内製×外注の最適解を見つけるEC実践講座

AI時代の外部を生かせる会社・生かせない会社の違い。「内製化」=「すべて自分でやること」ではない?

「何を自社で持ち、何を外部に任せるべきか」をテーマに、ECの現場で起きているリアルな課題を掘り下げていきます【連載1回目】

石田 麻琴[執筆], 林 昌孝[執筆]

8:00

「EC事業を内製化する」。この言葉を聞くと、「広告運用もサイト制作もシステム開発も、すべて自社でできるようになること」と考える人も少なくありません。一方で、「プロに任せれば大丈夫」と考え、制作会社や開発会社、ツール会社に成果を委ねてしまうケースもあります。しかしECを取り巻く環境は、AIの登場も含めて大きく変化しており、「内製か外注か」という単純な話ではなくなっています。

ECサイト作りで「何のために行うのか」が曖昧なまま進むケースが多い

林

今回から新しい連載がスタートします。ボクラブロックの林昌孝です。

石田

ECマーケティング人財育成(ECMJ)の石田麻琴です。よろしくお願いします。

林

この連載を始めるにあたって、最初に「なぜこのテーマを取り上げたのか」を、自己紹介と合わせてお伝えします。

石田さんは、これまで「ネッ担」で、EC事業の人材育成やマーケティングの内製化について長く発信してきました。一方で、私はどちらかというとECのシステム開発や保守といった、作る側の仕事を長く従事。20年近くデジタル業界に携わり、2007年にはEC事業者向けのシステム開発会社を創業し、約15年間、ECサイトの構築・保守・追加開発を中心に支援してきました。

ECサイトって、作って終わりではないんですよね。「ここを改善したい」「こういう機能がほしい」「こういうことをしたい」という話が次々出てきます。そういうものを長く作り続けてきたのですが、そのなかでずっと感じていたことがあります。それは、「何を作るか」という以前に、「何のために行うのか」が曖昧なまま進んでいるケースがとても多いということです。

石田

開発自体の問題というより、その前段階に課題があるという感じですね。

林

そうです。たとえば「こういう機能を作りたいです」という相談は来るんです。

でも、「それを作ることで何を実現したいのか」が整理されていないケースが結構ある。その状態で進めると、当然ですが後で問題が起きます。「作ったけれど使われない」「改善が続かない」「思ったほど成果につながらない」――こういうことが頻繁に起きるんですよね。

石田

それって開発を受ける側からすると難しいですよね。

林

難しいですね。受ける側からすると、「何をゴールにしたら良いか」がわからないから。もちろんプロなので、形にはします。けれども、「何を目的にしているか」が曖昧だと、結局作るものも曖昧になるんです。

だからこの連載では、単純に「このツールがいい」「こういう開発がいい」といった話ではなく、「外部をどう生かすか」ということをお伝えしていきます。

「何をするべきかを考えられる状態」が内製化

石田

「内製」というワードは誤解されやすい言葉ですよね。

林

かなり誤解されています。内製化というと、「制作、広告、システム、運用、すべて自分たちで行えるようになること」というイメージを持っている人が多いです。

でも僕は、それは違うと考えています。今は、AIの進化もそうですし、広告もツールもシステムも、とにかく変化が速い。すべてを社内でキャッチアップして実施するのは、かなり現実的ではないです。

石田

そうすると、本当に内製化するべきものは何でしょうか?

林

僕は「判断」だと考えています。課題を見つけること、優先順位をつけること、外部に頼んだ結果が良かったのか悪かったのかを評価すること――そういった部分ですよね。業務で手を動かすことではなく、「何をするべきかを考えられる状態」が内製化だと考えています。

プロに頼むことは悪いことではない。「何を得たいのか」を整理せずに頼むと失敗しがちになる

石田

外注についても聞きたいんですが、「よくある誤解」ってありますか。

林

昔から変わらないのですが、「プロに任せればうまくいく」ですね。特に経営層ほど、この傾向が強い気がします。「専門家に頼んだのに」「プロに頼んだのに」という話ですね。

ただ、繰り返しになるのですが、受ける側からすると、そもそも頼む側が何を実現したいのかが曖昧なケースってすごく多いんです。だからプロが悪いとかではなく、「何を得たいのか」を整理して依頼しているかが重要なんです。

石田

その「プロに任せればうまくいく」という発想は、そもそもなぜ生まれるんですかね。

林

僕は、経営層がデジタル領域を判断しにくかった時代背景も大きいと思っています。

今でこそAIが出てきたりDXという言葉が広まったりして、デジタルに対する拒絶反応ってかなり減ってきているのですが、少し前までは「IT」や「デジタル」ってかなり特殊なものだったと感じています。

「なんとなく難しい、よくわからない。でもやらないといけないらしい」、そんな位置づけだったと思うんです。だから、「よくわからないからプロに頼もう」という流れ自体は、ある意味自然だったのかなと。

石田

今は「デジタルを活用しましょう」と言われてもそんなに抵抗感はないですが、昔は結構違いましたよね。

林

別に「プロに頼むこと」が悪いわけではないんです。むしろ頼んだ方がいいケースはたくさんあります。ただ、「何を実現したいか」を考えないまま、「とりあえずお願いしよう」になると、後で問題が起こる。そこが大きいです。

AI活用も同じ。「自分たちの考え方を載せる」ことが大事

石田

今って、少し別の意味で似たようなことが起き始めている感じもしますよね。昔は「プロに任せればうまくいく」だったけれど、今は「AIに任せればうまくいく」みたいな(笑)

林

ありますね。でも結局、構造はまったく同じだと思うんです。たとえばAIに「提案書を作って」と言えば、それっぽいものは出てきます。「市場分析して」と言えば分析もしてくれる。

でも、その分析結果を見て「じゃあ自分たちは何をするのか」を考える人がいないと、多分同じことになるんですよね。

石田

最近、提案書とか見ていても結構ありますよね。「あ、これAIで作ったな」って。

林

ありますね(笑)。資料はすごく綺麗なんです。でも、話している人が自分の言葉で説明できていない。資料の方が優秀すぎる状態になっている。

石田

資料がしゃべっている感じね(笑)

林

そうそう(笑)。でも結局、お客さまは資料を買うわけではない。一緒にやる人を見ていると思います。だからAIが出してきたものをそのまま使うのではなく、自分たちの考え方を乗せることが大事なんじゃないかなと感じています。

AIで作成した資料をそのまま使うのではなく、きちんと自分の考えを乗せることが大切
AIで作成した資料をそのまま使うのではなく、きちんと自分の考えを載せることが大切(画像はイメージ)

外注先への依頼、EC運用で「もったいない」と感じた事例は?

石田

少し具体例の話も聞きたいです。外注先である開発側にいた時、「これはもったいないな」と思ったケースはありますか。

林

多々あります。たとえば、開発予算があるにもかかわらず、お客さま向けの価値提供ではなく、社内運用を楽にすること(効率化に目を向けた機能)だけに予算を使ってしまうケースですね。もちろん効率化も必要ですが、本来なら「購入しやすくなる」「選びやすくなる」など、お客さま側に価値を生むことが重要なはず。でも現場だけで決めると、どうしても現状の運用に課題を感じている担当者の主観で優先されてしまう

経営側としては、売上向上や顧客体験の改善に使われると思っていた予算が、結果的に社内運用の効率化に偏っていた、というケースもあります。

石田さんが経験した「運営側の課題」はありますか。

石田

林さんの話を聞いていて、思い出したことがあります。

昔コンサルに入った会社で、担当者に「普段のEC運営は何をしているか」をホワイトボードに書き出してもらったんです。そうしたら、「受注・発送・問い合わせ対応」だけで1日が終わっていたんですね。それを見てかなり衝撃でした。

本来、EC運営は「市場では何が伸びているのか」「競合は何をしているのか」「トレンドはどう変わっているのか」といった市場を見る仕事なんです。

林

でも、日々の業務に追われると、視点がどんどん狭くなっていく……。

石田

そうなんですよ。だからまず、「考える時間を持てるか」が重要なのではないかと感じています。

「担当者さんが悪い」わけではないんです、きちんと仕事をしていますから。受注も発送も問い合わせもあって、むしろ忙しい。

でも問題なのは、その会社のなかに「ECを考える時間を取る文化」がなかったことなんですよね。ECって目の前の仕事だけをしていると、一日が終わってしまう。でも本当は、「なんで売れたんだろう」「なんで売れなかったんだろう」「だったら次に何をしようか」っていう時間が必要なんですよ。

林

商品登録して、画像を修正して、問い合わせに返して、発送して、それで一日終わる。客観的に自社や市場を見る文化や習慣がない。

石田

だから何かわからないことが起こると、「詳しい人にお願いしよう」になってしまう。そこって、業界全体の課題でもあるのかもしれません。上司でECに詳しい人なんてほぼいない会社ばかりですからね。

林

今回の話を最後にまとめます。

まず内製化は「ECの業務をすべて自社でやることではない」と思っています。自社で判断を持つこと、外部をうまく使うこと、自分たちが考えるべきことに集中できる状態を作ること。それが結果として、EC全体の成長につながっていくと考えています。

石田

次回も具体的な事例を交えながら役立つネタをお話していきましょう。

◇◇◇

本連載では、システム開発・事業支援に長年携わってきたボクラブロック代表の林氏と、マーケティングチームの内製化連載を執筆しているECMJ代表の石田氏が、「何を自社で持ち、何を外部に任せるべきか」をテーマに、ECの現場で起きているリアルな課題を掘り下げていきます。

ECマーケティング人財育成は「マーケティングチームの内製化」を支援するコンサルティング会社です。ECMJコンサルタントが社内のECチームに伴走し、EC事業を進めながらEC運営ノウハウをインプットしていきます。詳しくはECMJのホームページをご覧ください。

ボクラブロックは、EC事業者ごとに異なる課題や目指す方向に合わせて施策を設計し、実行・改善まで伴走するEC支援会社です。外部パートナーも活用しながら、売上向上や業務改善につながる取り組みを支援します。詳しくはボクラブロックのホームページをご覧ください。

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