「楽天市場」「Amazon」「Yahoo!ショッピング」「Qoo10」出店者は必見!「透明化法」は出店者がモールと対等に渡り合うための最強の武器である
EC業界に精通する経営コンサルタント・竹内謙礼氏が、元経済産業省官僚としてプラットフォームの監視体制に深く関わってきた椋木エラン弁護士にインタビュー。単なる規約の解説にとどまらず、国のモニタリングの視点を交えた“3大モールにおけるサバイバル術”を全4回にわたってお届けします。【第1回】
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「楽天市場」「Amazon」「Yahoo!ショッピング」の3大モールに出店するEC事業者にとって、モールの「規約」や「ガイドライン」は絶対的なルールです。しかし、度重なるルール変更や抽象的なメールによるペナルティの警告、唐突過ぎるアカウント停止措置など、対応に苦慮する出店者も少なくありません。今回は、出店者が巨大プラットフォームと対等に渡り合うための「最強の武器」となる「デジタルプラットフォーム取引透明化法(透明化法)」(巨大IT企業と出店者・事業者との取引の透明性と公正性を高めるための法律)の全体像と、透明化法の駆け込み寺である「相談窓口」の驚くべき実態に迫ります。
有限会社いろは 代表取締役。大学卒業後、出版社に勤めた後に観光牧場に転職。企画広報担当を経て2004年に経営コンサルタントとして独立。「楽天市場」「ビッダーズ」などで多くのネットビジネスの受賞履歴あり。また、「千葉文学賞」などの小説、エッセイでも数々の受賞暦を持つ。
メリットパートナーズ法律事務所(https://www.meritopartners.jp/)で、EC事業者・EC支援事業者の支援に注力。特許や商標、意匠などの出願から紛争まで取り扱っている知的財産関係を専門としている。2022年に内閣官房へ出向、「スマホソフトウェア競争促進法(いわゆるスマホ新法)」の企画・立案に関与。その後、経済産業省に移り、「透明化法」の主にECモール分野における執行・運用に携わった。現在はメリットパートナーズ法律事務所に戻り、EC分野の法務支援に力を入れている。
巨大モールと対等に渡り合う!「透明化法」の仕組みと目的
「透明化法」について詳しく教えてください。
正式名称は「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」と言います。「楽天市場」「Amazon」「Yahoo!ショッピング」の3大プラットフォーム(6月よりQoo10が規制対象として追加)と、そこに出店されている事業者さんが、透明かつ公正な取引ができるよう、国が毎年チェックする法律です。
出店者が問題に感じていることや改善したいことに関して、国が代わりにプラットフォーム側との間に立ってくれる法律なんですね。
巨大企業を相手に中小企業が反論するのは非常に難しいのが現状です。また、売上の大半を特定のプラットフォームに依存していると、苦情すら言い出しにくいところもあります。この法律では、国が出店者とプラットフォームの間を取り持ち、EC業界全体を健全化していくことを目的に適用されています。

出店者にとって非常に心強い法律ですね。
以前は、プラットフォームから一方的に休店や退店の連絡が入ると、出店者はその内容が誤っていると感じることがあっても、従うしかありませんでした。しかし、透明化法が施行されたことによって、出店者からの苦情や不満を経産省に届けることができるようになり、その内容をもとにプラットフォームに対話を促すようになりました。プラットフォームは、透明化法をどのように遵守しているかを年に1回、報告書として提出することが義務付けられています。経済産業省は、有識者の意見、事業者から日々寄せられる意見等に基づき、この報告書の内容を評価することで、プラットフォームが自主的に出店者との関係を改善するサイクルが機能することを目的としています。
主体となる企業が自主的に改善する法律なんですね。「法律」と聞くと、厳しいルールがあって、それに違反するとすぐに罰せられるイメージを持っていました。
この法律の面白いところは、国がガチガチのルールで縛るのではない。大まかな枠組みだけを決めて、実際にどのような形で透明化法を遵守するかについてはプラットフォーム側の自主性に任せるという「共同規制」という仕組みをとっている点です。これにはプラットフォームの運用に過度の負担がかからないというメリットだけでなく、事業者側にとっても、既存のプラットフォームの設計の中で迅速に救済を求められると共に、現場の出店者が理不尽な不利益を被るような新たな問題が発生した際にも、国がモニタリング会合などを通じて実態を把握し、機動的にプラットフォーム側へ改善を促せる仕組みになっています。
ルールで細かく規制してしまうと、プラットフォーム側も時代の流れに柔軟に対応できなくなる可能性がありますからね。ある程度、法の解釈に“ゆとり”を持たせたことは、EC業界ならではの法律といえます。
一般的な法律は数年ごとに改正することが多いですが、この透明化法は年に1回、有識者によって評価される仕組みになっています。このあたりもEC業界のスピード感を重視した設計になっているといえます。
形だけのルールではない! プラットフォームが「透明化法」に本気で取り組む理由
ひとつ懸念されるのは、改善をプラットフォームの自主性に任せてしまうと、“なぁなぁ”になってしまう恐れがある点です。たとえば、形だけルールを守って、あとは適当にごまかしてしまうような事態にはならないでしょうか。
その点は、プラットフォーム側が大きなリスクを背負っているので、出店者の皆さんが思っている以上に透明化法に対して真剣に取り組んでいます。
どのようなリスクですか?
一つはレピュテーションリスク、つまり社会的信用の失墜です。透明化法に違反した事実が公表されれば、大企業であってもブランドイメージに致命的な打撃を受けることになります。この措置自体がプラットフォーム側に対して非常に強い抑止力として働いています。
社会的な信用を失うと、買い控えだけではなく、採用にも影響が出そうですね。
透明化法に違反し、「勧告」「命令」の2段階を超えると、最終的には刑事罰まで発展する可能性もあります。罰金自体は100万円以下なので、プラットフォームの売上規模からすれば金銭的なダメージは少ないですが、「勧告」「命令」を行うと、その旨が公表されるので、企業としてのブランドやコンプライアンスの観点から言えば、“なぁなぁ”ではごまかせない事情があります。
他に透明化法に違反した場合のリスクはあるのでしょうか。
透明性・公正性を阻害する行為の中でも、独禁法に違反するようなものについては、公正取引委員会に調査を依頼する「措置請求」に発展するケースがあります。一般的な企業で言えば、重大なコンプライアンス違反で行政の立ち入り検査を受けるほどのインパクトが生じることがあります。税務署の強制査察や、厳しい立ち入り監査が入るような緊迫感といえばイメージがつきやすいと思います。
経営者にとっては胃の痛い話ですね。ちなみに、過去に措置請求が出たケースはあるのでしょうか。
2024年にAmazonが受けた事案が、透明化法の施行以来の第1号になります。一般的な出品よりも売れやすい「おすすめ出品」に掲載されるための条件として、販売価格を「競争力のある価格」「参考価格」などと称する価格にさせるほか、「フルフィルメント by Amazon」(FBA)のサービスを利用させることにより、出品者の事業活動を制限している疑いがありました。Amazonの利益を優先する不公正な取引だとして、経産省から公取委に措置請求を出し、立ち入り検査にまで発展しました。他にも、ここまでは大ごとにならないケースとして、Appleにも勧告が行われています。出店者の皆さんが思っている以上に、透明化法はプラットフォームに対する強い牽制になっています。
出店者は“場所を借りて出店している”という思いが強いので、プラットフォームの言うことは絶対に従わなくてはいけないという先入観を持っています。今回、改めてお話を伺って、まさか出店者が楽天やAmazon、LINEヤフーと対等に渡り合うための法律が整備されているとは思ってもみませんでした。
透明化法は2021年に施行されて、すでに5年以上経過しています。しかし、まだまだ出店者のみなさんに周知が行き届いていない状況です。経済産業省としても定期的にセミナーを開催するなどして、情報発信には力を入れているのですが、直接売り上げを伸ばすような話ではないので、ネットショップの運営者のみなさんの注目を集めにくいという課題があります。透明化法の根底にあるのは、プラットフォームと良好な関係性を築いて、永続的に出店者の皆さんに商売を続けてもらうことです。もっとこの法律の存在を皆さんに知ってもらい、有効活用してほしいと思っています。
規約変更やアカウント停止に悩んだら、まずは「相談窓口」へ!
出店者が、透明化法をより良くするためにできることは何でしょうか。
まず、毎年、秋から冬にかけて、経産省から「デジタルプラットフォーム利用事業者アンケート調査」がEC事業者に届くと思います。そのアンケートの回答内容は経産省側でしっかり精査しており、場合によっては、その内容についてプラットフォームに問合せることもあります。アンケートに回答していただくことが業界全体の改善につながっていきますので、ぜひご協力をお願いします。
出店者がプラットフォームの対応に不満を持った場合、どのように国に訴えればいいのでしょうか。
「デジタルプラットフォーム取引相談窓口」という問い合わせフォームから、さまざまな相談を持ちかけることが可能です。プラットフォームから公正性に欠けた対応をされた際に、相談窓口を通じて詳細を報告していただければ、国から楽天、Amazon、LINEヤフーに対して改善を求めることもできます。フォームからの問い合わせ以外にも、相談窓口では電話やFAXでも受け付けています。
どのような相談に乗ってくれるのでしょうか。
たとえば、一方的な規約変更による手数料の引き上げや、明確な理由が開示されないままアカウントが停止された事案などです。プラットフォーム側が優位な立場を利用して、出店者の皆さんに不利益な取引条件を強いるようなケースであれば、どのような内容でも広く相談を受け付けています。
返品を強制されるような事案も相談に乗ってくれるのでしょうか。
もちろんです。ほかにも、プラットフォームの直営店や直売の商品が、モール内の検索で優遇されているのではないかという懸念や、出品者の取引データをプラットフォーム側が利用して、後追いで商品を安値で販売する疑いなど、いわゆる「自社優遇」の問題も取り扱っています。
プラットフォームの出店者の困り事や悩み事はほぼ網羅されていますね。具体的に窓口に相談した場合、どのような対応をしてくれるのでしょうか。
まずは専門の相談員が、プラットフォーム規約等に関する一般的なアドバイスをしてくれます。仮に個別のトラブルがこじれて出店者とプラットフォームとの直接のやり取りで解決ができなさそうな場合は、経済産業省を介して、プラットフォーム側に問題を伝えることもあります。また、相談窓口を通じて、経産省が多くの出店者から共通する問題点を把握すれば、個別の問題で終わらせずに、解決に向けて改善を促せるケースもあります。他にも専門の弁護士への相談費用の補助など、さまざまな支援を行っています。
単なる愚泣き聞きの窓口ではなく、きちんと国が間に入ってコミュニケーションの促進を図ってくれるんですね。ちなみに、1年間でどのくらいの相談件数があるのでしょうか。
令和6年4月1日から令和7年3月31日までの相談件数は991件ですね。
結構な数ですね。1か月に80件以上の相談が持ちかけられていることになります。でも、それだけ多いと、きちんと相談に乗ってくれるのかが心配になります。
その点はしっかりとしたフローが組まれているので安心してください。まずは窓口の担当者が相談を受け、プラットフォームとは関係のない相談、たとえばCtoCプラットフォームである「メルカリ」や規制対象として指定されていないプラットフォーム(「ZOZOTOWN」「BASE」など)の相談に関しては、この窓口の対象外として適切に振り分けられます。その後、相談内容の1件1件が経産省の担当者の元に事案として届きます。実際、私も経産省にいた頃はさまざまな相談を受けていました。緊急性の高い相談内容と判断したものは、直接プラットフォーム側に照会をかけるケースも多数ありました。
国やプラットフォームを動かす! 効果的に相談するための「エビデンス(客観的証拠)」のそろえ方
相談した内容が、しっかりプラットフォームに届くようにするためのコツがあれば教えてください。
客観的な証拠(エビデンス)を準備していただけると、私たちもトラブルの内容をイメージできて、プラットフォームに訴えを届けやすくなります。たとえばAmazonの場合ですが、置き配を指定した購入者から「商品を受け取っていない」と返金を主張され、反論の機会もなく返金処理されてしまうトラブルが当初頻発していました。そのようなケースでは、配送業者の配達証明書や実際に置き配した時の写真など、エビデンスを提出していただくと、私たちも事実確認としてプラットフォームに報告できるようになるため、よりアクションが起こしやすくなります。単に「自分は悪くない!」「自社優遇を行っているにちがいない」と怒りや根拠のない憶測をぶつけるのではなく、事実を証明するデータをどれだけ揃えられるかが、国やプラットフォーム側を動かすための重要なポイントになります。
「頭に来た」「ひどい目にあった」と主張するだけでは、相談を受けた側も動きにくくなってしまうのですね。
目の前でトラブルが起きてしまうと、誰しも感情的な文章を書いてしまうものです。そこは一旦冷静になって、客観的にトラブルを相手に伝える工夫をすることが大切だと思います。メールのやり取りや送付された書類などをキャプチャーやPDFで準備していただければ、多少、文章や口頭での説明がうまくできなくても、窓口の担当者がその内容を聞き取って、整理した形で経産省の担当者に回してくれます。「うまく状況を説明できないから」「たまたま自分だけに生じた問題だ」「言ってもどうせ無駄だ」と諦めず、遠慮せずに困ったことがあれば相談してもらえればと思います。
「大企業だから」と諦めない! 対等な関係を築くための第一歩
これらのトラブルの対応にあたるのは、プラットフォームの「法務部」の人たちになるのでしょうか。
交渉の窓口によって部署の名称は違いますが、基本的には透明化法を理解している人たちが対応します。法務部が対応していることもありますし、渉外部が担当していることもあります。たとえば、Amazonはオンラインモール指定事業者の中で唯一の外資企業となりますが、透明化法上の国内管理人をはじめとした同社の担当部署とやり取りを交わすことで、解決に導いた事例もありました。
一般の人は日ごろ法律を意識して生活していないので、大企業から「法務部です」と名乗られてしまうと、ついつい身構えてしまうところがあります。
だからこそ、中小企業の皆さんには、透明化法の相談窓口を使っていただきたいと思っています。国が小さな会社とプラットフォームとの間に立つ法律ですので、臆することなく相談してください。

