竹内 謙礼 2018/1/29 6:00

年末に事務所を大掃除していると懐かしい資料が出てきた。「楽天市場」の出店者向けに行われている「楽天大学」の教材の一式だ。2001年の日付なので今から17年も前のもの。私もネットショップ運営の初心者として、千葉の田舎からわざわざ中目黒の楽天本社に出向き、出店講座を受講してeコマースの“いろは”を学ばせてもらった。

資料をめくると「楽天市場」の出店店舗数がまだ5,450店で、取扱商品数は64万点ほどしかない。当時は「楽天市場」という小さなネットビジネスの会社が、後に巨大企業となり、プロ野球球団を持ち、海外のサッカーチームのスポンサーになるなど、当時は想像もできなかった。

今も楽天店を運営しているのはどれくらい?

そんな懐かしい資料をめくっていると、興味深い名簿が目に入った。当時、「楽天大学」を受講した参加者一覧リストである。店舗名と会社名と所在地、店舗URLと出席者の名前が掲載されていた。

このうち何店舗が今も「楽天市場」でお店を運営しているんだろうか?

ふとこんな思いがよぎり、参加者リストを片手に17年間も運営を継続している“生存率”を調べてみることにした。名簿は2001年3月21日、3月29日、4月5日の計3回の講座分。1回の講座に15社~23社が参加していた。名簿に記載されていたURLを打ち込んで調査。以下は私が調べた生存率である。

参加店舗生存数生存率
3月21日23店舗5店舗22%
3月29日18店舗5店舗28%
4月5日14店舗3店舗21%

予想はしていたが、ほとんどの店舗はURLを打ち込んでも「ページが表示できません」という文言が画面に表示され、しばらくすると自動的に「楽天市場」のトップページに戻された。一緒に「楽天大学」を受講してeコマースの成功を夢見た“同期”の仲間が75%もいなくなってしまったのだ。「楽天市場」での成功がいかに難しいのかを痛感させられた。

楽天大学ご出席者一覧

難しいのは楽天店の運営なのか?

しかし、生存率を調べていくうちに、新たにもう1つの疑問が頭の中に浮かんできてしまった。

会社そのものはどうなっているのだろうか?

参加名簿の会社名を見ると、大企業と中小零細企業が入り混じっている。2001年といえば、まだインターネットそのものが怪しい存在であり、ホームページを持っている企業すら珍しい時代である。「楽天大学」の参加者も一攫千金を狙う中小零細企業の経営者から、上司に「とりあえず『楽天市場』に店を出せ」と言われ、半信半疑で受講するサラリーマンまでさまざまだった。

「楽天市場」を撤退した“同期”が、今、何をしているのか知りたくなり、名簿に記載された会社名を検索し、その会社が現在、どのような状態になっているのか調べることにした。気分としては同窓会。テレビ番組でいえば「あの人は今」に近い。

ホームページがなかったり、会社名が変わったりした場合、ネット上の調査だけで倒産したかどうかの情報は分からない。しかし、2001年時点で「楽天市場」に出店していることを考えれば、自社のホームページが残っている可能性は高いと言える。仮に会社名が変わった場合でも、何かしらネット上に形跡は残っているはずだ。

このような仮説を立て、会社名で調査。なかには警察のご厄介になって倒産した会社、“同期”同士で数年後にM&Aで合併したり、なかなか面白い“同窓会”となった。会社そのものの生存率は下記の通りだった。

参加店舗数生存数生存率会社生存数会社生存率
3月21日23店舗5店舗22%15社65%
3月29日18店舗5店舗28%10社56%
4月5日14店舗3店舗21%8社57%

わかったのが、会社の生存率が平均して6割だったということ。これは考えさせられる数字だった。会社そのものが4割も消滅しているのだから、「楽天市場」で成功することが難しいというわけではなく、むしろ会社を17年間続けるということ自体が難しいのではないかと考えてしまう。

「楽天市場」を撤退する中小企業の半数が消滅

存続している企業には大手有名企業も含まれているので、中小零細企業だけで見れば生存率はさらに低い。大企業と中小零細企業の線引きが難しいので的確な数字を出すことはできないが、「楽天市場」を撤退した中小零細企業のうち、およそ5割は消滅してしまったと推測できる。

「楽天市場」に出店した店舗の約75%が17年間の内に退店し、そのうち約半数の中小零細業が消滅しているということを考えると、「楽天市場は出店しても売れない」というよりも、そもそも会社として生き残っていくことが難しい状況だったのではないかと思えてしまう。

eコマースを会社の事業として取り組むことができない時点で、もうすでにネット社会から脱落してしいるわけであって、「『楽天市場』は売れない」「儲からない」といった問題ではなさそうだ。

それよりも、eコマースに取り組めない会社の組織構造、経営者や社員のモチベーションだったり、商材そのものがもうすでに競争力を失っていたり……問題はネット社会についていけない会社そのものにあると考えた方が良いだろう。

もし、仮に「楽天市場」やネットビジネスそのものに問題があるのであれば、「楽天市場」を撤退した企業が17年後に生き残っている確率はもう少し高いはずだ。

極論を言ってしまえば、「楽天市場」を撤退しなければならない状況になった時点で、会社の生存率が50%になってしまうのだから、撤退した企業は相当の危機感を持ってその後の事業に取り組まなければいけない。そう考えると、「楽天市場」は企業存続のバロメーターのような役割もあるのかもしれない。

◇◇◇

今回の調査は対象店舗数が少なく、会社の生存がネット調査だけでは正確にわからないといったリサーチ上の問題点が多々ある。正直、遊び半分で調べた数字なので、この数値を本気でとらえる気は毛頭ない。しかし、3回の講座の生存率がほぼ似通った数値になった点をみると、あながち見当違いな数値ではないようにも思われる。

インターネットが普及して、スマホの所有率が5割を超える昨今、eコマースを事業として取り組めるぐらいの企業でなければ、やはり今後の厳しい消費マーケットの中で生き残っていくことは難しいことは確かなようである。

「『楽天市場』は儲からない」と誰かのせいにするのではなく、まずは「楽天市場」でネットショップ運営に取り組み売り上げを伸ばすくらいの企業でなければ、今後のネット社会で生き残っていくことは難しいのかもしれない。

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