知っておきたい! ECモール店運営の悩みを解決する場「デジタルプラットフォーム取引相談窓口」の実績&利用メリット
大きな集客力を持つECモールに対し、出店事業者は立場が弱くなりやすく、不平・ 不満の声をあげることが難しい立場にある。こうした不満や状況に対応し、必要に応じてECモールへの橋渡し役も担っているのが「デジタルプラットフォーム取引相談窓口(オンラインモール利用事業者向け)」(DPCD)だ。
開設から1年が経過し、ECモール出店者からさまざまな声が寄せられている。ECモールと出店者の公正な取引を実現するため、出店事業者が抱える不満などの相談に応じ、支援するための“駆け込み寺” と言える「DPCD」の支援運用状況と活用メリットを取材した。
デジタルプラットフォーム取引相談窓口(DPCD)とは
経済産業省の委託を受けて、公益社団法人日本通信販売協会(JADMA)が2021年4月1日から運営している「DPCD」は、ECモール出店者の相談に応じ、課題の解決に向けた支援を行っている。
運営を担うJADMAは、特定商取引法の第30条に位置づけられた通信販売における自主規制などの中心的な業界団体で、1984年から通販に関する消費者からの相談窓口を開設し、年間約4000件の相談に対応。2004年からは事業者からの相談にも応じている。
「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」(以下「透明化法」)に基づき、一定の国内流通総額などの要件を満たし、 指定を受けたデジタルプラットフォーム運営事業者(「特定デジタルプラットフォーム提供者」)は、取引条件などの情報開示、運営における公平性確保、運営状況に関する報告を義務付けられている。
2021年4月時点で、この特定デジタルプラットフォーム提供者として、EC モールではアマゾンジャパン、楽天グループ、ヤフーの3社が指定されている。「DPCD」は、「透明化法」 の実効性確保の一環として2021年4月1日に設置された。
相談上位は「検索順位」や「規約変更」
2021年度に「DPCD」へ寄せられた情報提供件数(窓口で受け付け、情報の内容に応じてカウントした件数)は1294件。このうち、利用者から窓口に電話やWebフォームなどを利用して寄せられた相談・情報提供は282件。相談窓口が行ったヒアリングなどにより収集した情報は1012件だった。
情報提供の内容別の内訳は、「検索順位・ランキング等に関する事項」が131件にのぼり、全体の10%を占めた。「取引条件の変更に関する事項」は130件で10%、「取引の全部拒絶(アカウント削除等)に関する事項」は125件となり、同じく10%を占めた。
このほか、「商品等提供利用者から苦情の申出又は協議の申入れをするための方法に関する事項」(7%)、「一般利用者からの返品等に関する事項」(7%)といった項目の相談が目立っている。また、各相談・情報提供に付随して寄せられた苦情および紛争の処理体制・手続きに関する情報提供は317件となっている。
「DPCD」には、利用事業者から以下のような声が寄せられている(一部掲載)。
- オンラインモール運営事業者が返品ルールや返品受け入れを決定しており、出店者に負担が生じている
- オンラインモールのルールに違反した出店者に対する制裁が等しく行われておらず、恣意的であると感じる
- アカウント停止の理由についてオンラインモール運営事業者から十分な説明を受けられず、対応に困った
- 問い合わせに対する回答が定型文で問題が解決しない
- 商品の検索順位を決定する仕組みが不明瞭・恣意的・不公平だと感じる
個々の出店事業者に寄り添った対応や回答がモール側から十分に提示されないという出店者の悩みや不満の声が多いように見える。
一方で、「DPCD」の運用開始後、JADMAの万場専務理事によると一部モール運営事業者に変化があったという。たとえば、ECモール運営にあたっての透明性や公平性の向上に向けた情報開示などだ。
ただ、モール運営上の規約変更にあたって十分な説明が行われていない、必要最低限の通知のみで案内されている――といった出店者からの不満の声は引き続き散見される。
対応日時:平日9時~12時、13時~17時(土日・祝日・年末年始などを除く)
問い合わせ先:https://www.online-mall.meti.go.jp/
メールアドレス:info@online-mall.meti.go.jp
電話番号:0120-088-004
FAX:03-5962-3907
【DPCD活用メリット】相談者の匿名性保守&初回無料の弁護士相談も
モール出店に悩みや不満を抱えている事業者を支援する「DPCD」の利用メリットを説明したい。出店者がもっとも懸念するのが「情報提供や相談を通じて身元が割れてしまう」こと。「DPCD」は匿名性を保ったまま相談することが可能。窓口に相談する出店者が特定されることを防ぐため、相談者の許可がない限り、「DPCD」は持ち込まれた相談内容や企業名をプラットフォームに開示しない。
つまり、身元が特定されるような情報はECモール側に開示せずに、ECモールに対する適切な対応・要請を「DPCD」が 行う。
出店者の秘密は必ず守るため、相談内容や出店者名が漏えいすることはない。安心してECモール運営事業者に対する疑問をぶつけてほしい。ECモール運営事業者と出店事業者の公平性を保って話を聞く。
相談内容によっては、相談を寄せた出店者の社名をECモール運営事業者に連絡した上で照会する方が問題点を把握・確認しやすい場合もある。そのような場合でも、相談元の事業者に必ずあらかじめ許可を得てから連絡することを徹底している。
このほか、「DPCD」が通販の法律に詳しい弁護士の情報を提供することも可能だ。初回は無料で相談できる。これまでにも「DPCD」を通じた弁護士への相談事例があったという。
そのほかの取り組みとして、ECモール利用事業者向けのセミナーや説明会などを開催している。目的は、2021年2月施行の「透明化法」と、「DPCD」について、 出店者の理解を深めること。 2021年度に引き続き2022年度もECモール利用事業者向けの説明会を開催している。参加者からは「役に立った」「有益だった」といった声が寄せられたという。
このほか、相談窓口では、海外の関係機関との情報交換なども実施している。
トラブル防止に「ECモールの規約を読み込んで」
「DPCD」は2022年度も引き続き、相談対応と、相談事例の蓄積に努めていく方針だ。JADMA非会員企業はもちろん、ECモールに出店している会員企業も多く、「DPCD」が果たす役割は大きいという。
相談を通じて把握した課題もある。たとえば、窓口を利用する事業者や、ECモールに出店している事業者がECモールの規約に目を通していないケースが多いことだ。そのため、万場専務理事は次のように喚起している。
ECモール側の規約は読み飛ばさず、きちんと目を通して理解を深めてほしい。 規約の理解が十分でないと、のちのち、トラブルにつながりやすい。
「DPCD」運用開始1年から振り返る、EC業界の課題と可能性
「DPCD」の運用を通じて、EC業界の課題と可能性が見えてきた。消費環境を振り返ると、急速に進んだコロナ禍で通販の需要が高まり、通販・ECを手がける企業にとっては「コロナ特需」ともいえる状況を迎えた。新しい生活様式の提案のもと、政府による「待てる買い物は通販で」の呼びかけもあり、通販・ECを初めて利用した消費者も多い。
今後は、コロナ禍で獲得した顧客の定着や育成が課題である一方、実現できれば売上拡大に寄与できる。万場専務理事は次のように話す。
ECモールは集客力に強みがあるので、出店事業者は一層、安心感があっただろう。一方、外出自粛の緩和に伴い、一時的に盛り上がった通販・ECの売り上げは落ち込みやすい環境にある。自社サイト、ECモールも含めて、初めて通販・ECを利用した人を定着させることができれば、通販・ECの強みを維持できるだろう。(万場氏)