AI時代、D2Cの組織はどう変わる? ユーグレナ、ジェイフロンティア、ベルタが語る「売り上げを伸ばす組織論」
AI活用がD2C・ECの現場に広がるなか、組織設計や採用、人事評価の考え方も変わり始めている。ユーグレナ、ジェイフロンティア、ベルタが、少数精鋭化、AIに引用されるブランド作り、属人化の解消など、それぞれ異なるアプローチから“売り上げを伸ばす組織”の在り方を語った
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AI活用がD2C・ECの現場に広がるなか、組織設計や採用、人事評価の考え方も変わり始めている。6月11日に都内で開かれた「『D2Cの会』フォーラム2026」(売れるネット広告社主宰)のトークセッション「売上をアップする『組織論』」では、ユーグレナ、ジェイフロンティア、ベルタが登壇。AIを前提にした組織作り、広告運用や制作の効率化、さらに“AIに選ばれるブランド”になるための戦略まで、各社の実践を共有した。
AIは単なるツールではなく「組織の在り方を再設計する契機」
登壇したのは、ユーグレナ 上席執行役員 兼 CEO of ヘルスケアカンパニーの金城煥(ふぁな)氏、ジェイフロンティアの中村篤弘社長、ベルタの武川克己社長。モデレーターはoffice Kの田岡敬社長が務めた。

AI活用がD2C・ECの現場に急速に広がるなか、変わり始めているのは広告運用や制作フローだけではない。採用、人事評価、役割分担、さらには「どの仕事を人が担い、どこをAIに任せるのか」という組織の前提そのものが見直されつつある。
セッションでは、AIを活用して少数精鋭化を進める企業、AIに引用されるブランド作りを重視する企業、属人化の解消と全社推進体制の構築に力を入れる企業など、各社のスタンスの違いも浮かび上がった。一方で共通していたのは、AIを単なる効率化ツールとしてではなく、組織のあり方を再設計する契機として捉えている点だ。
【ユーグレナ】AIで効率化し、人は「独自性」と「経験の蓄積」を担う
ユーグレナのふぁな氏は、「なぜ今AIなのか」という問いに対し、採用時や採用後のミスマッチ、競争激化、広告効率の低下といった複数の経営課題が背景にあると説明した。人を増やせば解決する時代ではなく、同じ人数、あるいは限られた人数でも、より高い成果を出す必要性が高まっているという。
AIが担うのは、大量の情報処理やコンテンツ量産、ルーチン作業など、誰がやっても近い結果が得られる領域。人が担うべきなのは、独自性と経験の蓄積です。(ユーグレナ ふぁな氏)
ユーグレナ 上席執行役員 兼 CEO of ヘルスケアカンパニーの金城煥(ふぁな)氏
ふぁな氏は、AIは効率性と再現性を追求する一方で、人は「なぜその結果が良かったのか、悪かったのか」を評価し、その知見を蓄積していく役割を担うと整理する。AIを使って出した結果そのものではなく、その結果をどう解釈し、次の打ち手につなげるかが競争力になるという考え方だ。
ユーグレナでは、BtoC-EC、商品企画、物流購買、リテールなど複数部門でAI活用を進めている。そのなかでも特に重視しているのが、BtoC領域における「投資判断の加速」だという。BtoCが売り上げの大きな割合を占めるため、広告やクリエイティブの検証スピードを上げることが事業成長に直結するからだ。
BtoCでは投資判断の加速が最も重要。クリエイティブを量産して効率を上げ、投資判断を加速することがキーになります。(ふぁな氏)
AIでクリエイティブの制作数や検証数を増やし、広告の良し悪しをより早く見極める。その上で、人は「なぜ当たったのか」「次に何を変えるべきか」という仮説設計に集中する。ふぁな氏は、AIが判断を補助する時代だからこそ、その前提となる設計や評価軸を人が持つことが重要だと強調した。
少数精鋭化と評価制度の見直しを進める
AI活用は、組織体制や人事制度にも影響を与えている。ふぁな氏は、従来3~4人で担っていた業務を少数精鋭化し、判断者に権限と報酬を集中させる方向で見直していると説明した。
AIを活用して、自社がやるべきアクションを最も積み上げてくれた人に、最も報酬と評価を集める考え方にしています。(ふぁな氏)
ここで重視しているのは、単に「AIを使ったかどうか」ではなく、「AIを使ってどれだけ成果につながる設計や改善アクションを積み上げたか」だ。AIが出した分析結果を受けて、次にどのような打ち手を設計・実行し、成果につなげたか。その蓄積を評価の中心に据えようとしている。
採用についても、かなり踏み込んだ見直しを進めているという。ふぁな氏は、一部では採用を止めて再設計していると率直に語った。自然減も含めて人員構成を見直しながら、1人あたりの生産性を高め、その分を報酬や評価に反映していく方向性だ。
採用はかなり止めています。自然減も含めて見直しながら、1人あたりの報酬や評価が上がっていくことをポジティブに捉えようとしています。(ふぁな氏)
AI時代の組織論としてふぁな氏が示したのは、「人を減らす」ことそのものではなく、限られた人数でより高い成果を出せる体制を作り、その成果を適切に還元するという考え方だ。
【ジェイフロンティア】AI時代は「検索される」より「引用される」ブランドへ
ジェイフロンティアの中村社長は、AI時代の検索・購買行動の変化について語った。従来のようにユーザーが検索エンジンで複数サイトを比較しながら商品を選ぶのではなく、AIが情報を要約し、最適な商品を提案する流れが強まっているという。
これからの戦い方は、AIにいかに引用されるかへと変わっていくと思います。(ジェイフロンティア 中村社長)
ジェイフロンティア 中村篤弘社長
この変化は、SEOや広告の考え方にも影響を与える。検索順位で上位を取ることだけでは不十分で、AIが回答を生成する際に参照する情報源に入れるかどうかが重要になるからだ。中村社長は、「生成AIが引用する情報源の多くが報道や第三者メディアの記事であり、自社ブログや広告は信頼情報として扱われにくい」と指摘した。
生成AIが引用する情報源の94%が報道や第三者メディアの掲載記事でした。自社ブログや広告は、AIから信頼できない情報としてほぼスルーされてしまいます。(中村社長)
そのためジェイフロンティアでは、単に広告を出すのではなく、記者発表会を起点にテレビ、新聞、Webメディア、SNSへと露出を広げる立体的なPR戦略を重視してきた。主力商品のプロモーションでは、同じ商品でも切り口を変えながら複数回イベントを実施し、話題性のあるタレント起用などを通じて、第三者メディアでの露出を積み上げてきたという。
単にプレスリリースを出すだけでなく、記者発表会を起点に立体的なPR戦略を組み立ててきた。それがAIに引用される土台になっています。(中村社長)
ここで示したのは、AI時代のPRが「人に向けた広報」であると同時に、「AIに信頼されるための情報設計」でもあるという視点だ。第三者メディアでの露出や、質の高い口コミ・レビューの蓄積が、AI経由の流入や購買に影響するという考え方は、今後のEC・D2C企業にとって重要な示唆になりそうだ。
広告運用ではCPA改善、ROAS向上、分析時間短縮の成果も
中村社長は、AI活用による広告運用の具体的な成果についても紹介した。社内でインハウス運用を立ち上げた事例では、AI導入前にCPA(顧客獲得単価)が1万5000円だったものが6000円に改善し、ROAS(広告費用対効果)は121%改善、広告の消化量も5~10倍に拡大したという。
毎朝1時間かかっていた分析作業が10分に短縮されました。AIに分析を任せることで、残りの時間を別の仕事に充てられるようになりました。(中村社長)
導入前は、担当者がスプレッドシートにKPIや実績値を入力し、配信面、ターゲット、訴求、クリエイティブなどの要素を手動で分析していた。AI導入後は、広告管理画面のデータを直接読み込ませ、異常値や改善ポイントの抽出、クリエイティブの解析などを自動化。これにより、分析スピードと制作スピードが向上したという。
また、制作面でもAI活用を進めており、LPやWebページ制作におけるデザイナー、コーダーの工数削減につながっている。中村社長は、複数のAIを用途ごとに使い分けることの重要性にも触れ、「構成、画像生成、調査など、それぞれ得意領域の異なるAIを組み合わせることで生産性を高められる」と説明した。
AI活用を進めるには、推進担当者と評価制度が必要
ジェイフロンティアは、AI活用を組織に浸透させるため、推進担当者を決め、各業務に担当者をアサインしてプロジェクト化しているという。さらに、AI活用による工数削減や成果改善を数値で示し、成功した場合には報酬や資格手当などに反映する仕組み作りも進めている。
AI対策をしたり資格を取ったり、工数がどれだけ下がったかを数値で出し、成功した場合には報酬を上げる仕組みにしていこうと考えています。(中村社長)
採用面では、管理部門やデザイナー、コーダーなど一部職種の採用計画を見直す一方、マーケターやプロダクトマネージャー、対面営業などAIで代替しにくい職種は引き続き重視する考えを示した。AIによって人員を減らすというより、事業拡大時にもむやみに人数を増やさず、生産性を高める方向で組織を設計していく姿勢がうかがえた。
【ベルタ】AI導入の目的は「効率化」ではなく「属人化の解消」と「脳を増やすこと」
ベルタの武川社長は、2026年から全社的にAI活用を本格化していると説明。従来は各部署が個別にAIツールを使っていたが、現在はコミュニケーション基盤やワークフローを見直し、全社でAIを組み込んだ業務設計に移行しようとしている。ただし、環境を整えるだけでは活用は進まなかったという。
環境を用意しても、ワークフローをまったく作ってくれませんでした。環境整備だけでは動かないと痛感しました。(武川社長)
ベルタ 武川克己社長
この反省から、現在はAI推進室を設置し、各部署に入り込んで活用を進める体制作りを進めている。武川社長は、AI導入の目的を単なる効率化ではなく、「属人化を減らすこと」と「AIによって脳を増やすこと」だと表現した。
ベルタでは、異動や引き継ぎ、産休・復帰などが発生しやすい組織特性もあり、知識や業務が個人に依存しやすい。そのため、AIを活用して情報や業務フローを標準化し、誰でも再現しやすい状態を作ることが重要だという。また、AIを使うことで、自分だけでは思いつかなかった比較や発想が得られ、思考の幅そのものが広がると捉えている。
VOC活用やコーディング自動化など、現場での活用も進む
社内でAI活用事例を洗い出したところ、記事生成、データ作成、レポーティングなど44件の事例が確認できたという。なかでも武川社長が印象的だと語ったのが、VOC活用の事例だ。
「Amazon.co.jp」や「楽天市場」のレビューを引っ張ってきて、薬機法や景表法周りを調整しながらサイトアップしていく活用法が印象的でした。(武川社長)
レビューを収集しそのまま使うのではなく、表現規制に配慮しながらサイト掲載用に整える。EC・D2C企業にとってレビューは重要な資産だが、法規制や表現ルールとの両立が課題になる。そこにAIを活用することで、運用負荷を下げながら活用の幅を広げようとしている。
制作面では、コーディング自動化によるコスト削減も進めている。現時点では進行中の取り組みとしつつも、今後はクリエイティブチームにコーディングそのものよりもワイヤーフレーム設計や企画など、よりマーケティング寄りの役割が求められるとの見方を示した。
コーディングのスキルよりも、マーケティング寄りの機能を担う時代になっていくのではないでしょうか。(武川社長)
広告運用でもAI活用による成果改善が見られているという。ただし武川氏は、AIだけの効果と断定するのではなく、商品や時期による差もあると慎重に評価した。その上で、AIによってクリエイティブ制作数が増え、試せることが増えた結果、マーケティングチームにはより一層、組織作りや意思決定が求められるようになったと語った。
AIで人を減らすのではなく、「やりたいこと」が増える
ベルタの話で注目したいのは、AI活用が必ずしも人員削減につながるわけではないという視点だ。武川社長は「AIを使うことで自分の“脳”が増え、やりたいことが増えた結果、むしろ人が必要になる感覚がある」と語った。
AIを使ってとても忙しくなった。脳が増えることで、やりたいことも増えます。人を減らすのではなく、人を増やしたい感覚になっています。(武川社長)
採用についても、AI導入後も積極姿勢を維持する考えを示した。新卒採用も含めて継続し、AIによって広がった可能性を実行に移せる組織を作っていきたいという。AI時代の組織論として、効率化だけでなく、増えた選択肢をどう実行するかという観点を提示した点が特長的だった。
AI時代に問われるのは、ツール導入より「何を差別化するか」
セッション終盤では、AIが普及して技術が平準化したとき、何が競争優位になるのかという論点も議論された。ふぁな氏は自社や自ブランド、自社素材のどこで差別化するかにフォーカスしていると語った。
ユーグレナでは、素材開発から販売までバリューチェーンを持っていることを踏まえ、どこで自社らしさを出すかを重視しているという。中村社長は、第三者メディアでの露出や信頼性の蓄積がAI時代のブランド競争力になると示し、武川社長は、AIで増えた“脳”をどう組織として使いこなすかが差別化につながると語った。
3社のアプローチは異なるが、共通していたのは、AIを導入すること自体が目的ではないという点だ。AIを前提に、どこに人を集中させるのか。何を自社の強みにするのか。どのような評価制度や採用方針で組織を動かすのか。そうした設計力こそが、AI時代のD2C・EC企業に求められる競争力になりそうだ。
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