大手ECモール出店事業者の相談を受け付ける「デジタルプラットフォーム取引相談窓口」、前年度情報提供件数は2045件。改善状況は?今後の課題は?経産省担当者に聞いてみた
大手ECモールに対する不満や相談などを受け付ける窓口で、寄せられた相談からECモール運営の改善に向けた取り組みを進めている「デジタルプラットフォーム取引相談窓口(オンラインモール利用事業者向け)」(DPCD)。2021年4月の開設から約2年半が経過。DPCDには事業者からさまざまな相談や情報提供が寄せられている。この取り組みを主導する経済産業省商務情報政策局情報経済課デジタル取引環境整備室の仙田正文室長、デジタル取引環境整備室の法令専門官である皆川征輝弁護士に、DPCDに寄せられた相談内容や改善事例、課題などについて聞いた。
「デジタルプラットフォーム取引相談窓口(オンラインモール利用事業者向け)」(DPCD)とは
「DPCD」は、経済産業省からの委託を受け、公益社団法人日本通信販売協会(JADMA)が2021年4月1日から運営を開始した、デジタルプラットフォーム運営事業者(ECモール)を利用する事業者の相談窓口。
JADMAは、特定商取引法の第30条に位置づけられた通信販売における自主規制などの中心的な業界団体。「DPCD」は、「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」(以下「透明化法」)の実効的な運用を図るための手段の一つとして、運営されている。
「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」(「透明化法」)とは
2020年5月27日に成立し、同年6月3日に公布された法律。デジタルプラットフォーム提供者が、透明性及び公正性の向上のための取り組みを自主的・積極的に行うことを基本とし、国の関与や規制は必要最小限のものとすることを規定する。
デジタルプラットフォームのうち、特に取引の透明性・公正性を高める必要性の高いプラットフォームを提供する事業者を「特定デジタルプラットフォーム提供者」として指定し、規律の対象としている。ECプラットフォームではアマゾンジャパン、楽天グループ、LINEヤフーの3社を特定デジタルプラットフォーム提供者に指定している。
窓口に寄せられた声をプラットフォームの改善につなげる「モニタリング・レビュー」
記者:「デジタルプラットフォーム取引相談窓口(オンラインモール利用事業者向け)」の設置背景を教えてください。
経済産業省 皆川氏(以下「皆川氏」):デジタルプラットフォームと利用事業者間の諸問題に対応するために、2020年5月に「特定デジタルプラットフォームの透明性および公正性の向上に関する法律」、いわゆる「透明化法」が成立し、2021年2月に施行しました。これに合わせてデジタルプラットフォーム取引相談窓口を開設し、経済産業省の委託事業として、オンラインモール(ECモール)はJADMAに運営を委託しています。
指定対象分野は「オンラインモール分野」と「アプリストア分野」、そして2022年からは「デジタル広告分野」も追加し、3分野それぞれに取引相談窓口を設置しています。今回は「オンラインモール分野」について説明します。
記者:DPCDに寄せられた声はどのように生かされるのでしょうか?
皆川氏:大きく分けて次の2点です。1つ目は、ご相談いただいた利用事業者に寄り添い、悩みを解消すること。これは、DPCDの最も重要な使命です。この観点から、DPCDを運営するJADMAは、通販・ECに関する知見、デジタルプラットフォームに関する規約の見方などの面から、相談者にアドバイスをしています。
もう1つは、「モニタリング・レビュー」という政府のモニタリングの仕組みのなかで、窓口に寄せられた声をさまざまな議論につなげています。
各社が開設している苦情相談対応窓口とモニタリング・レビューのフロー
<モニタリング・レビューのフロー>
- 特定デジタルプラットフォーム提供者より提出された報告書と、DPCDに相談者から寄せられた声を、有識者や利用事業者の業界団体などからなるモニタリング会合での議論に反映。特定デジタルプラットフォーム提供者の運営状況についてレビューを行う
- モニタリング会合での議論の結果を踏まえ、経済産業大臣による評価を報告書の概要とともに公表
- 大臣評価を受けて、特定デジタルプラットフォーム提供者は運営改善に努める
記者:「透明化法」施行後約3年が経過しました。法律の趣旨を教えてください。
経済産業省 仙田氏(以下「仙田氏」):デジタルプラットフォームでの取引は、取引条件などを記載した利用規約やガイドラインに基づいています。デジタルプラットフォーム提供者が設定した利用規約などについて、デジタルプラットフォームを使う事業者はそれを把握・理解することが必要です。
BtoBの取引では、本来、取引条件を変更する際には、両事業者間で協議がなされるべきですが、数多くの利用事業者の取引条件を一括して取り扱う関係で、こうした取引条件の変更について利用事業者の声が反映されにくい状況があります。また、取引条件の変更に当たり、変更の理由がわかりやすく示されないこと、利用事業者側が対応するための準備時間が十分に確保されないこともあります。
そこで、「透明化法」では、利用事業者の声を寄せていただき、その声を踏まえてデジタルプラットフォームでの取引の透明化や公正化をめざしていく。これが法律の趣旨になります。
その意味で、「透明化法」を最大限生かすには、プラットフォームを利用されている事業者の声が大事です。自分の悩みを取引相談窓口に持ち込んでよいのか不安に思われる利用事業者の方もいらっしゃるでしょう。その内容は外部に漏れることはありません。ぜひ声を寄せてください。
対応日時:平日9時~12時、13時~17時(土日・祝日・年末年始などを除く)
問い合わせ先:https://www.online-mall.meti.go.jp/
メールアドレス:info@online-mall.meti.go.jp
電話番号:0120-088-004
FAX:03-5962-3907
第1回大臣評価では「改善見られる」
記者:モニタリング・レビューのフローを教えてください。
仙田氏:毎年度の春に、特定デジタルプラットフォーム提供者が「透明化法」に基づいて報告書を提出するのがファーストステップです。それと並行して、DPCDには年間を通じて利用事業者から情報が常に寄せられています。
特定デジタルプラットフォーム提供者から出された報告書や利用事業者の声をもとに、有識者がモニタリング会合の場で議論し、特定デジタルプラットフォーム提供者に求める運営改善の方向性を話し合います。その結果を踏まえ、経済産業大臣が特定デジタルプラットフォームの透明性や公正性についての評価を行う――というフローです。
記者:2022年の年末に大臣評価が初めて出されました。どんな感触でしょうか?
仙田氏:たとえば、利用事業者に対する取引条件の情報開示、苦情処理・紛争解決の体制整備は、一定の前進が見られました。大臣評価全体としては、さまざまな運営改善を求めているところであり、本年度のモニタリング・レビューの過程でフォローアップを進めているところです。
大臣評価
大臣評価とは、経済産業大臣が特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性について行う評価のこと。2022年12月22日に初めて経済産業省が取りまとめを発表した。「透明化法」上、規制対象である「特定デジタルプラットフォーム提供者」は、評価の結果を踏まえ、プラットフォームの透明性と公正性の自主的な向上に努めなくてはならない。大臣評価では、特定デジタルプラットフォーム提供者には下記の取り組みを期待するとしている。
- 利用事業者にとって重要な情報が埋もれてしまうことがないよう、わかりやすく開示する取り組み・工夫
- 利用事業者や社会全体から信頼を確保し、相互理解を促進するための手続・体制の整備
- 苦情処理・紛争解決に係る取り組みの客観的な評価に資する情報の積極的な開示
記者:大手のデジタルプラットフォームが改善に向けて取り組みを進めています。実際に変わってきたと感じている点は。
皆川氏:大臣評価を初めて公表したのが2022年の年末で、次の定期報告書が2023年5月。準備時間が短く、まだ「抜本的に大きく変わった」というフェーズではありませんが、各社改善に向けてさまざまな検討を進めているといった報告が見られました。
たとえば、取り引きが大規模になっていく過程で、規約がどんどん複雑になっていきます。そうしたなか、今後に向けて規約をわかりやすくするために努力しているという報告がありました。このような動きについて記載があったことは前進だと見ています。
苦情相談に対応するための各モールの取り組み
大臣評価では「透明化法の施行により、特定デジタルプラットフォーム提供者による提供条件等の情報開示は総じて改善している」と評価されている。苦情処理・紛争解決などの体制整備についても、前向きに取り組んでいる姿勢が伺えたという。
経済産業省の発表によると、利用事業者向けのアンケート調査結果では、約7~8割の利用事業者が「特定デジタルプラットフォーム提供者による情報開示や相談窓口での対応がよりわかりやすく丁寧になった」と回答した。
DPCDに寄せられる相談を通じて、特定デジタルプラットフォーム提供事業者から利用事業者への対応が今後も改善されることが期待できる。
自社優遇行為の改善状況は?
デジタルプラットフォームの利用事業者からは、違反行為に対する措置、商品・アプリの表示順位、利用事業者の事業活動に関するデータ利用などの場面で「特定デジタルプラットフォーム提供者が自社や関係会社を優遇しているのではないか」と懸念する声も多い。
これまでのモニタリング会合では、各社から、自社優遇行為の有無などについて説明された。大臣評価では「利用事業者との相互理解に向けた第一歩として評価できる」とする一方、「各社には、自社及び関係会社の優遇の有無、自社優遇がある場合はその正当性について、客観的に検証できるようなかたちで情報開示や体制整備を進め、その内容を説明していくことを期待する」とも記されている。
記者:長期的な目線が必要ということですね。
皆川氏:そうですね。「透明化法」では、政府が指定対象事業者の取り組みをモニタリングしていくという仕組みを採用していますので、長期的な視点が必要です。
現在もモニタリング・レビューをしており、有識者や利用事業者の業界団体など、さまざまなバックグラウンドを持つ方々に議論いただいています。2024年1月9日現在、2023年度の大臣評価案のパブリックコメントを募集しています。その後、正式な大臣評価を公表する予定です。それを踏まえて、今後も徐々に変化や改善を進めていくイメージです。
記者:改善のための“現場の声”として、出店している利用事業者の声が大切なのですね。
皆川氏:そうです。「定期報告書に書かれていることと実際の現場では異なる」といった気付きは、当事者である現場の声がなければわからない。経済産業省はデジタルプラットフォーム提供者でもなければ、出店する利用事業者でもないからです。
デジタルプラットフォーム側が「改善している」と言っても、利用事業者に寄り添う改善が本当にされているかどうかはわかりません。それを判断する意味でも、利用事業者から寄せられる声はとても重要です。
2022年度の情報提供件数は2045件。相談上位は「苦情の申し出又は協議の申入れをするための方法に関する事項」「取引条件の変更に関する事項」
記者:これまで特定デジタルプラットフォーム利用事業者からDPCDに寄せられた情報提供の件数を教えてください。
皆川氏:2022年度の件数は、合計で2045件です。JADMAがDPCDで受け付けた声のほか、経済産業省に直接入ってくる声も加えています。またこの件数には、ネガティブな問い合わせだけではなく、ポジティブな内容や不明点を確認するだけの内容も含みます。
我々は、JADMAから報告を受けた相談件数だけを見ているのではなく、毎週、JADMAとミーティングを行い、内容を把握するとともに、対応策について話し合っています。定期的なミーティングだけでなく、ホットラインでつながっていますので、緊急対応することもあります。JADMA、特定デジタルプラットフォーム提供者を交えた3者協議を行うこともあります。
記者:利用事業者からの相談内容は。
皆川氏:特定プラットフォーム提供者に対する「商品等提供利用者(利用事業者)からの苦情の申し出又は協議の申し入れをするための方法に関する事項」が最も多いです。「ECモールに対して苦情の申入れや相談をしたけど、納得のいく対応をしてもらえない」といったご相談です。
これと同じくらい多い相談内容として、「取引条件の変更に関する事項」があげられます。デジタルプラットフォーム側による取引条件の変更理由は、一定程度の開示が進んでいるのは確かですが、まだ変更理由が不明確だったりすることもあります。それに関連する相談も多いですね。
相談者事業者の事業者名は秘匿
記者:相談する側は、DPCDに連絡をしたり、経産省に相談したりすることに対して、情報の扱われ方などの面で心理的なハードルがあるのでは。
皆川氏:情報管理は厳格に運営しています。情報を寄せていただいた事業者側に同意を得ることなくプラットフォーム提供者に個社の具体的な名前を出したりすることは決してありません。事前に事業者側の許諾を得て、ご希望を踏まえた上で我々が動くというスタンスです。
相談料は無料ですし、フリーダイヤルなので電話代の負担もありません。また、ホームページにはWebフォームを設けています。
仙田氏:利用事業者にはご不安なく、どんどん相談や意見を寄せてほしいです。デジタルプラットフォーム提供者は報告書で「こういう措置を講じました」と記載しますが、そうした取り組みを評価する際に、利用事業者からの視点が大事になります。
現場目線のリアルな反応をデジタルプラットフォーム提供者側にフィードバックすることにより、デジタルプラットフォームの円滑な運用改善につながると考えています。
利用事業者からの声(2022年4月以降に相談窓口に寄せられた声の一例)
アカウント・出品停止措置について
- 商品やアカウント停止措置にあたっては状況に合わせた判断をする印象で、その判断に理不尽さは感じない
- 商標権の区分が異なっているのに商標権の侵害についての申し立てを受け付けてしまう
- アカウントを停止され、指摘通り改善をしたがアカウントが復活しなかった。何回もやりとりをしたあげく、問題が判明して復活した。すべての指摘について、なぜ違反なのか、その理由もきちんと回答してくれなかった
提供条件の変更について
- 各プラットフォームとも事前の告知が丁寧にされるようになった
- プラットフォームの一方的な利用規約変更による取引条件の変更があった。どのプラットフォームでも理不尽と思われる規約やルール変更が行われて、従わざるを得ない
苦情処理・紛争解決の状況について
- 担当者は問い合わせにも応えてくれるし、アドバイスもくれる。罰点制度へも「これは不可」と教えてくれ、0点を保持できている
- 出店者にアンケートを募り意見を積極的に反映している。アンケート結果も開示し、実際に改善されている
- 担当者の知識不足、質問への適切な回答が得られないと感じる
- 問い合わせ・相談の連絡先がわからない、またはわかりにくい
返品・返金の取り扱い
- 「品質不良」として返品されたが実際は9割が使用済みだった。「品質不良」であれば9割も使用するはずもなく、申し立てをしたが、「倉庫内または配送中の破損、紛失以外は対象外」として補てんを受けられなかった
- 商品を注文して受け取らない顧客がいるが、商品差し戻しとなった場合でも、いったん送った送料は事業者負担しなくてはならない
自社及び関係会社の優遇・検索順位について
- 自社サービスを使っているところが優先とわかりやすい
- 強制退店のガイドラインができて正当な業者が検索順位で上に行きやすくなった
- 実際に順位の決め方などは不透明に思える。広告枠の中の表示順についても何が反映されているかわかりにくい
- 仕組みの説明は受けているが、販売実績などを総合的に加味して決定されるため、実際にどうやったら検索順位が上がるか明確ではない。配送日数を短縮するなどプラットフォームが指定する条件をクリアしても、条件を満たしていない店舗が上位にくることが多々ある
その他
相乗り出品に伴う課題
- 同じ商品なので相乗りしていたがサイズ違いでカタログが2つ存在していたらしく、それが1つになったらサイズ表記に誤りが生じた。自分にカタログの修正権利が無いので修正を依頼したが直してもらえない
- 購入した商品が壊れたので修理を依頼したらメーカーから偽物だと言われた(消費者)
- 最初は自分の商品だけだったが、そのうち偽物を作るメーカーが相乗りしてきてその商品の購入者から「偽物だった。」とレビューをされ、本物を売っている自分のところの商品まで偽物だと思われて売れなくなってしまった
- 自分のところで商品を作って販売しているが、転売ヤーに相乗りされてしまって消費期限の過ぎた化粧品を売られてメーカーである自分のところにクレームが来てしまった
- メーカーとして出品しており商品を売り切ったので廃番にしたが、転売ヤーが相乗りで商品を掲載しているためメーカーなのにカタログを削除することができない
不正行為の取り締まり
- 他のオンラインモールの出品者に無断で画像などを使用され、無在庫転売の被害に遭っていることを出店しているオンラインモールに相談したが、店舗同士で解決するように回答するだけであった
- 競合他社と思われるところから当面の在庫枠を押さえられてしまう数の不正注文があり、前払いの入金待ちの一定期間を過ぎるとキャンセルや勝手な返品など妨害行為と思われる注文が続いている。それによってこちらの健全性を落として自社がカートを取ろうという魂胆
- 月に4000件の架空注文を入れられて、もちろん発送できず、在庫は押さえられて受注できず、結果キャンセルとなり健全性も悪くなった。出品停止の解除はしてくれたが、その悪意ある相手先の取り締まりなど何もしてくれない
商品の販売価格の推奨
- 競争力のある価格に設定せねば、販売件数が激減する
- 競争力のある価格でないと判断されると、おすすめ出品に掲載されず、当該カタログ上におすすめ出品の基準を満たす商品がないと在庫切れかのような簡素な表示になるため、値下げせざるを得ない
販売手数料の事前説明なしの設定・変更
- 販売していたカテゴリーとは異なる販売手数料カテゴリーの手数料率(商品カテゴリーに当てはめた場合よりも高い手数料率)で手数料を請求された
- カテゴリーが違っていることについて質問をしたが、なぜその販売手数料カテゴリーが正しいのか説明を受けることができなかった
業界発展をめざして継続的にモニタリング
記者:「透明化法」の施行から約3年が経過しました。今後の展望を教えてください。
仙田氏:デジタルプラットフォームは、技術の進展とともにビジネスモデルが変わります。このため、継続的なモニタリングが重要です。現在は、2022年度の大臣評価を踏まえ、2年度目のモニタリングを進めています。モニタリングの手法についても、確立されたものがあるわけではなく、過年度の経験を振り返りながら、より良い在り方を追求していく必要があります。
記者:これまでの「透明化法」を振り返って、評価できるところは。
仙田氏:デジタルプラットフォーム提供者の運営改善に向けた取り組みについて「見える化」がなされた、との声をいただいています。運営改善がある程度なされた課題もある一方で、継続的に運営改善を求めていく必要がある課題もあります。我々としても、PDCAを回しながら、法律の執行に当たっています。
記者:「透明化法」のもとで対策を進めていくにあたって、今後の展望を教えてください。
仙田氏:デジタルプラットフォーム提供者と利用事業者の間の取引環境を改善することを通じて、市場全体を発展させていくことをめざしています。そのためにも、デジタルプラットフォームを利用している事業者にDPCDを積極的に利用いただきたいと思います。