シニア向けのバナー広告ねーって、誰がシニアやねん!!【オカンでもわかるネット広告の歴史】
前回リターゲティング広告のしくみを理解し、表示されるバナー広告を楽しく活用していたおかん。そんなある日、表示された健康食品のバナー広告を見てかなりカチンときた! イラスト◎浮蓮 要
登場人物
八百屋のおっちゃんにもいつも「お姉さん」言われて、年齢不詳の美魔女で通ってんのに、誰がシニアやねん! これは間違いなく個人情報取られてるやろ!? 情報漏えいや!!名誉棄損やぁ!!!!
ターゲティングされただけじゃないの? 例えばGoogleで広告を配信する時、年齢で絞り込むことができるんだけど、精度がすごく高いからそれが当たったのかもしれないね。
なんでグーグルはそんなのわかるんや!
検索結果とか見ているサイトから大体の年齢層を解析しているみたい。もちろん解析してほしくないって人もいるし、強制ではないからやめてもらうこともできるよ。
それにこの間話したCookieもだけど、基本的には個人情報を読み取ったり悪用したりっていうことはしないよ。収集して解析したデータは、あくまでもユーザーに有用な広告を届けるためなんだ。
そうなんか。しかし、こんなんちょっと前までなかった気がするけどなあ。最近のネット広告は裏で何が起きてるのかわからんで、なんかモヤモヤするわ。
オカンもだいぶ詳しくなってきたから、もう少しネット広告の話をしてみようか。わかると面白い世界だし、たぶん個人情報まわりの不安感もすっきりするんじゃないかな。
故きを温ねて新しきを知る。ネット広告の歴史
ネット広告がはじまった1990年代後半は、広告を掲載したい広告主が「この期間、この枠を買います」って、広告枠を持っているメディアサイトに直接依頼をして配信をしてたんだ。これを「純広告」って言うんだけど、Yahoo! JAPANのトップ画面の右側とかが有名かな。
なんや「純」って。不純な広告でもあるんか。
「通常の広告」って意味での「純」みたいだよ。当時、広告はサイトのコンテンツと同じサーバーから配信されていて、人の手で差し替えられていたんだ。それが「アドサーバー」が出てきて変わった。
……?
広告を配信する専用のサーバー、つまり「アドサーバー」を立てることで、広告をコンテンツとは切り離して管理できるようになったんだ。
ふむふむ。
その後、Webサイトとかブログが気軽に作れるようになって、広告を掲載できる場所が一気に増えたんだ。
広告主側はメディアごとでのレポート管理や分析が大変だったし、表示やクリックされた分だけお金を払いたいっていうニーズがあり、メディア側は空いた広告枠を収益につなげたいってニーズがあって、「アドネットワーク」が生まれたんだ。
あ、知ってるで! 元締めやろ!
違うって言ったじゃん。アドネットワークはそういう大小さまざまな規模のサイトの広告枠をまとめる存在として注目されたんだ。
メディア側は売りたい広告枠をアドネットワークに提供する、広告主もアドネットワークに依頼をすれば、自動でメディアに配信できる。今までかかっていた作業を取りまとめてくれるから……
仲介役ってわけやな!
そう。でも、アドネットワーク自体もだんだんと数が増えていって、今度は広告主がどのアドネットワークを選んでいいか分からなくなってしまったんだ。広告枠を売っていたメディア側も一緒で、一番高値で買ってくれるアドネットワークがどこか分からなくなってしまった。
そら、広告主は自分の配信したいとこに出したいし、メディアも稼げた方がええからな!
……(商売の勘がすごい!)。そこで登場したのが「DSP」と「SSP」なんだ。
DSPはDemand Side Platformの略で、複数のアドネットワークやWebサイトの中から広告主にとってなるべく安く、そして効果が高くなるであろうユーザーのいる広告枠に広告を配信するためのツール。
SSPはSupply Side Platformの略で、メディア側で広告枠の収益が最大になるようにするためのツール。
この2つが組み合わさって行われるRTB(Real Time Bidding)っていう広告枠の自動取引が今ネット広告の主流になっているよ。
……。
DSPは広告主側に、SSPはメディア側に利益をもたらす。そのために2つが組み合わさって広告配信システムを構成してるって感じかな。
プシュ~(※湯気が出ている)
ごめんごめん。これは難しいから細かく話していくよ。
いま主流の「RTB」とは?
あるユーザーが広告枠を持つメディアサイトに訪れた時(①)、メディアは「この枠に広告を出しませんか?」というリクエストをSSPに送る(②)。
するとSSPは「このユーザーのこの広告枠に対して、広告を表示させるために入札しませんか?」というリクエストをDSPに送る(③)。
この時、前回説明したように、実際には細かいユーザー情報が送られるわけじゃなく、Cookieという名札(ID)だけが受け渡されるから(④)、別にオカンの名前や個人情報が送られることはないよ。
DSPはサイトを訪問しているユーザーの過去の履歴とかを分析して、瞬時に適正な価格で入札する。広告主が事前に決めた目安をもとに、DSPが各サービスのロジックで自動で入札額を決めて入札するんだ。広告主Aは105円、B社は110円、C社は115円で入札したとするよ(⑤)。
DSPは入札の結果をSSPに伝えて(⑥)、SSPはその結果を元に落札者(最も高い値段を付けた広告主)を決定し、それをメディアに伝える(⑦)。
※わかりやすくするために、上の図ではSSPに対してDSPが1つ接続された状態になっていますが、SSPは複数のDSPと接続している場合もあります。その場合は、各DSPの中で最も高値を付けた入札者同士で、再度勝者が争われます。2回戦ですというわけです。
C社が最も高い値段で入札しているので、C社の広告がメディアサイトに掲載される(⑧、⑨)。
複雑やなぁ。なんや株の取引みたいやな。
そうそう、まさにこの技術を作ったのは、リーマンショックで職を失った金融工学の雄たちだ……なんてことも言われているんだよ。
「アドエクスチェンジ」はRTB取引の立役者
厳密に言うと、RTB取引の中には「アドエクスチェンジ」というものも出てきます。
アドエクスチェンジは複数のアドネットワークとWebサイトを束ねたもので、アドネットワーク間の広告枠の交換ができるようになっています。
このアドエクスチェンジという市場ができたことで、広告をインプレッションごとに取引するRTBの形態が一般的になったのです。
もともと、RTB取引はアドエクスチェンジ内でしかできなかったのですが、DSPがアドエクスチェンジやアドネットワークと接続されることで、すべての広告枠がRTBで取引可能になったのです。
1枠ごとに広告掲載のやり取りをしていたのは純広告時代と変わらないけど、昔は人と人とのやり取りだったから、時間や手間がかかっていたんだ。RTB取引では、ユーザーがサイトに訪れてから配信する広告が決まるけど、わずか0.1秒ほどしかかからないんだ。
へ〜、素早いんやなあ。
歴史を振り返ると、1つの枠を個人で取引していた時代から、アドネットワークで複数メディアの広告枠を束ねるようにり、DSPとSSPで枠ごとでの自動取引が実現され、利便性や効果をがどんどん高くなってきたってことだよ。
だから、「シニア向け」って出てるのも、進化したテクノロジーによって「オカンにこの情報が役に立つんじゃないか」と思った人がいたから配信された広告なんだよ。
アタシのためやったんか……! RTBおもろいわ!
後日……
過去の注文履歴から瞬時に適正な価格を提案……! 見える!! おっちゃんの後ろに最新鋭のRTBが見えるでぇ!!!!
今回覚えたいアドテク用語
DSP(ディーエスピー)
Demand Side Platformの略で、複数のアドネットワークやWebサイトの中から広告主にとってなるべく安く、そして効果が高くなるであろうユーザーのいる広告枠に広告を配信するためのツール。
SSP(エスエスピー)
Supply Side Platformの略で、メディア側で広告枠の収益が最大になるようにするためのツール。複数のDSPやアドネットワークと接続し、最も単価の高い広告を選んで配信してくれる。
RTB(アールティービー)
Real Time Biddingの略で、広告枠のインプレッションが発生するたびに入札を行い、最も高い金額の入札者の広告を表示する仕組み。入札価格の不要な高騰を防ぐため、実際には「セカンドプライスオークション」という方式が取られ、最高入札額ではなく2位の入札額+1円が落札額になることが多い。