大手ECモールの業績&取り組み&戦略まとめ

「売り上げは追うな、お客さまを追え」「広告はお客さまとの関係を作る」――澤井珈琲と「タマチャンショップ」が語った成長の原則

「楽天NATIONS」10周年イベントで、地方発の有力2店舗が「選ばれ続ける店づくり」の実践を語った。澤井珈琲と「タマチャンショップ」は、顧客との関係を深め、体験価値を磨き続けることの重要性を説いた

鳥栖 剛[執筆]

8:00

地方発のEC企業が、「楽天市場」で成長を続けるために必要なことは何だろうか? 楽天グループが実施した「楽天市場」出店店舗向け育成プログラム「楽天NATIONS」の10周年記念イベントに、鳥取県境港市発の「澤井珈琲Beans&Leaf」を展開する澤井珈琲の澤井理憲取締役社長と、宮崎県都城市を拠点に「タマチャンショップ」を運営する九南サービスの田中耕太郎社長が登壇。「ユーザーと一緒に成長する! これからも選ばれる店舗づくり」と題して、両者の実践知――売上拡大、ブランディング、顧客との関係づくりを共有した。

講演する澤井珈琲の澤井理憲取締役社長(写真中央左)と九南サービスの田中耕太郎社長(写真中央右)
講演する澤井珈琲の澤井理憲取締役社長(写真中央左)と九南サービスの田中耕太郎社長(写真中央右)

澤井珈琲と「タマチャンショップ」に共通しているのは、都市部の有利な立地や潤沢な初期資金があったわけではないことだ。地方という条件のなかで自社の強みを見極め、顧客との接点を積み重ねながら成長してきた。その過程で見えてきたのが、「安さで勝つ」のではなく、「選ばれる理由を作る」ことの重要性だった。

澤井珈琲、「広告はお客さまとの関係を作るもの」

澤井珈琲の澤井氏は、2002年の「楽天市場」出店当初を「どん底」と振り返った。親から出してもらえたのは出店費用の30万円だけ。パソコンも友人から借りてスタートした。当初は「澤井珈琲」を名乗ることも許可が下りなかったという。出店後45日間は売り上げがゼロ。「初めて注文が入った顧客の名前は、今でも覚えている」(澤井氏)。

その後、2005年ごろまで月商200万円前後で伸び悩んでいたという。そんな時期に転機となったのが、給料3か月分に相当する60万円の広告出稿だった。当時の澤井珈琲にとって大きな投資だったが、コーヒー器具を組み合わせたセット商品で約500万円を売り上げ、初めてランキング1位を獲得したという。

澤井珈琲は60万円の広告出稿から活路を見出した(画像は講演スライドより)
澤井珈琲は60万円の広告出稿から活路を見出した(画像は講演スライドより)

そして重要だったのが、その後のメルマガ配信だ。従来1%程度だった購入率が10%前後まで上昇。ここで澤井氏は、広告を単発の売り上げを作るためだけのものではなく、新規顧客を獲得し、その後の関係づくりにつなげる投資だと学んだという。

広告は売り上げを作るものではなく、新たなお客さまとの関係を作るものだとわかった。メルマガで関係を深めていくことが大事だった。(澤井珈琲 澤井氏)

現在、澤井珈琲のメルマガとLINEの登録者は合計100万人を超える。創業地である鳥取県の人口を大きく上回る規模の顧客接点を持つまでに成長した。

価格ではなく「中身」に投資する

顧客接点が拡大する一方、澤井氏が強調したのは、見栄えや派手さで競うのではなく「中身」で勝負する姿勢だ。顧客に「美味しい」と言われる商品作りに力を入れている。

大手ブランドがひしめく市場で選ばれるため、鮮度、品質、安全性、おもてなしへ徹底的に投資。例として1台約2億円の焙煎機を6台導入し、1日10トンを焙煎できる体制を構築しているという。

そんな方針のなか、試練となったのが昨今の原料高騰への対応だった。異常気象などの影響で原料価格が約3倍に高騰し、月間で約5000万円の赤字を計上。澤井珈琲は品質を落とさないために、3000円の商品を約2倍となる6000円へ値上げした。その際、厳しい経営状況を顧客に率直に伝えた結果、顧客は離れなかったという。

品質を落としたくなかったので、厳しい状況をすべてお客さまに伝えた。価格は2倍になったが、お客さまは離れなかった。(澤井氏)

価格を抑えることではなく、価格が上がっても選ばれるだけの品質や信頼を積み重ねる。澤井珈琲の事例からは、顧客との関係性が価格競争とは異なる価値を生むことが垣間見える。

「タマチャンショップ」、トレンド追随から「自分が作りたい店」へ

九南サービスの田中氏も、現在の成長に至るまでの苦闘を振り返った。

東京でアルバイトをしていた頃、父親から「『楽天市場』に出店すれば月500万円売れる」と聞き、宮崎へ戻った。しかし、現実は売上ゼロからのスタート。パソコンにも不慣れで、ページ遷移にも長く時間がかかるような低性能の機器でショップを運営していたという。

当時展開していたのは、しいたけ専門店。売れずにトレンド商品を仕入れて超薄利で販売することを繰り返した。資金を得るため、昼はエアコン設置の仕事をし、夕方以降にネットショップを運営。田中氏は当時を「父親にだまされたと思った」と笑いながら振り返る。

最初の4~5年は赤字続きで、経理部門から「いつ辞めるんですか?」と聞かれてしまうほどだったという。そんな状況を変えたのが、ブランディングへの転換だった。競合やトレンドを追い続けることに疲れ、「自分が作りたい店を作ろう」と方針転換。成果が見え始めたのは導入から約2年後で、「楽天SOY」などの受賞にもつながり、現在のブランドの土台になったという。

「モノ→コト→ヒト」から「ヒト→コト→モノ」へ

田中氏は、ECにおける価値の伝わり方そのものが変化していると指摘した。

かつては「モノ→コト→ヒト」の順で価値が伝わっていたが、現在は「ヒト→コト→モノ」へと逆転しているという。誰が作っているのか、どのような体験や世界観があるのかへの共感が先にあり、その延長線上で商品が選ばれるという考え方だ。

九南サービスが分析する「ヒト→コト→モノ」の価値観(画像は講演スライドより)
九南サービスが分析する「ヒト→コト→モノ」の価値観(画像は講演スライドより)

そのうえで田中氏が示したのが、小さく商品を作って試すだけではなく、顧客の感情や体験を「人軸」で捉え、すばやく改善していく考え方だ。AIも活用しながら「楽天市場」が持つ分析機能を活用し、どのような顧客が買っているのか、次に何を買っているのか、どこで離脱しているのか、LTVはどう推移しているのかまで確認しながら、顧客体験を設計していくことが重要だとした。

九南サービスが提唱するLTVの高い体験設計の考え方(画像は講演スライドより)
九南サービスが提唱するLTVの高い体験設計の考え方(画像は講演スライドより)

これからはモノをどう売るかより、どんな人に、どのような体験として届けるかが大事。結果として、お客さまにもAIにも選ばれる店になる。(九南サービス 田中氏)

「濃いレビュー」が顧客にもAIにも価値を持つ

田中氏は、安売りやクーポンを中心とした販売では、「安かった」「早く届いた」といった内容のレビューにとどまりやすいとも指摘。一方、メルマガなどを通じて商品の背景や体験を丁寧に伝えれば、顧客の具体的な利用シーンや感情がにじむ「濃いレビュー」が増えるという。こうした一次情報性の高いレビューは、顧客にとってだけでなく、AIが商品や店舗の価値を判断するうえでも重要になると説明した。

「解像度を上げる」ことで、目標を行動に分解

2社の考え方を実務に落とし込むヒントとして、澤井氏の「解像度を上げる」ワークを紹介した。A4用紙にテーマを書き、1分間で25文字程度を5行書き出す。そこから重要な論点を次の紙に移し、10枚ほど連続して掘り下げていく――。

たとえば「3か月後に売り上げを2倍にするには」という目標を、「注文数を増やすには」「転換率を上げるには」と分解していくことで、具体的な行動まで落とし込む。

やるべきことが多すぎて手が止まる店舗ほど、目標までの道筋が見えていない。だからこそ、まずは紙に書き出し、一歩目を可視化することが重要だと訴えた。

澤井珈琲はA4用紙を使って行動分解をしている(画像は講演スライドより)
澤井珈琲はA4用紙を使って行動分解をしている(画像は講演スライドより)

5年後の売上100億円、その先にめざすもの

終盤には、澤井珈琲と「タマチャンショップ」が描く今後の姿も語った。澤井氏は5年以内に売上100億円、さらに長期的には300億円をめざすと宣言。「100万人を超える顧客接点を生かし、自らがメディアとなってコーヒー文化を広げたい」と話した。九南サービスの田中氏も5年後の売上100億円を掲げる一方、「100億円分の幸せを作る」ことこそが目標だと強調した。

さらに、同じ商材でも立ち位置を変える「リフレーミング」によって競争を避け、「楽天市場」でブランドを育てながら世界市場まで見据える姿勢を示した。

売り上げは追うな、お客さまを追え。売り上げは目印であって、お店を成長させるのはお客さま。結果として売り上げはついてくる(田中氏)

自社の強みを見極め、商品や品質に投資する。顧客との接点を増やし、商品の背景や体験まで伝える。そして、目標を具体的な行動に分解し、実行と改善を繰り返す。「安く売る」ことだけに頼らず、顧客が選ぶ理由を積み上げることが、長く支持される店舗づくりにつながっている。

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