「EC事業を内製化する」――それは必ずしも、「Webサイトやコンテンツの制作スキルを身につける」「リスティング広告の運用を自社内で行う」「自社サイトのシステム改修をECチーム内で解決する」ことを意味しません。ECに関係する専門的な領域は、すでにいち担当者の努力でどうにかなる時代ではなくなっています。
EC事業の内製化を目標に、ECマーケティングに関係するテーマを設定、その判断をするための「考え方」を伝えていきます。22回目の連載は「数値管理表のグレーゾーン」をテーマに解説します。
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- 連載第1回~16回はこちら
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ECのマーケティングは「ヒト・モノ・カネ・情報といった自社のリソース」と「外部のマーケティングソリューション」を組み合わせて、「結果としての売り上げと利益を最大限に伸ばす」ことが求められます。
つまり「EC事業の内製化」とは「業務の内製化」ではなく、「判断の内製化」なのです。ECの戦略・方針、日々のアクション・行動、そしてソリューションの選択が成果につながっているか、これだけは社内のネットショップ担当者でなければ判断ができません。
「強いEC会社を支えるネットショップ担当者を作る人財育成講座」では、ECマーケティング人財育成(ECMJ)が、こうした判断を行えるEC担当者育成に向けたポイントを解説します。
内的要因と外的要因の間にある「グレーゾーン」とは?
ネッタヌ君、今回もよろしくお願いします。
石田さん、こちらこそよろしくお願いします!
前回以降もネッタヌ君には数値管理表を運用してもらっていると思うんだけれど、あれからもちゃんと続けている?
もちろん続けていますよ! ネッタヌもだんだん数値管理表を運用するコツがつかめてきました。
ただ、「理由/特筆事項」のところ。あそこをどう考えていけばいいのかがまだつかめなくて。今日はもう少し深く教えてもらえると助かります。
そうだよね。「数値管理表のなかでも『理由/特筆事項』が一番のポイントになる」と伝えてきたけれど、今日はまさにその核心部分について、より深く話していきたいと思っているよ。
今回のテーマは、内的要因と外的要因の間にある「グレーゾーン」。このグレーゾーンをいかにして見つけるかが大切なんだ。
グレーゾーン!? なんだか怖い響きですけれど、気になります。
「理由/特筆事項」に書けない外的要因があることを押さえておく
グレーゾーンの話に入る前に、まず内的要因と外的要因についておさらいしておこう。ネッタヌ君、内的要因について説明してもらえるかな。
内的要因というのは、「自分たちでコントロールできること」です。ネットショップの運営でいえば、「新商品の発売」「SNSの投稿」「決済方法の追加」など、「自分たちが動くことで起こせる変化」のことですよね。つまり「改善/施策」。
じゃあ次に外的要因はどう?
これは「自分たちではコントロールできないけれど、数字に影響を与える出来事のこと」ことです。市場環境の変化、トレンド、ニュースとか、外部の動き。自分たちが行動したわけじゃないのに、売り上げやセッション数に影響が出ますよね。
そうだね。そして、外的要因には「中長期に影響するもの」と「短期で影響するもの」の2種類がある。
まずは長期的なもの。たとえば、円安が購買行動に影響している、高齢化でシニア向け市場が伸びている、しかし人口減によって市場全体がゆるやかに縮小しているみたいな。こういうのは長いスパンでジワジワ効いてくる要因だよね。
こういうのって、ネットショップ単体の努力じゃどうにもならない部分ですね。
そうだね。「なぜ最近こんな動きがあるんだろう?」と考えるときに、頭の片隅には入れておくといいと思うよ。
じゃあ次、短期的な外的要因ってどんなものがあると思う?
たとえばテレビに出たとか、新聞で紹介されたとか!
自分たちのネットショップの商品が紹介されたら、モロに数字に影響が出るよね。SNSでバズったなんていうのも強烈な短期的な外的要因。
さらに望んでいる話ではないけれど、突発的な事件や天災も短期的な外的要因になり得る。たとえば地震が起きると防災用品のニーズが高まる、こういうのも短期的な外的要因だよね。
ニュースひとつで急に数字が動くことってありますよね。
「理由/特筆事項」には「起こったこと・あったこと」を書くわけだけれど、短期的な外的要因は、書きやすいよね。突発的で数字への影響がはっきり出やすいから。
でも長期的な外的要因は日次の数値管理表に書きにくい。チームとしては、「『理由/特筆事項』に書けない外的要因も存在する」という前提をまず理解しておくといいだろうね。
なるほど。全部が全部「理由/特筆事項」に書けるわけじゃないんですね。
「理由/特筆事項」ではグレーゾーンの出来事を拾う
そして今回のテーマである「グレーゾーン」の話につながっていく。僕はネッタヌ君に「改善/施策=内的要因」とは説明したけれど、「理由/特筆事項=外的要因」とは言ってないんだよね?
はい。今思えばたしかに、そういう風には説明されていなかったです。
そう。「理由/特筆事項」には「ネットショップに起こったこと・あったこと」を書く、と説明している。でも、それは外的要因とは限らないし、外的要因だけでもない。
つまり「理由/特筆事項」には、外的要因の一部は含まれるけれど、外的要因そのものではない。ここがめちゃくちゃ重要なんだ。
石田さんが言いたいこと、なんとなくわかってきたぞ。
「理由/特筆事項」では、内的要因(自分たちがやったこと)でもない、外的要因(自分たちでコントロールできないこと)でもない、その「間」にあるグレーゾーンの出来事を拾うんだ。
「間」にあるグレーゾーンの出来事か‥…。
自分たちが見逃している改善のタネを拾う
まさに前回ネッタヌ君が報告してくれた「きつねショップの商品をハロウィンの仮装で使いたいんだけれど、サイズがいまいちわかりにくい」っていうお客さまの問い合わせ、あれってすごく象徴的なんだよ。
あの問い合わせからネッタヌ君が学んだことってなんだったっけ?
えっと……。ひとつは「商品ページのサイズ感がわかりにくかったんだ」という気付きでした。もっと細かくサイズを書かなきゃいけないと思いましたし、S・M・Lを着たモデルさんの写真なども必要だと感じました。
もうひとつは、「きつねショップの商品が仮装イベントで使われる」という用途があることがわかったので、特集ページを作るという改善アイデアにつながると気付きました。
それなんだよ。お客さまからの問い合わせという「ネットショップに起こったこと・あったこと」から、新しいニーズが見つかったわけ。
これって外的要因ではないよね? テレビで紹介されました、SNSでバズりました、みたいな「自分たちでコントロールできない出来事」ではない。むしろ……。
単に自分たちが今まで気付いていなかっただけ。
その通り。改善につながる取り組みに変換できる「グレーゾーン」の出来事なんだよね。
自分では気付かないけれど、改善のヒントがそこにあったっていう……。たしかに「外的要因」ではないですね、これは。
今日伝えたい大切なポイントがまさにそこ。ネットショップに「起こったこと・あったこと」はすべて改善のヒントになる可能性がある。自分たちが見逃している改善のタネを拾うのが、「理由/特筆事項」の役割なんだよね。
内的要因でも外的要因でもない、「間にある領域」を拾うっていうことなんですね。
お客さまの購買行動やレビューを見て、グレーゾーンに気付こう
そして、このグレーゾーンの気付き方の最初の方法として一番有効なのが、お客さまからの問い合わせ。
今回みたいに、「お客さまが何に不安を感じているか」「何がわかりにくかったのか」「どういう用途で使いたかったのか」。こういった「潜在ニーズ」がそのまま届く瞬間なんだよね。他にはさ、何があると思う?
うううう~~、なかなか難しいですね。
お客さまの「購買行動」を見るといいよ。たとえば、「お客さまが何と何をセットで買っているのか」「どの商品をまとめ買いしているのか」「普段は安い商品が売れるのに、今日はなぜ高い商品が売れたのか」。こういう「普段とは異なる買われ方」が起きたとき、「なんでこの買い方になったのだろう?」と疑問を持つことが大切なんだよね。
たしかに、セット買いやまとめ買いってお客さまの意図が表れる部分ですよね。
もうひとつ大事なのが「レビュー」かなぁ。レビューにはね、ただの満足・不満足だけじゃなくて、「娘の誕生日プレゼントに使いました」「バーベキューのときに友達みんなで使いました」「職場の送別会で渡したら喜ばれました」みたいに、「用途」「目的」「利用シーン」が書かれていることが多い。これがネットショップ発信の次の提案につながるわけだ。
レビューって、「使われ方」の情報が埋まっているんですね!
「お客さまからの問い合わせ(直接的な声)」「購買行動(データでわかる声)」「レビュー(お客さまが残す声)」、この3つは、「理由/特筆事項」を書く材料としてすごく重要。
ここまで話すとわかると思うけれど、数値管理表って一見すると「改善/施策と数字の因果関係」を見ることがメインのように見えるでしょ?
完全にそこばかりに目がいっていました。
実は最大のポイントは、自分たちでは気付けていなかった改善の「タネ」を探すこと、なんだよね。
「理由/特筆事項」は「次の改善の入口」になるわけですね。
後発の中小企業が勝てるのは「時代やトレンドの変化に誰よりも早く気付くこと」
これはこれからマーケティングチームを内製化して、長くEC事業に取り組んでいきたい企業の方にぜひ知ってほしいことなんだけどね。
もうECの業界って25年くらい経って、先行者の会社や大企業が一定レベルの仕組みや売り上げを作ってきている状況だと思うんだよ。そういう「すでに走っている」企業に、後発の中小企業が勝てるポイントは、当然そんなに多くない。
そうですよね。商品力でも価格でも、大手にはなかなか勝てないですし。
価格競争や広告費の勝負で大企業に勝とうとするのはほぼ不可能。でも唯一勝てるところがある。
それが 「時代やトレンドの変化に、誰よりも早く気付くこと」なんだ。明日起こる変化には、まだ誰も気付いていない。その変化をつかんで、マーケティングに反映できたら勝てる可能性が高まるんだ。
「理由/特筆事項」って、まさに「変化に気付く窓」なんですね。正直ただのチェック表かと思っていましたけれど、すごく深いツールですね。
運用することで昨日までなかった「違和感」に気付く。その違和感こそが、後発企業が勝ち組になるチャンスなんだ。
ネッタヌ、きつねショップでこれからもちゃんと続けます!
じゃあ今回はこんなところにしておこうか。次回は少しデータ活用から離れて、もうちょっと優しい話をしていくね。
記事初出時、画像に誤りがありました。修正してお詫び申し上げます。(2026/1/19 9:40)
ECマーケティング人財育成は「マーケティングチームの内製化」を支援するコンサルティング会社です。ECMJコンサルタントが社内のECチームに伴走し、EC事業を進めながらEC運営ノウハウをインプットしていきます。詳しくはECMJのホームページをご覧ください。
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