認知施策を「売り上げから遠い施策」で終わらせない! 限られた予算で、指名検索を伸ばして売り上げにつなげる5つのポイント
英国発D2Cブランド「Tuiss(チューイッシュ)」の日本国内マーケティング担当者が、BtoBマーケティングと広告代理店という異業種からキャリアチェンジした際に「何が必要だったのか」「前職の強みを生かせたポイント」などを解説します【第3回】
8:00
英国生まれのオーダーメイドのブラインド・カーテンのD2Cブランド「Tuiss(チューイッシュ)」で、日本市場のマーケティングを担当している虻川です。ベンダー・代理店の立場で自社のBtoBマーケティングに携わった後、D2Cビジネス企業に転職して本格的に向き合ったテーマが「『チューイッシュ』をどうやって多くの人に知ってもらうか」という認知施策。多くの企業が抱えるペインポイントですよね。今回は認知施策で意識している5つのポイントを解説します。
小規模ブランドが「認知も売り上げも高める」方法とは?
過去にも展示会への出展、調査レポートなどのコンテンツで認知拡大をめざしてきましたが、ターゲットとなる企業や担当者はある程度絞れます。一方で、D2Cでは購入してくれる人の母数が圧倒的に多く、商品を購入してくれる人の生活スタイルや検討タイミングはさまざまです。幅広い人にメッセージを届け、その投資を売り上げにつながる形で検証することは、私にとって新しい挑戦でした。
D2Cビジネスは顧客獲得コストを調整しやすいという特性があり、「チューイッシュ」はこれまで獲得施策に重点を置いてきました。しかし、中長期で事業を伸ばすには今ある購入需要に応えるだけでは十分ではありません。「カーテンではなくブラインド」「既製品ではなくオーダーメイド」という選択肢そのものへの関心を高め、そのなかで「チューイッシュ」を候補に入れてもらう必要があります。
ただ、小規模なブランドにとって、認知に振り切った予算を確保するのは簡単ではありません。そこで私たちは、認知施策を獲得施策と切り離さず「認知も売り上げも高める」方法を試し、指名検索を通じて検証することにしました。
1. まず、自社が取りたい認知を定義する
認知施策を考えるとき、最初からテレビやSNS、CTVなど「どの媒体に出稿するか」を考えると、打ち手が迷いやすくなってしまいます。先に決めるべきなことは、「どんな人に」「どのように認知されたいか」ではないでしょうか。
認知というのは、調査なので計測時の定義はありますが、「ブランドをどのように知ってもらいたいか」というイメージだとより具体的になります。たとえば「まだ自社を知らない人に、まずはブランド名を知ってもらう」「購入を考え始めたときに、自社を候補として知ってもらう」などです。
「チューイッシュ」の場合は、次の2つを同時に満たす、少しよくばりな認知をめざしています。
ブラインドという商品を窓周りの選択肢として認識する
日本では窓装飾にカーテンを使う人が多く、ブラインドといえば「オフィスにあるアルミブラインド」というイメージが強いです。ただ、私たちが取り扱う製品は、ロールスクリーン、ハニカムシェード、ウッドブラインド、バーチカルブラインドなど、用途も機能も異なる商品があります。しかし、お客さまにとっては、「カーテン以外にもそんなに種類があるのか」「そのなかから自分の暮らしに合うものを選べるか」から始まることも少なくありません。
また、ブラインドという製品カテゴリーでの認知系のプロモーションは、市場全体を見ても多くありません。だからこそ「チューイッシュ」が、「窓ぴったりサイズのブラインドをつけると、部屋がおしゃれに見える」、賃貸住宅に住む人には「穴を開けずに取り付けられる」、暑さや寒さに悩む人には「断熱性が高いという選択肢がある」といった生活に近い入り口から、ブラインドの可能性を伝えていく必要があると考えています。
ブラインドを選ぶ際に「チューイッシュ」を考えてもらう
すでにブラインドを検討している人には「賃貸対応の商品も、機能性の高い商品も、デザイン性のある商品もそろう『チューイッシュ』というブランドがある」という形で認知してほしい。カテゴリーへの関心を高めながら、そのなかで「チューイッシュ」を選択肢に入れてもらうことが、私たちの認知施策の役割です。
一度で両方を完璧に実現することは難しいですが、認知の母数を広げることで、一定の割合でブラインドに関心を持ち、そのまま「チューイッシュ」を選ぶ人が増える――そう考えて取り組んでいます。そして、その際に重要なのが「きちんと自社内でどんな認知・想起を得たいか定義しておくこと」だと考えています。
このワークでは、まずお客さまが商品を考え始める場面を書き出します。そのうえで、その瞬間に自社をどのような選択肢として思い出してほしいかを言葉にします。そうすることで、「自社名を知ってもらう」とだけ定義するよりも、次に作るべきコンテンツや動画の中身まで具体化しやすくなります。
2. ボトムアップで、どのくらいの認知拡大が必要かを確認する
第1回で紹介した「ボトムアッププランニング」では、広告、オーガニック検索、CRMなど、各チャネルの実績と想定パフォーマンスを基に売り上げを積み上げます。各施策が自然に伸びる分と、改善によって上積みできる分を分けて考えるため、目標との差分と、その差分を埋める打ち手が見えてきます。
獲得広告の予算を増やせば短期の売り上げは伸ばせますが、ROAS(広告費用対効果)の改善には限界があります。一方で、SEOやCRMは中長期の資産になる重要な施策ですが、成果が表れるまでに時間がかかります。「チューイッシュ」でも、既存施策の改善だけでは届かない差分をどう埋めるか考えるなかで、認知を広げ、将来のブランド検索を増やす必要性が見えてきました。
また、私たちが中長期的にめざす事業規模を考えると、「既存のブラインド購入需要のなかでシェアを高めるだけでは不十分で、市場全体を広げていく必要がある」という結論に至りました。
ただし、認知施策を中長期の投資としてだけ扱うと、特にD2Cビジネスでは重要な投資対効果が合わず、予算を確保するのが難しくなります。大切なのは「とりあえず認知広告を出す」ことではなく、年度目標の差分に対して、認知によってどれだけブランド検索を増やし、どれだけの売り上げを上積みするのかを、ある程度でも目標として定量的に置くことです。
認知施策も年間の売上計画を達成するための1つの打ち手として位置づけることで、社内での理解を得ながら認知施策に予算を確保することができていると考えています。
3. ブランドクエリを起点に、認知と売り上げを考える
認知施策では、媒体によって、GRP(延べ視聴率)、CPM(インプレッション単価)、リーチ、視聴単価、完全視聴率など、多くの指標を追えます。これらは、広告を効率よく配信できたかを見るうえで重要ですが、本当に知りたいのは、「広告が届いた結果、ブランドを知る人が増えて、売り上げにつながったかどうか」です。
そのため私たちは、認知施策全体を横断する指標として、ブランドクエリ、つまり「Tuiss」を含む検索数を追っています。
認知施策には、「ブランドリフト調査(ブランド広告に接触したユーザーと非接触ユーザーに同じ調査を実施し、結果を比較することで広告の効果を測定する方法)」や「MMM(マーケティング・ミックス・モデリング:さまざまなマーケティング活動が、売り上げなどにどのくらい貢献したかを統計的な手法を用いて分析する方法)」などで精緻に効果を測る方法もありますが、コストやリソースの面でそこまでは手が出せないのが現状です。そのため、売り上げとある程度の相関が見られる指標を基に、その前年同月比の伸びが、売上目標から逆算した水準に達しているかを確認することが大事だと考えました。
大まかな算出方法としては、「ボトムアッププランニング」から逆算したブランドクエリ経由の目標売上を立て、そこから必要なサイト流入数、それをカバーする認知系広告施策のインプレッションとCPMを算出し、大まかな広告費を試算しています。
もちろん、この計算だけで正しい予算が決まるわけではありません。検索率や広告の効果は、クリエイティブ、商材、配信面、季節によって変わります。また、ブランドクエリが増えたからといって、そのすべてを動画広告などの認知施策だけの成果だとは言い切れません。PR、セール、新商品の発売といったその他の要因も検索数に影響を与えるからです。
そのため、現在は認知施策以外も含めたすべての媒体の出稿額、クリエイティブ、セール・プロモーションなどの要素を並べ、そのデータを元にパフォーマンスを確認しています。最初から完璧を求めるのではなく、購入件数が目標に対してどう伸びているか、想定と比べてどうかを確認しながら計画を更新し、細かな調整を行っていきます。
4. インフルエンサー施策は、顧客理解を深めるチャネルとして
「チューイッシュ」では、認知施策の一環としてSNS上でのインフルエンサーとのコラボレーションを重要視しています。拡散やバズによるリーチ数も重要ですが、消費者目線に近いインフルエンサーがどの商品を選び、どのような点を魅力に感じてくれているか、そしてSNSのオーディエンスがどのような訴求に共感するかを大事にしています。
たとえば、私たちが商品の断熱性を強みだと考えていても、投稿への反応が大きいのは「賃貸でも穴を開けずに設置できること」かもしれません。逆に、社内では大きく扱っていなかった商品の魅力が、生活者の言葉で見つかることもあります。
そのため、私自身も日頃からSNSの投稿を見て「この部屋ならこの商品を使ってもらえそうだ」と感じた人に直接声をかけています。時間はかかりますが、商材との親和性が高い人と継続的に取り組めること、次の広告や動画に生かせる顧客理解が得られることに価値を感じています。
5. 動画で、商品の魅力を30秒で伝える
動画広告では、静止画やテキストだけでは伝えにくい商品の魅力を、短時間でわかりやすく届けることを意識しています。人気が高まっている商品とその特長、インフルエンサーが選びやすい商品、SNSで反応の良かった訴求内容を元に、30秒程度で商品の魅力が伝わる動画を制作しています。
最初から1本の正解をつくるのではなく、複数の動画を比較的低予算で制作・配信し、パフォーマンスの良いものに予算を寄せます。海外で成果が出たクリエイティブを流用するだけでなく、日本の住環境や賃貸住宅ならではの不安、インフルエンサーやお客さまの反応を踏まえて、日本市場で響く形を探っています。
ちなみに、認知を目的とする動画広告でも、「チューイッシュ」ではYouTubeをコンバージョン最大化で運用することがあります。購入につながる効率を確認しながら、ブランドクエリの変化も追うためです。認知専用の大きな予算を持ちにくい中小D2Cにとって、獲得を追いながら認知も育てる現実的な方法の1つだと考えています。
動画をつくる際は、「今伸びている商品」「その商品の特長」「生活者の反応が良かった訴求」を書き出し、次に試す動画の内容を整理します。最初から完成形をめざすのではなく、検証するクリエイティブの仮説を決めるためのシートです。
制作会社に依頼する際は詳細なオリエンシートを作成することになりますが、まずは社内向けに訴求したい点をしっかり固め、認識をそろえるのが重要だと考えています。
おわりに
私が今チャレンジしている状況下では、認知施策であっても売り上げにつながる成果を追いながら、その実績を元に次の予算を確保していく。そして、中長期的に将来の購入検討者と市場全体を広げていく。中堅・中小規模のD2Cにとって、その両方を意識する必要があると感じています。
ここで紹介した内容は、私が「チューイッシュ」で実務に取り組むなかで、今のところ有効だと感じている考え方です。すべての商材や事業に当てはまるセオリーではありませんし、私たち自身も試行錯誤の途中です。ただ、完璧な計測環境や正解を待つのではなく、まずは売上目標から仮説を立て、認知によってどれだけの上積みをめざすのかを定量的に考えてみることはできると思います。
また、これは認知施策に限りません。自分たちの手元で確認できる指標を1つ置き、施策の前後や前年同月比でどう変化したかを見ながら試す。実績との差分を次の仮説に反映する。この積み重ねが、少人数のチームでもマーケティングを前に進める力になるのではないでしょうか。


