ECサイトの売上UPに役立つ「パーソナライズ」を実現する方法と基礎知識
消費行動の多様化で、消費者が購入したいと思う商品を「適切な消費者に」「適切なタイミングで」「適切な提案を」といったマーケティング活動がEC事業者に求められるようになっている。消費者の行動や興味・関心に合わせて「パーソナライゼーション」を実現するには、どのようなツールを使い、どういった施策を打てばよいのか? データ・マネジメント・プラットフォーム(DMP)ベンダーのシーセンス・江川亮一社長が、ECサイトのコンバージョン率アップや顧客のエンゲージメント強化につながる「パーソナライゼーション」の方法と最新事例を解説した。写真◎Lab
パーソナライゼーションを成功させるデータ活用のポイント
パーソナライゼーションのメリットは、ユーザーエクスペリエンス、ECサイトのコンバージョン率の向上、リピーターの増加、そして、売上拡大につながることだ。(江川社長)
ECサイトにおけるパーソナライゼーションの効果についてこう説明する江川社長。近年、ECサイトの商品レコメンドをユーザーごとにカスタマイズしたり、Web接客ツールを使って顧客ごとに最適なプロモーションを行ったりするEC事業が増えていることに触れ、「パーソナライゼーションに投資をしている企業の業績は伸びている」と強調する。
江川社長は、約16億ユニークユーザーのデータを蓄積しているDMP「Cxense DMP」の事例を踏まえ、パーソナライゼーションの具体的な方法を紹介した。
ユーザーデータを蓄積する方法とDMPの仕組み
ユーザー属性などに応じたECサイトにおける表示内容の出し分け、顧客の購買履歴などに合わせて異なるクーポンを提供するには、ユーザー1人ひとりの属性情報や興味・関心を把握する必要がある。
それらのデータを溜める方法の1つとしてあげられるのが、会員登録によって年齢や性別といったデモグラフィックデータを集めること。そしてもう1つが、ECサイトを訪れたユーザーの行動を追跡し、購買履歴や検索履歴、サイト閲覧などの行動情報から興味や関心を把握していく方法だ。
シーセンスが提供している「Cxense DMP」は、ECサイトなどにJavaScriptを埋め込み、そのサイトにアクセスしたユーザーの行動を追跡。そして、ユーザーの購買履歴や検索履歴、サイト閲覧履歴などを蓄積し、会員情報などと紐付けてユーザーのプロファイルを作成していく仕組みだ。
ユーザーデータを収集する際のポイントについて江川社長は、「最新の行動情報を常に蓄積し続け、『現在の興味関心』を把握することが重要になる」と強調する。消費者のニーズは刻々と変化するため、たとえば数週間前の購入履歴に基づいて商品をレコメンドしても、すでにユーザーのニーズが変化している可能性があるためだ。
また、近年は1人のユーザーが複数のデバイスを利用することも多い。そのため、「パソコンやスマートフォン、タブレット端末などデバイスを横断してユーザーデータを蓄積することも欠かせない」(江川社長)
そして、蓄積したユーザーデータを属性や興味関心に応じていくつものグループに分類し、パーソナライゼーションに必要なデータベースを構築する。
セグメントの条件には「ページ閲覧回数」「サイト訪問回数」「会員・非会員」「会員種別」「年齢」「性別」「特定アイテムの閲覧履歴」「特定カテゴリの閲覧履歴」「検索における特定キーワードの利用の有無」「アクセス地域」「一定期間のアクセスの有無」などがある。
「パーソナライゼーション」で集客アップやコンバージョン率向上を実現する方法
ECサイトの「パーソナライゼーション」によって、どのようなマーケティング施策を打つことができるようになるのだろうか。
江川社長は、①サイトの表示内容やキャンペーンを顧客ごとに変えてコンバージョン率を改善する②セグメント広告で広告費を最適化する③需要予測にもとづくタイムリーな販促を行う④アップセルにつなげるレコメンド─ といった施策の方法を解説した。
【CVR向上】サイトの表示内容やキャンペーンなどを顧客ごとに変える
ユーザーの興味関心や購買履歴などに基づいてカスタマイズされたキャンペーン、クーポンなどを配信することは、会員登録の促進やコンバージョン率の改善に直結する。
たとえば、ゲストユーザーには会員登録キャンペーンを表示。会員登録して間もないユーザーには会員限定クーポンを配信してリピート注文を促す。ECサイトを離脱しそうなユーザーには、ブラウザを閉じようとした瞬間にキャンペーン情報をポップアップして離脱を防ぐ。また、一度閲覧されたバナーは削除し、別のバナーを表示するなど、動的なサイトを作るとより効果が高まるという。
ユーザーが会員なのかゲストなのかだけでなく、「過去に会員だった」といった細かい情報まで踏まえてECサイトの表示内容やキャンペーン内容などを変えることで、より高い効果を得ることができる。(江川社長)
【集客】データを活用して広告費を最適化する
ECサイト内のユーザーの行動履歴や会員データを活用してセグメントを作成し、そのセグメント情報をDSP(Demand-Side Platform)やGoogleまた、Facebook、LineといったSNS広告で「狙った顧客に最適な広告を配信し、広告効果を高めことできる」(江川社長)。
「Cxense DMP」は導入企業が独自に構築した「プライベートDMP」と、外部の企業などが持つ「パブリックDMP」を連携し、データを掛け合わせることが可能だ。よりデータの精度を上げ、ターゲットとなる見込み客にアプローチできるようになる。
アップセルを促すレコメンド
ショッピングカート画面や購入確認画面などで、関連商品や、その商品を買った他の顧客がよく買う商品をレコメンドし、併せ買いを促す。また、1回あたりの購入金額が送料無料の金額を超えるように商品を提案するのも有効。
需要予測に基づくタイムリーなプロモーション
「Cxense DMP」のリアルタイムトラッキング機能を使うと、1分単位で購入数を調査することで、年齢層や性別、職業、居住地域といった属性ごとに「よく売れる時間帯」を特定することができるようになる。
ユーザーのプロファイルと購買データを掛け合わせることで、たとえば「正社員の30代女性は午前8時台にメルマガを開封しやすい」といったマーケティングに役立つ情報を得ることができる。
ユーザーごとに最適化した情報発信と、需要予測を組み合わせることで、売上UPにつながるさまざまな施策の実行という可能性が広がるのではないか。(江川社長)
【集客】検索クエリを分析し、SEOに強い特集ページを作る
ユーザーが検索エンジンでよく使うキーワードを特定し、そのキーワードをベースとした特集ページを作り、検索エンジンからの流入増加を狙うこともできる。
ユーザーが検索で使うブランド名やカテゴリ名、素材名などを使ったコンテンツページを自動生成する機能を搭載。この機能を活用し、キーワードに関連する新着の商品情報や、キーワードを含む商材の週間ランキングを毎日自動で更新することで、「SEOに強いサイトを作ることができる」(江川社長)と言う。
オンラインゲーム会社やコンビニ大手の成功事例
続いて江川社長は、「Cxense DMP」を導入してサイトのパーソナライゼーションに取り組み、コンバージョン率向上などにつながった企業の成功事例を紹介した。
動画配信やオンラインゲームなどを手がける企業では、サイト訪問者の属性やサービス利用履歴に応じてサイトの表示内容を変えている。
たとえば、「会員登録しているが、クレジットカードは登録していない」「動画を頻繁に視聴するが、ゲームは利用していない」といった条件でユーザーを分類。それぞれのグループに条件に適したバナーやキャンペーンを表示する。パーソナライゼーションの施策によってコンバージョン率が導入前の約10倍に上昇したケースもあるという。
コンビニ大手の某社では、ユーザーの購入履歴や商品閲覧履歴に応じてECサイトのレコメンド商品やキャンペーンのポップアップなどを自動で切り替えるようにした。
その結果、「サイト上の商品の露出数」「レコメンドによるクリック数」「サイト全体のコンバージョン率」「新規顧客の獲得率」「定期購入への引上げ率」などがすべて向上したという。
コンビニ大手の導入効果
- 自動化による商品露出数の拡大:商品露出数203%up
- レコメンドによるクリック数:導入前比較で約5倍
- 全体コンバージョン率:導入前比較で150%up
- 初回購入引上げ率:従来手法比較で約5倍
- 定期購入引上げ率:従来手法比較で約2倍
累計16億UUのデータを蓄積する「Cxense」
シーセンスが提供するデータソリューション「Cxense」シリーズは広告レコメンデーション、検索、ウェブサイト分析、DMPなど5つの製品で構成されている。2010年の設立以来、導入企業はメディア企業やEC事業者、銀行、通信事業者など累計350社を超えた。
江川社長は、「Cxense DMP」を導入している多くの企業が業績改善に成功していることに触れ、パーソナライゼーションの有効性を次のように強調した。
パーソナライゼーションを続けていると、効果が高い施策と低い施策がはっきりわかるようになる。続ければ続けるほどデータがたまり、施策の精度が上がる。効果が高い施策に絞り込んでいくことで、コンバージョン率やクリック率(CTR)は改善していく。(江川社長)