「BAKUNE」「(ふつうの)ショップ」に学ぶEC指名買いを生むアプローチ。高付加価値商品に効く「納得設計」3つの原則
高付加価値商品がECの価格競争に勝つカギは? 「BAKUNE」や「(ふつうの)ショップ」の事例を交え、ポップアップを売る場ではなく「納得をつくる場」として機能させ、ECでの指名買いとリピートへつなげるための体験設計やCRMの原則を解説します。
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機能・素材・思想・ストーリー──商品そのものが持つ付加価値を理由に選ばれるようにするにはどうすればいいでしょうか?ECでは商品の価値が「本当に体感できる?」という疑念に負けやすいという側面があります。だからこそポップアップは“売る場”ではなく「納得をつくる場」として効果的なのです。指名買いと継続購入を生む設計を、事例を交えて解説します。
- 高付加価値商品はECの比較競争に巻き込まれた瞬間に勝ち目を失う
ポップアップは"売る場"ではなく「納得をつくる場」として設計し、購入はECに流す役割分担で機能する。 - 価格は比較ではなく体験で納得するもの
試食ではなく“使う体験”、試着ではなく“体感の言語化”へと編集することで、来店客は商品の感覚価値を自分の生活に紐づけて持ち帰る。 - 成果は会期中の売上だけでは測れない
会期中の一次接点(LINE・会員登録)→一次購入時の同梱物→継続CRMの3ステップで、ポップアップを指名買いとリピートを生む装置として完成させる。。
高付加価値商品は、ECの"説明"だけでは納得に届かない
リカバリーウェア、高価格帯の調味料、こだわりの美容家電や調理家電──カテゴリは違えど、これらに共通するのは「同じカテゴリの一般的な価格帯と比べて、3~5倍以上の価格に位置している」という点です。
たとえばリカバリーウェアの代表格である「BAKUNE」は、上下セットで2万円台後半。一般的なパジャマと比べれば数倍の価格帯です。高価格帯の調味料も同じで、スーパーで売られている同カテゴリ商品の価格帯から見れば、明らかに高い位置にあります。それでも選ばれているのは、商品の背景にある「思想」「素材」「つくり手」「使った後の感覚」までを含めた価値が、価格を上回って納得されているからです。
ところがECは、この“納得”をつくるのが構造的に苦手な場です。
- 比較に巻き込まれやすい:検索結果やレコメンドで、ユーザーは常に標準価格帯の商品と並べて見ています。スペック表だけだと、価格差を埋める根拠が見つかりません。
- 感覚価値が伝わらない:軽さ、肌当たり、香りの立ち方、後味、回復した感じ──こうした“身体で知る価値”は、写真と文章では再現が難しい。
- 「自分にとって必要か」が判断できない:どれだけ商品が良くても、「自分の暮らしに必要か」が腹落ちしなければカートには入りません。
比較・感覚・必要性──ECで補いきれない3点を引き受けるのが、ポップアップという場です。
ポップアップは「売る場」ではなく「納得をつくる場」である
ポップアップを“短期の売り上げを立てる場”として捉えると、高付加価値商品は意外と苦戦します。会期内に多くの来店客が来ても、その場で1万円~数万円の意思決定をしてもらうのはハードルが高いからです。
そこで、視点を切り替えます。ポップアップのKPIを「売上」だけでなく「納得獲得数」に置き直す──これが本記事で一番お伝えしたいことです。
納得獲得とは、来店客が次の3つを通過した状態を指します。
- 体験:商品の感覚価値(軽さ、回復感、香り、コクなど)を身体で知る
- 比較:自分が今使っているものとの違いを、自分の言葉で説明できる
- 言語化:「自分の生活のどこに、なぜ必要か」を自分で位置づけられる
この3つを通過した来店客は、その場では買わなくても、帰宅後にECで指名検索し、購入に至ります。高付加価値商品の購買層は、衝動的に高額商品を買うよりも、一度持ち帰って考え、納得してからECで購入するパターンが多い層です。ポップアップは“その納得を仕込む装置”として最適なのです。
事例1:「(ふつうの)ショップ」──同カテゴリの中で“高くても選ばれる”調味料
筆者が事業支援するブランド「(ふつうの)ショップ」は、プロのこだわりを食卓に届けるブランドとして、マヨネーズ、ケチャップ、ドレッシングなど10種類のこだわり調味料を1瓶1200円~の価格帯で展開しています。
これまでEC中心に事業を伸ばしてきましたが、ECだけでは伝わりきらない価値をどう伝えるかが継続的な課題でもありました。
その課題への解決のアプローチの1つとして実施したのが、2026年3月18~24日の7日間、日本橋三越本店本館地下1階・生鮮プロモーションスペースへの初出店です。
結果、期間売上・日別売上ともに過去最高を記録しました。何が効いたのかを設計の観点で振り返ると、ポイントは大きく3つに整理できます。
ポイント1:「試食」ではなく“使う体験”として編集する
調味料のポップアップで最もよく見るのは「小皿に出して試してもらう試食」です。しかし、それでは商品の本当の価値は伝わりません。マヨネーズ単体で試食してもらうよりも、「焼きたてのバゲットにつけた時」「茹でた野菜と合わせた時」「卵料理に使った時」──そういう日常の文脈の中ではじめて、コクや後味、素材の軽さといった感覚価値を感じてもらえます。
そこで「(ふつうの)ショップ」では、全商品を試食可能とした上で、「どう使うと一番違いがわかるか」をテーマにした提案を行いました。来店客は「あ、これは普段の卵サンドに使ってみたい」「うちの夕食のあの料理と合いそう」と、自分の生活に紐づけて納得していきます。
ポイント2:百貨店のフロアという“納得の文脈”を借りる
日本橋三越本店本館地下1階は、目の肥えた顧客が日常的に上質な食材を選ぶ場所です。
同じ商品でも、コンビニの棚に並ぶか、デパ地下のプロモーションスペースに並ぶかで、受け取られ方は大きく変わります。
これは「ハロー効果による箔付け」ではなく、「この場所で売られている=目利きの人たちが扱うに値する」という文脈の借用です。目の肥えた購買客は、 商品単体のスペックよりも、その商品がどういう文脈で扱われているかを敏感に読み取ります。出店場所そのものが、納得の前提を整えてくれるわけです。
ポイント3:「贈る相手に合わせて内容を選びたい」声に応えるギフト設計
「(ふつうの)ショップ」は、これまでも「紅白セット」などのセット商品をECで展開してきました。さらに消費者から「贈る相手に合わせて内容を選びたい」という声が寄せられていたことから、今回のポップアップでは、好きな商品を自由に組み合わせられるギフトボックスを用意。専用のショッパーも合わせて展開しました。
ここで重要なのは、ギフト購入が単なる贈答需要の取り込みにとどまらない点です。「自分用に1200円超の調味料を選ぶのは少し迷うが、人に贈るなら間違いない」という心理が、別の角度から価格のハードルを下げます。さらに、一度ギフトとして購入した人は、贈った相手の反応を経由して、自分用にも購入するケースが生まれます。ギフト動線は、自分自身への納得を一歩外側からつくる導線としても機能するのです。
「店頭で価値を直接体感してもらう試食」と「贈る側の心理を活用したギフト設計」──この2つが、価格を比較ではなく納得で受け止めてもらうための両輪として機能した出店だったと言えます。
事例2:TENTIAL「BAKUNE」──D2Cで成長したブランドが、なぜリアル接点に投資するのか
リカバリーウェアは、ECで売るのが特に難しいカテゴリです。「着るだけで疲労回復」と説明しても、効果は個人差があり、見た目は普通のスウェットやパジャマと変わりません。価格は上下セットで2万円台後半。SNSには「効果がよくわからない」というレビューも一定数あります。
このカテゴリで圧倒的なシェアを持つのが、TENTIALの「BAKUNE」です。一般医療機器の届出を行い、独自開発の特殊機能繊維「SELFLAME」による血行促進機能をエビデンスベースで訴求。2021年2月の販売開始から累計販売150万セット超(2025年時点)と、リカバリーウェアという市場そのものを牽引してきたブランドです。
もともとオンライン中心のD2Cモデルで成長してきたブランドですが、近年、明確にリアル接点への投資を強化しています。直営店は虎ノ門ヒルズ、池袋パルコ、丸の内、伊勢丹立川、そごう横浜、横浜みなとみらい、大名古屋ビルヂングなどに広がり、加えて2025年だけでも、表参道ヒルズ(5~6月)、伊勢丹新宿店(6~7月)、バーニーズ ニューヨーク各店舗(六本木・銀座本店・横浜・神戸・福岡/5月末~6月)、大丸心斎橋店(10月~2026年2月)と、百貨店・セレクトショップでのポップアップが続いています。
象徴的なのは、伊勢丹新宿店本館5階での出店が、当初のポップアップから常設店へと移行する形で継続していることです。ポップアップが単なる催事で終わらず、出店期間を延ばしながら売り場として定着していく流れが、ブランド成長の動線として機能していることがわかります。
マスでの認知とリアルでの納得は、セットで設計されている
BAKUNEは2023年12月に初のテレビCMを放映し、2024年末からは櫻井翔氏を起用した「疲労回復は、パジャマから。」「BAKUNE完了。」といったメッセージを展開してきました。CM施策では、CM放映開始から2か月で20万セットの販売、店舗によっては行列ができるほどの反響があったと報じられています。
ここで注目したいのは、マスで「BAKUNE」という名前を知った人が、次に向かう場としてリアル接点が用意されているという構造です。テレビCMで認知を取り、ECで初回購入するユーザーが多数発生。一方で、「2万円台後半のパジャマ」は、CMを見ただけでは決めきれない人も多いのが実態です。その層を取りこぼさず、「実際に触って、着て、納得してから買う」場を、百貨店という信頼性の高いフロアに置く。これがリアル接点拡大の本質と言えます。
ポップアップは“市場の手応え”を測る装置になっている
伊勢丹新宿店での移行はわかりやすい例ですが、ポップアップはその立地・フロア・客層に対して自社商品が持つ吸引力を、短期間・低リスクで確かめられる出店形態です。手応えがあれば期間を伸ばし、常設へ移行する。逆であれば次の場所を試す。出店判断の解像度、提案アイテムの構成──次のリアル接点に向けた判断材料が、ポップアップで一気に得られます。
BAKUNEの百貨店ポップアップ群は、単なる販路拡大ではなく、次のリアル接点をどこに置くかを市場と対話しながら見極める動きとして機能しているわけです。ECで売れているブランドほど、こうした“市場との対話”を構造化できる。これからリアル接点を拡張したいD2Cブランドが学ぶべき設計思想です。
このカテゴリのポップアップに共通する設計原則
BAKUNEに限らず、リカバリーウェアや類似の「効果が可視化されにくい高付加価値商品」のポップアップを設計するうえで、押さえておくべきポイントを整理します。
- 試着の場で“身体の変化”を意識化させる:着用前後の感覚差を、その場で言語化してもらう導線(短いカウンセリング、簡易アンケートなど)を組み込む
- 店頭で即決させない:高単価商品の購買層は、家族と相談したり、もう一度比較してから決めたい層。QRコードでEC商品ページに導き、後日購入につなげるほうが客単価は安定する
- 「これだけは伝えたい価値」を1点に絞る:高機能を全部見せようとせず、最も差を体感できるポイントを体験動線の中心に置く
これらは、リカバリーウェアだけでなく、美容家電・コスメ・寝具など、「効果が個人差を伴い、購入前に体感できないと納得しにくい」高付加価値商品全般に応用できる型です。
ECへの導線設計:体験→一次購入→リピートの3ステップ
ポップアップストアで納得を獲得しても、その熱量はECにつなげなければ意味がありません。ここが多くのブランドが落とすポイントです。具体的には、次の3つを必ず設計しておきます。
ステップ1:会期中に“一次接点”を取る
来店客の中で、その場で購入しなかった人ほど、後日のEC購入につながる可能性があります。
LINE登録、メルマガ登録、QRコードでEC会員登録──いずれかで接点を取り、「会期後に思い出してもらう仕掛け」を必ず仕込みましょう。来店者限定クーポンや、会期後数日以内の限定オファーが定番です。
ステップ2:一次購入時に“編集された情報”を同梱する
ECで初回購入があった際、商品だけ送って終わりではもったいないです。
レシピ集、使い方ガイド、つくり手のメッセージカードなど、ポップアップで来店客が触れたであろう「編集された価値」を同梱物として再現します。これは“納得の再注入”であり、リピート購入の確率を大きく押し上げます。
ステップ3:継続接点(CRM)で“暮らしへの定着”を支援する
リピート購入は、商品を気に入ってもらうだけでは生まれません。
「自分の暮らしのどこに、この商品が組み込まれているか」が定着して初めて、定期的な購入になります。そのために、購入後のメール/LINEで「使い方の幅を広げる提案」を継続的に送ります。
- 調味料なら、季節ごとの使い方提案やレシピ
- リカバリーウェアなら、洗い方・着用シーン・別シリーズの提案
- 家電なら、メンテナンス・買い増し提案
このCRM設計まで含めて、ポップアップは“納得をつくる場”として完成します。
高付加価値商品で効く「納得設計」3つの原則
最後に、本記事の内容を実務に落とし込むためのチェックポイントとして、高付加価値商品の購買層に効く納得設計の原則を3つにまとめておきます。
原則1:感覚価値を“言葉にできる形”で提示する
「軽い」「コクがある」「肌当たりがいい」といった感覚価値は、ブランド側が言語化して提示するだけでは足りません。来店客自身が、自分の言葉で説明できる状態にすることがゴールです。比較対象(自分が今使っているもの)との違いを、自分で語れる状態をつくりましょう。
原則2:「その場で買わせない」前提で設計する
衝動買いを狙うのではなく、持ち帰って考え、ECで指名買いさせる設計に振り切ります。これにより、客単価が安定し、返品率も下がります。会期中の売り上げだけを追わないことが、結果として総売上を最大化します。
原則3:場所・編集・人を借りて“文脈”をつくる
商品単体の力で勝負するのではなく、出店場所、商品の編集テーマ、店頭スタッフの語りの3つで文脈をつくります。目の肥えた購買層ほど文脈の強さに反応します。日本橋三越本店、バーニーズ ニューヨークといった場が選ばれるのは、商品が引き立つ文脈を借りられるからにほかなりません。
まとめ──比較から納得へ、ポップアップの役割を定義し直す
高付加価値商品は、ECの比較競争に巻き込まれた瞬間に勝ち目を失います。だからこそ、ポップアップで“納得”を仕込み、ECで“指名買い”を回収するという役割分担が効きます。
- 価格は比較で理解されるものではなく、体験によって納得されるもの
- ポップアップのKPIは「売上」ではなく「納得獲得数」
- 体験→一次購入→リピートの導線(CRM/同梱/コミュニケーション)まで設計してはじめて完成
(ふつうの)ショップが日本橋三越本店で過去最高売上を記録した背景にも、リカバリーウェアブランドが百貨店ポップアップを重ねている背景にも、共通しているのは「比較ではなく納得を売っている」という構造です。食品・アパレル・家電とカテゴリを問わず応用できる考え方ですので、自社の商品が高付加価値カテゴリに該当する読者の方は、ぜひポップアップ設計の起点に置いてください。
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