「Amazon」と「楽天市場」をどう使い分ける? 事業成長につながる「モール戦略」のリアルを徹底討論
「『D2Cの会』フォーラム2026」のセッションで、「Amazon.co.jp」「楽天市場」をどう使い分けるかをテーマに、SOLIA、澤井珈琲、ECXグループが議論を展開。商材ごとのモール選定、新商品立ち上げ時の投資判断、広告依存からの脱却、撤退ラインの見極めまで、モール戦略のリアルを語った
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「Amazon.co.jp」と「楽天市場」はどう使い分けるべきか――。「『D2Cの会』フォーラム2026」(売れるネット広告社主催)のトークセッション「売上をアップする『モール戦略』」で語られたのが、ECモール活用の実践論だ。モデレーターを務めたkoujitsuの柴田雄平代表取締役、SOLIAの西口征郎代表取締役、澤井珈琲の澤井理憲取締役社長、ECXグループの清水将平代表取締役社長が、「『Amazon.co.jp』と『楽天市場』をどう使い分けるか」「何を基準に投資判断すべきか」「広告依存にならない戦略とは何か」といったテーマを軸に、モール市場の最前線で培った知見を共有した。単に出店するだけでは成果を出しにくくなった今、モール戦略をどう設計するかが改めて問われている。

商材によって“勝てるモール”は異なる
議論の冒頭では、新商品を立ち上げる際、どのモールを主戦場に据えるべきかがテーマとなった。SOLIAの西口氏は、「『Amazon.co.jp』と『楽天市場』では売れやすい商材が異なる」と指摘する。
売れやすい商材は「Amazon.co.jp」と「楽天市場」で異なります。たとえばプロテインのような商材は明らかに「Amazon.co.jp」の方が市場規模が大きいですし、男性向け商材は「Amazon.co.jp」、女性向け商材は「楽天市場」の方が強い傾向があります。(SOLIA 西口氏)
SOLIA 代表取締役の西口征郎氏
そのうえで西口氏は、「新商品を投入する際には、まずどちらのチャネルを優先するかを決め、それに合わせて商品設計を行うことが重要だ」と説明した。
「Amazon.co.jp」では検索結果画面でのクリック率が重要になるため、パッケージサイズや見え方まで含めた最適化が必要になるという。モールごとのUIや購買導線の違いが、商品設計そのものに影響するという考え方だ。
一方、ECXグループの清水氏は、モールごとの違いを認めつつも、販路を広げながら検証する視点の重要性を強調する。
「楽天市場」と「Amazon.co.jp」「Yahoo!ショッピング」には違いがありますが、まず出してみて、その後に再検討していくことが大事です。(ECXグループ 清水氏)
ECXグループ 代表取締役社長の清水将平氏
モールごとの特性を理解することは前提だが、最終的には自社商材との相性を実際の販売データから見極める姿勢が重要だという。
新商品は最初から黒字化を求めない
新商品の立ち上げ時における予算設計も大きな論点。西口氏は、初期段階では黒字化を急がない考え方を示した。
最初の1~2か月で黒字化させようとは思っていません。最初はROAS(広告費用対効果)100%くらいでもいいと考えています。(西口氏)
過去の商品実績をベンチマークと比較し、明らかに効率が悪ければ撤退し、見込みがあれば継続するという判断基準を採っているという。
経験値のある事業者であれば、初速の数字から継続可否を比較的早い段階で見極められる。一方で、判断基準が定まっていない場合は、支援会社など外部の知見を活用することも有効だとした。
広告投資についても、各社の考え方は明確だった。
西口氏は、商品ごとに最低でも月100万円程度の広告費を投下し、市場規模の大きい商品では初月売上目標300万円に対して広告費300万円まで許容するケースもあると説明。立ち上げ初期は売上規模の拡大を優先し、一定の赤字を織り込んで投資する考え方を示した。これに対し、澤井珈琲の澤井氏はより堅実な基準を紹介した。
「楽天市場」も「Amazon.co.jp」も、売上目標の7%以内で広告費を充てるように設定しています。(澤井珈琲 澤井氏)
澤井珈琲 取締役社長の澤井理憲氏
広告運用の一部は外部パートナーを活用しつつ、ページ制作や動画撮影は内製化し、コストコントロールを徹底しているという。
外注か内製か。重要なのは「丸投げしない」こと
モール運営の体制については、完全内製でも完全外注でもなく、役割分担が現実解であることが浮かび上がった。
西口氏は「Amazon.co.jp」の運営は支援会社に委託している一方、「楽天市場」は自社で運営していると説明。ただし、基本的な考え方としては、できる限り内製化したいという。
丸投げして、支援会社さんがいなくなったら何もできない状態になるのが一番怖いです。(西口氏)
外部パートナーを活用しながらも、レポートの確認や日々の相談を通じてノウハウを社内に蓄積する姿勢を重視している。
澤井氏も、広告運用の一部は外注しているものの、クリエイティブ制作は自社で担っている。広告運用のように専門性が高く変化の速い領域は外部の知見を活用し、ブランド表現や顧客接点に近い部分は自社でコントロールするという分業体制を採っている。
また、清水氏は、受注や出品業務は一元管理ツールの普及により効率化が進み、以前ほどモールごとに専任担当を配置する必要はなくなったと指摘した。
一方で、広告だけでなくレビュー獲得やSNS施策、クーポン設計など、売り上げを伸ばすための投資配分は以前にも増して複雑になっていると説明。モール運営では、こうした施策全体を俯瞰して最適化する視点が重要になっているとした。
利益を守るために値上げも辞さない
売上拡大と利益確保のバランスも、モール運営では避けて通れないテーマだ。澤井氏は、コーヒー豆の原価高騰に直面した際の対応について率直に明かした。
2025年、コーヒー豆の原価が300%くらい上がりました。月次決算で赤字が続いたので、価格を一気に倍にしました。(澤井珈琲 澤井氏)
その結果について、澤井氏は次のように振り返った。
でも、お客さまは離れませんでした。利益を守ることは徹底しています。(澤井氏)
一方で、利益を確保するために広告費を削減する考え方には否定的な姿勢を示した。広告は事業を成長させるために欠かせない投資であり、利益を守るために価格改定は行っても、集客投資は止めない――。粗利を確保したうえで広告を回し続けることが、持続的な成長につながるという考えだ。
西口氏も「広告投資を判断するうえでは、リピート率を踏まえたCPA設計が重要だ」と強調した。
新規顧客とリピート顧客を分けて管理することが大事です。リピーターは広告費ゼロで売り上げを作ってくれる存在です。(西口氏)
商材によってリピート率は大きく異なる。味や習慣性のある商品は継続購入につながりやすい一方、トレンドの移り変わりが早い商材はリピート率が低くなりやすい。そのため、新規獲得コストの妥当性は、商材特性まで踏まえて判断する必要があるという。
指名検索が広告依存を減らす
広告費以上に重要な要素としてあがったのが、「指名検索」の存在だ。
清水氏は「楽天市場」で数多くの店舗を支援してきた経験から、「ブランド認知の有無が売り上げを大きく左右する」と語った。
1位の店舗が広告費10%で、2位の店舗が20%使っても売り上げが3分の1程度になることがあります。その違いは、指名検索があるかないかだけです。(ECX 清水氏)
型番商品を扱う店舗では、広告費率が1~2%程度でも高い売り上げを維持できるケースがあるという。その背景には、ブランド名や商品名を直接検索して購入するユーザーの存在がある。
そのため、商品画像の1枚目にブランドロゴを大きく配置するなど、検索結果画面でブランドを認知させる工夫が重要になる。広告だけでなく、商品画像や商品名、レビューの蓄積も含めて“広告”として設計する視点が求められるという。
西口氏も、「ブランドが育つことで指名検索が増え、広告経由だけでなくオーガニック流入からも新規顧客を獲得できるようになる」と説明した。短期的な広告効率だけでなく、数年単位でブランドを育てる視点が、結果として広告依存の低減につながるという考えだ。
セールやSNSは“主戦場を固めた後”に効く
価格競争や大型セールへの参加については、登壇者の見解は比較的現実的だった。
西口氏は、「楽天スーパーSALE」や「Amazonプライムデー」には積極的に参加しており、「イベント時の値下げは現在では多くのブランドが実施する一般的な施策になっている」と説明した。値下げそのものがブランド価値を毀損するとは考えておらず、大衆向けブランドであれば必要な販売施策の1つと位置付けている。
一方で、モール外からの集客については、実施するタイミングを見極めるべきとの考えを示した。
新商品立ち上げ時は、まずモール内広告で一定の売り上げとレビューを獲得するのが先です。そこからさらに伸ばす段階で、初めてモール外施策を本格化させるのが正しいと思います。(西口氏)
澤井氏は、モール外施策としてLINEへの積極投資を紹介した。
最近はLINEにかなり大きく投資しています。(澤井氏)
年間700万通のメールマガジンを配信してきた経験から、メールだけでは限界があると感じ、現在はLINEへ軸足を移しているという。現在では、LINE経由の売り上げが年間1億円を超える規模まで成長していると明かした。
また、TikTokなど新たなチャネルについては、認知獲得の場としての有効性が語られた。
清水氏は、TikTokで商品を知ったユーザーが、最終的な購入は「楽天市場」や「Amazon.co.jp」で行うケースも少なくないと指摘。動画やインフルエンサー施策で認知を広げ、その後モールで購入につなげる流れが現実的だとの見方を示した。
撤退判断は早く、学びは深く
セッション終盤では、新商品の撤退判断についても議論が及んだ。
西口氏は、早いケースでは1~2か月で撤退を決断すると話した。
良い商品は出して1週間で手応えがあります。1~2か月やればかなり見えてきます。(西口氏)
ヒーロー商品として育成する商品と、クロスセル目的の商品では評価基準を分けており、前者については3~6か月を目安に継続可否を判断しているという。
「Amazon.co.jp」でベストセラーを取れるポテンシャルがあるかどうかは重要な判断基準です。(西口氏)
撤退を先延ばしにせず、次の投資機会へ資源を振り向けることが重要だという考え方だ。
清水氏も、中国系セラーとの競争が激化するなか、粗利を十分に確保できない商材を売り続けるリスクについて警鐘を鳴らした。利益率の低い商品に固執するよりも、利益を確保できる商材へ投資を集中させることが重要だとした。
モール戦略の正解は1つではない
今回のセッションを通じて浮かび上がったのは、「『Amazon.co.jp』か『楽天市場』か」という単純な二項対立ではなく、商材特性やブランドの成長段階、利益構造、運営体制に応じて最適な戦略を組み立てる必要があるということだ。
新商品では、まず主戦場となるモールを見極め、それに合わせて商品設計や広告投資を行う。立ち上げ時は一定の赤字を許容しながらも、数字を見極めて迅速に意思決定する。そして、中長期的には指名検索やリピート顧客を育てることで広告依存を減らしていく。
また、SNSや動画を活用した認知拡大の重要性は高まっているものの、モール内で十分なレビューや販売実績を築かないまま外部施策を強化しても、成果にはつながりにくいという点でも登壇者の認識は一致していた。
各社のアプローチは異なるものの、共通していたのは、モールを単なる販売チャネルではなく、顧客との重要な接点として捉えていることだ。競争が激化する現在だからこそ、顧客理解に基づく商品設計と、データを基にした迅速な意思決定が、モール戦略の成否を左右するといえそうだ。




