性を理解していない。これは大きな特長だと考えています。
たとえばスマートフォン対応1つとっても、ユーザーにとって当たり前になっていることを行っていない状態では、それは施策にもなっていないわけですからね。
そうなんですよ。「うちはこういうことを頑張っているんです」と言われることもあるんですが、大事なのは、市場より少し先を行くこと。そこは本当に重要です。
なるほど。長年EC事業者を支援してきた石田さんらしい意見ですね。
内製と外注の切り分けは単なる作業分担ではない
前回と今回の話をまとめましょう。お伝えしたかったのは、「内製と外注の切り分けは単なる作業分担ではない」ということです。まず、会社ごとに課題もめざす方向性も違います。だからこそ、何を自社でやるのか、何を外部と進めるのか、これを考える必要があります。そして、自社で持つべきものは次の5つです。
- 顧客理解
- 商品理解
- サービスの強み
- 課題の優先順位
- 成果の評価軸
一方で、外部に任せるべきなのは、次の4つ。
- 専門性
- 実装力
- スピード
- 最新の知見
つまり、内製と外注の切り分けとは「誰が作業するか」ではなく、「誰が判断し、誰の力を借りて実行するか」という話なんです。そして、そのストーリーを描き、指揮を執るのは事業者自身です。だからこそ外部を活用する前に、まず自社の課題や強みを整理する。そこから始めることが大切だと思っています。
石田さん、いかがでしょうか。
結局、ヒントは自分たちの中にあるんだと思います。
「EC事業を伸ばしたい、成功させたい、継続させたい」と考えた時に、まずは自社のなかを掘り下げてみること。そこに、内製化や外部活用を考えるヒントがあるのではないでしょうか。
私たちもお客さまのチームの中に入りながら、「どのような課題があるのか」「何を行うべきなのか」「短期・中長期、それぞれで行うべきことは何か」といったことを一緒に考える仕事が増えています。
だから「とりあえず外部に頼もう」ではなく、自分たちがめざす方向性を理解した上で、何を依頼するのか、そしてその施策をどう評価するのか。そういった考え方を持った上で、外部を活用してほしいと思っています。
ECマーケティング人財育成は「マーケティングチームの内製化」を支援するコンサルティング会社です。ECMJコンサルタントが社内のECチームに伴走し、EC事業を進めながらEC運営ノウハウをインプットしていきます。詳しくはECMJのホームページをご覧ください。
ボクラブロックは、EC事業者ごとに異なる課題や目指す方向に合わせて施策を設計し、実行・改善まで伴走するEC支援会社です。外部パートナーも活用しながら、売上向上や業務改善につながる取り組みを支援します。詳しくはボクラブロックのホームページをご覧ください。

