EC事業で押さえておくべきPL構築のポイント

月額1万円の美容機器サブスクは事業として回るのか? 事業PLで見る本体利用料と専用美容液クロスセルのリアル

顧客行動をベースにしたKPI設計、投資設計シミュレーション、事業PLの作成法などEC事業の数字を「行動から設計する」考え方を解説します【連載6回目】

川部 篤史[執筆]

8月10日 8:00

これまで、初回980円トライアルモデル、定期初回半額モデルなど、EC・通販業界でよく見られるリピートモデルを、「投資回収シミュレーション」の考え方で見てきました。今回は少し視点を変えて、ある美容機器サブスクリプションの「投資回収シミュレーション」を元に、月額1万円の美容機器サブスクが事業として成立するかを検証していきます。

美容機器サブスクは、通常の定期通販と何が違うのか?

サブスクリプションモデルというと、「毎月売り上げが積み上がる安定収益モデル」と捉えられがちです。確かに月額課金は、継続してもらえれば収益の見通しを立てやすいモデルです。だからといって事業として簡単に成立するわけではありません。特に美容機器のような有形商材のサブスクでは、機器原価、配送費、返却、再生加工、リユース運用、さらには周辺商材のクロスセルまで含めて見なければ、本当の収益性は見えてきません。

化粧品や健康食品の定期通販では、商品を購入し使い切り、再購入するというリピート構造が中心になります。購入回数が増えるほど売り上げと利益が積み上がり、原価、物流費、決済費などを差し引いた限界利益で投資回収を見ていく、という考え方です。

一方、美容機器のサブスクは少し性質が異なります。顧客は商品を「買う」のではなく、機器そのものを一定期間「利用する」形です。さらに、機器本体には原価があり、発送費もかかります。解約時には機器の返却が必要で、返却された機器を再利用する場合には、再生加工、検品、クリーニングなども発生します。

つまり、美容機器サブスクは単なる月額課金モデルではありません。機器をどう循環させるかという運用設計が、事業性に大きく影響するモデルなのです。

「月額1万円、初月半額、CPA1万円」で試算する

今回の試算では、美顔器を月額1万円で利用できるサブスクモデルを想定しました。初月はトライアル月として半額の5000円、2か月目以降は月額1万円で継続利用してもらう設計です。CPA(顧客獲得単価)は1万円としています。

この場合、初月売上は約4545円(税抜)となるため、初回ROASは45.5%です。初月だけを見ると当然赤字ですが、2か月目以降の月額課金で投資回収していく構造になります。

ここで重要なのは、月額課金だからといって、初月から利益が出るわけではないということです。むしろ初月は獲得コスト、機器原価、発送費などが重く、赤字になる前提で設計する必要があります。その赤字をどのくらいの期間で回収できるのかを見るのが、「投資回収シミュレーション」の役割です。

新品機とリユース機をどう扱うか

美容機器サブスク特有の論点になるのが、機器原価です。今回の試算では、すべて新品機を発送するのではなく、新品機とリユース機を組み合わせる前提にしています。

新品機の原価を1万円、リユース機の再生加工費を2000円とし、新品20%、リユース80%の比率で運用すると想定します。この場合、F1時点の平均原価は3600円になります。計算式としては、1万円×20%+2000円×80%です。

新品機だけで運用すれば、初期の原価負担は大きくなります。一方、リユース機を組み合わせれば、初回提供時の原価負担を抑えられます。ただし、リユース運用には品質管理、検品、再生加工、再発送に耐えられる状態の維持といった実務が必要です。原価だけを下げればよいわけではなく、運用品質と収益性を両立させる必要があります。

F2転換率は低く、F3以降は高く見る

このモデルで大きく違うのが、F2転換率の見方です。化粧品の定期購入であれば、商品体験が良ければF2転換率をある程度高めに置ける場合があります。しかし美容機器のサブスクでは、初月は「一度使ってみたい」「自分に合うか試したい」という顧客も多く含まれます。

さらに2か月目からは月額1万円に上がります。初月5000円で試した顧客にとって、2か月目以降の1万円は心理的にも金額的にもハードルが上がります。そのため、ここで離脱する顧客は一定数出ると考えるべきです。今回の試算では、F1からF2への転換率を35%と低めに置いています。

一方で、F2以降の継続率は高めに設定しています。なぜなら、2か月目も継続した顧客は、月額1万円を払ってでも価値を感じている層と考えられるからです。実際に機器を使い、使用感や生活習慣への組み込みやすさを感じている顧客であれば、その後の継続率は高まりやすくなります。

今回の試算では、F2からF3を75%、F3からF4を80%、F4からF5を90%、F5以降を95%と置いています。初回から2回目への壁は高いが、そこを超えた顧客は比較的残りやすい。この構造が、美容機器サブスクの大きな特長です。

初月トライアル価格5000円、2ヶ月目以降1万円、CPA1万円。新品20%、リユース80%で想定
初月トライアル価格5000円、2ヶ月目以降1万円、CPA1万円。新品20%、リユース80%で想定

サブスク特有の要素:終了返送時の送料

もう1つ、サブスク特有の要素として見落としやすいのが、終了時の返送コストです。美容機器サブスクでは、顧客が解約した場合、機器を返送してもらう必要があります。その際、返送用の資材費や送料が発生します。

通常の定期通販では、商品を届ければ取引は一旦完結します。しかし機器サブスクでは、終了時に「戻ってくる」ことまで設計に入れなければなりません。継続しなかった顧客の分だけ返送コストが発生するため、F別推移で離脱した人数に応じてコストがかかる構造になります。

そのため、配送時の送料だけでなく、終了時返送に関わる資材・送料も含めて試算する必要があります。今回のモデルでも、F1時点では初回発送に加えて、早期離脱者の返送コストが乗るため、フルフィルメント費はかなり大きなものになります。

本体サブスクだけで投資回収は成立するのか?

この前提で試算すると、美容機器本体のサブスクだけでも、投資回収期間は約10か月となります。5年後の投資回収効率は2.29倍です。

つまり、CPA1万円で顧客を獲得できる前提であれば、顧客1人あたりの限界利益は10か月程度で累積黒字化し、長期では一定の収益性を見込めるということになります。

試算の結果、長期で一定の収益性が見込めるということに
試算の結果、長期で一定の収益性が見込めるということに

ただし、この結果だけを見て「問題なく成立する」と判断するのは早計です。なぜなら、美容機器サブスクでは、単純な月額利用料だけでは判断できない要素が多いからです。

機器譲渡モデルでは、判断が分かれる

美容機器サブスクでは、一定期間利用した顧客に対して、機器本体をそのまま譲渡する設計が採用されることもあります。たとえば15万円相当の機器を月額1万円で提供し、累計の月額利用料が本体価格を超えた顧客には、そのまま機器を提供するという考え方です。

この場合、10か月で投資回収できるなら、その後の数か月分は利益になります。しかし、機器の実質価値や譲渡条件によっては、十分な利益が残らない場合もあります。たとえば10万円相当の機器を実質的に10か月で回収する設計であれば、ほぼトントンで終わってしまう可能性もあるわけです。

美容機器サブスクでは「月額課金が積み上がるから良い」と単純に見るのではなく、機器原価、リユース比率、返却・再生加工費、譲渡条件まで含めて判断する必要があります。特にリユース運用を行う場合は、回収した機器をどの程度再利用できるのか、再生加工費はいくらか、再発送に耐えられる品質を保てるのかといった運用設計が、収益性に直結します。

専用美容液は「ついで買い」ではなく、体験価値を支える商品

そしてもう1つ、美容機器サブスクで重要になるのが、専用美容液などのクロスセルです。美顔器は、機器単体で完結する商品ではありません。電流を肌に届けるタイプの機器であれば、通電性の高い状態を保つことが重要になります。また、電極を肌に当てながら動かす場合には、肌との摩擦を抑えるためのクッション性も必要になります。

つまり専用美容液は、単なる美容成分としての美容液ではなく、機器を適切に使うための補助商材としての意味を持ちます。

もちろん、表現上は「効果・効能」を断定するような言い方には注意が必要です。ただし、事業設計上は、専用美容液やジェルの存在は非常に重要です。通電性、クッション性、使いやすさを高める周辺商材を組み合わせることで、機器の利用体験そのものを高めることができます。そして、それはサブスク継続の理由にもつながります。

クロスセルを加えると、投資回収効率はどう変わるか

今回の試算では、サブスク利用者に対して、通常5000円程度の専用美容液を割安に購入できる設計を想定しました。原価を1000円程度とし、定期クロスセルのレスポンス率を30%と置いた場合、投資回収期間は9か月に短縮され、5年後の投資回収効率は2.56倍まで改善します。

本体サブスクのみの場合は、投資回収期間10か月、5年後の投資回収効率2.29倍でした。クロスセルを加えることで、収益性が一段高まることがわかります。

クロスセルを加えることで、収益性が一段高まった
クロスセルを加えることで、収益性が一段高まった

ここで重要なのは、クロスセルを単なる追加売上として見るのではなく、サブスク体験を支える構造として捉えることです。専用美容液があることで、機器の使用体験が安定し、顧客が使い続けやすくなる。その結果、クロスセル売上が生まれ、さらに継続率にも好影響を与える可能性があります。

美容機器サブスクにおける専用美容液は、単なる「ついで買い」ではなく、事業モデル全体を支える重要な要素なのです。

美容機器サブスクは、月額課金にすれば成立するわけではない

ここまで見てきたように、美容機器のサブスクリプションモデルは、単品リピート通販とは異なる収益構造を持っています。F2転換率は低く見ざるを得ない一方で、F2以降の顧客は比較的強く残りやすい。機器原価や返却・再生加工費の負担はあるものの、リユース運用によって初期原価を抑えることができる。そして専用美容液などのクロスセルを組み合わせることで、事業全体の収益性を改善できる可能性があります。

ただし、このモデルは決して簡単ではありません。リユース機の品質管理、返却オペレーション、再生加工、機器譲渡条件、専用美容液のクロスセル設計など、検討すべき要素が多くあります。だからこそ、感覚で「月額課金だから安定する」と判断するのではなく、「投資回収シミュレーション」で構造を分解して見る必要があります。

今回のような美容機器サブスクは、試算上は検討に値するモデルだと思います。ただし、それは本体利用料だけで判断するのではなく、機器の循環運用とクロスセルまで含めて設計した場合です。サブスクリプションモデルは、単に月額課金にすれば成立するわけではありません。顧客が継続する理由と、事業として利益が残る構造を同時に作る必要があるのです。

◇◇◇

今回解説したシミュレーションファイルの実物については、筆者のnoteで有料提供しています。実際に数値を変更しながら、美容機器サブスクの収益構造を検証できる形にしています。

月額費用、F別継続率、新品機とリユース機の比率、再生加工費、専用美容液のクロスセル率などを変えながら、自社の条件に近い形で試算できるため、同様のモデルを検討している方には参考になるはずです。

▶試算ファイルの実物はこちらのnoteで(有料販売):https://note.com/kawabe_atsushi/n/n6e30f5923967

試算してから、勝負する。必要に応じて、事業設計の参考にしていただければと思います。

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