ワールドとTSIホールディングス、なぜ統合の道を選んだのか? システム・物流・データ活用のシナジーを狙う

ワールドとTSIホールディングスが経営統合へ。売上規模は単純合算で約4511億円となる。ブランドの独自性を守りながらシステム・物流を共通化し、顧客情報の統合でマーケティングも強化。両社が統合を選んだ背景と、狙うシナジーを解説する。

鳥栖 剛[執筆]

7:30

アパレル大手のワールドとTSIホールディングス(TSIHD)は10月14日、共同株式移転による経営統合に合意し、経営統合契約を締結した。2027年3月1日に共同持株会社「インフィニティ・ユナイテッド」を設立する。両社の2026年2月期の売上規模は単純合算で約4511億円、連結従業員数は計1万1202人となる。

ワールドとTSIホールディングス、なぜ統合の道を選んだのか? システム・物流・データ活用のシナジーを狙う
両社の売上規模を単純合算すると約4511億円、連結従業員数は計1万1202人(画像はIR資料から編集部がキャプチャ)

統合後も各ブランドの独自性を維持しながら、情報システムや物流などの事業インフラを共通化する。顧客情報の統合や販売チャネルの相互活用も進め、コスト競争力の強化と事業成長の両立をめざす。

統合の背景にあるのは、店舗・ブランドの供給過剰や調達コストの上昇、顧客接点のデジタル化といった課題に、個社の枠組みを超えて対応する必要性だ。重複する投資やコストを削減し、その原資を新たなブランドや事業、人材へ再投資することで、持続的な成長につなげる構想を描く。

売上規模4500億円超、多様なブランドが集う「第3極」めざす

統合の目的に掲げるのは、ファッション産業における「第3極」の確立だ。

ワールドは、ファッション産業の構造を「第1極」のグローバルSPA、「第2極」のメガリテーラー・メガサプライヤーに分け、それらとは異なる「第3極」を、多様なファッションブランドやサービスが集うプラットフォームと位置付けている。

統合後も多様なブランドやクリエイティブを支えながら、規模を生かせる経営基盤を構築する方針だ。

2026年2月期のワールドの売上収益は2840億1400万円、TSIHDの売上高は1670億8500万円。単純合算すると4510億9900万円となる。ただし、ワールドはIFRS、TSIHDは日本基準を採用しており、この合算額は統合後の連結業績予想ではない。

共同持株会社の体制と株式移転の概要は?

インフィニティ・ユナイテッドの代表取締役会長にはTSIHD社長の下地毅氏、代表取締役社長執行役員にはワールド社長執行役員の鈴木信輝氏が就任する予定だ。

インフィニティ・ユナイテッドは東証プライム市場へのテクニカル上場を予定しており、ワールドとTSIHDは完全子会社となる。両社は新会社の上場に先立ち、2027年2月25日をもってそれぞれ上場廃止となる予定だ。

株式移転では、ワールド株1株につき新会社株1株、TSIHD株1株につき新会社株0.8株を割り当てる予定。両社の株主は、統合後、新会社の株主となる。なお、統合の実施には、両社の株主総会や関係当局の承認などが必要となる。

ワールドとTSIホールディングス、なぜ統合の道を選んだのか? システム・物流・データ活用のシナジーを狙う
新会社はテクニカル上場し、ワールドとTSIHDは上場廃止の予定(画像はIR資料から編集部がキャプチャ)

なぜ統合するのか――供給過剰とコスト上昇に、個社を超えて対応

両社は国内ファッション市場について、店舗やブランドの供給過剰が10年以上続き、ブランド価値を十分に生かせないまま、事業の継続が難しくなるケースが増えていると指摘する。

ブランドが過剰に存在することは、店舗やECサイト、物流、システム、在庫などの重複につながり、産業全体のコストを構造的に押し上げているという。さらに、地政学リスクや通貨安に伴う調達コストの上昇、国内人口の減少、インフレによるコスト増への対応も課題に挙げる。

顧客ニーズや購買行動の変化も、統合を検討した背景の1つだ。デジタルを介した顧客接点が増えるなか、変化に対応したグローバルSPAやメガリテーラー、新たなクリエイティブやビジネスモデルを持つ企業が台頭。一方、歴史ある企業の多くは、こうした変化に十分対応できていないと分析している。

また、大量生産・大量値引き・大量廃棄を前提としたビジネスモデルの持続性にも限界が近づいていると指摘。再生・再活用を前提とする循環型ビジネスモデルへの転換には、相応の資本規模と投資余力が必要だとしている。

両社は2026年6月ごろから、経営統合がこうした課題の解決と企業価値の向上につながるかという観点で協議を続けてきたという。

ブランドの重複が少ない両社で、創造力と事業基盤を補完

統合相手としての相性を支えるのが、事業・ブランドの相互補完性だ。

両社によると、ブランドポートフォリオは顧客層や販路、商材、価格帯などの重複が少ない。TSIグループが持つストリートやアメカジなどのブランド創造力と、ワールドグループが持つ外販実績のあるプラットフォームや資源を循環させるサーキュラー事業などの基盤は、互いを補完する関係にあるという。

統合後はブランドを一律に運営するのではなく、それぞれの創造性や独自性を維持したうえで、経営資源や事業基盤を融合する。ブランドごとの個性を生かしながら、共通化できる業務でスケールメリットを追求する考えだ。

システム・物流を共通化し、購買・決済の一体化も進める

コスト面では、情報システム、物流、コーポレート機能を共通の事業インフラとして統合・高度化する方針を示した。テクノロジーを活用し、両社に重複する機能や個別運用を見直すことで、スケールメリットを追求する。

対象は本部機能にとどまらない。商品の生産・調達から物流、販売まで、バリューチェーンを支える基盤を共通化し、相互利用することで、コスト競争力の強化と成長機会の拡大を図る。購買や決済などの機能も一体化し、規模を生かしたコスト削減を見込む。

顧客情報の統合でマーケティングを拡充、OMOや販路開発も連携

売上成長に向けては、両社のブランド・事業が保有する顧客情報を統合し、デジタルマーケティングを拡充する。顧客接点を相互に補完し、店舗とオンラインを融合するOMOを前提とした販路戦略を進化させる方針だ。

商品コンテンツの相互供給や、地方・海外を含む販売チャネルの共同開発も進める。両社が持つ顧客接点や販路を通じて、ブランドや商品の魅力を新たな顧客層に届け、マーチャンダイジング戦略の拡張と新たな成長機会の創出をめざす。

人材やノウハウの相互活用も進める。TSIグループの個性あるブランドとクリエイティブに加え、ワールドグループが持つ多様なブランドやB2B・サーキュラー事業の運営ノウハウ、人材を一体的に活用し、事業成長と人材開発につなげる。

コスト削減で生み出した原資を、成長投資と人材へ

両社は、コスト最適化によって生み出した原資を、M&Aや海外展開、サーキュラー領域などへの投資に振り向ける方針だ。投下資本利益率を追求しながら長期的な競争力を蓄積するため、参入・撤退基準を明確にし、規律ある投資を進めるとしている。

人的資本への投資も拡充する。個人の専門性やクリエイティブがブランド価値を左右するファッション産業において、人材の質・量と組織能力を高め、長期的な競争力につなげる考えだ。

今回の統合で焦点となるのは、ブランドの多様性を維持しながら、それを支えるシステム・物流・データ活用をどこまで共通化できるかという点だ。重複コストの削減を成長投資につなげ、具体的な施策と成果に落とし込めるかが問われる。

共同持株会社の経営方針や計画、業績見通しなどは、今後両社で検討し、確定次第公表する予定としている。

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