キヨハラサトル[執筆], 吉田 浩章[撮影] 1/19 7:00
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「誰でも簡単にネットショップが作成できる」ネットショップ作成サービス「BASE(ベイス)」で開設されているネットショップは、200万ショップを超える。2012年11月のサービスローンチから11年が経過。「難しいことを簡単に」という考え方をベースに、シンプルな機能・操作性を維持しながら、個人やスモールチームのマーケティング・販促・業務効率化など、ECの売り上げや事業拡大をサポートする機能の開発を進めている。

ネットショップを簡単に開設できるという“ツール”から、利用者の事業拡大を支える“プラットフォーム”へと進化を遂げた「BASE」。今後のめざす方向とは? BASE 執行役員でVP of Productの神宮司誠仁氏に聞いた。

200万超のショップが使う「BASE」の特徴と強み+AI活用+注目の新機能とは

「難しいことを簡単に」を具現化したUI・UXの実現

「BASE」の利用者層は、モノ作りをしている個人やスモールチームなどがメイン。

「BASE」のネットショップ累計開設数(2023年12月時点)
「BASE」のネットショップ累計開設数(2023年12月時点)

たとえば、クリエイターがインターネットで初めて作品を売るためにECプラットフォームを選ぶ際、「BASE」を選ぶことが多いという。その理由として最も多いのが、「ストレスなくネットショップを構築できる」から。

ネットショップの開設だけでも煩雑な作業が発生するのが一般的。そのため、開設前の準備段階でネットショップ開設を諦めてしまうケースも少なくない。

「誰でも簡単に」使える標準機能の例
「誰でも簡単に」使える標準機能の例

SaaS型のECプラットフォームは通常、複数の事業者が共通の仕組みを使ってネットショップを構築する。そのため、プラットフォーム提供企業はより売れるための機能、業務効率化の機能などを追加実装していくため、仕組みが複雑になってしまう。つまり、機能面を拡充すると、仕組みが煩雑になり操作性が阻害されるといったジレンマが生じてしまう。

このジレンマに対してBASEは、「難しいことを簡単に」の考えを徹底。「拡張性の高さ」を高めながらネットショップを利用する消費者の「買い物体験」を向上、一方で個人やスモールチームへは「シンプルな操作性」でネットショップを構築・運用できる環境を通じて、「親しみやすさ」を感じてもらうためのUI・UX(ユーザーエクスペリエンス)の実現に注力してきた。

たとえば、Webデザインのスキルがなくても、「BASE」が提供するテンプレートを活用すれば、自社のコンセプトに適したネットショップをデザインすることができるのだ。

ECの運用負担を軽減し、「クリエイティブタイム」を創出する「BASE Apps」

「難しいことを簡単に」の思想は、ネットショップの構築面だけではなく、運用面にも生かされている。

私たちは、ショップオーナーの皆さまにしかできないことを「クリエイティブタイム」と呼んでいるのですが、販売する作品・商品にこだわるクリエイティブタイムを大切にしてもらいたいと思っています。できるだけショップオーナーの皆さまの手間を削減してネットショップ運用を効率化。個人やスモールチームがオーナーしかできない業務、企画などに集中できるよう、意識してプロダクトを開発・企画しています。(神宮司氏)

BASE執行役員 VP of Product 神宮司誠仁氏
BASE執行役員 VP of Product 神宮司誠仁氏

MD(マーチャンダイジング)、ページ制作、マーケティング、販促、受注処理、CS(カスタマーサポート)、物流など業務が多岐に渡るネットショップ運営。なかでも「集客」「業務過多」は“ECビジネス最大の課題”と言われている。

「BASE」を活用してECを手がける利用者は、1人や2人といった少数で運営しているケースが多い。作業の手間を軽減し、少ないオペレーションコストで売り上げを伸ばしたい――こんな利用者の声に応え、提供しているのが、拡張機能「BASE Apps」だ。

「BASE Apps」はショップにより充実した設定を追加したり、新しい機能が必要なときに追加できる機能。必要最低限の機能は標準機能として実装し、自社のビジネスモデルや事業規模などに応じて自由に足せるという設計思想の下、アプリストアという形式で「BASE Apps」を提供している。

さまざまな機能を提供している「BASE Apps」
さまざまな機能を提供している「BASE Apps」

「BASE Apps」を通じて、ネットショップ運営に関する業務負担の軽減や業務効率化を実現し、ショップオーナーには、商品やファン作りなどのコア業務に集中できるクリエイティブタイムを作りたい。どの個人やスモールチームも、販売している商品は本当に素晴らしいモノばかり。BASEがサポートすることで、世の中の多くの人に商品が届く一助になりたいと思っています。(神宮司氏)

SNS投稿文やサイトデザインの自動作成を支援する「AI機能」

2023年4月に「ChatGPT」を活用し、ショップオーナーの作業負担を軽減・クリエイティブタイムを創出することを目的とした、「BASE AI アシスタント」をリリース。のち2023年12月6日のアップデートでは、「ショップデザインの提案」などの機能を新たに追加した。

ショップオーナーからは「業務効率化が加速した」など評価の声があがっているという。

「BASE AI アシスタント」について
「BASE AI アシスタント」について

ネットショップ運営の作業負担を軽減する一方、商品作り、マーケティング、お客さま対応など個人やスモールチームが本来やるべき価値作りに向き合うための時間「クリエイティブタイム」の創出をめざしてAI機能の開発に取り組んでいます。(神宮司氏)

AIを使った機能をアップデートした

①問い合わせチャットへの返答をAIが考案

ユーザーから届く問い合わせの内容の返信文を提案する機能。ユーザ―からの問い合わせ文面を、AIが読み取り、想定される返信文を提案してくれる。文章作成だけでなく、注文ステータスの抽出も可能となっており、従来返信文の検討にかかっていた作業負担を軽減する。

問い合わせ返信文をAIが自動提案する機能のイメージ
問い合わせ返信文をAIが自動提案する機能のイメージ

②SNS投稿文の自動作成

SNSの投稿文をAIが考案し作成する機能。登録した商品の情報(カテゴリ、商品名、商品説明文)をベースに、お客さまに刺さる文章やハッシュタグなどをAIが投稿文を自動作成する。

SNSへの投稿文を毎日考えるのはとても大変なことです。この機能はAIが商品情報、人気のハッシュタグ情報などを元に、文章とハッシュタグを自動で作成します。(神宮司氏)

SNS投稿文の自動生成イメージ
SNS投稿文の自動生成イメージ

③ネットショップに合ったデザインを作成

ネットショップのデザインをAIが提案する機能。取り扱う商品のジャンル、ネットショップの雰囲気、ターゲットの情報を入れると、それに合うデザインを自動生成する。その際、商用利用可能な画像の活用やフォントの作成などもAIが行う。商用利用可能な画像のピックアップやコピーライティングの提案も可能。

商品や雰囲気、コンセプトに適したWebサイトをデザインするのは難易度が高いため、専門知識が必要になります。こちらの機能は、商品情報やネットショップの雰囲気といった情報を入力するだけで、ネットショップで使う写真、フォント、色などを提案します。専門知識が必要とされる部分を、AIによってカバーできるようになったと感じています。(神宮司氏)

ショップデザインの自動提案機能のイメージ
ショップデザインの自動提案機能のイメージ

「AI機能」に加え今後も続く新機能「メンバーシップ App」「販売パートナー App」

購入者との関係性を深める「メンバーシップ App」

「メンバーシップ App」はショップ独自の会員システムを搭載できる機能で、CRMツールに近い。消費者ニーズに合わせたお知らせやクーポンの提供、購入者への独自ポイント付与、そのポイントを使って特典と交換できるようになる。

これにより「BASE」でネットショップを立ち上げた利用者が、消費者との関係を深めることができるようになり、顧客満足度、ロイヤルティの向上が期待できるという。「世の中で言われるCRMツールを、『BASE』独自に“誰でも簡単に”使えるように設計し直しました」(神宮司氏)

「メンバーシップ App」は2024年春にアップデート予定

個人やスモールチーム同士をつないでお互いの商品を販売できる「販売パートナー App」

「販売パートナー App」は、「BASE」のショップ同士をマッチングすることにより、システム上でショップ同士がコラボレーションできる機能。

たとえば、ブランドを扱うA店、さまざまなアパレルを扱うB店がパートナーシップをシステム上で結んだ場合、B店はA店の商品データベースから売りたい商品情報を自社のECサイトに掲載、販売することができるようになる。A店にとっては販売先が広がり、B店は取扱商品数の拡大といったメリットを手間なく享受することができるようになる。

ご自身のネットショップが取り扱う商品を、別のネットショップに“卸売り”するイメージに近い。たとえば、「せんべいを販売するECサイトが、お茶屋さんのネットショップのアイテムを扱う」「キュレーションが得意な個人やスモールチームが、200万のネットショップのなかから自分の世界観に合う商品をピックアップして、ご自身でセレクトショップのように売る」といったことが可能になります。(神宮司氏)

「BASE」利用者同士をマッチングする機能は2024年春の提供予定

7種類の決済手段が簡単に導入できる「BASEかんたん決済」

個人やスモールチームがネットショップを運営する場合、大きなハードルとなるのが決済面。「CVRの向上」「カゴ落ち防止」「買い物体験の向上」には、消費者ニーズに適した決済方法の提供が必要不可欠だが、個人やスモールチームがすべての決済手段と個別に契約、もしくは決済代行会社と契約することは難しい。

「難しいことを簡単に」を掲げているBASEでは、自社独自の決済システム「BASEかんたん決済」を利用者に提供。クレジットカードや後払い、「Amazon Pay」など7種類の決済手段から使いたい決済サービスを自由に選べるようにしている。

たとえば、AmazonのID決済サービス「Amazon Pay」。法人でなければ導入できない「Amazon Pay」との契約を、BASEが行うことにより、個人でも「Amazon Pay」を導入できるようにした。

「BASEかんたん決済」で導入できる7種類の決済手段
「BASEかんたん決済」で導入できる7種類の決済手段

こうした取り組みの根本にあるのは「個人やスモールチームの手間をいかになくすか」(神宮司氏)という発想。個人やスモールチームの決済機能の導入に関する負担を緩和できるようにしている。

BASEは多岐に渡る決済事業者と包括契約を結んでいるため、「BASE」ショップオーナーの皆さまは簡単に「Amazon Pay」などの決済を導入できます。これを実現するためにBASEは何度も決済事業者と話し合いを重ねました。このように、ショップオーナーの皆さまが簡単にネットショップを運営できるための工夫を日々積み重ねています。(神宮司氏)

ECプラットフォームがショッピングアプリ集客サービス「Pay ID」を持つ大きな強み

「BASE」が他のECプラットフォームと大きく異なる点の1つが、購入者向けショッピングサービスを運営していることだろう。サービス名称は「Pay ID」

「Pay ID」は「BASE」で構築・運用しているネットショップで販売している商品を購入できるショッピングアプリで、200万を超えるネットショップの商品を集約している。

また、「Pay ID」はID決済の機能も備えており、「BASE」利用者のネットショップで「Pay ID」決済が可能。消費者は「Pay ID」アカウントに氏名や住所などを登録すると、買い物する際に「Pay ID」へのログインだけで購入者情報が自動で入力され、ワンタップで商品を購入ができるようになる。この「Pay ID」にはすでに1200万を超える消費者がアカウントを登録している。

「Pay ID」は決済面、ショッピングアプリとしての機能双方を併せ持つ
「Pay ID」は決済面、ショッピングアプリとしての機能双方を併せ持つ

累計1200万超の消費者を抱える「Pay ID」を使う「BASE」導入ネットショップの決済面では、カゴ落ち防止やコンバージョン率の改善などに役立つといった効果も。また、「Pay ID」を通じた新規顧客の流入といった期待のほか、購入者へプッシュ通知ができるといったメリットがある。つまり、新規顧客の獲得と既存顧客のリピート購入といった両面での効果を発揮しているのだ。

なお、アカウントを保有している消費者はワンクリックで買い物を完了することが可能。住所情報などを入力する手間が省けるため、ネットショップを横断したシームレスな購買体験を提供できている。

購入者向けショッピングサービス「Pay IDアプリ」のイメージ
購入者向けショッピングサービス「Pay IDアプリ」のイメージ

今後は「Pay ID」を通じて、「BASE」を使って開設されたネットショップへの集客や販促、リピーター対策のさらなる強化を予定している。「Pay ID」の認知拡大でショップ利用者を増やし、「BASE」を利用するショップの売上向上につなげる狙いだ。

また、アプリ内の「使いやすさ」「買い物のしやすさ」を担保するため、購入履歴をもとにしたレコメンドや、商品検索の精度を高める機能も実装する予定。アプリ内での商品やショップに関する特集コンテンツを展開し、集客力を高めていくことも計画している。

小さな改善の積み重ねが事業者の運用負担の削減、スモールチームのビジネスに役立つ

また、BASEは2023年11月、利便性・操作性の向上、日々の運用にかかる負荷の軽減のために実施した、40項目にわたる管理画面の改善点を公表した。

私たちは日々裏側の細かな仕組みの改善に取り組んでいます。この40項目は小さな改善ではあるものの、個人やスモールチームの皆さまが必要としているものを優先的に着手しています。(神宮司氏)

BASE ネットショップ 運営 開設

ネットショップを運用する利用者にとって、管理画面のUI・UXの良しあしは運用負担に大きく影響する。UI・UXの改善が利用者の負担の軽減につながる――こうした考えの下、BASEでは小さな積み重ねを日々続けている。

40項目の改善施策は、読みやすく信頼感を与えるフォントの追加、セキュリティ面ではフィッシングメールの被害を最小限に防ぐアップデートなど、大小さまざま。「細かい改善を積み重ねていくことで、手に馴染むプロダクトになっていくと考えています」(神宮司氏)

BASEが発表した40項目の改善
BASEが発表した40項目の改善

「BASE」は個人やスモールチーム向けECプラットフォームだが、高い月商を売り上げているネットショップも少なくない。つまり少人数で運営していても、多くのファンを抱えている個人やスモールチームもいる。

「『BASE』は個人やスモールチームの方々に向けたプロダクト」(神宮司氏)。小さな改善の積み重ねなどを通じて、個人やスモールチームが抱える課題やハードルの解消に地道に取り組むという。

個人やスモールチームをサポートしていくという方向性は変わりません。「BASE」ショップオーナーの皆さまのネットショップには、そこで売っている商品の価値観などに引かれるお客さまが集まっています。少数精鋭でネットショップを運営しているショップオーナーの皆さまが多く、こうした方々を私たちは応援していきたい。BASEでは、自分の価値観や思いを経済活動で表現している人を「オーナーズ」と呼んでいます。オーナーズのように、自分たちの価値観を大事にして生きている人たちに向けて、価値あるプロダクトを作り続けていきたいです。(神宮司氏)

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