「楽天NATIONS」はなぜ10年続いた? 6000店舗超が参加した「学び合うコミュニティ」、成果を出す店の共通点は「すぐやる」「共有する」
「楽天市場」出店店舗向け育成プログラム「楽天NATIONS」が開始から10年を迎え、累計6000店舗超が参加する学びのコミュニティへと発展している。立ち上げ初期から運営に関わる楽天グループの千田拓也氏は、基礎施策の徹底やAI活用、地域や事業承継まで含めた支え合いの場づくりが次の課題になると語った
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「楽天市場」の出店店舗向け育成プログラム「楽天NATIONS」が、ローンチから2026年に10週年を迎えた。当初は「月間売上2倍」をめざす短期集中型の講座としてスタート。現在はユニークで6000店舗を超える参加実績を持ち、店舗同士が学び、支え合いながら新たな施策に挑戦するコミュニティへと発展している。立ち上げ初期から「NATIONS」の運営に携わってきた楽天グループ 千田拓也氏(マーチャントパートナーシップ部 楽天ネーションズ課 シニアマネージャー)に、10年間の変化と今後の展望を聞いた。

千田氏は2016年に「NATIONS」へ参画。対面講座が中心だった時代から、コロナ禍でのオンライン移行、オンラインと対面を組み合わせたハイブリッド化、講座修了後のコミュニティ形成まで、その変遷を現場で見てきた。
千田氏によると、店舗の売り上げを伸ばすための「本質」は大きく変わっていないという。一方で、商品ページ、検索対策、競合分析など、基本施策を実行するために求められる水準は確実に上がっていると実感を話す。
「NATIONS」も、単に売り上げを伸ばすための知識を教える講座から、店舗同士が学び合い、新しい施策を一緒に試し、継続的に成長するための場へと変化してきた。
「NATIONS」が大きくなってきたことは、シンプルに大変うれしい。一方で、短期的に売り上げを上げるだけでなく、講座を終えた店舗のコミュニティをどう維持し、盛り上げていくかが今の大きなテーマ。(千田氏)
半年で月商2倍をめざす講座からスタート
「NATIONS」は当初、「半年以内に1度でも月間売上を2倍にする」ことを目標に掲げた講座として始まった。主な対象は月商100~500万円規模の店舗だったが、より初期段階の出店者から「月商100万円に届いていなくても参加したい」という声があがった。
これを受けて「NATIONS BASIC」を新設。一度でも月商20万円を突破した店舗を対象に、4か月以内で月商100万円をめざす講座として設計した。
その後、経営者向けの「NATIONS ADVANCE」「スーパーADVANCE」や、業務の無駄や改善点をPDCAで洗い出す「QCサークル」、ブランドの再構築を支援するブランディング講座、中国向け販売に取り組む店舗向けのグローバル講座などへ領域を広げてきた。単一の売上アップ講座ではなく、店舗の成長フェーズや課題に応じて選べる学びの体系へと進化してきた形だ。
「NATIONS」では参加店舗の約4割が期間内に目標を達成し、その達成率は10年間ほぼ変わらず推移しているという。「『NATIONS』の取り組みが『楽天市場』の流通額の底上げにもつながっていることを実感している」(千田氏)
コロナ禍でオンライン化しても成果、チームビルディングも機能
大きな転機の1つが、コロナ禍によるオンライン化だった。元々「NATIONS」は、顔を合わせて学ぶことに強いこだわりを持っていた。対面でなければ売上成長を十分に支援できないという自負もあったという。
しかし、コロナ禍でリアル開催が難しくなるなか、継続のためにオンラインへ移行。既存講座を全面的にオンライン向けに見直した結果、売上面だけでなく、参加店舗同士のチームビルディングも機能した。現在は、オンライン完結型と、オンラインと対面を組み合わせたハイブリッド型の2本立てで運営している。
オンラインに抵抗はあったが、講座をすべて見直して実施してみたら、意外としっかり成果が出た。チームビルディングもできたので、今はオンライン型とハイブリッド型の両方を展開している。(千田氏)
「当たり前」を実行する水準は上昇
この10年で店舗運営の中身はどう変わったのか。千田氏は「本質はあまり変わらない」と話し、商品ページ、検索対策、競合分析、数値管理など、当たり前のことを当たり前にやり切れるかが重要だという。
ただ、その「当たり前」に求められるレベルは確実に上がっている。10年前なら一定水準と見なされた商品ページや検索対策も、現在はより高い完成度が前提になった。競合分析も、単に競合店舗を眺めるだけでは不十分。自店が扱う商材で売れている店舗を把握し、その店舗と自店を項目ごとに比較する。そこで見えた強みをどう生かし、弱みをどう改善するのかまで判断する必要があるという。
千田氏は、売上規模の大きい店舗でも、基礎施策を徹底できていないケースは少なくないと見る。だからこそ、基礎を軽視せず、数字と現場に泥臭く向き合う姿勢が、今も成長余地を生む。
AIで「作業」から「考える時間」へシフト
近年、大きなテーマになっているのがAI活用だ。「NATIONS」では2025年から講座内容全体を見直し、AIで効率化できるものについては、活用方法やプロンプトも含めて共有する形に改めた。
参加店舗はAIでたたき台をつくり、その内容を講座に持ち寄って議論する。これにより、従来は作業に費やしていた時間を、施策の検討やディスカッションに振り分けられるようになったという。
AIは単なる作業削減ツールではなく、店舗が考える時間、議論する時間を増やすための手段として取り入れている。(千田氏)
楽天グループ マーチャントパートナーシップ部 楽天ネーションズ課 シニアマネージャーの千田拓也氏
成果を出す店舗の共通点は「すぐやる」「共有」
「NATIONS」の特長は、ノウハウを一方通行で教える場にとどまらないことにもある。成果を出す店舗には、千田氏が見る限り2つの共通点があるという。
1つは、学んだことをすぐ実行するスピードの速さだ。勉強会や懇親会で得た他店の成功事例を、その日のうちに自店へ取り入れようと動き出す店舗もある。遅くとも翌日には試し、改善していく。そうした店舗ほど目標達成率が高いという。
もう1つは、他店舗への情報共有に積極的であること。自分だけが伸びればいいのではなく、チーム全体で成果を出す意識を持つ店舗には、自然と情報が集まる。情報を共有する人のもとに新たな知見が集まり、それがまた施策に生かされるという好循環が生まれている。
競合店同士が情報を共有できる「場」をつくる
こうしたカルチャーを支えているのが、徹底したチームビルディングだ。たとえば「NATIONS」の初回講座では、「楽天市場」の知識をすぐに教え込むのではなく、参加者同士が互いを知り、同じ目標に向かう仲間であることを確認する時間を多く設ける。
講座後の懇親会も、その関係づくりの延長線上にある。競合関係にある店舗同士がセンシティブな情報を共有できる土台は、こうした設計から生まれているという。
新機能・新サービスを広げる「実践コミュニティ」にも
「楽天市場」にとって、「NATIONS」が持つ意味は参加店舗の売上向上だけではない。
新しい機能やサービスを市場に浸透させるうえでも、重要な役割を果たしている。楽天社員から新施策を伝えるだけでは、店舗側に慎重な受け止めが生まれることもある。一方、実績のあるリーダー店舗が自らの経験として語れば、他店舗はよりフラットに受け止めやすい。「NATIONS」のつながりは、新たな取り組みを広げる際の実践コミュニティとしても機能している。
新機能などを、「NATIONS」の店舗さんが真っ先に試してくれる。一緒に事例をつくってくれる味方がたくさんいることは大きい。(千田氏)
卒業後も学び続ける「同走会」
講座終了後の継続支援も、「NATIONS」の進化を象徴するポイントだ。
参加店舗をその場限りで終わらせず、「同走会」と呼ぶ勉強会をオンライン・対面の双方で定期開催。修了店舗なら誰でも参加できる形で、継続的な学びと関係維持に取り組んでいる。複数回参加する店舗も多く、コミュニティとしての厚みは年々増しているという。
今後は全国規模のつながりに加え、地域に根差したコミュニティづくりも強化したい考えだ。オンライン化によって、東京や大阪に全国から参加する形が一般化した一方、対面で会える距離のつながりの価値も改めて見直されている。同じ県・地域の店舗をつなげる勉強会や交流の場づくりが、次のフェーズになるという。
次の10年は「1人で悩む店舗をなくす」
次の10年に向けて千田氏が掲げるのは、「1人で悩む店舗をなくす」ことだ。
売上施策だけでなく、AIを学ぶコミュニティやAIハッカソン構想、さらには事業承継や経営判断まで含めて、店舗同士が支え合える場へと進化させたいという。「NATIONS」は、「楽天市場」というモールのなかで売り上げを伸ばすための講座から、出店者同士が学び、挑戦し、支え合うコミュニティへと役割を広げている。
「何をすればいいかわからない」「1人で悩んでいる」という店舗が「楽天市場」からいなくなるまで、「NATIONS」を届け続けたい。将来的には売り上げだけでなく、経営や事業承継まで支え合えるコミュニティにしたい。(千田氏)
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