GapのAI戦略・エージェント型コマースとは? AIスタイリングと会話型検索で推進する「次世代ショッピング体験」
Gap Online開設30周年を迎えたGap Inc.は、AIを活用した「商品発見」と「スタイリング体験」の拡充を発表。「Old Navy」や「Banana Republic」への会話型検索ツールの導入、デジタルクローゼットアプリ「Alta Daily」との連携、「Universal Commerce Protocol(UCP)」への対応など、エージェント型コマースを見据えた最新のAIコマース戦略を解説します。
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アパレル大手のGap Inc.(ギャップ)は、傘下ブランドのOld Navy(オールドネイビー)やBanana Republic(バナナ・リパブリック)へ会話型検索ツールを導入、またAI搭載デジタルクローゼット&パーソナルスタイリングアプリ「Alta Daily」と連携し、コーディネート(スタイリング)を検討するプロセスにおいてAIの活用を大幅に強化しています。
Gapが踏み出す「AIコマース」の新たな一歩
Gapは顧客が自社の商品を見つけ、コーディネートを考える場面へのAI活用をさらに進めています。
2026年10月、「Old Navy」および「Banana Republic」の両ブランド向けに、自然言語処理を活用した新たな商品発見(ディスカバリー)機能を発表しました。
同時に、AI搭載デジタルクローゼット&パーソナルスタイリングアプリ「Alta Daily」との連携によるオンラインスタイリングサービスの開始も明らかにしました。「Alta Daily」上で、AIが自動生成するコーディネート提案の中に、Gapブランドの商品が自然に組み込まれるようになります。
今回の発表は、Gapが1996年に「gap.com」を立ち上げてから30周年の節目と重なります。サンフランシスコで実施された「SF Tech Week」において、Gapは30年間の歩みを振り返りました。AIを「ファッションにおける購買体験の次の進化」と位置付け、消費者に代わってAIが購入プロセスを実行する「エージェント型コマース(Agentic Commerce)」への本格的な参入を検討しています。
Gap Inc.の最高技術責任者(CTO)であるスヴェン・ガージェッツ(Sven Gerjets)氏は、次のように語ります。
30年前、gap.comの開設は消費者とブランドの関わり方に革命をもたらしました。そして今、AIは人々がファッションを購入する方法そのものを再構築する新たな機会を創出しています。
なお、Gap Inc.(Gap、Banana Republic、Old Navy、Athletaを傘下に保有)は、Digital Commerce 360が北米の大手EC事業者を年間EC売上高などで順位付けした「北米EC事業 トップ2000社」データベースにおいて20位にランクインしています。
「Alta Daily」連携による視覚的・パーソナライズされたAIスタイリング体験
Gapは従来の「検索窓(キーワード検索)」や「商品一覧画面(グリッド表示)」に依存するモデルから脱却し、消費者の購買意図、文脈、個人の好みを深く理解するAIツールの実験を進めています。
その主要な取り組みが、AIスタイリングアプリ「Alta Daily」との連携です。ユーザーは、個人の好みに合わせて生成されたコーディネートの中にGapの商品を取り入れ、自身のアバターに着用させてビジュアルで確認できます。
Gapはこの取り組みについて、「AIによるスタイリングと商品発見を、より視覚的でパーソナライズされた環境へ引き上げるもの」と説明しています。
「Alta Daily」の利用者は、手持ちの衣服をデジタル化して仮想のワードローブ(クローゼット)を作成することが可能です。アプリはユーザーのクローゼット情報、個人のスタイル、スケジュールの予定、当日の天候などを総合的に判断してコーディネートを自動提案します。
この手法は、Gapが検討しているエージェント型コマースのモデルと合致します。Altaの創業者兼CEOであるジェニー・ワン(Jenny Wang)氏は、「エージェント型コマースを実現するには、消費者のスタイルの好みを把握するデータレイヤー(基盤)が不可欠です。それには手持ちの服、過去の購買履歴、アバターデータなどが含まれます」と説明。
さらに、GapはAIファッションプラットフォーム「Daydream」を通じた商品発見にも対応。「Daydream」では、ユーザーが日常会話のような自然な言葉で欲しい商品を説明することで、該当するGap商品をピンポイントで探し出すことができます。
Old NavyとBanana Republicにおける「会話型AI」での商品検索刷新
Old NavyとBanana Republicでは、商品発見の仕組みを「会話型AI」を中心に再構築しています。
消費者が自然言語で探しているアイテムのイメージを伝えるだけで、AIがその意図を理解し、最適な商品アイデアやおすすめリストをリアルタイムで提示します。
従来のECサイトのように、頭の中のイメージを「キーワード」や「絞り込みフィルター(サイズ・色・価格など)」にわざわざ変換する必要はありません。
顧客の本来の購買意図を深く理解し、頭の中の曖昧なイメージから希望に合致する商品へと自然にたどり着けるよう支援する設計となっています。
なお、Gapは、これらの機能が各ブランドのWebサイトとモバイルアプリのどちらで利用できるのか、あるいは両方に対応しているのかについては明らかにしていません。
全社で推進するAI戦略とIT投資の拡大
今回の新機能拡充は、GapがEC事業全体で推し進めてきた包括的なAI戦略の一環です。
Gapは2024年にAI専門組織「Office of AI」を設立。社長兼CEOのリチャード・ディクソン(Richard Dickson)氏は当時、社内業務の効率化からAI活用を開始したと説明していましたが、現在ではカスタマーサービス、パーソナライズされた商品レコメンデーション、フルフィルメント(配送・物流)に至るまで、活用領域を急拡大させています。
GapはこのAI戦略を加速させるため、設備投資を大幅に増額しています。最高財務責任者(CFO)のカトリーナ・オコンネル(Katrina O'Connell)氏は決算説明会にて、2026年度の設備投資額を前年の4億7000万ドルから6億5000万ドルへと引き上げることを明らかにしました。この資金の一部がAI機能の構築や技術基盤の刷新に投じられています。
エージェント型コマースは、Gapにとって新しい分野です。Gapは3月、Bold Metricsの「Agent Sizing Protocol」のローンチパートナーになりました。この技術は、消費者に衣服のフィット感や好みについて質問することで、会話型ショッピングエージェントが適切なサイズを判断できるよう支援するものです。
同時に、Googleの「Universal Commerce Protocol」への対応も発表しました。Shopifyと共同開発されたこのオープン規格は、EC事業者をAIを活用したショッピングやチェックアウトの仕組みと接続するものです。このプロトコルにより、消費者はGoogle検索のAI ModeやGeminiアプリを使って、Gapの商品を見つけて購入できるようになります。
Gapは2025年の時点ですでに、カスタマーエクスペリエンスへのAI導入を進めていました。2025年の年末商戦を前に、各ブランドのECサイトとモバイルアプリの「Chat with Us」機能を通じて、パーソナライズされた商品レコメンデーションとデジタルアシスタントを展開しました。
こうした取り組みの多くを支えているのが、Google Cloudとの提携です。2025年に始まったこの提携により、GapはGemini、Vertex AI、BigQueryなど、Googleの各種技術を利用できるようになっています。

