オーマイグラスの事例にみるオムニチャネルを成功に導くバックオフィスの仕組みとは?
オムニチャネルを成功させるには、ECとリアル店舗をシームレスにつなぎ、最適な業務プロセスを実現するバックオフィスシステムは欠かせない。オムニチャネルで成果を上げている企業は、どのようなシステムを使い、どういった施策に取り組んでいるのか。
世界で4万社が利用するクラウド型の基幹業務システム「NetSuite」を提供する日本オラクルのネットスイート事業本部(以下オラクル+ネットスイート)・内野彰氏が、オーマイグラスやマクラーレンといったクライアントの事例を踏まえ、オムニチャネルを成功に導く業務システムの在り方を解説する。写真◎Lab
オーマイグラスに学ぶ最新のオムニチャネル
「NetSuite」はERPやeコマース、財務会計、CRM、人事といった企業の業務を1つのシステムで管理するクラウド型のソフトウェア。EC企業やオムニチャネルに取り組む小売企業、メーカー、サービス業など、世界4万社以上が利用している。
業務システムの統合によってオムニチャネルを推進している企業の成功事例として内野氏があげたのは、メガネECの「オーマイグラス」の取り組みだ。
買い物の利便性向上を最優先に掲げながら、在庫移動や受発注業務を効率化し、オペレーションコストの削減にも余念がない。先進的なオムニチャネルにチャレンジしている企業の1つであり、こうした取り組みは多くの企業にとって学びがある。(内野彰ディレクター)
オーマイグラスは2011年に設立され、現在はオンラインショップ「Oh My Glasses TOKYO」のほか、路面店や商業施設のテナントなど約10店舗の直営店を運営。消費者が便利にメガネを購入できる環境を作るため、2014年に「NetSuite」を導入し、本格的なオムニチャネルに乗り出した。
EC商品1万SKUの店頭受け取りが可能
メガネECの課題の1つは、メガネを購入する際に視力検査や試着を行えないこと。この課題を解決するため、「オーマイグラス」はECサイトで販売している商品の店頭受け取りサービスを実施している。
ECサイトの利用者は、オーマイグラスの直営店に加え、約600か所の提携店で商品を受け取ることができる。商品を店舗に取り寄せ、視力測定や試着を行った上で購入することが可能。店頭取り寄せサービスの対象商品は、ECで扱っている400ブランド・1万SKUに上るという。
ECでは試着・返品サービスを実施
ECサイトでは、商品を自宅で試着してから購入できる試着サービスも行っている。メガネを最大5本まで注文でき、顧客は試着後に購入することが可能。試着期間は5日間。返品は無料だが、試着したすべての商品を返品した場合は試着手数料540円がかかる(試着手数料は2017年12月1日からスタート)。
オーマイグラスが取り組んでいる店頭受け取りサービスや返品サービスは、在庫の入出庫の件数が増える上、膨大な件数の返品処理が発生する。そのため、サービスを実現・維持するには、複雑な業務プロセスを管理し、複数のチャネルにまたがる顧客接点を管理するバックオフィスの仕組みが必要になる。
オーマイグラスは「NetSuite」のAPIを活用し、基幹システムとEC、リアル店舗、倉庫などのサブシステムを連携。注文データの処理を自動化したほか、試着注文から決済までの顧客ステータス変更、店舗とECの在庫の入出庫管理、倉庫への入荷指示・出荷指示、購買情報分析といった各種業務プロセスを自動化しているという。
ECの成長には「統合されたシステム」が不可欠
「NetSuite」が2016年に処理した売上高は合計1870億ドル(約21兆円、1ドル=112円換算)に達し、2016年のサイバーマンデー(感謝祭翌週の月曜日)には1日に245万件の受注を処理したという。
2006年の設立以来、さまざまな企業のECやオムニチャネルを支えてきた「NetSuite」。内野氏は、「オムニチャネルを成功させるには、統合されたバックオフィスシステムを構築することが欠かせない」と、オーマイグラスなどの事例などを踏まえてこう強調する。
顧客が複数のデバイスや販売チャネルをまたいで行動するオムニチャネルにおいて、ユーザーの複雑なトラフィックを把握・分析するには、基幹システムやEC、店舗、倉庫、会計などの業務システムがシームレスに連携することが不可欠だという。
データがバラバラに管理されていると、データの集計に手間がかかる上、俯瞰的なデータ分析が困難となる。また、業務ごとにシステムが独立していると社内の業務プロセスが分断され、運用が非効率になる。社内の業務システムが統合されていないために、業務効率悪化やデータ分析の不備、セキュリティへの不安など、さまざまな面で課題を抱える企業は少なくない。(内野氏)
海外でも多数の成功事例
「NetSuite」は海外でも多数の企業のオムニチャネルを支えている。たとえば、ベビー用品の「マクレーンベイビーストロワーズ」はeコマース、在庫管理、注文管理、マーケティング、経営指標管理、製造といった業務システムを「NetSuite」で統合。「トランザクションの履歴の完全な管理」「あらゆるチャネルにまたがる顧客の購買行動を1つの統合データとして管理」「購買行動のライフサイクルにおける収益性を定量的に把握」といった成果を実現している。
「Net Suite」5つの特徴、ECに特化した「Suite Commerce」を2018年春までに国内で提供
ネットスイートの概要や製品の特徴に触れておきたい。15か国で約160か所の拠点を持ち、社員数は約5500人、年商は1000億円を超えている。顧客数は世界約4万社、国内では300社近いという。2016年11月にオラクルの傘下に入った際、オラクルとして過去最大規模の約1兆円で買収された。
「NetSuite」はシリコンバレーのスタートアップ企業にも数多く利用されている。直近1年半で導入企業約40社が株式上場を果たし、時価総額は合計1000億ドルを超えるなど、最先端企業の成長も支えている。
内野氏は「NetSuite」の特徴について、次の5点をあげた。
- 非常に安全性が高く、柔軟なカスタマイズが可能、オープンなAPIの開発環境を提供できる
- 企業の業務システムを統合された一つの製品として、クラウドのみで提供する
- ERP、コマース、CRM、財務会計、オムニチャネル、人事管理などの機能を統合できる
- 複数の言語、通貨、各国の税制に対応しており、グローバル展開が可能
- 流通業、製造業、サービス業など業界別に最適なシステムを提供
また、EC事業者に提供する価値として、①多彩な視点による顧客分析②革新的な顧客価値経験の提供③効率的、高度な注文管理④システムの拡張性⑤単一のクラウド基盤――があるという。
ECに特化した「Suite Commerce」を2018年春までに国内で提供
内野氏は、オンラインショッピングに特化したクラウド型のECプラットフォーム「Suite Commerce」を2018年春までに、日本でも本格的に提供開始することも発表した。「Suite Commerce」を使ったWebサイトは現在、約3200サイトで稼働しており、5400万種類以上の製品を管理している。ユニークユーザーは年間13億人以上、注文処理件数は年間1000万件を超えているという。
「Suite Commerce」の特徴として、内野氏は次の5点を紹介。
- 完成されたレイアウトテンプレート
- 雛形提供による高速インプリ
- モバイル完全対応
- マーケティングオートメーション等の連携
- メールキャンペーン、ディスカウント設定、ポイント制などのプラグイン
「CSSを拡張したメタ言語を使い、プログラミングCSSを実現しているため、ピクセルレベルのデザイン性で、全てのレイアウトをコントロールできる」と説明。複数の言語や通貨、税制に対応しているため海外展開にも活用できると強調した。
さらに、Webページの表示速度が速く安定稼働すること、SEOに強いことなどが多くの企業から選ばれる要因になっているという。そして、直感的に操作できるコンテンツマネジメントシステム、ページのズーム機能、まとめ買い機能、カートのカスタマイズ、ソーシャルプラグイン、会員ページも特徴だと説明した。
目指すのは革新的な買い物体験の提供
オラクル+ネットスイートが考える理想のオムニチャネルについて、内野氏は「消費者がオンラインかオフラインかを問わず、いつでもどこでも商品を購入でき、サポートも受けられる。そして追加注文や返品も利用できる。そういった革新的な買い物の体験を提供できるように『NetSuite』は設計されている」と説明する。
最後に、「世界の小売業界はオムニチャネルが当たり前となり、業種や業態を超えてビジネスモデルの変革が起きている。今後、市場のルールが一変する可能性もある」と指摘。
そして、「変化が激しい市場で勝ち抜くためには、スピード感を持って理想のオムニチャネルを実現できる信頼性のあるスタンダードなシステムを利用することが、eコマースの1つの成功モデルではないか」と強く訴えかけた。