「楽天市場」のAI店長は「うんちく」が重要? 三木谷氏がAI戦略を解説、出店者も登壇「スーパーエージェント」は外部連携へ
楽天グループが「Rakuten AI Optimism」で示したのは、独自LLM開発や「スーパーエージェント」構想、「AI店長」構想を軸にした次世代戦略だ。「楽天市場」出店者も登壇し、AI時代の店舗運営や「うんちく」の重要性を語ったほか、サービス横断や外部連携まで視野に入れた構想も披露。楽天が描くAI活用の勝ち筋を詳報する
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楽天グループの「Rakuten AI Optimism」で「AI時代の勝ち筋」と題したセッションに登壇した楽天グループ 代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏。独自の大規模言語モデル(LLM)開発、楽天経済圏のデータを活用した「楽天AIスーパーエージェント」、「楽天市場」の店舗ごとの個性を生かす「AI店長」構想など、楽天のAI戦略を説明した。

講演には「楽天市場」の「Shop of the Year(SOY)」受賞店舗のリーダー3人も登壇。中国・深センの視察経験を踏まえ、AIを前提に業務を組み立てる中国企業との違いや、AI時代に店舗が備えるべき情報について意見を交わした。
特に出店者にとって注目されるのが「AI店長」だ。店舗独自の商品知識や専門性、商品への思い入れなどをAIに生かし、店舗ごとに異なる接客や商品提案につなげる構想。三木谷氏は、そのために重要なのは商品ページに蓄積された「うんちく」だと説明した。
また、楽天AIスーパーエージェントでは、「楽天市場」や「楽天トラベル」、楽天カードなどグループ内サービスを横断するだけでなく、メールやカレンダーなど外部サービスとの連携も視野に入れ、ユーザーの行動完了まで支援する構想を示した。
なお、当初登壇を予定していた楽天グループのチーフAI&データオフィサー、ティン・ツァイ氏は急きょ欠席。三木谷氏が代役として講演全体をリードした。
AIは「人間を豊かにするもの」、楽天は4層でAI戦略を構築
講演冒頭、三木谷氏は「AIと人間の差はどこにあるのか」という問いを投げかけた。人間の思考や感情は、単純な電子回路だけでは説明できない。ホルモンやドーパミン、アドレナリンなどの脳内物質も人間の行動や感情に影響しているとし、楽天がめざすAIについて、「機能的なものをより人間的に近づけつつ、その先にいる人間を豊かにするもの」と位置付けた。
そのうえで、AIを「GPU」「モデル」「基盤」「アプリケーション」の4つのレイヤーに整理。楽天はGPU自体を開発するのではなく、モデルでは独自LLMと外部LLMを組み合わせ、アプリケーションは自社で積極的に開発していく方針を示した。

三木谷氏は生成AIやLLMについて、確率論に基づき「次に来たるべき情報を予測し続ける技術」と説明。画像生成や自動運転も本質的には同じ予測の延長線上にあるとの見方を示した。
さらに、AI競争はOpenAIなど一部の巨大プレイヤーだけで決まるわけではなく、オープンソースAIや中国勢の台頭によって競争環境は変化していると指摘。「ショッピングに特化したAI」「医療に特化したAI」など、領域特化型AIの重要性を強調した。
この「専門性を持つAI」という考え方は、後に登場する「楽天市場」の「AI店長」にもつながる。
「楽天市場」の出店者が中国・深センで感じた「AI前提」のビジネス
「楽天市場」の年間表彰「SOY」受賞店舗のリーダー3人が登壇し、中国・深セン視察の経験を共有した。登壇したのは、「コスメティックやよい」を展開するやよいの西尾勝太副社長、「くまもと風土」を運営するローカルの吉永安宏社長、澤井珈琲の澤井理憲社長。

3氏が口をそろえて語ったのは、中国におけるAIとの距離の近さだった。
街中を飛ぶドローンや無人タクシー、自動配送といった先端技術も印象的だったが、それ以上に衝撃だったのは、AIを使うことが特別な取り組みではなく、AIが存在することを前提に事業や業務が組み立てられていたことだという。
日本ではまだ「AIをどう使うか」という段階にとどまっている人が多いが、深センではAIを使うのが当たり前。そのAIが存在することを前提に、仕事や業務をすべて組み直すというマインドが浸透していた。(西尾氏)
西尾氏は、現地で聞いた「差別化は、いかに独自データを持っているか、どれだけAIを使いこなせているかで決まる。生産性は5倍、10倍変わる」という言葉を紹介。日本とのギャップに強い危機感を持ったと語った。
テンセントやアリババでは、金融、ゲーム、EC、物流、消費者分析まで、ありとあらゆる分野でAIを活用している。AIは特別なものではなく、空気のように当たり前の存在になっていると感じた。(吉永氏)
吉永氏は、日本ではまだ「AIをどう使うか」という段階にある一方、中国では事業全体をAI前提で回していると指摘。使う側の心理的な距離の近さにも大きな差を感じたと話した。
AIが定型業務を代わりに行い、人間が正解を選ぶ。それが今後のビジネスモデルになる。今までの通常業務のなかでAIを使うのではなく、AIに任せることはAIに任せる前提で、会社の骨組みから再構築していく必要があると感じた。(澤井氏)
「AI店長」を使いこなす鍵は、店舗が持つ“うんちく”
こうした議論を受け、店舗側から今後リリース予定の「楽天市場」の「AI店長」について、出店者は事前に何を準備しておくべきかという質問があがった。
「AI店長」は、「楽天市場」に出店する店舗ごとの商品知識や専門性、接客ノウハウなどを生かし、店舗独自のAI接客を実現する構想だ。
三木谷氏が、その鍵としてあげたのが商品説明や“うんちく”、商品への思い入れだった。
最も重要なのは、商品説明や“うんちく”、商品への思い入れが商品ページにどれだけ記述されているかだ。(三木谷氏)
三木谷氏は、誤った回答を防ぐためのディフェンスやアルゴリズム改善は楽天側で進めると説明。その一方で、店舗独自の情報が乏しければ、AIは一般的なWeb情報を拾って説明するだけになってしまうと指摘した。
「なぜこの商品なのか」を伝える情報がAI接客の差になる
三木谷氏はワインを例にあげ、「ロマネ・コンティ」がなぜ高いのかには、歴史や背景などの「うんちく」があると説明。こうした独自情報が、AI店長による店舗ごとの個性ある接客につながるとした。
ワインでいえば、「ロマネ・コンティ」がなぜ高いのかには、必ず歴史や背景、うんちくがある。こうした独自データを商品ページに充実させておくことが、「AI店長」が店舗ごとに異なる、個性ある接客を実現するための重要な要素になる。(三木谷氏)

この発言は、今後の商品ページの役割が変わる可能性を示している。
これまで商品ページは、ユーザーに商品を理解してもらい、購入につなげるための販売ページという側面が強かった。今後はそれだけでなく、AIに店舗や商品の専門知識を伝え、AI接客の回答品質を高めるための情報基盤という役割も担うことになる。
店舗にとっては、SEOやコンバージョン率向上を目的とした商品情報の充実だけでなく、「自店ならではの知識やストーリーをどれだけ蓄積できるか」が、AI時代の競争力を左右する可能性がある。
楽天の独自LLMを2年で大型化、サービスへの実装を加速
講演後半では、楽天技術研究所とAIサービス統括の担当者が登壇し、楽天の独自LLMの開発状況を紹介した。
楽天はこの2年で、70億(7B)パラメーターの初期モデルから、470億(47B)パラメーター、モバイル向け軽量版を経て、2026年初頭には7000億(700B)パラメーターのモデルを投入したという。
楽天はAIを対外サービスだけでなく、社内業務やシステムにも組み込んでいる。グループ内のAIトークン消費量に占める自社開発モデルの比率は、直近3か月で17.2ポイント上昇したという。
独自LLMを開発すること自体を目的にするのではなく、実運用のなかでモデルを鍛え、楽天グループのサービスや業務に組み込んでいく姿勢が鮮明になった。
18年分の購買履歴も活用、楽天ならではの「長期データ」がAIの強みに
楽天は独自LLMを社内利用にとどめず、「楽天市場」や楽天トラベルなどのサービスに組み込む構想を進めている。
特長は、楽天グループが長年蓄積してきた行動データや購買履歴を活用できる点だ。講演では、18年分の購買履歴を読み込ませる実験も紹介。長期にわたる購買文脈から、利用者の好みの変化を読み取れることを示した。

ECの文脈では、これは単なるレコメンド精度の向上にとどまらない。
ユーザーがどのようなライフイベントを経験し、どのタイミングで何を継続購入し、どのブランドに反応してきたのか。こうした情報を長期スパンで理解したうえで、商品やサービスを提案できる可能性がある。
「楽天AIスーパーエージェント」は外部サービスとの連携も視野
こうした独自LLMと楽天経済圏のデータを組み合わせた先にあるのが、「楽天AIスーパーエージェント」構想だ。

講演では、「9月に妻と子ども2人で4日間の沖縄旅行に行きたい」という自然言語の依頼から、旅行計画の作成、宿の提案、家族への共有、持ち物リスト作成、関連商品の検索、さらにはポイント還元を高める提案までを一気通貫でこなすデモを披露した。
「楽天市場」「楽天トラベル」だけでなく、外部サービスとも連携
楽天のスーパーエージェント構想は、単なる会話型AIの延長ではない。
「楽天市場」「楽天トラベル」、楽天カードなど楽天グループ内のサービスを横断し、提案から予約、購買、決済までを自然な対話のなかでつなぐことをめざしている。
さらに講演デモでは、旅行計画を作成した後、家族へのメール共有やタスク管理、カレンダーへの反映まで行う流れも示した。
つまり、スーパーエージェントがめざすのは、楽天のサービス内でユーザーに提案して終わることではない。メールやカレンダーなどの外部サービスとも連携し、ユーザーが実際に行動を完了するところまで支援するAIだ。

この点は、楽天経済圏のサービスを横断するだけの「楽天版AIアシスタント」から、より広い意味でのエージェントへと発展する可能性を示している。
購買履歴を生かし「次に必要なもの」まで先回り
デモでは、過去の旅行履歴や「楽天市場」での購入履歴を踏まえ、「以前も買った日焼け止めを今年も探しますか」といった先回り提案も行われた。
旅行、買い物、ポイント、各種サービスを横断し、1人ひとりに合わせて次の行動を提案する。これは、楽天経済圏全体にユーザーとの接点とデータが蓄積されているからこそ実現しやすい体験と言える。
過去からのデータ、店舗や宿泊施設とのさまざまな関係性や情報がエコシステムの中に存在するからこそ、より精度の高いものが実現できる。(三木谷氏)
三木谷氏は、家族構成や過去の購買データ、宿泊施設との関係性など、多様なデータが1つのエコシステム内にあるからこそ、他社にはまねしにくい高精度なエージェント体験が実現できると自信を示した。
楽天がめざす「トリプル20」、出店者の業務効率20%向上へ
講演の締めくくりで、三木谷氏は「AIは好き嫌いにかかわらず社会を激震させるテクノロジーだ」とあらためて強調。そのうえで、楽天グループとしての目標に「トリプル20」を掲げた。
具体的には次の3つ。
- 楽天グループのマーケティング効率を20%向上
- グループ内のオペレーション効率を20%向上
- 「楽天市場」の出店者や楽天トラベルの宿泊施設などクライアントの業務効率を20%向上
AIは好き嫌いにかかわらず激震だ。AIをどう導入したら効率が上がるか、一歩踏み込んだサービスも提供していきたい。(三木谷氏)
「楽天市場」のECCや楽天トラベルのITCといった人的支援に、AIやモバイルなどの技術基盤を組み合わせ、店舗や施設の売上拡大と効率化を後押しする考えも示した。
AIを楽天自身の生産性向上だけに使うのではなく、出店者や宿泊施設の業務効率まで引き上げることを目標に据えた点が、「トリプル20」のポイントだ。
「このインフレ時代、AIの活用なくして生き残るのは厳しい」との言葉には、楽天自身の危機感と、出店者に対する強いメッセージが込められている。
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