WalmartのAIエージェンティックコマース戦略。Anthropicのオープン規格「MCP」も採用、AIショッピング安全対策と商機とは
Walmart(ウォルマート)は、AIショッピングエージェントによる自動購入を消費者が安全に管理・制御できる「Agent Profiles」や、MCP規格を活用した「Agent Gateway」などの新機能を発表しました。消費者の70%が購入前の確認を望むなか、安全対策を組み込んだ信頼性の高いAI買い物体験を提供します。
8:00
米EC売上高2位のWalmart(ウォルマート)は、AIショッピングエージェントがECで果たす役割が急速に拡大するなか、消費者自身が買い物を主導・管理できる安全な環境づくりを強化しています。
AIエージェントによる自動購入の管理機能と支出上限を導入
Walmartは10月21日、「Walmart」および傘下の会員制倉庫型スーパー「Sam's Club」において、AIエージェントによる自動購入の管理や買い物の効率化、アクセス制限ルールを定めた新機能を表しました。
AIに買い物を完全に任せることに慎重な消費者が多い現状を踏まえ、購入プロセスに厳格な安全対策を組み込むことで、「最も信頼されるAIショッピング体験」の提供をめざしています。
この方針に基づき、Walmartは次の3つの機能を導入します。
- Agent Profiles(エージェント・プロフィール):消費者がAIエージェントを承認し、支出上限を設定したり、購入履歴を確認したりできる機能。
- Agent Gateway(エージェント・ゲートウェイ):AIエージェントがWalmartのショッピングサービスに、より直接的に接続できる仕組み。
- 新たな購入ルール: AIエージェントが実行できる操作や、顧客情報へのアクセスに制限を設けるもの。
Walmartは消費者向けの機能に加え、マーケットプレイスの出店事業者がAIを活用した商品発見に対応できるよう支援。これにより、出店事業者が消費者にリーチする新たな機会が生まれる可能性があります。
Walmartは現在、自社のAIアシスタント「Sparky」をはじめ、Metaの「Muse」、OpenAIの「ChatGPT」、Googleの「Gemini」などとの連携を進めています。なお、Walmartは米国の大手EC専門誌『Digital Commerce 360』の「北米EC事業 トップ1000社」で2位、「AIコマースランキング」で37位にランクインしています。

支出上限や個別承認を設定できる「Agent Profiles」
Walmartは、消費者がAIエージェントによる購入を主体的に管理・確認できる「Agent Profiles」を今後1か月以内に順次導入します。
現在、AIエージェントが実行した購入手続きは、顧客自身の通常注文と同じように購入履歴に表示され、両者を明確に区別する手段がありません。WalmartのAI推進・製品・デザイン担当エグゼクティブバイスプレジデントであるダニエル・ダンカー(Daniel Danker)氏は、LinkedInへの投稿で、新機能について次のように説明しています。
エージェントは顧客のアカウントに紐づく専用プロフィールを使って買い物をします。これにより、顧客は購入を承認したり、支出上限を設定したり、どの購入がエージェントによるものかを確認できるようになります。
今回の新機能により、AIエージェントは顧客アカウントに紐づく専用プロフィール経由で買い物を行うようになるのです。
Agent Profilesの主な特長と導入手順
ダニエル・ダンカー氏によると、支出管理において次の選択肢が提供されます。
- 購入承認の選択肢
- 1件ずつの手動承認:AIによる購入ごとに消費者が内容を確認して承認する。
- 上限額までの自動許可:50ドル、100ドル、200ドルなど、あらかじめ設定した上限額までエージェントによる支出を許可する。
また、「Agent Profiles」のセットアップは次の3ステップで完結します。
- エージェントのアプリから開始:消費者が初めてAgent Gatewayを通じて買い物をすると、Walmart側でプロフィールを自動生成。
- Walmartとの接続:消費者がWalmartのアカウントにログインし、エージェントのプロフィールを承認してアカウントに紐づける。
- 支出管理の設定:消費者は支出上限を設定し、エージェントによる購入を確認。プロフィールはいつでも削除可能。
なお、AIエージェントがアクセスする際も人間が目にするのと全く同じ価格を表示し、購入手続きの前に割引特典や手数料が提示されます。

70%の消費者が望む「購入前確認」、AI買い物に対する安全対策ルール
ダンカー氏によると、Walmartは「AIエージェントが顧客やWalmartとどのように関わるべきかについて、ルールを明確にする」という取り組みも進めています。
こうした安全対策の背景には、消費者が「AI任せの買い物」に対して抱いている根強い警戒感があります。
決済テクノロジー企業NMIが8月に公表した調査(米国の成人1000人を対象に実施)によると、次の実態が明らかになっています。
- AIを利用して取引を完了した経験があると回答した割合は11%
- チェックアウト前にAIによる購入判断を確認・変更したいと回答した割合は70%
- AIに購入を完全に一任してもよいと回答した割合は10%
このような消費者の不安に対応するため、Walmartの新たな利用規約では初期設定で購入ごとの消費者承認を義務付けています。消費者は設定した上限額の範囲内で支出を許可できますが、Walmartが追加の承認を求める場合もあります。
さらに、AIエージェントに対する制限ルールとして次のルールを定めています。
- ユーザーの指示を超えた独断の行動禁止
- 許可されていない顧客情報や決済カード情報(クレジットカード詳細)へのアクセス禁止
- 支払い方法の追加・変更の禁止
仮にAIエージェントが意図しない商品を購入してしまった場合でも、Walmartの通常の返品手続きを適用します。利用規約に違反した悪質なAIエージェントは、Webサイトへのアクセスが即座に禁止されます。
ただし、消費者がサードパーティーのAIアプリに直接提供した情報については、引き続き各サービス提供事業者のプライバシーポリシーが適用されます。
AnthropicのMCP規格を採用した「Agent Gateway」の開発
Walmartは、AIシステムが自社のショッピングサービスへより高速かつ直接的に接続できるようにする「Agent Gateway(エージェント・ゲートウェイ)」の開発を進めています。
現在、多くのAIエージェントは人間用に設計されたブラウザ操作(スクレイピングなど)を通じて買い物を代行していますが、この方法では処理に時間がかかりエラーが発生しやすいという課題がありました。
「Agent Gateway」は、Anthropicが開発したオープン接続規格「Model Context Protocol(MCP)」を採用することで、AIアプリケーションとECサービスのスムーズな接続を実現します。ダンカー氏によると、このゲートウェイは「商品発見、カートへの追加、購入、注文の追跡」に対応しているそうです。
- 商品発見
- カートへの追加
- 購入手続き
- 注文の追跡
また、プライバシー保護の観点から、ユーザーの広範な購入履歴全体を開示することなく、普段購入している牛乳やパンの好み(特定ブランド)をAIエージェントが安全に特定できる設計となっています。
なお、「Agent Gateway」は企業や開発者向けに限定ベータ版として提供する予定です。ただし、提供開始時期や参加企業については、まだ発表していません。

「Walmart Marketplace」出店事業者に生まれる新たな商機
AIエージェント経由の買い物の広がりは、「Walmart Marketplace」に出店するサードパーティ事業者(出品者)にとっても新たな顧客獲得のチャンスをもたらしています。
ダニエル・ダンカー氏が3月のMorgan Stanleyのカンファレンスで明かしたところによると、「ChatGPT」経由でWalmartから購入された商品のトップ2カテゴリーは「ビタミンサプリメント」と「プロテインサプリメント」でした。
また、こうした購入が特定の商品を探す検索ではなく、「健康や栄養に関するAIとの幅広い会話」から始まった可能性があると指摘しています。
Walmart Global Marketplaceシニアバイスプレジデントのマニッシュ・ジョネジャ(Manish Joneja)氏は、『Digital Commerce 360』にこう説明しています。
エージェント型コマースによって、まだ広く知られていないブランドや商品を含め、出店事業者が適切な商品を適切な消費者に届ける機会が増える可能性があります。
一方で、AIに自社商品を正しく理解・推奨してもらうためには、次の要素が今後より一層重要になると指摘しています。
- 正確な商品情報
- 競争力のある価格
- 在庫状況
- 信頼できる配送予定
こうした変化に備え、Walmartは現在マーケットプレイスの出店事業者と協力し、商品掲載情報や商品カタログの品質向上に取り組んでいます。これにより、AIを活用したショッピングサービスが、出店事業者の商品を「より理解しやすく、レコメンドしやすくなる」としています。
- この記事のキーワード

