中川 昌俊 2015/1/30 10:00

2014年12月にグループの代表取締役社長兼CEOから辞任したBEENOS(旧ネットプライスドットコム)の佐藤輝英氏。創業社長として長年グループを引っ張ってきた佐藤氏の辞任理由は、すでに国内の事業について自走できる体制を作れたこと、海外への出資案件にさらに取り組むためのようだ。取締役に就いた佐藤氏に、現在の国内事業、海外への投資、社名の変更などを聞いた。

アマゾンの存在がEC事業の「脱皮」を進めた

――前期業績(2014年9月期)を見てみると、すでに流通額ではクロスボーダー事業が最も大きくなっています。昔からECを見てきた私たちにとって、ネットプライスは物販のイメージでしたが、大きく変わり正直驚いています。

現在、クロスボーダー事業の中核になっているのは「転送コム」という、日本のECサイトの商品を海外に発送代行するサービスです。いわゆるネット上のインバウンド消費ですね。このサービスを始めたのは7年前ですが、訪日観光客の拡大や円安などの追い風要因もあり、ここにきて大きく拡大し始めてきました。やはりEC向けサービスというのは、本格的に立ち上がるまで一定の期間がかかります。転送コムも、7年の時を経て、いよいよ拡大期に入ってきた感覚です。

BEENOSグループでは、今期(2015年9月期)の連結流通額が350億円を突破する予定ですが、「ネットプライス」経由の流通額は約10分の1ほどになる予定です。5~6年前まではグループの大部分の流通額を占めていた事業が、短期間にこれだけシェアを変えるというのは上場会社ではなかなかないことだと思います。当社では「脱皮」と呼んでいますが、2014年はこの「脱皮」の最終章として、うまく完結できた年だったと思います。

――どうして「脱皮」を行う必要があったのでしょうか。

やはりアマゾンの存在が大きいですね。ネットプライスでは、当時年間100億円以上の売り上げがありましたが、そのほとんどが他社でも販売している商品の販売でした。一方、アマゾンは書籍中心から家電に領域を広げ、さらにあらゆる商品を扱うようになり、当社の事業を拡大するにはアマゾンと真っ向勝負をする必要が出てくるようになりました。ただ、アマゾンに勝てる気は全くしないし、やっても赤字が続くことがわかっていたため、違う道を歩む必要があったのです。8年前から事業モデルの転換を進めてきました

佐藤輝英 取締役 Founder

――現在、「ネットプライス」で販売しているものはどういった商品が多いのですか。

商品ジャンルはこれまでと変わらず、ファッションや美容、食品、家電などが中心です。ただ、主軸はオリジナル商品と考えています。他社で売っている商品を売らないというわけではありませんが、あくまで訪問のきっかけとなる集客商材でり、こうした商品で大きな利益を得ることができるとは考えていません。最近では、自社オリジナルの化粧品も人気ですし、人気アーティストとコラボしたり、日本各地の伝統工芸技術を取り入れたオリジナル商品も売り上げを伸ばしています。もちろん、100億円以上売っていた時よりも売り上げは小さくなっていますが、利益率などは高くなっているため、むしろいい方向に進んできていると考えています。

消費が多様化している現在、Eコマースといっても一言でくくりきれない時代に来ているのだと思います。むしろ、お客さまのニーズに合わせた業態を作っていくことが重要で、実際そうやってニーズに合わせた業態作りを進めてきた結果が、いまの当社の形なのだと思います。

消費者からの声を反映して開発した薬用PCリペアゲルエンリッチ

ブランド品買取販売とCtoCスマホアプリはバッティングしない

――子会社でブランド品買取販売サイト「ブランディア」を展開するデファクトスタンダードも、さらに事業を拡大させています。好調の要因は。

まず、ブランド品を売ったり買ったりすることが市民権を得てきたことで、さらにユーザーが増えてきていることが一点です。また、これまで数多くのオペレーションを積み重ねてきたことで、仕組化を進めることができています。お客さまにとってより簡単に買ったり売ったりできる環境を整えられるようになってきたことも、事業が拡大している要因として挙げられます。

――最近では「メルカリ」や「フリル」といったCtoCスマホアプリが人気を集めています。こうしたサービスの拡大は「ブランディア」に影響しないのでしょうか。

「フリル」には当社も出資しているので、情報共有をしておりますが、使っているユーザーが全く違うということを感じています。「ブランディア」の方が一回り年齢層が高くなっていますし、「フリル」のユーザーは売り買いをすること自体を楽しんでいるユーザーが多いように感じます。そのため、いまのところ影響は出ていません。また、長期的に見れば、中古品のやり取りをすることに抵抗がない人が増えれば増えるほど、中古EC市場は拡大するので、プラスの影響の方が大きいでしょう。

――転送コムのユーザーはどういった人が多いのでしょうか。

始めた当初は在外邦人を対象にしていましたが、いまではほとんどが日本好きの外国人が中心になっています。配送国では中国、香港、台湾がトップ3。次いでアメリカ、オーストラリアとなっています。富裕層が利用しているイメージがあるかもしれませんが、そんなことはなく、いわゆる中間層の人が多くなっています。それだけ、海外では、日本のサイトで商品を購入することが当たり前になってきたということだと思います。

――計画では今期(2015年9月期)、転送コムの流通額が150億円(前期比85.2%増)に達する見込みですが、この伸長予測の理由を教えてください。

ブランディアと同様で、数多くのオペレーションを積み重ねてきたことで、仕組化を進めることができています。お客さまにとってより簡単に買ったり売ったりできる環境を整えられるようになり、また認知度が高まってきたことが要因に挙げられます。加えて、円安などの時流もります。伸ばせるときに徹底的に伸ばすというのが当社の考え方なので、今年は積極的に仕掛けていかなければならないと思っています。

転送コムの流通総額の推移(決算説明会資料から引用)

EC市場においてマーケットプレイスはキング、決済事業はクイーン

――海外への投資事業(インキュベーション事業)も注目を集めるようになってきました。

海外投資に関してはかなりの年数をかけて試行錯誤しながらいろいろとやってきました。実際、ダメなものは損失を出してきました。経験を積んで、いいものをしっかり育ててきましたが、いまそれらが評価されるようになったというのが現状です。

ただ、当社がこうした海外企業に出資できたのは、クロスボーダー事業を行ってきたことが大きい。こうした事業を行うなかで、海外のEC市場の動向や、次はどの国で事業が大きくなりそうだといった情報を肌感覚で知ることができました。早めに事業構造全体の切り替えを決断した効果は大きかったと感じています。

――佐藤さんが今、注目している国はどこですか。

現在、ネクストチャイナとしてEC市場が大きく拡大するとみている国は、インドとインドネシアです。インドネシアのマーケットプレイスの「トコペディア」には3年前から出資し、流通額もだいぶ伸びてきました。2014年10月にはソフトバンクと米ベンチャーキャピタルのセコイアキャピタルが出資し、大きな注目を集めています。「トコペディア」はこの1年でさらに大きく伸びると見ています。また、インドのマーケットプレイスの「ショップクルーズ」も2013年から出資し、流通総額も大幅に伸びています。今年1月に米投資ファンドから資金調達を得るなど、注目が高まっています。これらに加え、当社では両国で決済サービス会社にも出資しています。

これまでの各国でのEC市場の歴史を見ていると、やはりマーケットプレイスと決済事業を持った企業が強い。米国のイーベイやアマゾン、中国のアリババ、日本の楽天、いずれもマーケットプレイスと決済をあわせて提供し、成功を収めています。EC市場では、キングがマーケットプレイス、クイーンは決済事業と考えています。そのため、当社では次に成長すると考えている国のマーケットプレイスと決済事業に投資するようにしています。

――そうした国の企業に出資するのではなく、自ら進出しようとは考えないのですか。

自ら進出することは、やはり難しいと思います。最大の難関は人の問題。その国の商慣習や社会情勢などあらゆることに長けていなければなりません。私自身、事業を立ち上げるのは大好きですが、インドで100億円を預かって新しい事業を立ち上げろといわれても、自信はありません。それよりも、現地で意欲に燃えている起業家に投資し、一緒に大きくした方が成功する可能性が高いと考えています。

――今後も、新しい国へ出資を続けていく考えですか。

できれば、そうしたいと思っていますが、各国のマーケットの成長速度や成熟度次第だと思っています。いい企業がないかは常に探していますし、そうした人脈作りはこれからも強めていかなければならないと思っています。

――インドネシア、インドに次ぐ注目国と考えている国はありますか。

トルコ、フィリピン、ベトナムですね。理由は単純で人口の多さ。結局、消費者向けビジネスは人口の多さが一番の鍵になります。もちろん、フィリピンやベトナムは1人あたりのGDPはまだまだ低いため、事業の拡大に時間はかかりますが、待てば大きく実っていくことは確実でしょう。

BEENOSの主な投資案件(決算説明会資料より引用)

――佐藤さんの今後の役割は、やはり海外への投資案件がメインになってくるのでしょうか。

転送コム、ショップエアライン、デファクトスタンダード、モノセンス、ネットプライスなど、それぞれの会社の社長が、それぞれの事業のスペシャリストとして事業を率いています。だいぶ前から私は細かなところについては、関知しなくても自走できる状態になっています。そのため、私の役割として、海外の起業家とのネットワーク作りや情報交換に力を注ぐことが可能になっています。今後も、私に求められる点はそこでしょう。その点には専念していきたいと思っています。

――最後に、2014年10月に持ち株会社の社名をネットプライスドットコムからBEENOSに変更しました。佐藤さんがゼロから立ち上げてきた「ネットプライス」という名前がなくなることに、抵抗はなかったのですか。

「BEENOS」というのはミツバチの巣の意味です。従業員、起業家、情報、モノなどが集まって共存していくプラットフォームという意味があり、会社の仕組みを表したものです。社名の変更は、これから先の未来を見据えた発展的な意味合いで行いました。大きく脱皮するこのタイミングでできたことをうれしく思っています。実際、社名変更をしようと言い出したのは私ですし(笑)。

今後は世界中の起業家と共に、イノベーションの花を咲かせるための共同体になれるような大きなネットワークを創っていきたいと考えています 。

新たな社名の前で撮影
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