【海外事例4選】BtoBコマースの新潮流とは? マーケットプレイス活用と「エージェンティックコマース」への備え
海外の先進的なBtoB企業の4事例をもとに、マーケットプレイスの活用法と、来たるエージェンティックコマース時代に向けて企業が取り組むべきポイントを解説
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BtoBの商取引は今、構造的な転換点を迎えている。デジタルチャネルやECはもはやBtoCにとどまらず、あらゆる業界の取引の仕組み自体を塗り替えつつある。そんななか、デジタルコマースのエコシステムの立ち上げと拡張の支援を各国企業に提供しているMiraklでは、導入する企業の成功事例が数多く現れてきている。
Miraklの日本法人でシニアマーケティングマネージャーを務める内藤誓力良氏が、グローバル先進企業の事例をもとに、BtoBコマースの最前線を業界別・ユースケース別に解説。さらに、AIエージェントが調達や販売に介入する「エージェンティックコマース」の時代を見据え、企業が経営アジェンダとして取り組むべきポイントを紹介する。

BtoBコマースの新潮流-Mirakl導入企業の4つのユースケース
マーケットプレイスのソフトウェアを提供するMiraklは、約14年前に創業した、フレンチテックのユニコーン企業を代表する1社だ。パリに本社を置き、日本法人は2022年5月に設立した。現在、世界で展開するマーケットプレイスの数は450以上、そのなかで商品を販売する販売事業者数は10万社以上、年間取引総額は約150億ドルにのぼる。
マーケットプレイスと聞くと一般的にはBtoCのイメージが大きいが、グローバルではBtoBでの事例も少なくないという。オンラインのプラットフォーム上で、サプライヤーやディストリビューターなどの販売事業者が顧客企業に商品を販売し、プラットフォーム運営企業が販売事業者から手数料を徴収するという仕組みが、BtoBコマースにおけるプラットフォームビジネスの基本的な形となっている。
ただ、一口にBtoBコマースと言っても、業界、業種、業態などによって、BtoBの場合は登場人物やお金の流れが違ってくる。ここからは、Miraklのマーケットプレイスを活用するBtoB企業を、①専門商社・卸売業 ②製造業 ③消費財・メーカー ④複合事業体の4つに分けて、それぞれのユースケースを紹介していく。
ユースケース① 専門商社・卸売業
サプライヤーとバイヤーの間に入って商品を卸す専門商社や卸売業者にとって、取扱品目は多い方が良いが、品目を増やしたときの在庫リスクや利益率など、さまざまな都合から簡単には品目を増やせないというジレンマがある。
こうしたジレンマを解決するために、北米や欧州のBtoB企業ではマーケットプレイスを活用する取り組みが盛んになってきているという。すなわち、物理的に倉庫の中に商品を仕入れるのではなく、デジタルプラットフォームを作り、そこにこれまで取り扱いの難しかったサプライヤーの品目を拡充していくという取り組みだ。
品目拡充により、「この商品がオンラインで購入できるなら、卸売業者を1社にまとめよう」といったバイヤー側の動きが期待できるほか、新規顧客となるバイヤーの獲得も見込まれる。加えて、マーケットプレイスの仕組みであれば、在庫リスクなく品目が拡充でき、さらにはサプライヤーからの手数料の収益も得られる。
Miraklのマーケットプレイスを活用する企業のうち、専門商社・卸売業の領域で北米最大級の成功事例の1つとしてあげられるのが、飲食店向け卸売業のSyscoだ。小規模レストランから大手食品会社にまで食材を卸している商社のSyscoは、コロナ禍の2021年に全社戦略「Recipe for Growth(成長のためのレシピ)」の投資として、マーケットプレイスへ参入した。
これまで取り扱ってきた食品群に加え、トイレットペーパーや清掃用具など、飲食店で必要な非食品のカテゴリの取り扱いも始めることが、マーケットプレイスへ参入する目的だった。参入後9か月間で非食品カテゴリに1万5000品目以上を追加した。「食品と非食品をマーケットプレイスで取り扱い始めたおかげで、Syscoはものすごい勢いで成長し続けている」(内藤氏)という。
Syscoのほかにも、美容、医薬品、電気設備など、各国のさまざまな領域でマーケットプレイス活用の実績が現れており、国内企業からの引き合いも増えている状況だという。
ユースケース② 製造業
昨今の半導体不足の問題や、中国の台頭などの影響で、北米では新規機器の利益率が減少し、多くのメーカーが苦戦を強いられている。そんな状況のなか、利益率が高く顧客も安定しているアフターセールスを重視する動きが広がっている。
アフターセールスとは保守やメンテナンス、部品のリプレイス、機器そのものの交換といったサービスを意味するが、アフターセールスの内訳を見ると、特に部品系では65%以上を非純正部品が占めると言われている。
流通の構図を簡潔に表すと、メーカーがモノを作り、その大半は代理店やディーラーを介してバイヤーに届く流れとなる。その後、保守やメンテナンスが必要になると、利用者はメーカーではなくバイヤーに問い合わせをするため、純正のスペアパーツの売り上げは30%~40%にとどまり、多くは非純正や代替部品でメンテナンスが行われる。メーカーにとっては、代理店やディーラーがいるおかげでモノが売れる反面、アフターセールスの部分は見えにくく取りづらい市場となっている。
メーカーがアフターセールスで成果を上げにくい主な要因は、次の3つが考えられる。
① 在庫の不透明性
バイヤーから連絡が行く先がメーカーではないケースが多いため、今どこに在庫があるのかがわからず、また、代理店がどのくらい在庫を抱えているのかも把握できない。
② アナログな発注プロセス
今なおいろいろなタッチプロセスでアナログな部分がまだまだ多く残っているため、データでの一元管理や見える化がしにくい不便さが避けられない。
③ 顧客データの欠如
商流が複雑だったり、2層、3層になったりしているため、最後に購入しているバイヤーやエンドユーザーが一体いつどの機器を購入し、今はどういうフェーズなのかがメーカー側で捉えにくい。
これらは決して日本だけの問題ではない。特に北米などではDXやデジタル化を推進する動きが顕著になっており、Miraklのソリューションで先進的な取り組みを始めるメーカーが増えている。(内藤氏)
Mirakl マーケティングチーム
シニアマーケティングマネージャー
内藤誓力良氏
BtoBのバイヤーも、実はデジタル化に対して肯定的な声が多い。Digital Commerce 360が発表した『2024 B2B Market and Customer Experience Report』によると、70%がオンラインでの注文を希望しているのだという。しかし、そのうち「オンラインでの体験に満足している」と答えた人は36%にとどまり、「今提供されているオンラインシステムは使いにくい」といった声はまだまだ多いのが現状だ。
一方で、中間業者の代理店からすると、メーカーが自分たちを飛び越えてバイヤーと直接やり取りすると、「自分たちのビジネスに悪影響を及ぼすからやめてほしい」と思われて当然だ。では、製造業のマーケットプレイスはどのようにすればいいのだろうか。フォークリフトの製造販売で北米トップクラスのToyota Material Handling USA, Inc.(トヨタマテリアルハンドリングUSA社)の事例を紹介する。
トヨタマテリアルハンドリングUSA社は、自社で認定した代理店やディーラーの囲い込みをして1つのプラットフォームを作り、そこをオンラインで純正部品を販売する唯一の窓口とした。認定した代理店やディーラーのみがプラットフォーム上で部品やパーツを出品し、販売してもらう仕組みだ。わかりやすさと安心の純正部品が好評を得て、新規のバイヤーからも多くの注文が入るようになり、ビジネスとして大きな成果を挙げられた。現在、65社以上のディーラーが参加しており、成約率もかなり高い水準で推移しているという。
前述したように、代理店やディーラーとしてはメーカーがバイヤーと直接やり取りされるのは嫌なものだが、内藤氏によると、協力体制を築けるやり方は大きく2つあるという。
まず、バイヤーは所在地などでテリトリーが決まっており、それに応じて代理店やディーラーも担当のテリトリーが決まっている場合がほとんどなので、これをオンラインでも実現するのが1つ目の方法だ。プラットフォーム上でバイヤーが自社の所在地を入れると、販売を担当する代理店やディーラーが自動的に割り振られ、在庫状況も確認できる仕組みとする。トヨタマテリアルハンドリングUSA社はこの方法を採用している。
もう1つの方法は、担当のテリトリーは気にせず、バイヤーが欲しい商品の在庫をプラットフォーム上にすべて出すことだ。代理店やディーラーに入力してもらった情報をフェアに公開し、バイヤーからの評価なども公開していく。この方法は、よりオープンで競争環境が激しくなるが、こちらのほうが効果的に協力体制を築けることもあるという。
ユースケース③ 消費財・メーカー
製造業と同様に、消費財の領域でも小規模なディーラーなどが多く存在し、アナログな部分も多く残っているため、販管費が高くなりやすい。スイスに拠点を持つCoca-Cola HBCは、「HoReCa(ホレカ=ホテル、レストラン、カフェ)」向けのプラットフォームを構築し、ディストリビューターや第三者のセラーに、このプラットフォーム上での販売を許可している。
ディストリビューターや代理店はエリアごとのテリトリー契約はあるが、バイヤーである飲食店が欲しいと望んでいる商品は、コカ・コーラブランド以外の競合ブランドの商品もプラットフォームに載せて販売していることが特長だ。BtoCではなくBtoBだからこそできる思い切った施策で、大きな成果を収めているという。
製造業の事例で紹介したようなアフターセールスのほうに振り切るやり方もあれば、オープンで競争環境の大きいプラットフォームを構築し、顧客にバリューを出すようなやり方もあることがわかる。
ユースケース④ 複合事業体
シナジーの創出をめざして、合弁やM&Aによってグループ会社を増やす企業が、国内でも増えている。しかし、グループ化後の各社間の連携や、顧客への提供価値の統合に悩む企業は少なくない。顧客企業の視点に立てば、マーケットプレイスを活用することで、こうした課題を改善できる余地は大きい。
ホールディングスの場合、取り扱う製品群やサービス、対象にしている顧客企業が被っていることも珍しくない。顧客企業からすると、同じホールディングス傘下の複数の会社と取り引きしているにもかかわらず、各社で製品のカタログが違ったり、価格や購買条件、プロセスまでも異なったりしていれば、「なぜ同じグループ会社なのに、1つに統合していないのか?」という不満につながりかねない。
特にM&Aでグループになった子会社は、ERPをはじめシステムがそれぞれ異なっていることが多い。グループ会社のERP統合に本腰を入れて取り組む企業も中にはあるが、すべてを統合するには莫大なコストや労力を要する。Miraklの導入企業ではERPなどを変えずに、データ連携だけで統合型のプラットフォームを構築し、顧客対応を迅速に進化させる事例が次々と現れている。
英国に本社を置く商社Bunzlは、この20年間で世界各国の220社以上を買収し、売上高約2.2兆円にまで成長した。しかし、買収先各社のシステムが統一されておらず、カタログ、発注プロセス、価格、請求書のフォーマットなどがそれぞれ異なるという課題を抱えていた。
この課題を解決するため、Bunzlはプラットフォーム「BunzlOne(バンズルワン)」をリリースした。グループ各社のシステムを変えることなく、データを吸い上げて統合するプラットフォームで、顧客企業はBunzlグループのどの会社との取引であっても、プラットフォーム上でやり取りできるようになっている。
Bunzlのデジタル分野の責任者で、「BunzlOne」の創設者であるFrank Daamen氏は、「One catalog. One order. One invoice. (商品カタログ、注文、請求を1つに統合し、購買に関わる一連の業務を1つのプラットフォーム上で完結させる)」という構想を掲げていた。その構想が、BunzlOneによって実現したと言えるのではないだろうか。(内藤氏)
4つのユースケースから見えた共通課題は 「カタログデータの管理」と「コミュニケーション」
ここまでBtoBプラットフォームの4つのユースケースを紹介したように、業界や企業のニーズに応じて取り組み方やねらいは異なる。しかし、必ずぶつかる共通の課題は「カタログデータの管理」と「コミュニケーション」だと内藤氏は解説する。
・カタログデータの管理
たとえばBtoCの場合、消費者がECサイトで靴を買うときは色やサイズ、ブランドなどを見て比較検討するが、BtoBで何か製品を購入する場合は、スペックや型番、後継品や保証期間など、1つの小さな製品を買うだけでも非常に多くの情報が必要となる。BtoCとBtoBでは同じトランザクションでも、製品データの深さがまったく異なると言える。
・コミュニケーション
マニュアル中心のプロセスがまだ多く、FAX、電話、LINE、メールなど、多岐にわたる既存のプロセスを統合しようとすると混乱しかねない。
加えて、BtoB領域における商品データのフォーマットは多岐にわたり、世界中に数百種類以上も乱立していると言われている。一般的なExcel、CSV、XMLなどに限らず、各業界のなかで決まっているフォーマットも複数ある。それらを1つのプラットフォームに載せてビジネスを始めようとすると、フォーマットの問題をどうするかという話も避けて通れない。
4つのユースケースで事例を紹介した各社は、形式もデータの網羅性もバラバラだったデータを、手作業で突合・標準化して同じフォーマットへ集約し、プラットフォームに載せるプロジェクトに数年前から取り組んできたという。しかし、カタログ登録に膨大な人の手作業を要するとなると、ビジネス拡大の大きな障壁になる。Miraklはこうした課題を解決するための新機能「Catalog Transformer(カタログトランスフォーマー)」をグローバルで展開しており、日本でも展開に向けた準備が進められている。
手作業とコミュニケーションコストを軽減する新機能「Catalog Transformer」
「Catalog Transformer」はMiraklのAIによるカタログ管理機能で、商品情報のファイルをアップロードするだけで、出品・販売するプラットフォームのフォーマットに合わせてAIが自動で商品情報の変換をサポートする。また、入力した商品情報の最適化もAIが行う。これにより、出品する側もプラットフォーム運営企業側もマニュアル作業を飛躍的に削減することができる。他にもカテゴリの自動分類、自動承認ルールの設定、また将来的には文章から画像を作成したり、画像から文章を作成したりといった機能が利用できる見込みだ。
エージェンティックコマース時代への備え
AIエージェント同士が消費者や購買者に代わって検索したり行動したりするデジタルコマースの形態「エージェンティックコマース」は、消費行動に劇的な変化をもたらすと言われている。2028年にはLLM(大規模言語モデル)のトラフィックが従来の検索トラフィックを上回ると言われており、情報検索や消費行動が変わる未来が確実に近づいている。
もっとも、消費者としてLLMを日常的に使用するほどの動きが、BtoBの購買で一足飛びに起こることはないというのがMiraklの見立てだ。理由は、
①AI時代に対応していないデータの設計
②各LLMとの技術連携の難易度
③分断される顧客の購買体験
などが、高い壁になりそうだと捉えているからだ。
一例をあげれば、OpenAIは2025年、「ChatGPT」に商品の情報収集や比較を支援する「Shopping research」を導入した。同年9月には「ChatGPT」上で商品の購入まで進められる「Instant Checkout」を発表。一時は「ChatGPT」内で買い物が完結する流れが進むように見えたが、2026年3月には、OpenAIが「Instant Checkout」を小売・サービス事業者のアプリと連携する方向へ移行すると説明した。
コマースにおいては、単に商品情報を提示すればよいわけではない。写真と型番が正しく一致しているか、在庫は確保されているか、納期に間に合うか、希望するロット数で発注した場合に契約通りの価格が適用されるかなど、確認すべき事項は多岐にわたる。顧客から不評を買えば離反につながるため、BtoBではエージェンティックコマースへ一足飛びに移行するのは容易ではないだろう。(内藤氏)
ただし、いつかはエージェンティックコマース時代がやってくる。では、その時代にどのように備えておくべきなのだろうか。
AIエージェントとAIエージェント同士が会話をして、必要な購入やトランザクションの処理をしてくれるためには、お互いに必要な情報がそろっていなければならない。そのための仕組みが、上図③の「エージェントカタログフィード」だ。ただし、③を機能させるには、その前提として②の「リッチなメタデータ」が必要であり、さらにその土台となる①の「充実かつ整った商品情報」が欠かせない。
内藤氏は「③や②から先に着手しても砂上の楼閣になってしまうため、とにもかくにも①の充実かつ整った商品情報が重要だ。商品情報は質も量も大事だ」と語る。サプライヤーらのデータもプラットフォーム上に取り込んで品ぞろえを広げると同時に、AIも活用しながらそれらを整えることが、結果的に②や③のレイヤーでも効果を発揮してくる。
いつか必須になる「エージェントカタログフィード」において、いち早く先行者利益が得られるために、北米や欧州の企業ではこうした取り組みや動きがBtoBでも盛んに議論されているという。
二の足を踏む企業に向けて、内藤氏は最後に、取り組みを経験した企業の声を紹介した。
2026年6月に開催されたMiraklニューヨークサミットでは、発電設備などを手がけるGE Vernova社のBernardo Bandeira氏が、同社の取り組みについて次のように語っていた。
「CFOが4人交代し、その1人ひとりを説得しなければ、取り組みを始めることができませんでした。しかし、その困難を乗り越えてでも進める価値は十分にありました。立ち上げは決して容易ではありませんでしたが、今では北米市場で競合他社に対する大きな優位性を築くことができました。そして、いよいよグローバル展開に踏み出す時がきたのです」。
BtoBコマースが新たなフェーズへと変わりつつあるなかで、本腰を入れて踏み出すかどうかの判断が、ますます重要になってきている。自社ではどんなプラットフォームを構築できるのか、ぜひMiraklまで気軽に相談してほしい。(内藤氏)


