「アットコスメ」のアイスタイルが過去最高益。「クチコミ×小売×EC」で圧倒的な“出会い”を創出する独自戦略
営業利益が初の40億円台を突破したアイスタイル。BtoBサービスである「マーケティング支援事業」とEC・店舗共に増収・増益の「リテール」が成長をけん引している。具体的な取り組みや戦略を取材した
10月27日 7:00
化粧品の情報サイト「アットコスメ(@cosme)」を運営するアイスタイル(東京都港区)が好調だ。2026年6月期連結決算では、売上高が前期比19.0%増の818億700万円、営業利益が同29.1%増の40億8500万円に拡大。化粧品メーカーへのBtoB事業「マーケティング支援」が貢献し、営業利益は業績予想を超えて着地した。
今や「アットコスメ」の会員数は1160万人に成長。約5万点を扱うECサイト「@cosme SHOPPING(アットコスメショッピング)」に国内36店舗の直営小売店も展開する。「クチコミ×小売×EC」の独自ポジションで、ブランドと顧客の「出会い」を最大化するアイスタイルの強さの背景を探った。
「リテール」「マーケティング支援」が過去最高益を後押し
1999年に創業したアイスタイルは、化粧品の総合情報サイト「アットコスメ」を軸に、化粧品のECサイト「アットコスメショッピング」と小売店「アットコスメ」の運営を国内外で展開する。近年は、化粧品メーカーなどへ「広告ソリューション」やポップアップストアなどの「体験プロモーション施策」を提供する「マーケティング支援」も成長軌道に乗っている。
コロナ禍の影響で2022年度まで連結売上高は停滞していたが、2023年度以降は2ケタ成長が続いている。この成長をけん引しているのが、「リテール」と「マーケティング支援」だ。
2026年6月期連結決算では、主軸の「リテール」がEC・店舗ともに増収・増益。売上高は前期比15.4%増の616億9500万円、営業利益は同15.6%増の35億9900万円となった。「マーケティング支援事業」も、メーカーとの取引規模の拡大により好調に推移。売上高は前期比25.2%増の120億8300万円、営業利益は同24.6%増の35億1600万円だった。
(画像提供:アイスタイル)
マーケティング支援事業の営業利益率の高さは一目瞭然で、2026年6月期はリテールが6.2%に対し、マーケティング支援は29.2%だった。アイスタイルの執行役員 兼 @cosme 体験デザインユニット ユニット長の本橋未来氏は、「リテールとマーケティング支援では、利益構造がまったく異なります。マーケティング支援は順調に拡大しており、今後は同事業の利益比率をより向上させていく方針です」と説明した。
「365日の監視」「透明性の担保」でユーザーの信頼を獲得
「アットコスメ」といえば、「クチコミサイト」として広く認知されている。その起源は、アイスタイルの共同創業者であり、取締役の山田メユミ氏が始めた「メールマガジン」だという。
「アットコスメ」は1999年12月にローンチしました。テレビCMなどのマス広告や売り場での展開といった一方通行な情報発信が中心だった時代に、山田は自身の体験談を添えた「メルマガ」を趣味で運営し始めたんです。それを読んだ読者から熱い反応があり、「この生活者の熱量を尊重し、化粧品におけるコミュニケーションを民主化したい」と考え、「アットコスメ」が誕生しました。(本橋氏)
この思想を反映するための取り組みの1つが「365日24時間体制での監視」だ。会員から書き込まれるクチコミはすべて確認し、やらせやステマなどの不正投稿にも対処している。
「アットコスメ」の特性として、美容感度の高いユーザーが多く、特にクチコミを書く読者はその傾向が強い。クチコミは「年齢」「肌質」「購入品かどうか」(一部プレゼント企画があるため)「リピート購入かどうか」「過去のクチコミ回数」を容易に認識できるフォーマットで、写真も投稿できる。近年は、「イエベ春」や「ブルベ夏」などパーソナルカラー診断の結果を添える人も増えた。
化粧品メーカーと協業して実施するユーザーへのプレゼント企画も、クチコミの数や質の向上に役立っている。プレゼントの当選者はクチコミを強制されているわけではないが、結果として高頻度でクチコミを投稿する。これは、「新しい商品と出会いたい、試してみたい」というユーザーの意欲が反映された結果だという。多くのメーカーは新製品発売のタイミングでプレゼント企画を行い、事前に情報や使用感を周知することを狙っているそうだ。
「透明性の確保」も運用における重要な指針だ。会員のクチコミを軸にした独自のランキングやアワードは、ごく少数の担当者だけが関与するよう徹底している。経営陣にさえもランキングのロジックは明かされていないという。
目に見えない信頼を得るには、「いかに透明性や公平性を保って運営できるか」が重要です。こうした運営を長年継続することで、ユーザーだけでなくメーカー側からも「ユーザーが選ぶアワードに価値がある」と評価いただいています。(本橋氏)
ECは5万点に拡大。正規品の扱いは国内最大級
順調にクチコミを獲得した「アットコスメ」は、2002年11月に化粧品のECサイト「cosme.com(コスメ・コム)」(現:アットコスメショッピング)を開始した。この狙いを、本橋氏は次のように話した。
データベースを軸とするプラットフォームにおいて、購入前の行動(クチコミ)と購入の瞬間をつなげることが最大の狙いです。「商品データベース・クチコミ・EC」が一体化し、一気通貫でブランドと消費者の“出会い”を作ることで、ユーザーとメーカー双方にとって価値を最大化することをめざしています。(本橋氏)
現在、「アットコスメショッピング」では約2600ブランド、約5万点の商品を扱う。化粧品メーカーから直接仕入れており、正規品の取り扱い点数では国内最大級の化粧品ECサイトだという。顧客の選択肢を広げる狙いで、「Amazon.co.jp」や「楽天市場」「Yahoo!ショッピング」のECモールにも出店している。
(画像は「アットコスメショッピング」よりキャプチャ)
さまざまな化粧品を購入できるという点で競合にあたるのが、eBay Japanが運営するECモール「Qoo10(キューテン)」。「メガ割」などの価格優位性、圧倒的な韓国コスメの品ぞろえで利用者を拡大し、会員数は3000万人を超えた(2026年8月時点)。
2026年の「Qoo10」の年間流通総額(GMV)は約3500億円となる見通しで、10~30代を中心に美容感度の高い層に支持されている。一方で、消費者からは「偽物の流通」を指摘する声も聞かれる。「アットコスメショッピング」は、取り扱い点数では「Qoo10」に遠く及ばないものの、「メーカーから直接仕入れた正規品」のみを扱う点は優位性と言える。
「最大の接点」である小売店は、あえて迷路のような設計
「アットコスメ」は、2007年にルミネエスト新宿に「@cosme STORE(アットコスメストア)」第1号店をオープンした。現在は、地方都市も含めた主要駅を中心に36店舗を展開。
旗艦店は、原宿駅前にある「@cosme TOKYO」、大阪駅直結の商業施設・ルクア イーレにある「@cosme OSAKA」、名古屋駅直結のタカシマヤゲートタワーモールにある「@cosme NAGOYA」の3つとなる。
小売店は、ブランドやカテゴリーの垣根を越えて化粧品に出会える「プラットフォーム」としての体験を強化する目的があります。そのため人気ランキング上位やトレンドの商品だけでなく、これから認知を広げていきたい新規ブランドも積極的に採用します。メーカーと共創して出会いを創出する場となっています。(本橋氏)
小売店の主な顧客は、20~30代の女性だ。特定商品を目的とした来店もありつつ、新たな発見やお試しを求める層も多く、滞在時間が長い傾向があるという。「ニュウマン高輪店」を訪問してみたところ、友人同士でじっくりと商品を吟味したり、アイテムを複数試したりする女性が多く見られた。
「内装は、あえて迷路のような設計にしている」と本橋氏。「出会いを創出する」狙いから、どこに何があるのかわかりにくい空間設計を採用。さらに、あらゆる場所に鏡を設け、高額なデパートコスメも含め、ほぼすべての商品を試せるようにしている。スタッフによる無料の「肌診断」サービスもある。
ECサイトの利用者にはトレンドに敏感で能動的という特長があり、新商品や限定品などへの関心が目立ちます。対して、小売店はライト層も多く、ランキング上位やアワード受賞にとどまらない、幅広い商品が売れています。これは、スタッフによる提案やトレンド・季節に合わせた編集棚などによる出会いが機能しているためでしょう。会員向けのポイントカードはアプリを活用していて、Webサイトの会員、EC会員、アプリ会員の会員情報は共通IDで管理しています。現在、店頭は最大の新規会員獲得の場です。(本橋氏)
現状の小売店の戦略では、「大型店舗」を推進。9月10日には、「ルミネ有楽町店」が増床リニューアルオープンした。売り場面積は従来の約1.5倍となり、自身にマッチする“運命コスメ”に出会いやすい体験型ショップへと進化した。日本初上陸ブランドも含む「韓国コスメコーナー」のほか、自身の肌状態やおすすめ化粧品がその場でわかる「セルフ肌測定機」などを設ける。
競合のQoo10も、2026年秋から小売店の展開を開始する。10月に渋谷・神南にサンプル商品体験店舗を、11月に原宿に常設ポップアップ店舗を開業し、2027年には原宿駅前の複合施設「ウィズ原宿」に旗艦店を開業する予定だ。
旗艦店は2026年に閉店したIKEA原宿の跡地への出店で、「アットコスメ」の旗艦店「@cosme TOKYO」に隣接する。顧客の奪い合いなどで「アットコスメ」が不利益を被る可能性が指摘されており、今後の動向が注目される。
クチコミ×AIで「ブランドを好きになる」体験設計を構築
アイスタイルでは、これからの市場競争における要諦として、「ネットとリアルの密接な連携」「生活者がブランドを好きになるプロセスの設計」「国境を越えたプラットフォーム」の3点をあげている。同指標にもあるように、「クチコミ・小売・EC」それぞれの体験をシームレスにつなげることが急務の課題だと本橋氏は言及した。
「アットコスメ」では、すべてのチャネルを通じて「出会い」を提供する土壌を築いてきました。一方で、それぞれの体験のつながりは薄い。たとえば、これまで小売店で出会った商品のクチコミを見るには、Web上の「アットコスメ」を開き、該当商品を自ら検索する必要がありました。これに対し、NFCタグを活用してクチコミ閲覧をスムーズにする取り組みを有楽町店で開始したところです。また、Web上で出会った商品を小売店で購入したい場合、現状はWeb上でリアルタイムの店頭在庫の確認ができません。
小売店に来店するお客さまは、店頭にいながらスマホの画面を眺めています。クチコミやWeb上での価格を調べているのかなと。「クチコミ・小売・EC」の垣根を越えてつなげることで、生活者起点の体験設計構築を強化する必要があります。(本橋氏)
(筆者撮影)
また、「生活者がブランドを好きになるプロセスの設計」においては、自社が持つ膨大なデータベースとAIをかけ合わせることで実現をめざすという。
「認知→購入」という直線的なカスタマージャーニーはブランドの理想ですが、実態はそうではありません。ブランドを知る体験は、「SNSで目にする」「友人から勧められる」「店頭で見かける」「広告を見る」「実際に試す」などさまざまです。私の認識では、何度もその商品に触れるたびに「好きかもしれない」という「タグ」が貼られていくような感覚があります。
このようにユーザーがブランドや商品に触れる際の行動タグを収集し、どのような体験を経て購買意欲が高まるのかを、AIを活用して分析していきます。購入の最後の一押しになるような示唆をメーカー側にも提供することで、共により良い購買プロセスを作れると考えています。(本橋氏)
2025年度の国内化粧品市場は、前年比約103%の2兆6500億円と予測されている(出典:矢野経済研究所のプレスリリース)。市場競争が激化するなか、30年近くにわたり蓄積された信頼と、「クチコミ・小売・EC」が一体化した出会いのプラットフォームとしての機能が「アットコスメ」の最大の強みとなっている。

