竹内 謙礼 2018/5/14 7:00

世の中の企業を「大企業」「中小企業」「零細企業」の3つに分類すると、「大企業」と「零細企業」は比較的ECサイト運営がうまくいく傾向にあります。

「零細企業」は経営者自身がeコマースに精通しており、組織も小さいので末端の社員にまで情報が行き渡り、正しい判断ができます。

また、「大企業」はECサイト運営を子会社や外部の企業に外注できるので、結果的にeコマースを運営するのは規模の小さい“零細企業”となり、正しく運営されているケースが多いと言えます。

しかし、ちょうど真ん中にあたる「中小企業」の場合は、ECサイトが正しく運営されていないケースが多いのではないでしょうか。今回はなぜ中小企業のECサイト運営がうまくいかないのかを掘り下げて考えてみたいと思います。

ほとんどの兼業EC企業はeコマースを理解していない

もちろん、eコマースを専業にしている中小企業であれば、企業規模に関係なくうまくいっているケースが多いのですが、私の経験上、従業員数が50人~300人くらいの企業がeコマースを本業として取り組まない場合、なぜかECサイト運営がおかしな方向に向かっていることが多いのです。

まず、ECサイトを本業としていない中小企業の経営者の99%はeコマースのことをよく理解していないといってもいいと思います。本を読んだり人の話を聞いたりして、なんとなくは理解しているとは思いますが、ECサイト運営は実経験で学ぶノウハウが多いために、ECサイト運営が本業ではない経営者は「eコマースがわからない」という状況から脱することが困難です。

社長「eコマースってわからないな……」

そうなると、経営者は自分自身がECサイトを運営するのではなく、自分の部下にやらせようとします。営業部、販売部、制作部と同じような感覚で、「ネット販売部」「直売部」のような部署を作り、そこの担当者に任せます。

しかも、経営者は自分のわからない仕事を、いきなり見ず知らずの人間に任せる度胸はありません。自分が一番信頼できる部下にやらせて「安心したい」というところがあります。自分が見込んでいる部下ならば、「自分のわからない仕事でも裏切ることなく必ず実績を作ってくれるだろう」という信頼感もあります。

しかし、ここが一番大きな判断ミスとなります。大抵の場合、その部下がeコマースに精通していることはないからです。むしろ、危機意識は中小企業の経営者よりも低くなるので、ネットビジネスに対する情報量や知識はさらに乏しくなります。

社長「eコマースってわからないな……」
ナンバー2「eコマースってわからないな……」

そのようなレベルの低い担当者がECサイト運営の責任者になると、一緒に仕事をする制作会社も当然、レベルの低いスタッフを抱える会社になってしまいます。

仮にECサイト運営に精通したホームページ制作会社と仕事をしたとしても、担当者がeコマースに詳しくないとわかれば、どんな業者であれ、多少の手抜きはしますし、見積りで高い金額を請求するようになります

なぜなら、担当者がネットビジネスの知識と経験がないとわかれば、仕事を一生懸命やろうと手を抜こうと、それを判断できない相手では、評価されることがないからです。報酬が変わらない仕事を一生懸命やるほど、下請けの制作会社には余裕がありません。

社長「eコマースってわからないな……」
ナンバー2「eコマースってわからないな……」
制作スタッフ「この人、わかってないな……」

これはネットビジネスに限ったことではありませんが、常に知識のない人がお金を巻き上げられてしまう構造は、昔からあるのです。

ダメな構造を修正できなくなる理由

このようなダメな構造が一度成立してしまうと、修正するのはなかなか困難です。社内は誰もネットビジネスに詳しくないので、ECサイトが正しく運営されているのかどうか、社内では誰も判断できません

仮に「自社のECサイト運営は間違っているのではないか?」と気付いた社員がいたとしても、担当者は自分が間違った仕事をしていることを隠したいので、その正しい意見を全力で握り潰しにかかります

「そんな社員がいるはずがない!」と思われる経営者の方もいるかもしれませんが、中小企業のサラリーマンはそれほどお人好しではありません。「自分の評価は下がってもいいから、会社の売上が伸びる選択をして欲しい」などと考える社員はいません。特に中小企業の場合、自分の社内評価が給与やポジショニングに直接影響があるので、正しい意見を受け入れるよりも保身を優先してしまうのです。

パートナーになっている制作会社も、新しい担当者に代わってしまうと自分たちが切られてしまう可能性があるので、現担当者と一緒になって正しい意見を全力で潰します。そして、その会社のECサイトは間違った方向性に進み続けてしまうのです。

社長「それ正しいの?」
ナンバー2「正しいですよ!」
制作スタッフ「正しいですよ!」

また、間違ったことを正しいことに変えようとすると仕事量が増えます。給料は変わらないのに、あえて大変になることを選択するサラリーマンは滅多にいません。そのような物理的な問題も中小企業が間違ったECサイト運営を続けてしまう要因の1つと言えます。

このような構造ができあがっていると、経営者が「これからはうちの会社もECサイト運営に力を入れるぞ!」と声高に叫んでも、うまくいくことはほぼ100%ありません。担当者の選択が間違っているので、何をやってもうまくいくはずがないのです。商材や手法以前の問題です。

私のような外部の専門家から見れば、会社の金をドブに捨てているようなECサイト運営は多々あります。方向性を正そうと思っても、社内評価を下げられたくない担当者と、仕事の契約を切られたくない制作会社に阻まれるケースも少なくありません。

間違ってしまった企業ができることとは?

では、すでに間違った方向に進んでいる中小企業のECサイト運営は、どうすれば良いのでしょうか。

1つはすべての仕事を外注に投げてしまうことです。自社で判断せず、すべての判断をECサイト運営のプロにお願いするのです。その方が、素人集団よりも正しい判断をする可能性ははるかに高いでしょう。

また、その場合は経営者直属の業務にしてしまったほうが良いと思います。経営者の耳に入ってくる情報に担当者のバイアスがかかっていては、結果的に間違った判断をしかねないからです。

理解しておいてほしいのは、無知なECサイト運営担当者と一緒に仕事をしたいという優秀なECサイト運営者はいないということです。どんなにお金を積まれても歌の下手な歌手と優秀なプロデューサーが仕事をしたくないのと同じです。ストレスになる仕事をわざわざやりたがる優秀な人材というのは、この世の中には存在しないと思った方が良いでしょう。

経営者やECサイト担当者は、戦略を考える以前に、まずは正しい情報がしっかりeコマース事業に注入されるような組織作りに注力するべきでしょう。

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