AIエージェントが勝手に購入するリスクをどう防ぐ? EC事業者が知っておくべき「購入意図の事前記録」というアメリカン・エキスプレスの新たなアプローチ
American Expressは、AIショッピングエージェントによる購入指示を事前に記録・検証する新フレームワーク「Intent Intelligence」を公開しました。消費者の58%が「AIの購入ミス」を懸念するなか、取引前に購入意図を確認することでチャージバックや決済トラブルを大幅に削減する仕組みを解説します。
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American Express(アメリカン・エキスプレス)は、人工知能(AI)を活用したショッピングエージェントによる購入を、カード発行会社が検証できるよう支援する新たなフレームワークを公開しました。
American Express、AIショッピングエージェントによる購入を検証する仕組みを公開
American Expressは10月13日、「Intent Intelligence(インテント・インテリジェンス)」と呼ばれるフレームワークを公開。これは、AIエージェントが消費者に代わって商品やサービスを購入する前に、消費者の購入指示をあらかじめ記録する仕組みを定めたものです。
カード発行会社は、この記録を不正利用の検知や決済の承認、問題が発生した際の異議申し立ての解決に役立てることができます。EC事業者にとっても、注文ミスがAIエージェントによるものかどうかを判断する重要な手がかりになる可能性があります。
American Expressは米国の大手EC専門誌『Digital Commerce 360』に対し、Intent Intelligenceは現時点で実際のサービスとの連携が行われていないと説明。今回のフレームワーク公開は、新機能の単なる提供開始ではなく、ほかの決済事業者やテクノロジー企業が同社の仕組みを採用できるようにすることが主な目的です。
American Expressのグローバルイノベーション責任者であるルーク・ゲブ(Luke Gebb)氏は、発表で次のように説明しています。
エージェントが取引を実行する前に、消費者が承認した購入意図を提示することで、カード発行会社はエージェントが消費者の意図どおりに行動しているという確信を強めることができます。同時に、カード発行会社がリスクを先回りして管理し、決済エコシステム全体で多額の費用を伴う異議申し立てが発生する可能性を減らすことにもつながります。
58%が懸念する「AIの購入ミス」と消費者意識
今回の動きの背景には、決済事業者によるエージェント型コマース(Agentic Commerce)向けツールの開発が急速に進んでいる状況があります。こうしたツールを利用すれば、AIエージェントが消費者に代わって商品を検索し、価格を比較し、購入まで完了できるようになります。
一方、消費者はAIに購入を任せることに依然として慎重です。決済事業者NMIが8月に発表した米国の成人1000人を対象とする調査では、次の懸念事項が浮き彫りになりました。
- 回答者の58%が、AIショッピングエージェントによって間違った商品やサイズ、色、ブランドが購入されることを懸念
- 回答者の60%が、エージェントが意図した以上の金額を使ってしまうことを懸念
American Expressは4月にIntent Intelligenceを発表していましたが、今回の技術仕様の公開により、ほかの企業もその仕組みを利用して開発を進められるようになります。
American Expressは「エージェント型コマースにおける購入意図について、業界共通のアプローチの確立を後押しすること」を目的として掲げています。
新たなフレームワークがEC事業者にもたらすメリット
EC事業者にとって、AIによる購入ミスは新たな課題となりつつあります。注文内容どおりに商品を梱包・発送したにもかかわらず、AIエージェントが消費者の求めていない商品を購入していたために、後から支払いの異議申し立て(チャージバック)に発展する可能性があるためです。
そこで役立つのが、消費者による最初の指示、すなわち「購入意図(purchase intent)」の正確な記録です。このフレームワークでは、消費者が承認した内容を事前に記録することで、エージェントが実際にその指示に従ったかどうかを客観的に判断するための証拠を残せます。
Intent Intelligenceは、American Expressが4月に開発者向けツールキット「Agentic Commerce Experiences(ACE)」を通じて発表した5つのサービスの1つです。
American Expressによると、このフレームワークは、消費者が承認した購入意図を「取引プロセスのより早い段階、つまりエージェントが購入を実行する前」にカード発行会社と共有する点で、現在の実装方式とは異なると説明しています。
柔軟に設定できる購入条件
American Expressが『Digital Commerce 360』に語ったところによると、Intent Intelligenceでは多様な購入条件を設定することが可能です。
- 基本条件: 支出額の上限、有効期限、購入先の希望店舗の指定
- タイミング指定: 「商品が再入荷したとき」や「サイバーマンデー」など、エージェントが購入を実行する特定イベントの設定
- 複合・連動条件: 「航空券の購入が成功した場合に限り、航空保険を購入する」といった条件付き取引や、「異なるEC事業者から靴と靴下を購入する」といった複数サイトにまたがる取引への対応
Intent Intelligenceの仕組み、4つの処理ステップ
American Expressは、本フレームワークにおける処理の流れを以下の4つのステップに整理しています。
購入意図の作成と確認
「Create Intent API」が消費者の購入希望商品、エージェントが利用できる購入先、支出可能な金額などを記録。その後、消費者が本人確認を行い、エージェントが記録した指示内容を承認する。- 購入意図の証明発行
システムが、承認された指示を識別するための「Intent ID」と、購入に関する主要な制限条件を示す「Proof of Intent Token」を生成する。 - 決済認証情報の利用範囲設定
エージェントはトークンを利用して、承認された指示に紐づく安全なデジタル決済認証情報を取得。購入時には、消費者の実際のカード番号の代わりにこの認証情報を使用する。 - 取引全体への購入意図の適用
Intent IDとトークンを使い、購入リクエストが消費者の承認内容と一致しているかを確認。これらの記録は不正防止、決済承認の判断、異議申し立ての解決にも活用される。
なお、Intent Intelligenceは消費者の購入指示を誰が取得するかにかかわらず、さまざまなエージェント型コマースのモデルで利用できるよう柔軟に設計されています。購入指示をカード発行会社へ直接送信する構成はもちろん、デジタルウォレット事業者などの仲介業者を通じて伝達する方法にも対応しています。
AIによる購入ミスが生む決済リスクと補償制度
このフレームワークは、カード発行会社による購入の検証を支援するだけでなく、AIエージェントがミスをした場合に消費者やEC事業者を保護する補償制度にも関係しています。
American Expressは4月にACEを発表した際、「Agent Purchase Protection(エージェント購入保護制度)」と呼ばれる保護制度の計画を明らかにしました。この制度は、開発者向けツールキットを利用する登録済みAIエージェントが、認証された購入指示を共有して行う取引を対象とする予定です。EC事業者にとっては、不当なチャージバックや異議申し立てによる対応コストを削減することが主な目的です。
ただし、American Expressは『Digital Commerce 360』に対し、この保護制度は現時点ではまだ利用できないことを明らかにしています。保護対象となる取引に必要なIntent Intelligenceを利用したACEの連携事例が、現時点では存在しないためです。それまでの間も、カード会員は既存のAmerican Expressカードに付帯する保護制度や特典を利用できます。
こうした仕組みの複雑化は、トラブルが発生した際に消費者が「誰に責任を求めるか」という認識にも影響を与えています。NMIの8月調査によると、AIツールが消費者の意図しないタイミングで商品を購入した場合、責任の所在について消費者は以下のように回答しています。
- AIの提供事業者:62%
- EC事業者(販売元):34%
- 決済事業者:24%
エージェント型コマースにおける主要企業の動向比較
AIを活用したショッピングの安全性を高めるツールを開発しているのは、American Expressだけではありません。
VisaとMastercardの取り組み
2025年4月、VisaとMastercardはそれぞれ、開発者がAIエージェントを自社の決済ネットワークに接続できるサービスを開始しました。
- Visa「Intelligent Commerce」:AIエージェントに決済機能を組み込むためのAPIやツールを開発者に提供。OpenAI、Microsoft、Anthropic、Stripe、Samsungなどの大手テクノロジー企業と提携してグローバル展開を進めています。
- Mastercard「Agent Pay」:AIエージェントが利用者に代わって購入を完了できるプログラム。会話型AIプラットフォームと連携し、一般消費者向け(C2C/B2C)およびBtoB取引の両方に対応しています。
テクノロジー企業・ECプラットフォームの独自規格
大手IT企業やEC事業者も、エージェント型コマースに向けた独自の共通規格を急速に策定しています。
- OpenAI × Stripe「Agentic Commerce Protocol (ACP)」:AIエージェントがEC事業者と安全に接続し、チャット内で直接購入手続きを開始できる共通プロトコル。
- Google「Agent Payments Protocol (AP2)」:デジタル署名された記録を使って消費者の承認内容を記録する仕組み。Salesforce、Shopify、Cloudflare、Etsyなどが初期パートナーとして参画しています。
- Google × Shopify「Universal Commerce Protocol (UCP)」:AIを活用したショッピング体験の中でスムーズにチェックアウトを行えるオープン規格。家電EC大手のNeweggをはじめ、Wayfair、Walmart、Macy'sなどの主要事業者が導入し、Googleの「AI Mode」や「Gemini」経由での直接購入に対応しています。

